悲恋の在り方をまっしぐらに貫きますが、本当は後悔だらけなのですよ?

 

 

 

 

2人は恋に落ちては駄目と、真昼の月が泣いて教えた。

 

腕時計のアラームが新たな時刻を知らせた。

木々の合間から差し込んでくる日差しが心地良く、初夏だというのに吹く風はひんやりと汗ばんだ肌を冷ましてくれる。

トットリは一人中庭のベンチに腰を下ろし、中空を見上げていた。

「・・いい天気だっちゃ。」

空は快晴で雲ひとつ無い。一面青のペンキでもばら撒いたような端に見えるシミみたいなものは月だろうか。

 

 

「ミヤギくん、そかぁ激戦区じゃないっちゃか・・?」

自室のベランダの手すりに肘をつき、隣に問うと、同じ体勢をしていたミヤギくんが体を捻ってニカリと笑った。

手すりが少し軋んだ音を立てた。

「んだ。かなり見境の無え戦闘になってっらしい。」

あっさりと言うミヤギくんに、僕は唖然とした。

激戦区、それだけならいい。問題は其処がこの友人の新たな任務場所だということだ。 

ミヤギくんは相変わらず、半刻前部屋に来たときのように上機嫌でシンタロー総帥から伝えられた任務について続けていた。

「二ヶ月前にも一部隊丸ごと送っだらしいけどな、全く音沙汰無え。」

何でそんな危険な任務を、僕に回してくれないんだろう。

ここまで聞いて、シンタローの部屋へ殴りこみに行こうかと思ったが、止めた。

そんなことしたらミヤギくんに嫌われると思ったから。

「ミヤギくん、一人で行くだぁか?」

「一人じゃあ無ぇけどな。少数部隊で攻めっとシンタローさ言ってたべ。」

又、笑った。

ミヤギくんは難しい任務が好きだ。

それは仕事をこなす事が好きなのではなくて、難しい任務を言われる事で自分の実力を認められた気がするのだという。シンタローに。

僕はミヤギくんの笑顔が好きだ。

でも、こういう時の笑顔はあまり好きではない。

それに初めて気付いたときは、まるで嫉妬じゃないかと自己嫌悪に陥ったのだが。

きっと今、自分は情けない顔をしているんだろうなぁと思いつつミヤギくんが持ってきてくれたコーラを一口飲んだけれど、

炭酸がすっかり抜けていたそれはお世辞にも美味とは言いがたかった。

その間もミヤギくんは僕を置いて喋り続ける。

「お、もうこんな時間だべか?やべぇ、出発時刻遅らせっとシンタローがうっせぇんだべ。」

話に熱中していて気付かなかったらしい。時計の針を見てミヤギくんが慌てる。

 

ああそうだ、言わないと。

僕はこの友人が好きで好きで堪らない。今止めなければ、彼は遠い戦地へ僕を残し、行ってしまう。

言わなければ、行くなと。

「ミヤギくん・・、」

「なんだべトットリ!オラ忙しい・・・」

「ミヤギくん。」

 

「気を、つけて・・・。」

 

 

 

「僕ぁ意気地なしだわな・・。」

時計の秒針の音を遮る様に、呟く。

自嘲交じりの言葉は口に出してから改めて弱気な心に突き刺さって、ため息が一つ漏れた。

ため息の数だけ幸せが逃げると教えてくれたのは、ミヤギくんだったろうか。

「僕がもっとしっかりしとったら、ミヤギくんを止められたんだらぁか。」

こんな時アラシヤマやコージだったら、無理やりにでも引き止めたり、シンタローの所に抗議に行ったりできるんだろうか。

こんな事をあの日から、ずっと考えていた。

ミヤギくんは、シンタローの言う事だったら聞いてくれる。でもきっと、自分にはミヤギくんを止めることなんて一生できないんだろう。

 

ミヤギくんの嫌がることなんて、自分には出来ない。

だから自分は駄目なんだと分かっているのにやめられなくて、更に重傷だ。

 

キィーンと、空の端のほうで飛行機の音がする。

思わずベンチから立って空を仰いだ。

「あれが、ミヤギくんの乗っとる飛行機だぁかねぇ・・。」

自分は、ミヤギくんの任務を止めることは出来ないし、ミヤギくんの意思を止めることも出来ない。

例えばそれが僕以外の誰かへの好意だったとしても、止められないだろう。

「ミヤギくん・・。」

太陽が、眩しい。

飛行機雲の筋の傍、忘れられたように真昼の月が佇んでいる。

ではもしもミヤギくんが自分の元を去るとき、僕はその手を掴む事が出来るのだろうか。

考えて、考えて、そして

答えは、出なかった。

「早く、帰ってきて欲しいっちゃ・・。」

だから僕は只祈る。時間が経てば人は変わるものだという事は、あの島で十分に知った。

其れならばせめて、遠くして欲しい。

ミヤギくんの目にあの人しか映らなくなる日を、

ミヤギくんの目に僕が映らなくなる日を。

せめて、一分一秒でいい、ミヤギくんの時間を共有させて下さい。

飛行機雲がまるで僕が掴む事の出来ないミヤギくんの様で、空が元の青に戻るまで、僕は空を見上げていた。

 

 

 

あなたは彼に焦がれちゃ駄目と、真昼の月が泣いて教えた。

真昼の月は僕の心だと、気付いたときにはもう、飛行機雲は無いのです。