新世界 12




朝の食卓を、二人は赤い瞳で囲みました。
それぞれの想いを抱えて、まんじりともせず迎えた朝でした。

イルカ先生は、テーブルの上にこぼれた、小さなお醤油の染みを見ていて、
カカシ先生はそんなイルカ先生を静かに見つめます。


「イルカ先生」

カカシ先生の声に、イルカ先生はビクリと肩を揺らしました。
昨夜の自分自身が言った言葉。
言ってしまった言葉を思い出して、イルカ先生は今更ながら怯えました。
酷いことを・・・言ってしまったと思ったからです。






「・・・でも・・・きっとこれから、もっと、もっと、
俺以上に好きになる人が現れるかも知れませんよね?」








でも。イルカ先生は間違ったことを言ってはいないとも思うのです。
未来のことなんてわかりません。
今は、二人。どんなに愛し合っていたとしても。
流れていくものに、浚われてしまうような気がするのです。



「昨日の、イルカ先生の言葉・・・」

「先生は・・・あんな未来に怯えているのですか?」


カカシ先生が、お茶碗を持ったまま、優しくそう言いました。
イルカ先生の目を、そうして心を、覗き込むように。優しく。


「・・・・未来は、わかりません」

小さなお醤油の染みに、興味を奪われているふりをして、
イルカ先生は必死にカカシ先生を見ないようにしていました。

「俺、男だし。美人じゃないから、きっと先生嫌いになります」

ポロリと、心の中でずぅっと思っていた言葉を言いました。
どうしてカカシ先生は、俺なんかを好きになったのかな。
そう、ずっと思っていたこと。
ちょっとからかっているだけかも知れない。


男だし。美人じゃないし。傷だって一杯だし。恥ずかしくて暴れるし・・・。








「好きですよ」



「何度も言ったのに、信じてくれていないの?」



「今の俺を・・・・信じてくれたのではないの?」





悲しそうに、カカシ先生が呟きます。

イルカ先生は、指を飾った小さなリングを見て、ほぉっと溜息をついて。
そうして、もう一度、不確定な未来の話をしました。


「だって、未来はわからないじゃないですか」



「・・・・あなたは、今を信じないの?」


イルカ先生の言葉を、カカシ先生が静かに諭します。

(未来を信じないの?)


「今、俺は先生のことが好きです。確かに、未来はわからない」

「そうして」

「過去は消せない。未来はやっぱりわからない。」

「でも。だとしたら、せめて『今』を大事にしてあげたいじゃないですか」

「今のこの気持ちだけで、いいじゃないですか」





カカシ先生の言葉。
イルカ先生は静かな気持ちで耳を澄ませ、自分の心に留め置きました。

「・・・・・・・・」





カカシ先生の言葉が、イルカ先生の心に浸透するには、
もう少しだけ、時間がかかるようです。




そう。

カカシ先生が、数週間の任務へと旅立つ。
そんな時間です。








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