9 滝登りはクライムダウンが命を守る
単独沢登りにおける究極事項
沢登りにおいて死なないですむ方法
尾根歩き、沢登り、岩登りなどすべての単独行において
危険回避
が最大の重要課題になる。
パティー登山ならば、誰かがどこかで落ちても、パートナーが何らかの方策を立てる可能性は高い。
岩登りにしても、相手が落ちて、転落をザイルで止めたあとに、事後処理はパートナーが出来る可能性は高い。
そんな訳で、ちょっとした悪い滝とか岩場などは、パートナーがいることである程度の余裕をもって挑むことができる。
しかし、単独の場合、本人にアクシデントがあった場合、それに対する対処は本人がする以外だれもいない。即死ならば、対処不能だ。また、足の骨折なども、行動不能に陥ってしまう。即死以外ならば、大怪我以外ならば、前に書いた携帯電話にて救助連絡が出来る可能性が高い。それにより、救助される可能性が高くなる。
過去では単独で足の骨折したならまず助かる見込みはなかった。人通りのあるところならまだしも沢の奥などでは、そのまま討ち死にということになっていた。
記録などを読むと、骨折した足に枝の副木をつけて必死に尾根をめざし、そのまま力尽きた、と言う記録もある。
そんな訳で、足の骨折、頭の怪我、行動不能の怪我などの場合助かる確率が低くなる、と自覚しておいたほうがよいだろう。そのためには携帯電話の携行によって助かる確率を高くする必要がある。
本題
単独行の場合の大前提として
絶対に事故をおこしてはならない
と言うことだ。
精神的に「山では充分に気をつけよう」と思っていたとしても、そんなものは
長時間続けることなど無理だ。そのうち、気疲れして、かえってボーッとしてヤバイ場合もある。
僕もよく人に言われる、「山では十分気をつけてネ」と。山の登山口にも山では気をつけて登りましょう、と書かれている。
山では気をつける場所が肝心だ。
登り始めから下山口まで注意の持続は不可能だ。緊張した注意は長くもたない。だから要所要所で注意するのが最善だろう。
まず、ゴーロとか滝のない場所ではぼんやりして歩く。と言うより、特に緊張して注意する必要はない。この場合ヘルメットは必ず着用する。ゴーロなど平凡な場所でも滑る場所があり、滑って後頭部を強打することがある。
僕などもナメを歩いているとき、滑って一瞬身体が宙にういて後頭部から落ちたことがある。ほとんどバックドロップ状態。その時、ヘルメットを付けていたので頭に衝撃がかからなかった。もしヘルメットがなかったら、陥没だったかも。
滝の登攀中は誰でも注意して登るので、特に意識して注意することもない。あまり緊張し過ぎは、身体が高くなってダメ。普通にいても緊張しているのだから、すこしリラックスさせて登る方がかえって良い。
その後、滝の落口に立った時は、特に落口では注意すべきだ。登り終えた安心でセルフビレーもせずにぼんやりする人がいる場合がある。
どんなことがあっても落口では注意おこたりなく。落口にてとどまるのなら、セルフビレーは必要だ。
また高巻きも、相当に注意しないといけない。
潅木などがあると周囲が遮蔽されていて下が見えないので、安心しがちだが、不注意で滑落する場合がある。過去の記録で高巻きで、滑落して死亡した例もある。
滝の高巻きであるから高いわけで、落ちた場合は、ただではすまない。高巻きはチンタラ登らないで、気合を抜かないで登ること。
とりあえずクライムダウン
このクライムダウンこそ単独行の危険回避の最重要方法だ。
滝を登る前にルートの確認をする。確認できたら登りだす。それで、これ以上登るのはヤバイという局面に遭遇したら、ためらわずにとりあえず下まで降りること。
その降りた時点で、ルートが間違っているのか、ルート自体難しいのかの判断をくだす。
ルートが間違っていた場合、いくら無理して登ってみても、不可能なことが多い。無理して登っても身動きできなくなる。そうなるとクライムダウンなど出来る余地はない。クライムダウン出来る余裕を残しつつ登るのが単独行における滝登りと言える。
滝の途中から一旦降りて、問題点を確認する。ルートが違うなら再度ルートを眼で探す。ルートが難しいなら、ザックを地面に下ろし、末端にザック、一方の末端を自分のゼルバンにつけて、空身で登る方法もある。上に着いたら、ザイルを手繰って荷物を引き上げるということ。荷物が無くなった分動きも軽快になり、悪場も乗り越せるかもしれない。 また一旦降りたことにより、気負いこんでいた頭も冷静になって、見えなかったホールド、スタンスが見えてくることもある。
それでもだめなら、高巻く、と言う方法もある。
このよう悪場ではにとりあえずクライムダウンすれば、多くの選択肢が増え、余裕をもって選択できる。
これは沢登りに限ったことではなく、岩場でもそうで、これ以上無理かなと思ったら一旦クライムダウンして作戦を練り直すことができる。
相談相手も協力者もいないのだから、その代わりとして選択肢を多くもつことが精神的な余裕になる。その選択肢を冷静に判断する必要性においても、クライムダウンという危険回避は必要だ。
滝などのクイラムダウンの時機
このクライムダウンの適切な時機と言うのは難しい。この時機などは個人個人差があるので、自分なりに研究した方がよい。ちょっとヤバイそうだな、という時が時機と言える。
また、クライムダウンの時機を逸した場合に備えて、ハーケンの1〜2枚は必ず持っていくこと。ハンマーを持っていない人は言語道断だ。死にたくなければ即買いに走るベシ。
僕も過去において単独で沢に入ったとき、滝にて身動き取れなくなったのは何度かある。その時、お守りにしていた一本のハーケンをリスに打ち込み難を逃れた経験がある。冷や汗ものの経験は初心者に近い状態の時が最も多かった。なんにしても初心者に近い時が一番事故を起こしやすい。
ハーケンを打ち慣れること
詳しい話はしないけど、沢登りにおいてハーケンがあると言うのは心強い。ちょっと難しい場所においても勇気を持って乗り越える精神的なお守りにもなる。
しかし、ただハーケンを持っているだけではダメで、とにかく、どこかの岩に打ち込んでみることを薦める。なぜなら、リスを見つけるのは至難の技の場合もあり、打ったリスが開いて、ハーケンが落ちてしまう場合もある。また入ったと思っても全然利いていない場合もあり、力を入れたらポロッと取れてしまう場合もある。打ち込んでもキン、キンとかいう高音に変化していかないなら、それは利いていないと思った方がよい。そこで再度打ち直すことになる。そう言った実践的なことは沢登りをする前にやっておかないといけない。
滝の途中でヤバイと思ったとき、瞬時にこのリスを発見する訓練なども岩場にて練習すべきだ。岩場でなくても、沢登りの途中の滝にて打ち込み、また引っこ抜く練習でもよい。
過去に出会ったパーティでトップがザイルを担いだまま、登ってしまい、滝の途中で身動き取れなくなっている姿を見たことがある。その人たちは、ハーケンももたず、ちょっと甘くみて、カッコつけてザイルを担いだトップがガンガン登ってしまったのだろう。下では二名の残りメンバーが「大丈夫かー」と叫んでいた。この場合どうしようもない。
僕が高巻きして上からザイルを垂らし、あやうく難を逃れたけれど。そういったラッキーなことはつづくものではない。
8ミリ30mザイルの使用に慣れる
沢にザイルを持っていかないと言うことは、山に行くのに食料をもっていかないのと同じな行為だ。
9ミリ45mザイルは長くて重くて扱いずらい。30m以上の大滝がある沢以外なら8ミリ30mでたくさんだ。
利用法
@ザックをザイルの末端につけ、一方の末端を自分に結び、空身で滝を登り、その後ザックを引き上げる。
A空身で登り、上に着いたら、ザイルで懸垂下降をして下に置いてきたザックを回収して登り直す。
B滝の高巻き後、下に降りられない場合の懸垂下降用
C緊急時、沢を下降する場合、など各滝にて懸垂下降できる。
沢登においては別に気合を入れる必要もない。
言えることは一つ
ダメならとりあえずクライムダウン(戻る)
これが僕が長い単独登山生活において見つけた、最大にして最重要な危険回避方法です。
そんな訳で、遭難を起こさない方法
◎単独行は絶対に事故を起こしてはならない
事故を起こさないための方策
●注意すべき時に最大限注意する。
●落口では気を抜かない
●高巻きも気を抜かない
●詰まる前にクラムダウン
◎実践項目
●単独でもハンマー、ハーケンの携行をする。
●ハーケン打ちを常に練習して熟知する。
●8ミリ330mザイルの扱いになれる。
以上を(特に青字の部分)実践するなら遭難事故はかなりの割合で防止することができる。
それでは気をつけていってらっしゃーい。
沢登りをはじめたころの思い出
ミシンを踏む足の状態で、かつ右手に握るホールドにジットリと汗が付いている。
下は8mほどの高さだ。勢い込んで登りだしたが、だんだん難しくなり、あと数mという所まできて、完全に詰まってしまった。登るのに夢中で、気がつけば、細かいスタンスに両足がチョコンと乗っていて、右手は遠いホールドを掴んだままだ。
やっと冷えた頭は「退却だ」、とあたりまえのことを判断した。
こういうときは小鳥のさえずりがやけにうるさい。
カラビナに入れて下げたハーケンを震える左手で、そっと抜き、そこから胸づたいにソロソロと上げていって、ハーケンを唇に挟む。右手は胸から腰にズリ下ろし、ハンマーをつかみそのまま上げて、人差し指と親指でハーケンをつまみ、さっき見つけたリスにハーケンをグリグリとねじ込む。息が上がってきて、額から脂汗。
なんとかリスにハーケンが静止してくれた。押し込むようなハンマーの第一打。まだ不安定。第2、第3打。ガシ、ガシ。なんとか食い込み始めた、もうちょっとだ。
と
「キン」
「キーン」「キン」
第4打目のハンマーはハーケンの頭を打ち損ね、側面を打ってしまった。それまで食い込んでいたハーケンは弱々しく、リスからポロリと落ちた、かと思うと奈落の底へ、金属音を残して消えていった。
茫然自失とは、こういうことを言うのだな、と瞬時に思った。
右手は少しずつ力が無くなっていく。
用心深い僕としては、最悪にそなえて、雨蓋にシュリンゲとハーケン一本を入れてある。むずがる雨蓋のファスナーを開け、奥にあったハーケンを握り締め、またいちからやりなおし。
リスに、3ミリシュリンゲを付けたハーケンをねじ込む。「これがだめなら、もう手をはなしちゃおう」弱気のもう一人がささやく。
神経を集中し一打一打づつ確実に打ち込む。
ガシ、ガシ、ガン、ガン、キン、キン、キーン、キーン
「……」
(打ち込めた、と言う思考をする余裕はもうない。
消耗してくると「ああしろ、ここしろ」と言う思考のエネルギーすらなくなってくる。
思考よりも筋肉が動いているといった感じだ。)
5ミリシュリンゲを取り出し、それをハーケンの頭の穴に通す。
と同時に、そのシュリンゲに全体重を乗せた。足は痙攣一歩手前だった。
もうこんなヤバイことは止めとこう
よい経験すぎた
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