蜜 月



庭の植物の踊るような姿が、青く、青く、白い障子に映っています。
外は静かな夏の夜です。
小さな虫が、キュキュキュと鳴いておりましたが、外は大変静かなものです。


カカシ先生は、夜の底で、イルカ先生を抱きしめていました。
後ろから抱き込むようにして、無防備にはだけたイルカ先生の浴衣の胸元。
心臓の上に手の平を置いていました。
サラサラのイルカ先生の身体は、大層心地良くて、カカシ先生はその感触を、
もう随分と長いこと楽しんでいました。
時々、イルカ先生の形の良い耳に口付けたりして。
そうすると、イルカ先生はピクリと身体を震わせるのです。



「ねぇ」
イルカ先生の長い髪を触りながら、カカシ先生が呟きます。
「はい?」
カカシ先生の呼ぶ声に、イルカ先生が確かな声音で答えます。
胸元で、指先も同時に答えを求めます。
「俺のこと好きですか?」
確信を持ったことを聞く。
イルカ先生は口元に緩やかな笑みを浮かべて、カカシ先生の言葉を心に満たしました。
「好きとか、嫌いとか。そんな言葉で言い表せるのならば・・・」
胸元を彷徨う手に、自分の手を重ねて、その手をそっと胸から外しました。
そうして、サラサラとした手の平を、自分の頬へ。
うっとりとその手中に収まって、イルカ先生が目を閉じます。
「俺は、カカシ先生。あなたのことが好きで、そして愛しています」
イルカ先生の頬の、柔らかい感触が伝います。
カカシ先生は、イルカ先生の「愛しています」という台詞に、
とろんと自分の脳髄が融けるのを感じました。
言葉の快感なのだと思いました。


イルカ先生の紡ぐ、言葉。
「言葉」という文字の通り、「イルカ先生」という「木」から、
大量に舞い落ちる、美しい「葉」の一枚、一枚。
カカシ先生は、その「葉」を優しく広い上げて、そうしてこう言いました。

「俺も、イルカ先生のこと。大好きですよ」
でも、やっぱりこんな言葉では足りないように思いました。
「ああ。イルカ先生の言う通り、言葉では足りないように思います」
カカシ先生は気持ちを全て、言葉に乗せられないことを、
この時程悔しく感じたことはないと思いました。





*




夜の底。
それは、静かな川底のようであるそうです。
プカリ、プカリと、何かの果物が頭上を流れる様を、息を殺して眺めるようなのだと。


そんな中で、カカシ先生とイルカ先生は、やっぱり静かに抱き合いました。
抱き合いながら、二人はこんな言葉を交わしました。


「言葉っていうものは、案外少ないものですね」
カカシ先生が、イルカ先生の膝頭を舐め上げながら言いました。

ヌクリと抜き差しされる熱い刀身に射貫かれながら、イルカ先生が乾いた声で答えます。
「ええ。・・・言葉で・・・伝わることは・・・少ないものです」


夜の静かな、川底で。
イルカ先生の足が、シーツを滑る音が小さく水面を揺らしました。










二人は、静かに抱き合いました。
二人は、静かに暮らしてゆきたいと、そう願いました。

言葉少なく、静かに抱き合って。
その夜は、
その川底で、二人して静かに目を閉じたのだということです。


















二人の知らない部分で、水面がユラユラ波を立てていたことは、
流れていく果物だけが知っていたのだそうです。














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蜜月 2