「貴き対旋律」 テューダーメロディ Tudor Melody

 ダンテ直系ではないですが、その〈鏡写し〉として、テューダーメロディ Tudor Melody を取り上げないわけにはゆきません。ダンテ Danteオーウェンテューダー Owen Tudor は、2代を経て互いと出会うことで、それぞれの父系を伸張させたからです。この際、現在言われる主流/サポート血脈の区別など存在しなかった地点より、論を起こすことにしましょう。

旧世紀に冠たる名マイラー

 サヤジラオ Sayajirao と同じ世代にあって、テューダーミンストレル Tudor Minstrel はひときわ輝く存在でした。
 2歳時に5ハロンのコヴェントリーSナショナルブリーダーズプロデュースSなど4戦して、いずれも最低4馬身以上の着差をつける圧勝。別路線でノーフォークS、リッチモンドS、ジムクラックS、シャンペンSと勝ちまくったペティション Petition (1944 牡 黒鹿 by Fair Trial ― 4歳になってエクリプスS)や、デューハーストS勝ち馬ミゴリ Migoli (1944 牡 芦 by Bois Roussel ― 後にエクリプスS、チャンピオンS、そして凱旋門賞)を押さえて、フリーハンデ1位となります。
 翌年、英2000ギニーでもまったく危なげのない横綱相撲、実に8馬身差の圧勝を遂げると、Tudor Minstrel は2年前のダンテ Dante 以上の評価を獲得、早くも「世紀の名馬」と称されるまでになっていました。
 4代ダービー制覇の夢を乗せた英ダービーでは、当然のように1.6倍の圧倒的人気を背負いますが、折り合いを欠き、直線先頭も*パールダイヴァー、Migoli、Sayajirao に交わされて4着に敗れました。
 続くロイヤルアスコット開催セントジェームジズパレスSでは得意のマイルで5馬身差の楽勝。そこで陣営はもう一度距離延長に挑戦、10ハロンのエクリプスSに出走したものの、最後はバテて Migoli の2着に屈しました。この悔しさも秋のアスコット、ナイツロイヤルSで Petition 以下を蹴散らして晴らされています。

 結局、通算10戦8勝、マイル以下では不敗のスピードと、母の半兄に名種牡馬 Fair Trial を持つ血統を背景に、種牡馬入りした Tudor Minstrel。その快速は、次のような産駒に伝えられました。なお、当初の供用地はイギリスでしたが、決定的なブレイクに至らぬうちに下記 Poona の活躍で北米から注目されるようになり、かの地へ輸出されています。近親に父が同じアバーナント Abernant がいたこともあって、片方が放出されたのだとも言えるでしょう。「世紀の名マイラー」は1971年、アメリカで亡くなっています。


  〜 テューダーミンストレル Tudor Minstrel の主な産駒 〜

バックハウンド Buckhound (1949 牡 out of Buckeye ― ジョッキークラブC/英、チャンピオンS/英)
ボブメイジャー Bob Major (1949 牡 out of Blue Smoke ― ノーフォークS/英、ジュライS/英)
キングオブザテューダーズ King of the Tudors (1950 牡 栗 out of Glen Line ― サセックスS/英、
      エクリプスS/英、ローズオブヨークS/英、ナイツロイヤルS/英、バッカナムS/英。*アワバブーの半兄)
                               
→ Henry the Seventh、*クロケット、Golden Ruler
プーナ Poona (1951 牡 out of Queen of Shiraz ― 英2000ギニー/英-3着、サンタアニタH/米、サンフェルナンドS/米)
ミクストマリアージュ Mixed Marriage (1952 牝 鹿 out of Persian Maid) → 名牝 Tamerett、*エタン
トロ Toro (1954 牝 out of L'Horizon ― 仏1000ギニー/仏、コロネーションS/英。母は Tehran の全妹)
オートダービー (1954 牡 栗 out of *メダリオン ― 持ち込み。京都大障害-2着2回など障害8勝。ミスイエリュウらの半兄)
ウィルサマーズ Will Somers (1955 牡 黒鹿 out of *クヰーンスジェスト ― 24戦してわずか2勝の身ながら、
      種牡馬として成功。ビッグヨルカ&グレートヨルカの半兄)
→ Balidar & Balliol、La Troublerie
トミーリー Tomy Lee (1956 牡 out of Auld Alliance ― ケンタッキーダービー/米、ブルーグラスS/米)
テューダーメロディ Tudor Melody (1956 牡 黒鹿 out of Matelda ― チェシャムS/英。詳細後述)
サリーマウント Sallymount (1956 牡 栗 out of Queen of Shiraz ― ジャックルマロワ賞/仏。Poona の全弟)
                                  
→ 持ち込み牝駒イコマエイカン(→ アグネスの名牝系)
シングシング Sing Sing (1957 牡 鹿 out of Agin the Law ― ナショナルプロデュースS/英、
      プリンスオブウェールズS/英、コーンウォリスS/英 など2歳時は6戦不敗。3歳時は3戦してキングズスタンドS/英-2着、
      キングジョージS/英-2着。英2歳首位種牡馬)
→ Song、Jukebox、Mummy's Pet、*モバリッズ
テュードリッチ Tudorich (1957 牡 out of Ropencha ― クレイヴァンS/英)
エメー Aimee (1957 牝 鹿 out of Emali ― 母は Khaled の半妹) → … → Blushing Groom、*ベイラーン
レイチェル Rachel (1958 牝 out of Par Avion ― ナッソーS/英) → 愛ダービー馬 Steel Pulse
ツィゲイン Tzigane (1960 牝 out of Big Berry ― チェリーヒントンS/英)
ワッタトリート What a Treat (1962 牝 鹿 out of Rare Treat ― 米3歳女王。アラバマS/米、ガゼルH/米、
      ベルデイムS/米、プライアリスS/米、カムリーS/米、ブラックヘレンH/米)
→ 名種牡馬 Be My Guest
テュミガ Tumiga (1964 牡 out of Amiga ― カーターH/米、グレイヴセンドH/米。Gold Digger の従姉弟)
ヘンリーテューダー Henry Tudor (1969 牡 out of Diba ― ヘゼルパークS/米、エキポイズマイルH/米)

 これらの中で、結果として最も成功し、Tudor Minstrel 系を Hyperion 直系中最大の存在へと導いたのが、テューダーメロディ Tudor Melody です。


旋律は流れ出て


Tudor Melody 1956 牡 黒鹿 / FNo. 1-n / Tudor Minstrel 系
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo Bay Ronald
Rosedrop St. Frusquin
Selene
1919 鹿
Chaucer St. Simon
Serenissima Minoru
Mary Tudor
1931 鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris Polymelus
Scapa Flow Chaucer
Anna Bolena
1920 鹿
Teddy Ajax
Queen Elizabeth Wargrave
Sansonnet
1933 鹿
Sansovino
1921 鹿
Swynford
1907 黒鹿
John o'Gaunt Isinglass
Canterbury Pilgrim Tristan
Gondolette
1902 鹿
Loved One See Saw
Dongola Doncaster
Lady Juror
1919 鹿
Son-in-Law
1911 黒鹿
Dark Ronald Bay Ronald
Mother-in-Law Matchmaker
Lady Josephine
1912
Sundridge Amphion
Americus Girl Americus
Matelda
1947 黒鹿
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris Polymelus
Scapa Flow Chaucer
Nogara
1928 鹿
Havresac Rabelais
Catnip Spearmint
Rosy Legend
1931 黒鹿
Dark Legend
1914 黒鹿
Dark Ronald Bay Ronald
Golden Legend Amphion
Rosy Cheeks
1919 黒鹿
St. Just St. Frusquin
Purity Gallinule
Fairly Hot
1939 黒鹿
Solario
1922 鹿
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo Bay Ronald
Rosedrop St. Frusquin
Sun Worship
1912 鹿
Sundridge Amphion
Doctrine Ayrshire
Fair Cop
1933 鹿
Fairway
1925 黒鹿
Phalaris Polymelus
Scapa Flow Chaucer
Popingaol
1913 黒鹿
Dark Ronald Bay Ronald
Popinjay St. Frusquin
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547 / 9代クロス血統表はこちら

 今でこそ Hyperion 系屈指の重要な存在として知られるこの馬も、1歳時の競りではわずかに610ギニーで購買された安馬に過ぎませんでした。前年、従姉のインディアントワイライト Indian Twilight がヨークシャーオークスを勝っていたのに、です。
 Tudor Melody という馬名は、父側に依ったもの。「テューダー王朝の旋律」と言えば、おそらくウイリアム・バード William Byrd に代表されるようなルネサンス風マドリガル(世俗歌曲)のことを指しているのでしょうが、まぁそれほど考えられた命名とも思えず (^^; この辺りにも当初の扱いが感じ取れる所。

 そんな当馬の血統構成は、と言えば…母の Dante × Solario ニックに加えて、もうひとつの Owen Tudor × Dante ニックを用いている点は
先のニックス考に述べた通りです。
 さらに掘り下げるなら、Pharos には偉大な全弟 Fairway を重ねていますし、4代母ポピンガオル Popingaol (1913 牝 黒鹿 by Dark Ronald ― 英オークス馬 Pogrom、セントレジャーの Bool Law など6頭の重賞勝ち馬を産んだ名繁殖)の持っていた Dark Ronald および St. Frusquin は、Rosy Legend や Gainsborough、Son-in-Law 内の血と脈絡してもいます。で、これだけではともすれば重過ぎる恐れもある所を、Bay Ronald の流れに添えてある Sundridge 〜 Amphion が、Lady Josephine 以下のスピードを引き出しているわけです。
 総じて煩雑の感はあるものの、〈相似交配〉としては相当に凝った例と言えるでしょう。

 さて、2歳になった Tudor Melody は、デビュー緒戦をチグハグな競馬で8着。しかし次走巻き返し、そのまま連勝街道を突っ走ります。チェシャムSプリンスオブウェールズSなど、シーズン終わりまでに5連勝を飾りました。
 おまけにこの世代は、プティトエトワール Petite Etoile などが揃った牝馬に比べ、牡馬では他にマシャム Masham (1956 牡 by King of the Tudors ― ノーフォークS、ミドルパークS。2頭の愛2000ギニー馬 Beau Sabreur と Signal Box の半弟)ヒエログリフ Hieroglyph (1956 牡 by Heliopolis ― リッチモンドS、コヴェントリーS)程度とやや勢いに欠いていたため、Tudor Melody がフリーハンデ1位を獲得しました。

 この年、大西洋を挟んだアメリカでは、同じ Tudor Minstrel 産駒のトミーリー Tomy Lee が注目を集めていました。ターナー夫妻によって購買・輸入されたこの英国産馬は、ガーデンステートSなど2歳の大レースでファーストランディング First Landing やインテンショナリー Intentionally と熾烈な勝負を繰り広げ、翌年のダービー有力候補の1頭に数えられていたのです。

Tomy Lee 1956 牡 / FNo. 1-n / Tudor Minstrel 系 ― 相似交配の別解法
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo Bay Ronald
Rosedrop St. Frusquin
Selene
1919 鹿
Chaucer St. Simon
Canterbury Pilgrim
Serenissima Minoru
Gondolette
Mary Tudor
1931 鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris Polymelus
Scapa Flow Chaucer
Anna Bolena
1920 鹿
Teddy Ajax
Queen Elizabeth Wargrave
Sansonnet
1933 鹿
Sansovino
1921 鹿
Swynford
1907 黒鹿
John o'Gaunt Isinglass
Canterbury
Pilgrim
Tristan
Pilgrimage
Gondolette
1902 鹿
Loved One See Saw
Pilgrimage
Dongola Doncaster
Lady Juror
1919 鹿
Son-in-Law
1911 黒鹿
Dark Ronald Bay Ronald
Mother-in-Law Matchmaker
Lady Josephine
1912
Sundridge Amphion
Sierra
Americus Girl Americus
Auld Alliance
1948
Brantome
1931 鹿
Blandford
1919 黒鹿
Swynford
1907 黒鹿
John o'Gaunt Isinglass
Canterbury
Pilgrim
Tristan
Pilgrimage
Blanche
1912 鹿
White Eagle Gallinule
Black Cherry Bendigo
Vitamine
1924 鹿
Clarissimus
1913
Radium Bend Or
Quintessence St. Frusquin
Viridiflora
1912 鹿
Sans Souci Le Roi Soleil
Rose Nini Le Sancy
Iona
1943
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo Bay Ronald
Rosedrop St. Frusquin
Selene
1919 鹿
Chaucer St. Simon
Canterbury Pilgrim
Serenissima Minoru
Gondolette
Jiffy
1931 鹿
Hurry On
1913
Marcovil Marco
Tout Suite Sainfoin
Juniata
1916 鹿
Junior Symington
Samphire Isinglass
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547

 Tomy Lee の活躍を目の前にして、スペンドスリフト牧場の「配合下手」レスリー・コム Leslie Combs Jr. 氏らは、イギリスの Tudor Melody へ触手を伸ばしました。もともと安馬だったこともあって、トレード話はすぐにまとまり、彼は翌年から北米で競走生活を送ることになります。
 Tudor Melody の母マテルダ Matelda もこの時アメリカへ送られ、後にヘイスティマテルダ Hasty Matelda(1961 牝 by Hasty Road ― メイトロンH/米。アラバマSに勝ちCCAオークスを2着した Gay Matelda の母)や *マーチングマテルダ Marching Matelda(1970 牝 黒鹿 by Hasty Road ― 関屋&新潟記念2着馬のベルエア、スプリングS2着のバナレットらの母)を産みました。Matelda 自体が見事な相似交配馬でしたから、この結果は驚くに当たりません。
 しかしながら、この移籍は Tudor Melody にとって苦いものとなりました。
 Tomy Lee はケンタッキーダービーで、小柄な上がり馬ソードダンサー Sword Dancer (1956 牡 栗 by Sunglow ― この年ベルモントS、トラヴァーズS、ジョッキークラブGC、メトロポリタンHを制して年度代表馬)をハナ差で下しましたが、他方 Tudor Melody は不振に喘ぎ、2年間で計11戦を消化しながら、下級レースで2勝を上げるに留まったのです。


動機はいつしか遁走曲へ

 Tudor Melody 5歳での引退時には、2年前の輝きもすっかり色褪せてしまっていました。何とかアイルランドで種牡馬入りしたものの、繁殖牝馬に恵まれなかったのは仕方がないでしょう。
 それでも、Tudor Melody は自身の相似的配合を武器に次のような活躍馬を出し、1968年、70年にはそれぞれ英2歳リーディングサイアーを獲得するなど、自力で地位を築いてゆきます。
 現役時代に仰ぎ見た Tomy Lee が、米で種牡馬入り後わずか4年で夭折した(伝貧で殺処分 T_T)ため、結果として、それをはるかに凌ぐ遺伝的影響を及ぼすことになったのは何とも皮肉なことでした。


  〜 テューダーメロディ Tudor Melody の主な産駒 〜

ラグタイム Ragtime (1962 牡 out of Pillowfight ― ジュライS/英、リッチモンドS/英)
カシミール Kashmir (1963 牡 栗 out of Queen of Speed ― 英2000ギニー/英、ロベールパパン賞/仏。仏の名種牡馬)
→ Blue Cashmere、*ムーリン、Dumka、Kamicia、Lightning   .
ゴールデンホーラス Golden Horus(1964 牡 out of Persian Union ― ジュライS/英、ジムクラックS/英)
プレイハイ Play High (1964 牡 out of Double Cloud ― グリーナムS/英)
ブロードウェイメロディ Broadway Melody (1964 牝 黒鹿 out of Goldwyn Girl)
→ Broadway Dancer & Broadway Forli   .
テューダーミュージック Tudor Music (1966 牡 out of Fran ― リッチモンドS/英、ジムクラックS/英、
コーク&オラリーS/英、ジュライC/英、スプリントC/英。High Top の従兄弟)To-Agori-Mou
ウェルシュペイジェント Welsh Pageant (1966 牡 鹿 out of Picture Light ― クイーンエリザベスII世S/英、
ロッキンジS/英-連覇、クイーンアンS/英、ハンガーフォードS/英。英の名種牡馬かつ名BMS) → Swiss Maid、
Kind of Hush、Zino、Welsh Term、Teleprompter、Welnor、Mountain Bear、Longboat
… → Flame of Tara、Saumarez、Sheikh Albadou、Alhijaz、プレザント、Celtic Swing
ハーモニーホール Harmony Hall (1966 牡 鹿 out of Tahiri
― プリンセスウェールズS/英、グレイトヴォルティジュールS/英、ゴードンS/英)
トレンタム (1967 牡 黒鹿 out of *ヴァーヴ ― 持ち込み。東京新聞杯、カブトヤマ記念、ラジオたんぱ賞-3着)
シルヴァードリーム Silver Dream (1967 牡 out of Silver Streak ― 新の名種牡馬)
ブリーダーズドリーム Breeder's Dream (1968 牡 out of La Duchesse
― シャンペンS/英。伯の名種牡馬)Duplex     .
マジックフルート Magic Flute (1968 牝 out of Filigrana ― チェヴァリーパークS/英、コロネーションS/英)
→ … → Grand Lodge   .
タリム Tarim (1969 牡 黒鹿 out of Tamerella ― ツークンツフレネン/独、独ダービー/独。独の名種牡馬)
→ Britannia(→ Borgia)   .
*フィリップオブスペイン Philip of Spain (1969 牡 黒鹿 out of Lerida
― ノーフォークS/英、ミドルパークS/英-2着、ジムクラックS/英-2着)     .
→ King of Spainフレッシュボイス、ミスタースペイン、タケノファルコン(→ ホクトベガ)  .
ライセスター Leicester (1969 牡 out of Charmer ― クレイヴンS/英)
*テュデナム Tudenham (1970 牡 黒鹿 out of Heath Rose ― ミドルパークS/英、ミルリーフS/英-2着)
ホスピタリティ、サルノキング、テュデナムキング、キョウエイボーガン  .
*オウエンダッドレイ Owen Dudley (1970 牡 鹿 out of The Creditor ― ダンテS/英、ダイオメドS/英)
ウェルシュハーモニー Welsh Harmony (1971 牡 by Oserian ― ホールスヒルS/英)
レイディシーモア Lady Seymour (1972 牝 鹿 out of My Game) → Lord Seymour & Marwell
ヘイロフト Hayloft (1973 牝 鹿 out of Haymaking ― モールクームS/英) → *ワッスル
ブレイヴテューダー Brave Tudor (1973 牝 鹿 out of Jaffa ― オスロC/諾)
ゴスポート Gosport (1976 牡 out of Greek Gift ― 北部鉄道賞/仏G3、ポルトマイヨ賞/仏G3)

 上記 Tudor Melody 産駒には、いくつかの定型的な配合が見られます。

 特に初期、Kashmir や Welsh Pageant などで目立つのが、Tudor Minstrel 内の Hyperion & Lady Juror をクロスするパターン。これは要するに Hyperion & Son-in-Law〈ニックスインブリード〉です。
 そして面白いことに、後半は Nearco 〜 Pharos や Solario をクロスする(すなわち Dante をより強調する)形態へとシフトしてゆきます。
 この流れの変化は、Hyperion が Nearco に主導権を奪われていったことを如実に示すとともに、後代への遺伝的インパクトの面では、いまだなお前者のパターンに分があったことをも教えてくれます。
 両者の混交的なパターンが無いわけではありませんが、直に Nearco & Hyperion を両取りできた例は Hayloft と、ヴァルドーS勝ちの So Royal くらいかな。
 どちらがベスト、という話ではなく、こうした「両天秤」状態=どちらへもシフトできる守備範囲の広さを備えたことが、種牡馬 Tudor Melody 成功の鍵となったのでしょう。
 後に、前者のパターンはサルサビル Salsabil に見るようなクラシックディスタンスへの適性を得てゆき、後者のパターンは鏡写しのデリングドゥ Derring-Do らとフーガを奏でながら、英愛独自の早熟スプリント血統へと収斂してゆくことになります。


歌は世に連れ、世は歌に連れ

 本項の最後に、Tudor Melody 内の Dante を最大限活用した例として、シャーガー Sherger と同期の英2000ギニー馬、トゥアゴリムー To-Agori-Mou を挙げておきましょう。エラマナムー Ela-Mana-Mou に似たギリシア語馬名からもわかるように、ウェインストック卿の自家生産馬ですね。
 同馬は、2歳時ソラリオSに勝ち、デューハーストSストームバード Storm Bird (1978 牡 鹿 by Northern Dancer ― この年5戦不敗で2歳王者、翌年緒戦で骨折引退。言わずと知れた大種牡馬) の2着。翌年も宿敵キングスレイク Kings Lake (1978 牡 鹿 by Nijinsky ― 愛2000ギニー/愛G1、サセックスS/英G1、愛チャンピオンS/愛G1。*サーモンリープの半兄、Valentine Waltz の母父)や、1世代上のマイル王ノースジェット Northjet (1977 牡 栗 out of Northfileds ― ジャックルマロワ賞/仏G1、ムーランドロンシャン賞/仏G1、ミュゲ賞/仏G1。*エイシンルバーンの母父) らと互角に渡り合った一流マイラー。この年、マイル路線のトップクラスで英2000ギニー、セントジェームジズパレスS、セレブレーションマイル、クイーンエリザベスII世Sなどに勝ち、愛2000ギニー、サセックスS、ジャックルマロワ賞で2着に入っています。

To-Agori-Mou 1978 牡 / FNo. 14-c / Tudor Minstrel 系 ― 3代目名マイラー
Tudor Music
1966
Tudor Melody
1956 黒鹿
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion Gainsborough
Mary Tudor Pharos
Sansonnet
1933 鹿
Sansovino Swynford
Lady Juror Son-in-Law
Matelda
1947 黒鹿
Dante
1942 黒鹿
Nearco Pharos
Rosy Legend Dark Legend
Fairly Hot
1939 黒鹿
Solario Gainsborough
Fair Cop Fairway
Fran
1959
Acropolis
1952
Donatello
1934
Blenheim Blandford
Delleana Clarissimus
Aurora
1936
Hyperion Gainsborough
Rose Red Swynford
Madrilene
1951
Court Martial
1942
Fair Trial Fairway
Lady Juror
Instantaneous Hurry On
Marmite
1935
Mr. Jinks Tetratema
Gentlemen's Relish He
Sarah Van Fleet
1966
Cracksman
1958
Chamossaire
1942
Precipitation
1933
Hurry On Marcovil
Double Life Bachelor's Double
Snowberry
1937 黒鹿
Cameronian Pharos
Myrobella Tetratema
Nearly
1940 鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Lost Soul
1931 鹿
Solario Gainsborough
Orlass Orby
La Rage
1954
Mieuxce
1933 鹿
Massine
1920 鹿
Consols Doricles
Mauri Ajax
L'Olivete
1925
Opott Maximum
Jonicole St. Just
Hell's Fury
1949 鹿
Dante
1942 黒鹿
Nearco Pharos
Rosy Legend Dark Legend
Sister Sarah
1930 黒鹿
Abbots Trace Tracery
Sarita Swynford
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547

 To-Agori-Mou の配合を単なる Dante クロス以上にしているのは、Matelda と相似の牝馬ニアリー Nearly ですが、この馬は実は
Derring-do の曾祖母だったりします。
 ということはおそらくこれも、Derring-do やその近親デュンカ Dumka (1971 牝 黒鹿 by Kasimir ― 仏1000ギニー。Daylami の父 Doyoun をはじめ、重賞勝馬4頭の母) らを意識した配合なのでしょう。

 このように、Tudor Melody や Derring-Do 内の Dante や Owen Tudor、Solario をクロスすることで、両系譜の(主としてスピードに秀でた)資質を存分に引き出すことができるわけです。そしてこの手法が、現代もなお有効性を秘めていることは、シンダール Sinndar (1997 牡 鹿 by Grand Lodge ― 英・愛ダービー、凱旋門賞)エンブラ Embla(1983 牝 by Dominion ― チェヴァリーパークS/英G1。*ゼンノエルシドの母) らの配合が物語っています。
 これらはひとえに、一流半血統だった Tudor Melody と Derring-Do とが、お互いに対となりえたことの賜物。帰納的に言い換えれば、そもそも「存外の成功」に学び模倣しようとする努力こそが、こうした鏡像旋律を生み出し、血統という壮大なフーガを紡いで行くための動機になっている、ということでもあります。先人の知恵が結晶した『フーガの技法』を、存分に味わえるこの幸せ。『主よ、人の望みの喜びよ』、感謝します。


2001/06/10


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