年明けバカップル

 

 

 「うぁ〜もう飲めねえよ〜!」

長い端の先まで見事に真赤にして、ウソップはしりもちをついた。

「おっ前なさけねーなー!折角俺様が解禁オッケーしてやったんだから飲めよ!!」

サンジはそんなウソップをギロリと睨み付ける。

素知らぬ顔をしながらゾロは心の中でウソップに合掌する。

(年越し間際まで災難だな・・・)

12月の31日、大晦日。そんな大イベントをルフィが逃すわけも無く、

「宴会だー!年越し蕎麦だー!!」の一声で数時間後には甲板は大騒ぎだった。

いつもは渋い顔をする常識人たちもさすがに今日ばかりは年少組と共に馬鹿騒ぎしている。

ナミはさっきから上機嫌で酒やデザートを食べまくっているし、ロビンも時折笑いながらいくつかの手で酒を口に運んでいる。

周りは騒然としてウルサイが、こんな雰囲気なら悪くない、とゾロは思った。

たまには羽目をはずすのも大事だ。まあこの船には日常だろうが。

「そんなに酒余ってるなら、ゾロにでも飲ませて来いよ〜!!」

「ぁあ?」

いきなり自分の名前を出されて振り向けば、どこぞのチンピラと見まごう様な目線のサンジに

胸倉を掴まれているウソップが自分を指さしている。

「だって、酒余ってるんだろ〜!?ならゾロにでもやれよ!俺様は遠慮させていただくぜ・・・・」

サンジの目線がこちらに向く。剣呑なそれにゾロも負けじとガンを飛ばす。

既に殺気ビンビンの2人は気付かないが、間に挟まれたウソップは魂が抜けてゆくのを感じた。

(ちょ・・・チョッパー助けろ〜〜〜!!!)

(ええっ!?俺無理だよウソップ〜っ・・・)

可愛らしい船医に救助を求めてみるが猛獣さながらの二人を止めるのは到底無理だ。

隣に居たナミが目線だけで「諦めなさい」と諭した。

「オイオイオイウソップ、こんな酒の味もわからねぇマリモに俺様の特選美酒はもったいないぜ〜?」

「んだと・・・?てめえは黙って年越し蕎麦でもつくってりゃあいいんだよ。アホコック」

「あぁ!?」

「やるか!?」

こんなことなら、ルフィと一緒に年越しわんこ蕎麦チャレンジしておけばよかった・・・・!!

ウソップはそう思ったが既に後の祭り。

今は必死にどのタイミングでこの二人の喧嘩から抜け出せるか、と策を巡らせるのであった。

その頃外野では・・

「・・・あいつら、最後の最後までよくやるわね・・」

「ふふ。仲好いわね」

「そう思ってられるの、今のうちよ・・」

「と、止めなくていいのか!?」

「アレを止められる勇士が居るとでも?」

「・・確かに」

「サーンジーぃ!わんこ蕎麦おきゃわりー!!!」

そうして勢い良くドンパチ始めた2人を尻目に、宴の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

「てめ・・・いいかげんしつけーぞ・・・」

「お前こそな・・・・」

アレから数時間、ゾロサンの喧嘩は根気良く続いていた。2人とも真っ白な息は切れ切れ、そろそろ深夜になるだろうか。

そういえば、他のクルー達の姿は見えない事にゾロが気付く。

「ん・・・ナミ達はどこいったんだ・・?」

「ったく・・・聞いてなかったのかよ。ナミさん達は見張り台だ」

懐からタバコを一本取り出し、サンジが灯を点けた。

「見張り台?何で」

「なんでも、こうなったら今年・・いやまだ来年か。初日の出見るんだと」

「初日の出・・」

サンジが足を下げ、ゾロが持っていた刀をしまう。2人とも改めてこの宴会の意図を思い出したようだ。

(そういや、大晦日だったんだよな)

大晦日、と言われてもゾロには今ひとつピンと来ない。

季節など関係ないグランドラインを走っているからだろうか?

それとも、賞金稼ぎをやっていた頃の感覚が、まだ抜け切れないのか。

「ま・・・・、ここ片付けるか。まず」

「おう」

靴先でサンジが甲板を示す。皿の破片やら酒瓶、その他多種多様なパーティーグッツがそこかしこに散らばっており、

このまま見張り台へ向かったらナミの天誅は免れまい。

このうち4割は自分たちの喧嘩の災害ではないとも思ったのだが、6割自分たちなら仕方ないか、とゾロは取りあえず足元の酒瓶を拾いだした。

ワインの瓶、コルク、クラッカーの中身と外装。パンの破片に皿の破片、グラスにフォーク、ナイフ、ミカンの皮。

それら一通りを順番に拾っていっただろうか。台所からサンジが持ってきた黒いゴミ袋が一杯になり、今度はゾロがそれを取りに行く。

「流しの下の台だかんな。ああ、煮込み途中のスープには一切触るなよ〜!触ったら殺す」

「へぇへぇ」

人に行かせておいてなんて注文の多い奴だ、と常日頃の自分の態度を棚に上げてゾロは心中思った。

只ここでまた喧嘩に発展すると、サンジが年明けに飲もうぜ!と言っていた取って置きの日本酒が飲めなくなる。

ここでサンジの機嫌を損ねる訳にはいかんだろう・・。

キッチンに入り流しの下からゴミ袋を取り出して、誘惑的なスープの匂い漂うそこから駆け足で抜け出した。

(あぶねぇ・・・思わず摘み食いするところだったぜ・・!!俺はルフィかよ・・)

「ん・・・」

キッチンの扉を閉めれば、ひんやりとしたものが頬に触れる。

天を仰ぐと、真っ白い雪がひらりひらりと舞っていた。

「おお・・」

「綺麗な雪だよな・・」

サンジの元まで歩いていけば、自分の心中を代弁したかの台詞を吐かれる。

この男とはたまにこうして気が合うのだ。

しんしんと降るそれにロマンティックな気持ちも抱かずもないが、

さっさとゴミを片付けて酒を飲もうという気の方が増すのはやはり男だからか。

隣のサンジを見れば目が合い苦笑したので、やっぱり気が合うんだよな・・と再感した。

「年、明けるな。」

「おう・・」

ささやかな雑談と共にゴミを片付ける。

その間にも雪は降り積もり、甲板を白く彩ってゆく。

「ナミさん、寒くねぇかな・・・ああ、今すぐにでも俺のこの胸で暖めて差し上げたいっ・・!!」

「阿呆か」

「なにー!?」

いつも道理の会話。

大晦日、後もう少しで年が明けるが、この男は年が明けても変わるまい。

あいもかわらずナミやロビンに尻尾を振り、メシメシうるさいルフィを蹴り飛ばし、

ウソップやチョッパーをからかい、俺に喧嘩を売るだろう。

(あぁ・・・違和感の原因はコイツだ・・)

改めてその横顔を眺めつつ、気付いた。ルフィ達と馬鹿騒ぎしているときは感じなかった違和感。

大晦日だと言われてピンと来ない理由。

大晦日だ、年が変わるんだ、と騒ぐ奴らの中で、サンジはあまりに日常的なのだ。

「・・」

自分の視線に気付いたサンジが、顔を上げる。サンジの睫毛に雪が乗っており、

「やっぱこいつ睫毛なげーな」と見当違いなことを何となく思った。

「何だよ?」

「別に」

思考が飛んでいたからとはいえ、サンジの顔をじっくり眺めてしまった事を気恥ずかしく思って言葉を誤魔化す。

?と顔中に疑問符を浮かべていたサンジだったが、急にニヤーっと悪魔のような人の悪い笑みを浮かべた。

 

 

「寒いかぁ?」

「・・・当たり前だろ」

「じゃあ、暖めて差し上げましょーかねー」

「は・・・・!!?」

 

ぶちゅう。

思わず音がしそうな濃厚なキス。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??)

いきなりの事に目を白黒させれば、してやったり!の顔で笑うサンジの目が目の前にある。

そのまま数分。このまま窒息するんじゃないかとゾロが思うくらい、サンジの唇は離れない。

〜以下、アイコンタクトにて〜

(おい!!いい加減に・・・)

(ちょっとまて。気合で何とかしろ)

(ンな無茶苦茶な事できるかーーーーー!!)

(いっつもやってるじゃねーかよ!!待て!!あと少し)

(も・・・もう無理だ・・!)

(後5・・4・・3、2、1・・・!)

(あ〜・・くいなが手ぇふってやがる〜・・・・)

 

「っッぷっはー!!!!」

「っだっはーーーーーーー!!」

「ふぃー。疲れたぜ〜」

ようやく唇が離れ、お互い思いっきり酸素を吸う。ばたばたと胸元をあおぐサンジに、

ゾロは今すぐにでも三千世界かましたい気分だったが、先ずはキレる。

「っは・・は・・てめえいきなりなにしやがる・・・!!」

「ちゅうv」

「かわい子ぶるなーーーーー」

「っへ。舌入れなかっただけいーだろ・・。まぁまぁ、コレ見なされー大剣豪サマ」

「そういう問題じゃ・・・・んあっ!?」

サンジがゾロに何か投げる。あわててキャッチすればカチ、コチ、と規則的な秒針の音が、手の中で響く。

「・・時計じゃねぇかよ」

「そ。んで、もう12時は過ぎてんのよ。どーゆーことだか分かるかね??」

あ?シンデレラかよ。と柄にも無く可愛らしい事を思ったゾロだったが、すぐに思い当たる。

「大晦日・・」

「はぁーい。ピンポーン。正解。正確には昨日だけどな」

 

 

「つーまーり。ロロノアさんは新たな年を迎えるその瞬間、まさに、キュートなサンジサマとチューしてたわけです」

 

 

「どうだ。新年早々、今年も俺とラブラブだな!ざまぁみろ〜」

 

 

ぱか。と、馬鹿みたいに笑うサンジにあっけに取られる。

この男の発想力は一体どこから出てくるのか。

そういう頭のよさを他の事に使えよと思わず言いたくなってしまう。が。

(いや・・・やべぇだろ)

前言撤回?馬鹿は自分もだ。

(喜ぶなよ、俺)

新たな年になって、何が変わるのか、変わらないのか、それは予想もつかないことだから楽しい。

コイツとの関係はどうなるのか。

それも予想はつかないけれど、もし変わるとしたら、今一層馬鹿でくだらなく、そして自分達らしく変わって行くだろう。

「けっ。言ってろ」

「ラーブラブー」

雪の振る中、野郎が2人じゃれている。

恋人同士の甘い新年ではなく、ごつごつした、埃っぽい只の年明け。

「なぁオイ、アホコック」

「んぁ?」

「今年もアホでいろ」

「何だよ、それ〜」

「愛の告白だ」

「っぷっ!似あわね〜っ!」

笑いながらキッチンへとつまみをとりにゆくサンジを見送って、ゾロは人数分の毛布を取りに行った。

 

 

「・・・・あれでばれてないつもりかしら。バッカよねー」

「ふふ。若いっていいわね」 

「いや、あれは若いって言うより獣だろ」

「獣なのか!?」

「じゃあ非常食か!??あ、でもサンジ食っちまったら誰が料理するんだ!?」

「・・・俺達退いてた方がいいのか・・?」

「ふん!今日くらいはイチャコラしなくていいのよ!」

「ま、いっか」

 

 

A HAPPY NEW YEAR!!

 

 

 

 

 

 

・・・アホですみません(苦笑)