桧沢岳北西稜

岩の旋律


パート@
岩稜の旋律を眺めに

 2003年の冬に小沢岳に3人で登った。低い山ではあるがちょっとした冬山気分に浸ることができた。
 小沢岳からの展望は最高であった。特に桧沢岳の岩稜の尾根は刺激的だった。北西稜と言われる岩稜に近いうちに行ってみないと。
 2004年冬。今回も冬山気分に浸りたいと思った。また以前から登りたいと思っている桧沢岳北西稜の状態も眺めてみる予定だ。
 西上州は遠いので東京を明け方に出発。今年は去年と打って変わって雪がほとんどない。道路にも積もったあとが見られない。下仁田から臼田線に入り常磐橋から桧沢方面の道路に入る。かなり山里になってくると桧沢岳のゴツゴツした山姿が見え始めた。
 大森橋にて車を駐車し出発。雪はないのでハイキング気分だ。急な坂道を登って桧沢集落ぞいに進む。民家の裏道から登り、ガイドブックにも載っている民家の縁側を通る。しかしこの民家も引っ越したようで人はいなかった。過疎の影響か。
 振り返れば非常に眺めが広大である。梅があちこちに咲く集落を過ぎ、登山道らしくない道となる。道標もあまりなく、赤テープが時々ある程度。林は尾根の上にあり、急な斜面をジクザクに登る。このあたりは木々で視界が利かない。視界があったらかなり好展望だろうに。
 前方に岩峰が見え始め、頂がちかくなってくる。岩の尾根となり岩をぬうように進む。さすがにこのあたりにくると雪が残っている。しかしアイゼンを使うほどではない。
 すごい切れ込みの鞍部に到着。ここから西が西峰に続くようだ。残雪の上を慎重に登る少しで展望が開け360度のパノラマが広がる。さすがに岩峰だけあって木もないのですがる所もない。
 岩峰特有の360度プラス半球状の眺め。要するに斜め下もしっかり眺められるということ。祠から呆然と周囲を眺め続ける。この眺めが西上州の眺めだ。周囲一切遮るものがないし、下を見れば吸い込まれそうで恐ろしい。
 すこし下って北西稜を眺めに行く。岩の塊が連続してつながっているような風景。こんなとこ登れんのか、と、うち震える。
 写真を撮り早々に立ち去る。西峰を降り、キレットに戻って、主峰にむかうことにする。
 キレットからどうなることやらと思っていたら早々と岩場は消え、林の中にはいる。
 しっかりした登山道を登り急坂を登ると、小さな神社のある主峰についた。周囲は林ではあるが少し行くと展望が開ける。
 まだ時間もあるので休憩する。しかし日陰なのでじっとしていると寒くなる。
 お茶を沸かして茶など飲む。
 休憩の後出発。反対側の尾根を下ることにする。出だしは雪の斜面となっている。アイゼンは使わずになんとか降りる。かなり降りると林の中にはいる。
 山原を巻き込むように進むと崖に古びた神社がある場所となる。ここからヤブ気味の斜面を下ると、わかりやすい尾根に出た。このあたりは岩峰がところどころある。それらを慎重に登る。このあたりは日が指して暑いくらいだ。下に下る道があわさる。これが桧沢にくだる道だ。
 ジクザクの急な道をたどると沢となる。沢を渡りなおも下ると林道にでる。桧沢部落は15分で着いた。
これからいろいろ準備して春になったらあの岩稜を登ろう。

タイム
桧沢部落9:10−10:30西峰10:40−11:10主峰11:30−12:10コル−13:15桧沢部落



桧沢岳北西稜
2004年4月

 春も本番を過ぎつつある四月の中旬、天気も晴天と予想されるので北西稜に登ることにした。
 関越経由で下仁田に着き、磐戸橋には7時過ぎに着いた。
 活性化センターとか言う新築のセンター前の広大な駐車場に車を止めた。朝飯を食いつつ、登攀具の支度などをする。
 最近寝不足で、体力も落ちているので「今日は行けるところまでいって、引き返そう」などと弱気なことをほざいたりする。

出だしは新緑うららの尾根


○なだらかな尾根を登る
 今日はど晴天だ。支度して7時半に出発。椚(くぬぎ)と呼ばれる所へ向かう道路にそって歩く。
 途中に橋があり、桧沢川の枝沢が横切っている。この橋のそばの尾根の末端が北西稜の末端だ。橋を渡るとすぐに右から作業道が入る。この道を登ることにする。
 杉の伐採や作業に使う道のようだ。道は山腹を回るように続いている。このまま行くと尾根がどんどん高くなって登れなくなりそうなので、最初に現れた尾根に上がれそうな作業の枝道を登ることにした。急な枝道は踏み跡みたいなもので、見失いそうになる。急な斜面を登っていくと尾根上に出た。
 尾根上はヤブもなく割と歩きやすいところだ。杉林のなか踏み跡らしき所を拾いつつ登る。小さな岩場を二つ過ぎると尾根は急となり、喘いで登ることになる。回りの森はスギから落葉樹の森へと替わり、若葉の薄い緑がなんとも言えず美しい。急坂と美しい樹林と言う刺激的な場所を50分ほど登り続けた。




最初の峰からの遠望。遥かに遠い


○最初の峰からの展望
 尾根の最初のピークが間近に迫り、そこに立つ。ピークからは正面に桧沢岳の主峰周辺の岩峰群が見え、ミサイルの弾頭のように林立していてなんとも威嚇的だ。「かなり遠いじゃん」と弱気な言葉など交わす。尾根の途中にクマの糞と、木にあったクマの打撃の跡などみて弱気が増幅されていたのだけれど。
 弱気ではあるがやる気はどんどんアップしてくる。ここで休むこともせず、次のピークを目指す。途中の道はヤブっぽい所で、歩きやすいところを選んで登る。地図上に911mと書かれた場所に着いた。地図から推測すると行程の半分は来たようだ。「なんか楽勝みたいじゃん」などと思う。
 しかしこれからが本番でありこの尾根の厳しさを思い知らされることになるのだ。

ツツジが美しく咲き乱れ。その奥に険悪な岩峰が見える


○春爛漫の山々
 ピークに続く端の場所に行くと、先ほどの弾頭の林立の手前にも幾つものピークが連なっていることが分かった。そしてそのピークにはピンクの花が咲き誇っているわけで、威嚇的な弾頭の林立の手前に緑の岩峰のそこかしこにピンクの花が咲き誇るその風景は、胸を締めつけるような美しさでありました。
春爛漫の美しい花々。誰に見せることなくそこに咲き誇る様は涙なくしては眺めることはできない。
 最近なんか涙脆くなっていなかな。あの花は桜のようではあるが、八塩ツツジである、と村人が教えてくれた。



以降写真次回

○核心部突入

 最初に3mの岩峰となる。楽に越えると次の岩場となり、ここは右から巻いて登る。先ほど見えたツツジの緑の岩峰に突入。ツツジの咲き乱れる群落の中を登り続ける。岩峰の途中、岩が突き出た展望台となる。ここから桧沢岳方面の岩峰が迫って見える。ここは右から巻いて降りた。
 その後も岩場が続き、ほぼ右から巻くようにして進む。10mの岩壁を右から巻くと右から尾根が上がってくる。道のような跡があるが不明だ。そのまま巻くように岩場の間を登る。
 岩場の上には岩が立っていて、モアイの顔のように見える。これをモアイ岩と名づける。モアイ岩から先も岩場が続き、右から巻くように登る。

○アセビの峰で道を失う
 5mの岩場となり右から巻くとアセビの林となる。登っていくと鬱蒼と繁るアセビ。どこを降りたらいいのか分からないくらい。
 踏み跡らしきところを辿っていくと、どんどん下りだした。そして桧沢岳の弾頭林立から離れていく。こっちではない、とあわててアセビピークに戻る。何処を下ればいいもんか、と一瞬唖然となる。落着いて地図と磁石と弾頭林立を見比べる。向かって北西方向に下ればよさそうだ。
 ズリズリ下っていくと左のほうに尾根らしきものが見え始めた。下降落差約50mくらいで尾根のコル付近に到着。ヤレヤレということでコルから登りとなると突然眼前が切れ落ちた。下を見るとドーンと絶壁に切れ落ちていて、下から冷たい風がヒューっと吹き上げてきた。

ここで降りたらもう戻れないかもの懸垂下降
 ついにギャップとなったか。これを下るともう戻ることはできないな、とつぶやいたりする。
 周囲を観察しても懸垂は避けられそうにない。約15mの高さであり、岩も鋭角に尖っている場所もありザイルワークは慎重を期する。懸垂下降中、左右にザイルを振ると岩場に当たってザイルが傷つくので緊張する。

○核心部の岩峰
 コルから登りとなり、林のなかを行くとかなり大きな岩場となる。左右とも行き止まりとなる。正面はかなりヤバイ登りだ。それで左を強行突破することにした。5mほどのトラバースは数歩が相当に困難だ。
 僕が上にある潅木にランニングビレーを取り、やっとのことで渡りきった。そこからさらに左をまき気味に進むのは危険過ぎて不可能だ。
 トラバースの場所からA氏が潅木を頼りに15m登る。コールがある。落ちたら百m以上転がり落ちるような急な斜面を潅木を掴んで登っていくと緩やかになる。やっと危険地帯を脱したようだ。いやはや恐ろしかった。
(文献によるとここの岩峰は右側の岩場を登攀するようだ。)
 ピークから振り返ると911m峰は遥か下にあり、怖いくらいな風景が展開している。絶景だ。

 すぐにギャップとなり今度は7mの懸垂下降となる。眼前には西峰と、その手前の岩峰がそびえ立つ。7mの岩場は登攀困難なので右から巻く。やや悪い下りを過ぎ、岩場の裏に到達した。そこから岩場を登り、先ほどの岩場の上まで行く。ここではさらに展望が広がる。

 西峰はすぐ上だ。右の潅木帯をゆっくりと登り、見覚えのある祠のある頂に到着した。
 下からの高度の落差に唖然とする。よくもまあここまで登ってきたもんだと我ながら関心した。

 冬に一般道からここに至り、今度は逆の方向から上がってきたことになる。2月に見た時、この尾根を登ることは、想像もつかないことだったのに。

 しばし休憩のあと、一般道を下降。大森橋から舗装道路を下る。車で通り過ぎる時とは全く違うような景色が続く。15分で車で通り過ぎる道を1時間半かけて歩いて下るのだから、嫌がおうでも周囲の景色を眺めることになる。途中には数ヶ所の部落が点在し、西上州の村落の雰囲気を充分に眺めることができた。それにしても若い人が少ないのはしかたがないか。
山を下り、舗装の道を1時間半も下ると足が棒のようなにる。
ブラブラ歩きつつ、磐戸橋まで下りて車にたどり着いたのは17時30だった。
タイム
磐戸橋活性センター7:00−7:25尾根−7:50?911m峰9:40−12:30アセビ林の峰−15:05桧沢岳西峰15:20−16:05桧沢部落−17:40磐戸橋
すごい尾根だ、ということにつきた。もう必死で登り続けたので、よおく見る余裕も時間もなかった。
西上州の岩峰の場合、いつだってそんな感じだ。ほとんどの岩峰は必ず次回また行きたい山々となっている。








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