朝の食卓を、二人は赤い瞳で囲みました。 それぞれの想いを抱えて、まんじりともせず迎えた朝でした。 イルカ先生は、テーブルの上にこぼれた、小さなお醤油の染みを見ていて、 カカシ先生はそんなイルカ先生を静かに見つめます。 「イルカ先生」 カカシ先生の声に、イルカ先生はビクリと肩を揺らしました。 昨夜の自分自身が言った言葉。 言ってしまった言葉を思い出して、イルカ先生は今更ながら怯えました。 酷いことを・・・言ってしまったと思ったからです。 「・・・でも・・・きっとこれから、もっと、もっと、 俺以上に好きになる人が現れるかも知れませんよね?」 でも。イルカ先生は間違ったことを言ってはいないとも思うのです。 未来のことなんてわかりません。 今は、二人。どんなに愛し合っていたとしても。 流れていくものに、浚われてしまうような気がするのです。 「昨日の、イルカ先生の言葉・・・」 「先生は・・・あんな未来に怯えているのですか?」 カカシ先生が、お茶碗を持ったまま、優しくそう言いました。 イルカ先生の目を、そうして心を、覗き込むように。優しく。 「・・・・未来は、わかりません」 小さなお醤油の染みに、興味を奪われているふりをして、 イルカ先生は必死にカカシ先生を見ないようにしていました。 「俺、男だし。美人じゃないから、きっと先生嫌いになります」 ポロリと、心の中でずぅっと思っていた言葉を言いました。 どうしてカカシ先生は、俺なんかを好きになったのかな。 そう、ずっと思っていたこと。 ちょっとからかっているだけかも知れない。 男だし。美人じゃないし。傷だって一杯だし。恥ずかしくて暴れるし・・・。 「好きですよ」 「何度も言ったのに、信じてくれていないの?」 「今の俺を・・・・信じてくれたのではないの?」 悲しそうに、カカシ先生が呟きます。 イルカ先生は、指を飾った小さなリングを見て、ほぉっと溜息をついて。 そうして、もう一度、不確定な未来の話をしました。 「だって、未来はわからないじゃないですか」 「・・・・あなたは、今を信じないの?」 イルカ先生の言葉を、カカシ先生が静かに諭します。 (未来を信じないの?) 「今、俺は先生のことが好きです。確かに、未来はわからない」 「そうして」 「過去は消せない。未来はやっぱりわからない。」 「でも。だとしたら、せめて『今』を大事にしてあげたいじゃないですか」 「今のこの気持ちだけで、いいじゃないですか」 カカシ先生の言葉。 イルカ先生は静かな気持ちで耳を澄ませ、自分の心に留め置きました。 「・・・・・・・・」 カカシ先生の言葉が、イルカ先生の心に浸透するには、 もう少しだけ、時間がかかるようです。 そう。 カカシ先生が、数週間の任務へと旅立つ。 そんな時間です。 index 新世界 13