512TR編E
「チミはいつみても、
美しいのう?」
奴はそう言いながら、
自分よりも背が
高い女に
キスしよった。
けど、最近
奴の機嫌は
あまりよくない。
なぜなら、
ある組織の
エース級の
人間から
脅迫を受けている
からや。
「まあ、せいぜい
悪あがきを
することだな。
くっくっく。俺のほうは
いつでも
貴様を
殺ることが
できるんだ。
今すぐ貴様を
処刑しないのは、
ただ貴様に
苦痛を持続させて
やるためだけだ。」
といった内容の
電話やFAX、
書留郵便が
送られてくるからだ。
正直、奴は
ヴぃヴぃっている。
今まで自分に
楯突く人間は
子飼いの暴力団や
官憲に
高い金払って
抹殺してもらってきた。
だけど、今度の
人間はそんな
奴の力を
知っているのか、
知らぬのか、
意に介さず奴を
脅してきやがる、
奴はいま
恐怖のどん底や。
例のプロパーが
奴を福生の
ピンク街に
招待する日が
来た。
例のプロパーは
待ち合わせの
10分前に
現れた。
「遅かったで
ねえかんよ?」
と奴が声を
かけてきた。
米つきバッタのように
頭を下げる。
「まあ、いいがな。
乗れや?
おととっと。
おん前あは
前の運転席
だんべ?」
プロパーは
ベントレー
アルナージに
乗り込んだ。
そのベントレーは
アルナージの
レッドレーベル
ロングホイール
ベースだ。
普通のアルナージ
よりも、500万円
ほど割りだかだ。
「よし、レッツラゴー
っといくっぺか?」
「お食事は
どういった
ところが
よろしいのですか?」
「そんりゃあ、
おめえ、
やっぱさ
韓国料理が
いいじゃんか?
おれの知ってる
ところにすんげえ
うみゃあ店
あるぜよ。
そこにいきゃあ
いいじゃん?」
「いやはや、こんな
素晴らしい車を
運転させて
頂いて、
光栄です。」
「俺あは、
もう一台、
ベントレーもっとるで。
アズールっちゅう
オープンカーよ。
4000万ぐらいは
すっかなあ。
やっぱ、自分で
運転するなら
オープンに
限るべ。
オナゴの視線も
感じまくっしよう。
でもよ、
後部座席にのるなら
やっぱ、
これだね。
帝王になった
心地じゃい。」
「おんみゃあが
もし失業でもしたら
運転手で
やとったるけえの。
今の運ちゃんは
だめだこりゃ。
女房にわしが
どこに行ったっちゅうのをべらべら
しゃべりよるんよ。」
「まあ、今日は
野暮ったいこちゃあ
抜きにぱあっと
いこじゃんか?」
「ああ、そうそう
福生のピンクに
いったら、俺は
鹿島海建設の
社長な?
お前さんは
その子会社の
鹿島湾建設の
社長っちゅうことで
どないだべ?」
「生まれて初めて
社長になれるわけ
ですね。
願ってもないことで
ございます。」
プロパーは揉み手
しよった。
車は高速道路に
入った。
国産のスポーツカーが
横を華麗に
抜いていく。
「むうぅ・・・。
日本の政府は
なにをしとっと?
1000万以下の
駄馬は販売中止に
せなあかんよ。
あないなのが
はしっとうから
渋滞になるじゃん?」
「もし、そうなれば
私は商売が
できなくなりますよ。」
「いんやあ、
商業車は別としてよ。
ビンボッタレどもが
ゴキブリのような
安っぽくて
ちっぽけーな
車でウロチョロ
されんのは
目障りだべよ。」
そうこうしてても
ベントレーの横を
セルシオF
パッケージの
フルスモーク車が
パッシングライトを
浴びせ、左側から
追い越そうとする。
セルシオの運転手は
追い抜きざま
ベントレーを
あざ笑う。
「ふん、
成り上がりものめが。
わしゃあの、
ベントレーは
新車だべよ。
さっきのは
どうみても
中古だったじゃん?
先代モデルなのに
練馬の横の数字が
32Xの3桁
ナンバーだった
じゃんかよ。
俺あはの車は
セルシオの新車が
5台は買えるべよ。」
高速を降り
一般道にでた。
一般道では
成金願望らしい
ドライヴァーが
ベントレーを
熱い羨望で
眺めてくるので、
奴の虚栄心は
マキシマムまで
急上昇した。
「やっぽさあ、
ベントレーみたら
ああいう眼差し
おくらな
いかんじゃんか?
ゴミめらは
ゴミらしく
せんとなあ。」
「ごもっともで
御座います。」
と相槌を打つ。
韓国料理の
前についた。
在日米軍横田基地が
ある。ここは
日本でありながら
日本ではない。
そこで働く
米軍人は約1万名だ。
ここを中継として
世界各地の
米軍基地から
極東地域に
むけて飛んで来たり
する飛行機は
月に1000機は
ある。
しかも米軍人や
その家族は
ただ同然で
長距離飛行が
できるのだ。
その基地の近くで
プロパーと
やつは車をおりた。
奴の姿を
あらためて見た。
上半身は黒いスカーフを
首に巻き、
水玉模様の
スポーツシャツと
変色した革チョッキを
まとっていた。
下半身は飯場の
親方がよく
愛好する
乗馬ズボンに
革長靴、
それに銀ラメ入りの
腹巻スタイルだ。
プロパーに
言われたとおり、
宝石類は付けて
いなかった。
素敵過ぎるぜ・・・。