覚えているよ
忘れないって約束したから
君は
覚えてくれてる?
一般病棟に移った蓮のそばにいるのは、空色の髪をしたホロホロだった。
髪は綺麗な晴れた色でも、心の中はもうずっと雨なのだ。
一般病棟に移って、面会ができるといっても蓮の意識は今だ戻らないまま。
毎日ホロホロは病院に泊まって、蓮の手を握りしめている。
ただ願っている。
願うことしかできないから
何もしてあげられないから
だから、せめてずっと傍にいてあげる――――――
「どうだ?調子は?」
そこに葉が入ってきた。
葉もまた、ときどきホロホロと一緒に病院に泊まっている。
泊まらない日はこうやって学校が終わった後、蓮とホロホロの様子を見に来てくれる。
「うん。変わりなしだ」
ホロホロは少し葉の方を向いて、悲しそうに答えた。
蓮がまだ『面会禁止』だった頃は、ホロホロは似合わないクマを少し作っていたが
今ではもう、だいぶご飯も食べるようになって、笑うようにもなっている。
葉は蓮が早く良くなることと、もう一つ
いつものホロホロに戻って欲しいと願っていた。
少し悔しいけど、いつものホロホロに戻せることができるのは
今、ベッドの上で眠っている、蓮だけなのだから。
「そういえば、まん太はどうした?」
ホロホロは今度は体ごと葉の方を向いて、尋ねてきた。
「まん太は塾だとよ。後で来るってさ」
葉は窓の方に向かい、カーテンの隙間から外を見た。
外は晴天で、雲一つない青空が果てしなく続いていた。
「葉」
葉はホロホロに呼ばれて、はっとした。
「なんだ?」
「昨日は、ありがとな。」
ホロホロは少し照れくさそうに頭をかきながら言った。
葉はその言葉を聞いた瞬間、目を点にしていたが、自然と口元が緩んだ。
「いいってことよ」
葉は自分特有の笑いをホロホロに見せた。
ホロホロもそれにつられ、にかっと笑った。
このままの関係でいい。
友達以上、恋人未満。
いつも隣で笑いあうだけで
オイラはそれだけで十分だ。
「俺、ちょっとトイレ行きたいんだけど、蓮のこと見ててくんねぇか?」
ホロホロがイスから立ち上がり、葉の隣を通ってドアの方に駆け寄った。
「そんじゃあ、頼んだぞ!」
ホロホロは葉の返事を聴く前にさっさと廊下を走っていった。
よっぽど我慢していたらしい。
葉はかすかにに笑みをこぼし、蓮の眠っている近くに置かれているイスに
静に腰掛け、蓮の顔をまじめに見つめた。
布団からさっきまでホロホロに握られていた手が、少しはみ出ていた。
葉は蓮の耳元で囁いた。
「早く起きないと、お前の恋人もってっちまうぞ」
それは宣戦布告。
葉は眠る蓮に少し怪しげな笑みを向けた。
「悪いな葉」
しばらくすると、ホロホロが戻ってきた。
「いいや」
葉はイスから立ち上がると自分のカバンを持った。
「ん?帰んのか?」
「ああ。また明日くるよ」
葉はそう言って、ベッドの近くにある棚にスーパーの袋を置いて
病室を出ていった。
「あいつ、ここに来るとき絶対スーパーの袋持ってくんだよな」
中身はわかっている。
自分の少ないおこづかいから、ホロホロへの差し入れの食べ物が入っているのだ。
ホロホロはその葉の気持ちがとても嬉しかった。
蓮が一般病棟に移ってから約一週間。
今だ蓮の意識は戻らない。
医者はそろそろ戻ってもいい頃なのに・・・と心配をしていた。
しかし、医者よりも
誰よりも蓮のことが心配な少年が一人
蓮の病室にいた。
ずっと蓮の傍で祈り続ける少年。
ずっと病院に泊まり続けているせいで、妹のピリカが一週間に一回
ホロホロの着替えを持ってくるのも今では習慣になっている。
運命の日
その日はピリカが着替えを持ってきてくれる日だった。
すでに、学校が終わり、葉とまん太が蓮の病室に来ていた。
「お兄ちゃん。着替え持ってきたよ」
ピリカがホロホロの着替えが入っている袋を両手で抱え込む様に持って
病室の扉を開けた。
「おう、サンキューなピリカ」
ホロホロは重たそうな袋を受け取るため、イスから離れピリカの方に駆け寄った。
ホロホロがピリカが持っている袋を持とうとした瞬間、ピリカが袋を落とした。
足下には、ホロホロの衣服が散らばった。
「あ〜あ、何して・・・」
ホロホロはしゃがみこみ、服を拾おうとした時
「起きて・・・る・・・」
ピリカが静にそう言った。
ホロホロは立ち上がり、寝ているはずの蓮のベッドに目をやった。
そこには、金の目を開けた蓮が、体を起こしていた。
ホロホロは自分の目を疑った。
蓮が起きている。
信ずられず、その場から一歩も動けなかった。
「蓮!!お前気が付いたのか!!」
第一声をあげたのは、葉だった。
「蓮くん!」
続いてまん太も声をあげたが、ホロホロは声が出なかった。
ただ呆然と蓮を見つめていた。
その場に立ちつくし、声もだせないまま
自然と目から涙が流れてきた。
よかった。
もう一度
蓮に会えた
もう一度・・・
「貴様ら誰だ?」
騒がしかった病室がいっきに沈黙になった。
「は?何言ってんだ蓮」
「確かに俺は蓮だが、貴様らなぜ俺を知っている?」
君は
僕のことを忘れてしまったの?
ホロホロは意味がわからなく、ただ抜け殻同然の様に
蓮を見つめていた―――――――――――――――
つづく
やっと第4作目が終了したんですが
まだ続きます(汗)
でも次で完結するつもりなんで
もう少しおつき合いよろしくお願いします。