ピストルとドミノと何かの夢

 

 

乾いた、銃声が、響く、音。

衝撃に耐えられず、揺らぐ、弟子の、体。

ゆっくりと、止まっていく、心臓から、溢れる鮮血。

ピストルを持った、男。

ピストルを持った、自分。

 

 

リアルな夢だった。

ほんのり汗ばんだ掌が気色悪さを増す。

マーカーがそれをシーツで乱暴に拭うと、隣で寝息を立てているアラシヤマの手が触れた。

暖かな子供の体温を持つ弟子の手は、数限りない戦闘で傷ついた自分の手と比べ、歳相応に幼かった。

けれど、普通の子供の手にはきっと、火傷の跡なんて無いんだろう。

もぞもぞと寝返りを立てる、成長期の体。変声期すら訪れていまい。

何と無くベッドから身を起こし、しげしげと眺める。

手だけではないだろう。この弟子の、今は服により隠れている腕、足。その至る所には常に修行で付いた傷跡がある。

そしてこれから。自分と同じように暗殺の世界で生きるというのなら、無傷では居られまい。

(その為に、今鍛えてやっているのだがな・・。) 

アラシヤマの髪に指を絡ませるが、起きる気配は見せない。

細くてサラサラとした黒髪は、猫の毛のようだった。幼い、幼すぎる寝顔。

こんな奴でも一応は弟子だ。一度手を懸ける以上、無様に死なない程度には育て上げるつもりだ。

じゃあ、

先刻の夢は、何だったんだろう。

自分が、アラシヤマを殺す夢。

自分達が同じガンマ団内に居る限り、可能性は無いに等しいけれど、

こんな世界で生きていれば、たとえ師弟であろうと殺し合う事だって有るかも知れない。

夢だと割り切るには、余りにも現実的な。

「・・・おししょうはん・・?」

アラシヤマが不思議そうに見上げてきた。ああ、起きてしまったのか。と絡めていた指を髪から離す。

「何してはりますの・・・?」

どこか夢うつつの様子で聞いてくる。ぼんやりとした目蓋を手の平で覆うと、一言

「寝ろ。」

とだけ呟いた。どこか納得のいかないような様子を見せていたアラシヤマだったが、暫くすると規則的な寝息が聞こえてきた。

例えば今アラシヤマの前にいたのが敵だったなら、弟子は即座に攻撃するだろう。

命を狙われていると、分かっているからだ。

だがその敵が師である自分だったなら、弟子は攻撃をするのだろうか?

私の言う事を何の疑問も無く受け入れるその様。

死ねと言ったら、死ぬのだろうか。

 

闇の中に浮かび上がる白い首は、自分が少し力を入れれば簡単に握り潰せるだろう。

自分に身を寄せて寝るその胸の上にナイフを突き立てても、それは簡単に刺さるだろう。

「―――っ・・!!」

知らず知らずにアラシヤマの首元へと伸びていた手を止める。何をやっているんだ、私は。

先程から取りとめもなく自問してばかりいる。今まではこんな事無かった。全ては、あの夢の所為だろう。

自分は、なぜこの手を伸ばしたんだろうか。

弟子を殺したいのか?―――――――否

弟子に殺されたいのか?―――――――否

弟子を愛したいのか?―――――――否

弟子を憎みたいのか?―――――――否

弟子を捨てたいのか?

弟子は欲しかったのか?

 

何故アラシヤマを弟子にしたんだ?

 

何故なんだろうか。何もかも、何故なんだろうか。

一つ一つの出来事がドミノ倒しの駒の様にハイスピードで流れてゆく。いいや、流されているのか?自分達は。

流されて、その果てにあるのは別離なのだろうか。

 

「アラシヤマ」

柔らかなベッド、柔らかそうな弟子の体、柔らかい時間。それも今だけだ。流れの一部分に、留まる事は出来ない。

生きたいか?生きてゆきたいか?

寝顔に問う。返事が返ってくることが私は怖いから。

生きてゆきたいなら・・・殺せ。

  もうそれ以外、私達には無いよ。

  私も、他人も押しぬけて、生きなさい

 

私がピストルを、持って

目の前に見える、お前の、体

早鐘のように、鳴る、私の、心臓を、

お前は、撃ち抜いてくれるだろうか。

 

あぁ・・・でもすまんな。私も生きたいんだよ。

 お前や、他人を押しぬけても、生きたいんだよ

 銃を挙げる事に、躊躇いはないんだよ。

 

ピストルを持っているのは、全員だ。生きて生きたい全員が他人を撃てるだけのピストルを持っている。

私も、お前もその舞台の中に居る。

 

 

小さく寝返りを打つ体。穏やかなそれを愛しいと思ったことは在る。何回も。

憎いわけが無い。殺したい理由だって無い。

只、流されてゆくだけだ。私も、アラシヤマもこの時代に。

私が・・・・好きか・・・?

問いかけに返る声は無い。そこに在るのは暖かな子どもだけ。けれど、そこに在るのは確かな答えで。

なぁ、私も、好きだよ

お前のことを、大切にしたいんだよ

「・・・・・・・・・そうだな、いっそ

 

 

 

 

 

 

二人そろって、打ち抜いてくれればいいのにな

一緒に逝けたらいいのにな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ししょ・・・・」

「―――!寝たんじゃ、なかったのか?」

言うと、アラシヤマが困った様に、ともすれば悲しいように笑って告げる。

「だって、お師匠はん泣いてはるんやもん・・」

言われて自分の頬を触ると、冷やりとしたものに触れた。

たかが想像で泣いていたのかと改めて思うと、馬鹿らしいと苦笑で済ます事くらいは出来た。

おししょうはん、と呼ばれて振り返ると、ぐしぐしと乱雑に涙を拭われた。

「・・・・シーツで拭いたのか・・・?」

「これしかあらしまへんどした」

クリーニング代を瞬時に頭の中で計算する。そんな俺を見て、アラシヤマは何時もの幼い笑顔を見せた。

「お師匠はん・・」

「――何だ?起こして悪かった。もう、寝なさい」

 

 

 

「お師匠はんと一緒がええどす」

「一緒に寝ておくれやす」

 

 

 

にこりと。本当に自分と一緒にいるのが幸せそうに、笑う。

只只今この瞬間を幸せそうに、笑う。

この笑いを、私が何処かに忘れてきてしまったこの笑いを、瞬きをする瞬間目に焼き付けた。

「―――そうだな・・。私もそろそろ寝るとしよう」

ゆっくりとシーツへ身を沈めてゆく。弟子の手がそわそわと揺れているのを見て、たまには良いかと握ってやる。

暖かなその手に又涙が零れそうになったが、それで又アラシヤマを起こしてしまうのは困るのでさっさと目を閉じた。

握り返された手に、迷子から抜け出した子どものように、安堵していた。

 

 

 

 

 

目を閉じて、私は例の夢の続きを見ていた。

 

やけに響く銃声が終わると同時に、出来過ぎた様にアラシヤマの体が地に落ちた。

息をする事すら忘れて、私はその光景に見入っている。銃撃で痺れた手が、じんわりと痛みを伝えていた。

痛み。ああ、そうか。私が撃ったのか。

手に握られていたのは小型の銃が一丁。

ああ。

私は何とはなしに手の中の拳銃を見つめ、自然な流れでそれを、

自分のこめかみに当てた。

 

 

 

 

バーン

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。師匠」

「ああ・・」

「何や、今日は早いんでんな?何か予定あらはりました?」

「何でも無い・・・」

 

「変な夢を見た」

 

「・・・?あんはんが夢で魘されるなんて、何や意外どすな」

「それで、どないな夢やったんどすか?」

 

「・・・さぁな。憶えてない」

 

綺麗に笑った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どこからどこまでが夢でしょうか?

 

 

 

 

 

・・・・長くて御免なさい(苦笑)