新世界


カカシ先生とイルカ先生がいました。


カカシ先生は、イルカ先生のことをお日さまだと思っていました。
イルカ先生は、カカシ先生のことをお月さまだと思っていました。


明るすぎるお日さまに照らされて、やっとこさ輪郭だけを残した、
とてもとても白い、真昼のお月さまの姿。
待っても待ってもやってこない、自分だけの夜を待ちわびるお日さま。
そんな二人は、どこまでも違っていました。





でもある日。
お月さまが、とうとうお日さまに言いました。
「イルカ先生、結婚しましょう」
お日さまは、ただただ唖然として、そうっと頷くのが精一杯だったという話です。









たまにふぅ〜と吹く風は冷たかったのですが、
春という季節特有の暖かさが、何とも心地よく感じられる日でした。

顔に受ける光が、こんなにも幸せに似ているなんて。
イルカ先生はそう思って、そぉっと空を見上げました。

空は、春の霞みをゆるゆると広げてはいましたが、何とも晴れていました。
思い出したかのように空のスクリーンを横切る、鳥。
冬の凍えは、もうどこにも無いようにも見えたのです。



こういう風に、イルカ先生がうっとりとお空に見惚れている横で、
カカシ先生がモジモジと動きました。
その小さな動きは、自分の方を見て欲しいという、カカシ先生の意思表示でした。
イルカ先生は、目の端に映ったそのカカシ先生の落ち着かない様子に、
ふぅっと笑うと、「どうしたんです?」と言ってあげました。
アカデミーの先生が、小さな年少さんにたずねる様子にとてもよく似ていました。

カカシ先生は、イルカ先生が向けてくれた笑顔に、ほろりとひと時笑ったのですが、
次の瞬間には悲しく、苦しく表情を歪めて、こう言いました。
「イルカ先生は、本当に結婚してくれる気がおありになるんですか?」
そうして、そんな言葉を言った当のカカシ先生は、
イルカ先生の頬がパァッと染まっていく様子に、シマッタ!と微かに後悔しました。

「あ。あ・・・あなたを困らせたくはないんです」
手をバタバタと振って、自分も些か赤くなりながら、カカシ先生は続けます。
「イルカ先生を幸せにしたいんですっ」

銀色の、お月さまの光の色の頭に手をやりながら、
カカシ先生は一生懸命イルカ先生を見つめます。


そのカカシ先生の、何故だか懸命な姿に、イルカ先生は言わなくちゃと思いました。
結婚してもいいよ。ということを、言わなくちゃ、と。
「もしも。もしものお話ですが」
そう前置きして、カカシ先生が更に続けます。
「俺と結婚してくれたら、イルカ先生の好きなものを好きなだけ捧げます」

必死な様子で、カカシ先生は足元にちんまりと咲いていた、おおいぬのふぐりを、
不器用な指先で摘んで、そぉっと、イルカ先生の目前に捧げます。

「こんなちっぽけな花でも、あなたが探せというのなら、何千、何万と探して、捧げますっ」

本当に小さな、小さな、おおいぬのふぐりという青いお花は、
カカシ先生の手の中で、酷く弱いもののように震えておりました。
イルカ先生は何故だかそのお花に触れたくなって、カカシ先生の指先に触れてみました。

はっと、カカシ先生は息を呑みました。
イルカ先生の、自分の指先を覗き込んでいる、睫毛の長い、伏せられた目元が、
まるで色見を帯びたように鮮やかに見えたからです。









「結婚、しようと思います」

カカシ先生の手にそっと触れて、イルカ先生が小さく呟きました。
自分の意志を、ゆっくりゆっくり、イルカ先生が言葉にします。
カカシ先生の手をみつめていた目線を、そぉっと上げて、頬に日の光を集めたように赤くして。


「でも。俺のために、何千、何万もの花を捧げてくれる必要はありません」
イルカ先生は、カカシ先生の手の中の小さな青い花を受け取り、続けます。



「この花、一つだけで充分です。」

「同時に、カカシ先生だけがいてくれたらいいんです。それだけで、いいんです」





カカシ先生は、イルカ先生の手の平の上の、ほんわりと青い花をじっと見てから、
イルカ先生の顔を見つめました。

イルカ先生の顔を見た途端、どうしようもない位、胸の中が熱くなっていくのを、
カカシ先生は止められず、イルカ先生をぎゅうっと抱きしめていました。




「好きです!幸せにします!」











お月さまは、憧れつづけていたお日さまを抱きしめて、
「火傷しそうだ」と思ったそうです。




このお話は、そんなカカシ先生とイルカ先生のお話です。










index

新世界 2