誘う手で絞首

 

 

 

くい、と制服の裾が引っ張られた。

不思議に思ってロッドが背後を振り向くと、小さな手が服にくっ付いていた。

 

 

ガビガビに焼け爛れた左頬から上、安い金属板のような色をした燻った髪。

近くに落ちていたのは片足。

 

全部集めれば、一人の子供であるだろうそれ。

 

力の加減を知らず握り締めてくる手には細かい血管が浮いている。

割れた爪から流れ足り無い血が溢れている。

でろりと飛び出した目と目が合う。自分と同じ、薄い青をしていた。

 

女の子だ。

 

「俺をナンパする気?お譲ちゃん?」

軽い言葉で挑発してみるが、半分以上砕けた顎からでは何の音も出ないだろう。

少女は只黙って、ロッドを見ている。

「悪いんだけど俺、これからチャイナガールとデートなの。悪いけど手、放して」

どうせ死ぬんだから、という言葉は飲み込む。幼児虐待は趣味じゃないから。

くい、と軽く引っ張っても少女は離れない。より一層、手に入る力が強くなった。

何だ、コイツ。

「・・・っ・・」

ぐい、ぐいと力を強くするが、少女の手は離れない。じっとロッドを見つめる瞳は、寧ろ見据えると言った方が良いのかも知れない。

気味が悪い。死体は平気だが、こういうのは苦手だ。

さっさと始末しないと――――

 

 

 

その瞬間、宙に細かい炎が舞った。

少女は訳も分からぬままに燃えて行き、その瞬間俺の金縛りも解けた。

 

少女の目は離れ、少女の手も離れて燃えた。

 

 

 

「何している。置いて行くぞ」

「―――サンキュvさっすがマーカーちゃん」

 

同僚が口を開くと同時に少女に纏わり点いていた炎は消える。

綺麗にさえ見えていた炎に包まれていたのはやはり気味の悪い焼死体だった。

 

でも、手が離れているだけ何倍もマシだ。

 

 

 

 

二秒で何時もの表情を作り、何時もの声色でマーカーの肩に手を回した。

 

「同情などお前らしくも無いな、ロッド。幼児趣味でもあるのか?」

「まっさかぁ〜。俺の本命はマーカーよん?」

 

この足が、腕が細かに震えているのは決して同情などでは無い。

 

「お前の本命など要らん。じゃあ何か?リキッド坊やの様に怖がりでもしたか?

 ――――・・・いや。まさかな。お前がそんなことあるはずが無い」

 

俺は上手く笑えている。俺は上手く喋れている。

 

「――――ロッド、置いて行くぞ・・?」

 

知らぬ間に足が止まっていたらしい。

マーカーが怪訝そうに問うが、俺の耳には何故か水の外の出来事のようにぼやけて聞こえる。

 

足元の血だまりに写っているのは、俺1人だ。敵はみんな殺しただろう?

 

 

俺は上手く歩けているだろう?

――――それなのに

 

 

「ロッド、どうしたんだ?今日のお前は変だぞ?」

 

 

 

あの子の手が、離れない。

 

 

 

 

 

「・・・何でもない、何でもないよ」

顔を覗き込んでくるマーカーに軽く答え、急いで飛行船へと走る。

「ちょ・・おい!ロッド!」

 

走れ、走れ、手の届かない所まで。死にたくなければ決して振り向くな。

 

 

 

 

気味の悪いあの手たちの真ん中にはきっと、捨てた筈の自分の良心が、地獄の切符持って泣き呼んでいるよ。