ソラリオ Solario、そして
オーウェンテューダー Owen Tudor とのニックス


ブリードアップの必要性

 ダンテ Dante とサヤジラオ Sayajirao の全兄弟は、競走馬としては確かに極めてすぐれた成績を残しました。にも関わらず、史上稀に見る種牡馬豊作のこの時代、彼らが繁殖成績でもそれらに伍していくのは簡単なことではありませんでした。
 当時の状況への手掛かりとして、大戦前後(1934-50年度)の英リーディングサイアーランキングから上位5傑を挙げておきましょう。
※ '46年は欠損。なお、大雑把に同系統を同色で、うち表中に4回以上登場するものを太字、後で述べるゲインズバラ Gainsborough 産駒2頭については斜体で表記しました)。
年度 首位 2位 3位 4位 5位
1934 Blandford_ Tetratema Gainsborough Colorado Winalot
1935 Blandford Fairway Winalot Blenheim Tetratema
1936 Fairway Solario Pharos Bosworth Son-in-Law
1937 Solario Fairway Blandford Singapore Cameronian
1938 Blandford Felstead Cameronian Solario Fairway
1939 Fairway Hyperion Dark Legend Caerleon Colombo
1940 Hyperion Bahram Barneveldt Fair Trial Tourbillon
1941 Hyperion Colombo Bahram Cameronian Fair Trial
1942 Hyperion Fairway Mahmoud Nearco Bahram
1943 Fairway Solario Hyperion King Salmon Nearco
1944 Fairway Hyperion Blue Peter Nearco Panorama
1945 Hyperion Fair Trial Nearco Precipitation Fairway
1947 Nearco Bois Roussel Panorama Hyperion Fair Trial
1948 Nearco Big Game Fair Trial Bois Roussel Djebel
1949 Nearco Bois Roussel Nasrullah Fair Trial Djebel
1950 Fair Trial Hyperion Nearco Blue Peter Signal Light

 上記の表からは、激しい首位争奪戦の中で Blandford の流れが Gainsborough 系に移り、それがまた FairwayPharos の仔に移っていく様子を見て取れます。

 このような状況の下で、新進の種牡馬が既存の大物種牡馬と渡り合っていくには、何よりも先行する主流血統と手を結び、合従連衡を図るための要素、すなわち親和性が必要となります(これを称して〈ニック(ス) Nick(s)〉と呼びます)。
 なぜなら、ある種牡馬がたとえ直仔への素晴らしい遺伝力を備えていたとしても、親和性に乏しく、他の有力種牡馬との相性が悪ければ、たちまち子孫は配合相手を奪われ、勢力を失ってしまうからです。
 こうした事情は今でも変わりません。例えば、数年前から日本の生産者(主に社台グループ)が、盛んに*リアルシャダイ Real Shadai、*トニービン Tony Bin、*ブライアンズタイム Brian's Time、そして*サンデーサイレンス Sunday Silence といった種牡馬を導入したのは、ノーザンダンサー Northern Dancer、なかんずく*ノーザンテースト Northern Taste の血で急速に飽和しつつある状況に対応するためでした。
 したがって、その際ほとんどの種牡馬は、専ら「*ノーザンテースト牝馬に合うか否か」を基準として選定されていたのです。
 となれば、当然現在は*サンデーサイレンス牝馬に合う新たな種牡馬が求められている、ということになるでしょう。
 ここで言う親和性とはいくつかの複雑な要素を同時に含むものですが、大まかに言えば、それはインブリードによる資質の固定化(=〈ブリードアップ Breed-Up〉)が可能であるかどうか、だと言えます。
 もちろんインブリードが常に万能な方法論だと言うつもりはありません。しばしば指摘されるように、インブリードとアウトブリードは相補的な関係にあります。前者のみを用い続ければすなわち近交弱勢で健康な子孫が得られなくなり、かといって後者ばかりに頼っていては折角積み重ねてきた高い能力が拡散し無に帰すのです。
 よく知られたナスルーラ Nasrullah とプリンスキロ Princequillo のニックニジンスキー Nijinsky とブラッシンググルーム Blushing Groom のニックなどは、いずれもそうしたメカニズムを踏まえたものです。

 さて、この時我らが Dante=Sayajirao は、幸い少なくとも2頭の有力種牡馬と幸福な関係を築くことに成功します。もしもこれらと同盟を締結することがなかったら、Dante や Sayajirao の血脈が現在まで残存しえたか…それさえ疑問です。A(^o^;
 そんなわけで、本項では、以下これら2つのニックスの根拠とその具体例を検証して参りたいと思います。


ソラリオとのニック

 1939年の時点で、フェアウェイ Fairway やハイペリオン Hyperion、ドナテロ Donatello、ネアルコ Nearco らを凌ぐ、500ギニーもの種付け価格を掲げていたのは、わずかにバーラム Bahramソラリオ Solario の2頭だけでした。
 前者はゲインズバラ Gainsborough 以来17年ぶりの英三冠馬として名高い名馬で、種牡馬としても一定の成功を収めた後、アルゼンチンへと輸出されるわけですが、一方後者もまた、3歳時に英セントレジャー、4歳になってはアスコット金杯とコロネーションC(いずれも当時最高級の長距離戦)を制したすこぶる付きの名馬でした(ちなみに、名種牡馬*セフト Theft や愛三冠馬ミューズィアム Museum は、当馬の甥に当たります)

 そして200頭を越える勝馬(うち英・愛ダービー馬が各2頭)を輩出したこの大種牡馬 Solario の血統は、Dante や Sayajirao と配合された時、何とも抜群の調和を見せたのでした。
――というより、Dante らの母ローズィレジェンド Rosy Legend の配合こそ、実はひとつにこの Solario の血統をモデルとしたものだったのではないか――? 想像に過ぎないものの、私にはむしろこちらの考え方が的を得ているように思えます。
 両種牡馬のフィットぶりをマッチテストで見てみましょう。

仮想配合試験 ― Dante vs. Solario
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris
1913 黒鹿
Polymelus Cyllene
Bromus Sainfoin
Scapa Flow
1914
Chaucer St. Simon
Anchora Love Wisely
Nogara
1928 鹿
Havresac
1915 黒鹿
Rabelais St. Simon
Hors Concours Ajax
Catnip
1910 鹿
Spearmint Carbine
Sibola The Sailor Prince
Rosy Legend
1931 黒鹿
Dark Legend
1914 黒鹿
Dark Ronald
1905 黒鹿
Bay Ronald Hampton
Darkie Thurio
Golden Legend
1907 鹿
Amphion Rosebery
St. Lucre St. Serf
Rosy Cheeks
1919 黒鹿
St. Just
1907
St. Frusquin St. Simon
Justitia Le Sancy
Purity
1903 鹿
Gallinule Isonomy
Sanctimony St. Serf
Solario
1922 鹿
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo
1906 鹿
Bay Ronald
1893 鹿
Hampton Lord Clifden
Black Duchess Galliard
Galicia
1898 黒鹿
Galopin Vedette
Isoletta Isonomy
Rosedrop
1907
St. Frusquin
1893 黒鹿
St. Simon Galopin
Isabel Plebeian
Rosaline
1901 黒鹿
Trenton Musket
Rosalys Bend Or
Sun Worship
1912 鹿
Sundridge
1898
Amphion
1886
Rosebery Speculum
Suicide Hermit
Sierra
1889
Springfield St. Albans
Sanda Wenlock
Doctrine
1899 鹿
Ayrshire
1885 鹿
Hampton Lord Clifden
Atalanta [F8-h] Galopin
Axiom
1888 鹿
Peter Hermit
Electric Light Sterling
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 うーん、確かに Rosy Legend 内の4つの父系を全てクロスし、その資質をガッチリと固定しようという狙いが見受けられますね。Solario が一代後退すれば、世代もピッタリと合致します。
 しかも、両馬をともにX染色体径路上に配置すれば、Rosy Legend 内のX染色体上マジックを、Feronia[F8-d](上の組み合わせでは 6x6*6=伴性血縁4x4*5 )や Pauline(同 8x7=伴性血縁5x6 )などである程度繋ぎ止めることも期待できます(もちろん牝馬の場合だけですが)。

 これほどマッチした組み合わせからは、やはり多くの活躍馬(もしくは活躍馬の母)が出ています。例を挙げましょう。


 〜 第1のニック : Dante=Sayajirao × Solario 〜

 ● Dante=Sayajirao × Solario 牝馬
 マテルダ Matelda(1947 牝 黒鹿 by Dante)
   →
テューダーメロディ Tudor Melody ― プリンスオブウェールズS/英 他。種牡馬
   → ヘイスティマテルダ Hasty Matelda ― メイトロンH/米。さらに2代重賞勝馬が続く

 ダンバーニー Dumbarnie (1949 牡 by Dante ― 韋駄天 Lochnager の父)
 サンミニアート Samminiato(1951 牝 by Dante)
   → シャーラック Sherluck ― ベルモントS/米、ブルーグラスS/米
 ダシアン Dacian(1953 牡 by Dante ― デューハーストS/英、ゴードンS/英)
 *インディアナ Indiana(1961 牡 鹿 by Sayajirao ― 英セントレジャー 他)

 ● Dante=Sayajirao × 母父が Solario の牝馬
 グラッドネス Gladness(1953 牝 黒鹿 by Sayajirao ― アスコットGC/英、グッドウッドC/英)
 ヴァーシフィケイション Versification(1954 牝 鹿 by Dante)
   → … → アチーブスター ― 桜花賞、ビクトリアC。最優秀4歳(3yo)牝馬

 ● Dante × 祖父が Solario の牝馬
 ディアブルレッタ Diableretta(1947 牝 栗 by Dante ― チェリーヒントンS/英 他。英最優秀2歳牝馬)
   → ジネッタ Ginetta ― 仏1000ギニー、仏最優秀2歳牝馬。直系にシャーガー Shergar
 ダライアス Darius(1951 牡 鹿 by Dante ― 英2000ギニー/英、エクリプスS/英 他)
 デザートビューティ Desert Beauty(1957 牝 by Dante ― ナッソーS/英)

 ● Dante 直仔の種牡馬 × 祖父が Solario の牝馬
 ダートボード Dart Board(1964 牡 by Darius ― デューハーストS/英)
 カニス Kaniz(1966 牝 by Darius)
   → アルカンド Alcando ― ビヴァリーヒルズH/米、プシケ賞/仏

 ○ 母父が Solario の種牡馬 × 父母が Rosy Legend の牝馬
 テタンジェ Taittinger(1954 牝 by Tehran ― プリンセスマーガレットS/英)
 *ダラノーア Darannour(1960 牡 鹿 by Sunny Boy ― モルニ賞/仏 他)
 リュウスパーション(1966 牡 鹿 by *ヒンドスタン ― 京都記念、日経新春杯-2着 他)

 ○ 母父が Dante の種牡馬 × 祖母父が Solario の牝馬
 ファーム Farm(1965 牝 鹿 by Idle Hour ― 亜1000ギニー、亜オークス 他。亜最優秀3歳・古馬牝馬)
 & フィッツ Fizz(1967 牝 鹿 by Idle Hour ― オノール大賞/亜、ブラジル大賞/伯 他。伯最優秀古馬牝馬)

 以上に見るように、後に Dante の主流父系を担うことになる Darius、Sayajirao の代表産駒*インディアナなど、Dante および Sayajirao の系統にとって重要な存在がこのニックから出ていることは、決して偶然ではないでしょう。

 この第一のニックは、さらにもう一つの段階を経て、Dante 系に現在にまで通じる力強さを与えます。…が、そちらに進む前に、ここでひとつ重要なポイントを解説しておかねばなりません。


ハイペリオンとネアルコ ― ネガティヴニック

 本項冒頭のサイアーランキングで見たように、Dante が種牡馬入りした当初というのは、おおむね Hyperion から Nearco へと覇権が移りつつある時代でした。ということはつまり、当時BMS(母の父)として最も有力だったのは Hyperion に他なるまいと考えられます。
 17代ダービー卿が育てたこの名馬については、いずれ別項で述べますが、その血統にはサラブレッド史上でも(ストックウェル Stockwell、サンシモン St.Simon らと並ぶ)屈指のポテンシャルが潜んでいる、ということを知っていて損はないでしょう。事実、種牡馬としてもまた母父としても、Hyperion は驚異的な成績を残し、数々の名馬を送りました。

 ところが、Hyperion は次代の旗手 Nearco とだけは大変相性が悪かったのです(いわゆる〈ネガティヴニック Negative Nick〉の一種)。おそらく強力すぎるその組み合わせが、高い資質とともに致命的な要素を載せた劣性遺伝子までも固定してしまったのだろうと考えられますが、結局この直接的な組み合わせから出た一流馬は、ニアークティック Nearctic(1954 牡 黒鹿 by Nearco ― サラトガスペシャルS 他。種牡馬としてかのノーザンダンサー Northern Dancer を出す)他、わずか数頭に過ぎません。

 Dante が、同じ Nearco 産駒であるナスルーラ Nasrullah などと同様、基本的に Hyperion 牝馬との組み合わせを避けられたのも、そういう事情があったからでしょう。
 もっとも前段で Solario について述べたように、Dante と Gainsborough の相性は上々でした。また、後になって Nearco と Hyperion の組み合わせが常套化するように、両巨頭は代を経るにつれて歩み寄り、やがてお互いの長所を活かすようになります。
 また Dante x Hyperion 牝馬の配合からは、少数ながらも、祖母の血が例外的に嵌まったランドー Landau(1951 牡 黒鹿 by Dante ― サセックスS。種牡馬。母は英三冠牝馬)カーロッツァ Carrozza(1954 牝 黒鹿 by Dante ― 英オークス、プリンセスエリザベスS。Landau の同血従兄妹)といった活躍馬が出ており、この点でも Dante と Nasrullah は著しい対照をなしています。

 したがって、『ロミオとジュリエット』よろしく、Dante が Hyperion 直仔の一頭と蜜月の仲になったとて、別段おかしくはないのです。まさに、恋は盲目。<違うよ


オーウェンテューダーとのニック

 相馬 駿氏の【幹と枝】研究によれば、Hyperion が出した無数の後継馬の中で、現在最も勢力が強い( Hyperion 系全体の約1/4を占める)のはオーウェンテューダー Owen Tudor であるとのことです(@nifty/FHCUL/MES14より)。
 Hyperion 直仔中唯一、父同様に英ダービーを制覇した同馬ですが、種牡馬としては父に及びませんでした。「世紀の名馬」テューダーミンストレル Tudor Minstrel(1944 牡 黒鹿 ― 英2000ギニー他。Sayajirao のライヴァル)アバーナント Abernant(1946 牡 芦 ― ジュライC連覇、ナンソープS連覇 他。英チャンピオンスプリンター)ライトロイヤル Right Royal(1958 牡 黒鹿 ― 仏二冠、「キングジョージ」他)らを出したものの、サイアーランキングでは1947-48年の英7位、1961年の仏2位が最高です。

 そう考えると、Dante と Owen Tudor とはともに偉大な父にも比肩しうる英ダービー馬でありながら、種牡馬としては突き抜けられないままである点で、奇妙に似たキャラクターだと言えそうです。
 そして今にして思えば、この「似たもの同士」2頭は、お互い手を繋ぐことで自らの遺伝子を後代に残すことになったのでした。

 再びマッチテストを行ってみましょう。

仮想配合試験 ― Dante vs. Owen Tudor
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris
1913 黒鹿
Polymelus Cyllene
Bromus Sainfoin
Scapa Flow
1914
Chaucer St. Simon
Anchora Love Wisely
Nogara
1928 鹿
Havresac
1915 黒鹿
Rabelais St. Simon
Hors Concours Ajax
Catnip
1910 鹿
Spearmint Carbine
Sibola The Sailor Prince
Rosy Legend
1931 黒鹿
Dark Legend
1914 黒鹿
Dark Ronald
1905 黒鹿
Bay Ronald Hampton
Darkie Thurio
Golden Legend
1907 鹿
Amphion Rosebery
St. Lucre St. Serf
Rosy Cheeks
1919 黒鹿
St. Just
1907
St. Frusquin St. Simon
Justitia Le Sancy
Purity
1903 鹿
Gallinule Isonomy
Sanctimony St. Serf
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo
1906 鹿
Bay Ronald Hampton
Galicia Galopin
Rosedrop
1907
St. Frusquin St. Simon
Rosaline Trenton
Selene
1919 鹿
Chaucer
1900 黒鹿
St. Simon Galopin
Canterbury Pilgrim Tristan
Serenissima
1913 鹿
Minoru Cyllene
Gondolette Loved One
Mary Tudor
1931 鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris
1913 黒鹿
Polymelus Cyllene
Bromus Sainfoin
Scapa Flow
1914
Chaucer St. Simon
Anchora Love Wisely
Anna Bolena
1920 鹿
Teddy
1913 鹿
Ajax Flying Fox
Rondeau Bay Ronald
Queen Elizabeth
1908 鹿
Wargrave Carbine
New Guinea Minting
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 フムフムなるほど、Hyperion の母父チョーサー Chaucer ばかりか、ファロス Pharos の強いインブリードまでが生じるこの組み合わせは、直接的にはともかく、ある程度代を経てお互いを強調するには最適ですね。
 さらにこれまた、アヤックス Ajax やカーバイン Carbine にまで目を向ければ、マリーテューダー Mary Tudor は Nearco と相似な関係にある、とも言えます。

 要するに、Solario とのニックが Dante の母方(Rosy Legend)を強調するものなら、Owen Tudor とのニックは Dante の父方(Nearco)を強調するもの、という按配。
 事実この組み合わせからは、次のような活躍馬(orその母)が出ています。


 〜 第2のニック : Dante=Sayajirao × Owen Tudor 〜

 ■ Owen Tudor 直仔の種牡馬 × 父が Dante の牝馬
 テューダーメロディ Tudor Melody(1956 牡 黒鹿 by Tudor Minstrel ― (上掲))
 エイワン A. 1.(1963 牝 芦 by Abernant)
   → *スティールハート Steel Heart ― ミドルパークS/英G1、ジムクラックS/英G2 他
   → アンプーラ Ampulla ― チェリーヒントンS/英G2
   → スモーキーレイディ Smokey Lady ― フィーニクスS/愛G1


 ■ Owen Tudor 直仔の種牡馬 × 祖父が Dante の牝馬
 アベラ Abella(1968 牝 栗 by Abernant)
   → サッチング Thatching ― ジュライC/英G1、デュークオブヨークS/英G3 他
   → ゴールデンサッチ Golden Thatch ― グリーンランズS/愛G3、バリオーガンS/愛G3


 ■ Dante 直仔の種牡馬 × 祖父が Owen Tudor の牝馬
 デリングドゥ Derring-Do(1961 牡 鹿 by Darius ― クイーンエリザベスII世S/英 他)

 ■ Owen Tudor 直孫の種牡馬 × 祖父が Dante の牝馬
 アブサロム Absalom(1975 牝 芦 by Abwah ― スプリントC/英G2、ダイアデムS/英G3 他)

 ■ Owen Tudor 直孫の種牡馬 × 母父が Dante の牝馬
 オルサマッジョーレ Orsa Maggiore(1970 牝 by *ルイスデール)
   → パラダイス Paradise ― クレオパトル賞/仏G3。米G1馬*アンティーカの母

 ■ Owen Tudor 直曾孫の種牡馬 × 父が Dante の牝馬
 ボルコンスキー Bolkonski(1972 牡 by Balidar ― 英2000ギニー、セントジェイムズパレスS/英、サセックスS/英)

 □ 母の祖父が Owen Tudor の種牡馬 × 母父が Dante=Sayajirao の牝馬
 パスザタブ Pass the Tab(1978 牡 鹿 by Al Hattab ― ジャマイカH/米、カーターH/米)
 アサート Assert(1979 牡 鹿 by Be My Guest ― 仏・愛ダービー/G1、愛チャンピオンS/愛G1 他)
 アストロネフ Astronef(1984 牡 鹿 by Be My Guest ― メルトン賞/伊G2、ゴルデネパイチェ/独G3-連覇 他)
 ケイアイジョン(1996 牡 鹿 by *スリルショー ― シンザン記念-3着、きさらぎ賞-3着)

 □ 母の祖父が Owen Tudor の種牡馬
              × 父の母祖父が Owen Tudor、祖母父が Sayajirao の牝馬

 ダブルベッド Double Bed(1983 牡 鹿 by Be My Guest ― コートノルマンド賞/仏G2、愛チャンピオンS/愛G1-2着)

 □ 母の祖父が Owen Tudor の種牡馬 × 母祖父が Dante の牝馬
 ルビー Ruby(1977 牝 by Seventh Hussar)
   → ルビトン Rubiton ― コックスプレート/豪G1、マッキノンS/豪G1 他
   → ユークライズ Euclase ― グッドウッドH/豪G1、アンガスブルートクラシック/豪G2 他


 □ 母父が Dante の種牡馬 × 祖父が Owen Tudor の牝馬
 カルストンモア(1975 牝 黒鹿 by *ホワイトファイア)
   → カルストンダンサー ― 京都牝馬特別

 □ Dante 直孫の種牡馬 × 曽祖父が Owen Tudor の牝馬
 リーシュ Reesh(1981 牡 by Lochnager ― テンプルS/英G3、パレスハウスS/英G3 他)
 インペリアルジェイド Imperial Jade(1982 牝 鹿 by Lochnager)
   → アヴェルティ Averti ― キングジョージS/英G3、アベイユドロンシャン賞/仏G1-2着

 □ Owen Tudor 曾孫の種牡馬 × 曽祖父が Dante の牝馬
 ロックソング Lochsong(1988 牝 by Song ― アベイユドロンシャン賞/仏G1-連覇 他 全欧年度代表馬)

 驚くべきは、先程登場した Tudor Melody(自身)DariusDerring-Do の父として)が、ここでまた登場していること。
 つまり Tudor MelodyDerring-Do の2頭(いずれも祖父 Owen Tudor/Dante の父系を再興した「中興の祖」的存在。それぞれ別項で詳説)は、ともにここで挙げたニックスをふたつとも用いた配合馬だったわけです。
 こんなことから、鞘は今では Dante&Owen Tudor ないし Tudor Melody&Derring-Do を、対をなす血脈として考えるようになったのでした。


さらなる展開 ― ニックスインブリード

 かくして Dante=Sayajirao の血は、Solario や Owen Tudor とともに定着することになりました。
 しかしこれまでも繰り返し述べてきたように、血脈がその価値を維持するためには、常にブリードアップへの努力を欠くことができません。

 以後 Dante と Sayajirao の系統がいかに資質の固定を図っていったかは、続く各項に譲るとして、ここでは比較的簡単にブリードアップを行う方法を紹介したいと思います。

 要は、上に述べたような(あるいは本シリーズ2〜4章で取り上げたような)初期ブリードアップを済ませた血統を、父母の適度な世代に持ってくればよいのです。自身はクロスになる場合も、ならない場合もあるでしょうが、その中の Dante や Owen Tudor、Solario は複合的なクロスになり(このような〈組み合わせクロス〉を、特に〈ニックスインブリード〉と呼んだりします)、暗がりへ遠のいていた血統的資質を一気に手元へ引き寄せる働きを果たします。
 例えば Derring-Do と Tudor Melody とは、新たに一種のニックとなりうるわけです。

仮想配合試験 ― Derring-Do vs. Tudor Melody
Derring-Do
1961 鹿
Darius
1951 鹿
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Rosy Legend
1931 黒鹿
Dark Legend Dark Ronald
Rosy Cheeks St. Just
Yasna
1936 鹿
Dastur
1929 鹿
Solario Gainsborough
Friar's Daughter Friar Marcus
Ariadne
1922 鹿
Arion Valens
Security Simon Square
Sipsey Bridge
1954 黒鹿
Abernant
1946
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion Gainsborough
Mary Tudor Pharos
Rustom Mahal
1934
Rustom Pasha Son-in-Law
Mumtaz Mahal The Tetrarch
Lady Josephine
Claudette
1949 黒鹿
Chanteur
1942 黒鹿
Chateau Bouscaut Kircubbin
La Diva Blue Skies
Nearly
1940 鹿
Nearco Pharos
Lost Soul Solario
Tudor Melody
1956 黒鹿
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion
1930
Gainsborough Bayardo
Selene Chaucer
Mary Tudor
1931 鹿
Pharos Phalaris
Anna Bolena Teddy
Sansonnet
1933 鹿
Sansovino
1921 鹿
Swynford John o'Gaunt
Gondolette Loved One
Lady Juror
1919 鹿
Son-in-Law Dark Ronald
Lady Josephine Sundridge
Matelda
1947 黒鹿
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Rosy Legend
1931 黒鹿
Dark Legend Dark Ronald
Rosy Cheeks St. Just
Fairly Hot
1939 黒鹿
Solario
1922 鹿
Gainsborough Bayardo
Sun Worship Sundridge
Fair Cop
1933 鹿
Fairway Phalaris
Popingaol Dark Ronald
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547

 いかがでしょう。先に示した2種類のニックスを縦横に駆使し、隅々まで共鳴するこの2頭の血統が、単なるクロス以上に効果的であることがおわかりいただけようかと思います。
 最後に、これら「新たなニックス」の実例を挙げて、本項を終えることにしましょう。


 〜 第3のニック (a) : Derring-Do × Tudor Melody 〜

 ★ Tudor Melody 直仔の種牡馬 × 祖父が Darius の牝馬
 アフェールダムール Affaire d'Amour(1974 牝 by Tudor Music)
   → ムルジャヌ Mourjane ― アーリントンH/米G1、ウジェーヌアダム賞/仏G2 他
   → アンカゲルマニア Anka Germania ― ソードダンサーH/米G1、ブラックヘレンH/米G1 他
     (→ デピュティコマンダー Deputy Commander ― スーパーダービー/米G1、トラヴァーズS/米G1)


 ★ Derring-Do 直仔の種牡馬 × 父が Tudor Melody の牝馬
 サーカスリング Circus Ring(1979 牝 by High Top ― ロウザーS/英G2、プリンセスマーガレットS/英G3 他)

 ★ Tudor Melody 直仔の種牡馬 × 祖父が Derring-Do の牝馬
 マウンテンベア Mountain Bear(1981 牝 by Welsh Pagent ― サンタバーバラH/米G1)

 ★ Derring-Do 直仔の種牡馬 × 祖父が Tudor Melody の牝馬
 エンブラ Embla(1983 牝 by Dominion ― チェヴァリーパークS/英G1)
   → *ゼンノエルシド ― マイルCS/G1 他

 ★ Derring-Do 直孫の種牡馬 × 祖父が Tudor Melody の牝馬
 トップワルツ Top Waltz(1987 牡 by Top Ville ― オカール賞/仏G2)

 ★ Derring-Do 直孫の種牡馬 × 父に Darius、母に Tudor Melody を含む牝馬
 ファーストトランプ First Trump(1991 牡 栗 by Primo Dominie ― ミドルパークS/英G1 他 全欧最優秀2歳牡馬)

 ☆ 母の祖父が Derring-Do の種牡馬 × 母の祖父が Tudor Melody の牝馬
 ヤングアーン Young Ern(1991 牡 by Effisio ― パレロワイヤル賞/仏G3)

 ☆ 祖母父が Tudor Melody の種牡馬 × 母の曽祖父が Derring-Do の牝馬
 シンダール Sinndar(1997 牡 鹿 by Grand Lodge ― 英・愛ダービー/G1、凱旋門賞/仏G1 他 全欧最優秀3歳牡馬)

 〜 第3のニック (b) : Derring-Do / Tudor Melody × その他の相似血脈 〜

 ☆ Derring-Do 直仔の種牡馬 × 父の母が A.1.の牝馬
 ピースガール Peace Girl(1985 牝 by Dominion ― カラS/愛G3)

 ☆ Tudor Melody 直孫の種牡馬 × 母の父が*ダラノーアの牝馬
 アイビートウコウ(1985 牡 黒鹿 by ホスピタリティ ― ダービー卿CT/日G3)

 ☆ 父の母が Abella の種牡馬 × 祖母の祖父が Tudor Melody の牝馬
 ミスタヒチ Miss Tahiti(1993 牝 by Tirol ― マルセルブサック賞/仏G1)

 ☆ 父に Tudor Minstrel を、母に Abernant と Sayajirao を含む種牡馬(Double Bed)
                     × 母の祖父が Tudor Melody の牝馬

 ジムアンドトニック Jim and Tonic(1994 セン 栗 by Double Bed ― 香港カップ/香港G1 他)

 ☆ 母方に Tudor Minstrel と Dante を含む種牡馬(母 Ruby)
                     × 母方に Sayajirao と Abernant を含む牝馬

 ラバラカ La Baraka(1994 牝 by Euclase ― ザギャラクシー/豪G1、RNアーウィンS/豪G3 他)

 〜 第3のニック (c) : Derring-Do / Tudor Melody の直接インブリード 〜

 ☆ 2x3 のインブリード(Tudor Melody 直仔の種牡馬 × 祖父が Tudor Melody の牝馬)
 タレーン Taraine(1977 牝 by Taros)
   → ミスタームーンライト Mr. Moonlight ― ゴーサムS/米

 ☆ 3x4 のインブリード(祖父が Tudor Melody の種牡馬 × 母の祖父が Tudor Melody の牝馬)
 ソーカインド So Kind(1984 牝 by Kind of Hush)
   → プリンスリーハッシュ Princely Hush ― ミルリーフS/英G2

 ☆ 3x4 のインブリード(母父が Derring-Do の種牡馬 × 母の祖父が Derring-Do の牝馬)
 オーケストラストール Orchestra Stall(1992 セン by *オールドヴィック ― サガロS/英G3 他)

 ☆ 3x4 のインブリード(Derring-Do 直孫の種牡馬 × 母の祖父が Derring-Do の牝馬)
 ペリストンヴュー Perryston View(1992 牡 by Primo Dominie ― テンプルS/英G2)

 ☆ 4x4 のインブリード(母の祖父が Derring-Do の種牡馬 × 曽祖父が Derring-Do の牝馬)
 サルソン Sarson(1996 牡 by Efisio ― リッチモンドS/英G2-2着)



※ 蛇足:
 Dante と Owen Tudor の相似性は先に述べた通りですが、「魔術師」テシオ閣下ともなれば、この程度のことは先刻ご承知だったようです。
 Dante の後継馬の1頭で、別項で取り上げるトゥールーズロートレック Toulouse Lautrec(1950 牡 栗 by Dante)という馬には、リボー Ribot と同い年の半妹がおり、これが Owen Tudor の産駒でした。
 テオドリカ Theodorica(1952 牝 栗 by Owen Tudor)と名付けられたこの馬は、テシオが亡くなった後に伊1000ギニー・伊オークスを制し、兄同様イタリア大賞典にも優勝しています。

 この例からもわかるように、AxBという組み合わせにニックが存在するか否かを判断する際には、しばしば第三者Cを媒介した配合(AxC、BxC)やその実績が参考になることがあります。

 これを応用すれば、*ブライアンズタイムと*シャルード(その父 Caro)に対し*パシフィカス(Northern Dancer x Damascus 牝馬)がともにすぐれた実績を挙げたのなら、*ユキグニ(Caro x Icecapade(ほぼ Northern Dancer に同じ)x Damascus)もまた*ブライアンズタイムにマッチするだろう、というような考え方も可能になります(答え:エムアイブランですね)。

1999/11/13 ― ( Revised on 1999/11/20,2000/01/09,08/09,08/29,11/06,2001/02/10 )


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