「短距離時代の明星」 ニホンピロウイナー

 「ダンテの木」としては A. 1. 方面からこっち、随分幹と離れてしまいましたが、個人的な嗜好に基づいてそのまま書き連ねます。r(^^;

初代マイル王

 1980年代前半は、ミスターシービー、そしてシンボリルドルフという三冠馬の登場、カツラギエースによるジャパンCの日本馬初勝利などを得て、競馬が多いに盛り上った時代でした。
 そんな中、「1600より上ならルドルフだが、1600以下ならこの馬に敵うものはない」と称されたのが、ニホンピロウイナーです。

 同馬は1980年、*スティールハート Steel Heart の日本における初年度産駒として、門別は佐々木節哉氏の牧場に生まれました。その端正な馬体は2歳(現1歳)当時から評判高く、品評会で特等を取るほどでした(そう言えば、父*スティールハートも小さい頃から人目を惹く馬でしたね)。
 ちなみに「ニホンピロ」という愛敬のある冠号は、馬主である小林氏が経営するニホンピローブロック社に由来するもので、ニホンピローエース(1963 牡 鹿 by *モンタヴァル ― 阪神3歳S、皐月賞、阪急杯)以来の歴史を持っています。

 1983年9月11日、阪神でデビューしたニホンピロウイナーは、早速新馬・特別・デイリー杯3歳Sと負け無しの3連勝、阪神1200mでは1.09.4のレコードを記録し、続く阪神3歳Sもダイゼンキングの2着に入るなど、豊かなスピードを見せつけました。
 が、明けて4歳、きさらぎ賞を制し、スプリングS(不良馬場)6着を経て挑んだ皐月賞で、ウイナーはミスターシービーらに対し惨敗を喫してしまいます。ここで「これ以上距離の伸びるダービーでは難しい」と見た陣営は、速やかに短距離路線に方向転換。当時は決して一般的でなかった選択でしたが、この果断が功を奏し、ニホンピロウイナーは中京4歳特別を勝ち、また秋から冬にかけてはCBC賞を含む4連勝を飾って、一躍短距離界のニューヒーローと目されるようになります。ただしその後も順調ではなく、マイラーズCで2着した後には、トモの骨折が判明して半年間の休養に入りました。

 ところで、ニホンピロウイナーの幸運は、自らが絶頂にあった4歳時(1984年)にグレード制が導入され、それに伴ってマイル以下の短距離路線が確立されたことにあります。言うまでもなく、その陰には数年前に引退したサクラシンゲキら、「テレビ馬」を強いられてきた先達の苦難の歴史がありました。

 さて、この年の秋、復帰した4歳のウイナーは目を見張る奮闘を見せます。朝日チャレンジCを1.59.8のタイムで制した後、スワンSで同期の桜花賞馬シャダイソフィアと対決。これを7馬身チギリ捨て、1.21.4という驚異的なレコードタイムを記録しました(なお、ソフィアは翌年、後述する秋天と同日のスワンSへ再び現れ、そこで非業の死を遂げます)。
 ニホンピロウイナーの主戦河内JKが「1400が一番強かった」と述べているのも、この勝利の印象が強いからでしょう。さらにウイナーはそのままG1第1回マイルCSに進み、ここで戴冠して名実ともに「短距離の王者」の座につきました。
 とは申せ、この頃までは、まだ関係者やマスコミ、ファンにも「チャンピオンたって、短距離馬だろう。時流に乗って賞金ばっか稼ぎやがって」というような冷ややかな視線があったことは否めません。

 そこで陣営は、マイラーズC、京王杯SCから安田記念にかけて完勝を遂げた後、ウイナー最後のシーズンとなる5歳秋に、「絶対皇帝」シンボリルドルフの君臨する中距離路線へ再び挑戦します。
 毎日王冠はゴールドウェイの4着とまずまずの発進、そしていよいよ秋の天皇賞、直線シンボリルドルフが抜け出す所を凄まじい脚を使って差し切ったのは…ウイナーではなく、条件馬ギャロップダイナでした。A(^^;; ニホンピロウイナーはルドルフに続く3着(同着ウインザーノット)。それでも、かつて皐月賞で惨敗を喫していた頃を思い出せば、大健闘と言っていいでしょう。
 この天皇賞、鞘次郎もテレビ中継で見た憶えがあります。残念ながらスワンSの方はあまり記憶にないものの、秋天決着後のあの何とも気マズいざわめきは、忘れがたいものでした。似たような気マズさは、91/94/98年の同レースでも体験しましたが、それでも府中2000の秋天は、毎年私の最重要レースですね。
 これで肩の力も抜けたのか、ウイナーはその後マイルCSを連覇、その華々しい経歴にピリオドを打ちました。通算成績は26戦16勝。これを距離別に詳しく見ると、以下のようになります。

距離(m)優勝2着3着着外備考
1200 
1400唯一の着外は落鉄
16002着は2度とも不良馬場
1800〜 
16うち重賞10勝、G1を3勝

 なるほど1600m以下では、苦手とした不良馬場での惜敗を含めても、実に18戦14勝2着3回(連対率94%、落鉄を除けば100%)という凄まじさ。

 で、これほどの能力を発揮したからには、血統面でも何らかの裏付けがあるだろうと想像するのは血統フリークの悪い癖…ってのは冗句としても r(^m^; 実際、ニホンピロウイナーの血統構成は大変巧みと言ってよいものでしょう。
 もっとも、その血統構成を観察する際には、父*スティールハートやその母 エイワン A. 1. の場合とはまた異なる点に、着眼する必要があります。
 参考までに…父馬の輸入にも携わった生産者・下河辺俊行氏は、この親子を比べて「スティールハートは筋肉もりもりのベン・ジョンソン型で、ウイナーは柔軟性のあるカール・ルイス型」だと形容されています(『季刊/名馬』1996夏 No.11 より)。
ニホンピロウイナー 1980 牡 黒鹿 / FNo. 3-l / Turn-to 系
*スティール
ハート
Steel Heart(IRE)
1972 黒鹿
Habitat
1966 鹿
Sir Gaylord
1959 鹿
Turn-to
1951 鹿
Royal Charger Nearco
Source Sucree Admiral Drake
Somethingroyal
1952 鹿
Princequillo Prince Rose
Imperatrice Caruso
Little Hut
1952 鹿
Occupy
1941 鹿
Bull Dog Teddy
Miss Bunting Bunting
Savage Beauty
1934 鹿
Challenger Swynford
Khara Kai-sang
A. 1.
1963
Abernant
1946
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion Gainsborough
Mary Tudor Pharos
Rustom Mahal
1934
Rustom Pasha Son-in-Law
Cos
Mumtaz Mahal The Tetrarch
Asti Spumante
1947
Dante
1942 黒鹿
Nearco Pharos
Rosy Legend Dark Legend
Blanco
1932
Blandford Swynford
Snow Storm Buchan
ニホンピロ
エバート
1974 鹿
*チャイナロック
China Rock (GB)
1953 栃栗
Rockefella
1941 黒鹿
Hyperion
1930
Gainsborough Bayardo
Selene Chaucer
Rockfel
1935 黒鹿
Felstead Spion Kop
Rockliffe Santorb
May Wong
1934
Rustom Pasha
1927 鹿
Son-in-Law Dark Ronald
Cos Flying Orb
Wezzan
1924
Friar Marcus Cicero
Woodsprite Stornoway
ライトフレーム
1959 黒鹿
*ライジングフレーム
Rising Flame (GB)
1947 黒鹿
The Phoenix
1940 鹿
Chateau Bouscaut Kircubbin
Fille de Poete Firdaussi
Admirable
1942 黒鹿
Nearco Pharos
Silvia Craig an Eran
グリンライト
1947
*ダイオライト
Diolite (GB)
1927 黒鹿
Diophon Grand Parade
Needle Rock Rock Sand
栄幟
1938 鹿
*プライオリーパーク
Priory Park (GB)
Rocksavage
賀栄 *ガロン
Gallon (GB)
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547 / 9代クロス血統表はこちら


骨格 ― ハイペリオン&サンインローのニック

 ウイナーの血統表で目立つのは、超名馬ハイペリオン Hyperion と、名ステイヤーサンインロー Son-in-Law の息子、ラスタムパシャ Rustom Pasha のクロスですね。  ここではより一般的に、後者を Son-in-Law 系として考えましょう(Rustom Pasha の母方については次で述べます)。というのも、Hyperion と Son-in-Law、ともにベイロナルド Bay Ronald の直系であるこの2頭の血は、相性の良いことで有名だからです。
 この組み合わせは名馬を多数輩出して、あまねく知られるようになりました。ちょっと数が多いので、主な成果だけ挙げてみます。


  〜 Hyperion × Son-in-Law 〜

 ● Hyperion が父、Son-in-Law が3代目
 Clandon (1938 牝 by Hyperion)
   → Castleton (キングエドワード7世S)
 Light of Day (1939 牝 by Hyperion)
   → Fan Light (チェリーヒントンS)、Alborada (ファルマスS、ネルグウィンS)
 Hypericum (1943 牝 鹿 by Hyperion ― 英1000ギニー。孫娘 Highclere から名繁殖 Height of Fashion へ)
 Heala Bay (1943 牝 by Hyperion)
   → Faith Healer (ジャージーS)
 Moon Star (1949 牝 by Hyperion ― パークヒルS)
 Nicky Nook (1949 牝 by Hyperion ― プリンセスロイヤルS)
 Imitation (1951 牝 by Hyperion)
   → Pretense (サンタアニタH、ガルフストリームH、サンアントニオH)
 Gun Shot (1953 牡 栗 by Hyperion ― 種牡馬)
   → *ガンボウ Gun Bow (メトロポリタンH 他)、Random Shot (アスコットGC) など

 ● Hyperion も Son-in-Law も2代目
 Stalino (1942 牡 by Stardust ― 愛2000ギニー)
 Bright News (1943 牡 by Stardust ― 愛ダービー。Stalino の全弟)
 Verse (1948 牝 by Epigram ― パークヒルS、プリンセスロイヤルS)

 ● Hyperion が2代目、Son-in-Law が3代目
 Tudor Minstrel (1944 牡 黒鹿 by Owen Tudor ― 英2000ギニー 他、Sayajirao のライヴァル)
 Abernant (1946 牡 芦 by Owen Tudor ― ジュライC&ナンソープS連覇 他、英スプリント王)
 Campanette (1948 牝 鹿 by Fair Trial)
   → Lucky Finish (ダンテS)、孫に Athens Wood (セントレジャー 他) など
 Swaps (1952 牡 栗 by Khaled ― ケンタッキーダービー 他。全姉 Track Medal も名繁殖)
 Flower Bowl (1952 牝 鹿 by Alibhai ― デラウェアH、レディズH)
   → 女傑 Bowl of Flowers、Graustark & His Majesty の全兄弟名種牡馬
 Honeys Alibi (1952 牡 鹿 by Alibhai) → 名牝 Dahlia の母父に入る
 *チャイナロック China Rock (1953 牡 栃栗 by Rockefella ― ジョンポーターS)
   → 1973年日リーディングサイアー。産駒にタケシバオー、ハイセイコー など
 Rich and Rare (1955 牝 黒鹿 by Rockefella ― チェヴァリーパークS)
 *テューダーペリオッド Tudor Period (1957 牡 栃栗 by Owen Tudor)
   → 日本でハマノパレード、ハシハーミットらを輩出。タマモクロスの祖母父
 Rockavon (1958 牡 by Rockefella ― 英2000ギニー)

 ○ Hyperion が父、Son-in-Law が4代目
 Aristophanes (1948 牡 栗 by Hyperion) → アルゼンチンの名馬 Forli
 Refreshed (1949 牝 栗 by Hyperion ― フレッドダーリンS)
 Eastern Emperor (1949 牡 by Hyperion ― ジョッキークラブC、ヨークシャーC)
 Kara Tepe (1949 牡 by Hyperion ― クレイヴァンS、ジャージーS)
 Aureole (1950 牡 栗 by Hyperion ― キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、コロネーションC 他)
 ま、これらの成功をすべて「Hyperion と Son-in-Law の神通力」に帰すのは無理ですけどね。名牝(Lady Josephine や Gondolette 〜 Serenissima、Cinna など)の助力で成立している配合も多いですし。
 その後、このニックは〈組み合わせクロス〉としても有効に働くことが確認されます。
 積極的な例としては、ライトニング Lightning(1950 牝 by Hyperion/曾祖母の父 Son-in-Law)からサルサビル Salsabil(1987 牝 by Sadler's Wells ― 英牝馬二冠、愛ダービー、ヴェルメイユ賞 他)に至る牝系が名高いですし、名牝フォールアスペン Fall Aspen(1976 牝 栗 by Pretense ― メイトロンH、プライアリスS 他)や、おなじみ*トニービン Tony Bin(1983 牡 鹿 by *カンパラ ― 凱旋門賞 他)もそうです。
 あまり知られていませんが、マウンテンフラワー Mountain Flower(1964 牝 鹿 by Montparnasse ― アルゼンチン産、*サンデーサイレンス Sunday Silence の祖母)ノーブルダンサー Noble Dancer(1972 牡 鹿 by Prince de Galles ― イギリス生まれのノルウェー最強馬、米でも12勝の活躍)なんかも、ここに入れておきたいですね。

 またこの段階になれば日本でも、グリーンシャトー(1974 牝 栗 by *シャトーゲイ ― タマモクロス&ミヤマポピーらの母)をはじめ、多くの成功例が見つけられます。
 ことにケイキロク(1977 牝 鹿 by *ラディガ ― オークス、中京記念)バンブーアトラス(1979 牡 鹿 by *ジムフレンチ ― ダービー)の両クラシック勝馬や、我らがウイナー、最近ではヤマニンゼファーに、ユーセイフェアリー(1987 牝 鹿 by アズマハンター ― 阪神牝馬特別)ナリタタイシン(1990 牡 鹿 by *リヴリア ― 皐月賞、目黒記念 他)の姉弟を加えたあたりは、配合モデルとして重要だと感じる所です。

 ただしこれらの中では、本来 Hyperion & Son-in-Law が持っていたスタミナは徐々に希釈される傾向にあります(劣化するのはスピードのみにあらず…当然ですよね?)。ですから現代このニックは、むしろ血統全体の構造を担う「骨太な芯」に相当するものだと考えた方が適当なのでしょう。ハヤブサオーカン(1984 牡 青鹿 by *ラディガ ― 9歳にして吾妻小富士OP)のような例にも、それがうかがえます。
 余談ながら、鞘次郎は現代における プリンスキロ Princequillo とリボー Ribot のニックこそ、かつての Hyperion & Son-in-Law と同様の働きをするものだと見ています(… Princequillo と Nasrullah ではなくて、ね)。

スピードの源泉 ― サンスターとオービー

 では、ニホンピロウイナーの抜きん出たスピードは、一体どこに根拠を求めることができるのでしょうか。
 父内でクロスしていた「芦毛の快速」ザテトラーク The Tetrach:6*7*9…? いや、それだけではありません。ウイナーの快速は別の「2つの系統」に、より多くを負っています。

 具体的に言うと、そのひとつが父方主体の Craig an Eran殖uchan:6*7x6 〜 Sunstar:7*8*8x7 〜 Sundridge=Amphora:7*8*9*9*9*9*9*10x8 であり、もうひとつが母方メインの Cos織iophon:6x5*5 〜 Orby:8x7*7 〜 Orme:9*9*10*10*10x8*8 です。

 それぞれについて、順に見てゆきましょう。

 サンドリッジ Sundridge はジュライC三連覇の偉業を達成した快速馬で、主に自身同様短距離に良駒を送りました(Lady Josephine もその一頭)。ただし代表産駒サンスター Sunstar は単なるスピード馬ではなく、英2000ギニーに続いてダービーを制覇、父をこの年の英リーディングサイアーに押し上げています。
 その後 Sunstar はメイドオブザミスト Maid of the Mist(1906 牝 鹿 by Cyllene ― 英四冠の超名牝 Sceptre の初仔。チェヴァリーパークS、ナッソーS)という絶好の伴侶を得て、ウォルドルフ・アスター卿の下に多くの名馬をもたらしました。ニホンピロウイナーの血統表中には、その内以下の2頭が計3本見えます。

Buchan 1916 牡 鹿
― エクリプスS連覇、チャンピオンS、プリンスオブ
  ウェールズS 他17戦11勝。英首位種牡馬。
  全弟 Saltash もエクリプスS勝ち
Sunstar
1908 黒鹿
SundridgeAmphion Sierra
DorisLoved One Lauretta
Hamoaze
1911 鹿
TorpointTrenton Doncaster Beauty
Maid of the MistCyllene Sceptre
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547
Craig an Eran 1918 牡 鹿
― 英2000ギニー、セントジェイムズパレスS、
  エクリプスS、英ダービー2着 他7戦3勝。
  全姉 Sunny Jane は英オークス馬
Sunstar
1908 黒鹿
SundridgeAmphion Sierra
DorisLoved One Lauretta
Maid of the Mist
1906 鹿
CylleneBona Vista Arcadia
SceptrePersimmon Ornament
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547
 この Buchan燭raig an Eran という組み合わせは、〈疑似クロス〉の一種、〈3/4同血クロス〉であると言えますが、実は日本でも大変古典的なものだったりします。
 嚆矢と言うべきは「アングロアラブの史上最強馬」セイユウ(1954 牡 鹿 by *ライジングフレーム ― 読売カップ春秋制覇 他、アラブ相手では24戦21勝。セントライト記念 他、サラにも5勝!) でしょうか。またその後、天皇賞馬オーテモン、桜花賞馬トキノキロク、オークス馬チトセホープらを輩出して一世を風靡した*ライジングフレーム Rising Flame と*シアンモア Shian Mor のニックも、やはり同様の形式でした。


 一方のオービー Orby は、ウエストミンスター公ご自慢の名中距離馬オーム Orme と、「ならず者」クローカー氏の米血牝馬ローダビー Rhoda B. の配合から生まれました。同馬はアイルランド産馬として初めて英ダービーを制し、さらに史上初の英・愛二重ダービー馬となります。
 Orby について特筆すべきは、その独特かつ強力な遺伝形質です。とにかく速い Orby の系統は、直仔ザボス The Boss らを経て父系を伸ばし、英愛の短距離戦線を舞台に半世紀に渡ってすばらしい活躍を続けました。
 とりわけ電撃5f戦はその傾向が強く、ナンソープSは初期40回(1922-63年)で14勝、キングズスタンドSは中期50回(1914-75年)で12勝しています(他に6f戦ジュライCを13勝)。したがってその勢いは、当時 The Tetrarch や Sundridge のラインを軽く凌駕していたと言えます。
 またこの系統は日本にも盛んに輸入され、初めての三冠馬セントライトや快速サクライワイ(母父は*ハロウェー、祖母父は*ダイオライト!)など優れた産駒を出しましたが、残念ながらそのほとんどは一代限りに終わりました。
 その後、欧州でもこの父系は急速に衰えましたが、Rough Shod やオーマツカゼから続く名牝系に見るように、母方に入っての重要性はいまだ失われていません。
 実はこの系統に関しても、Sunstar の場合と似た構図があります。
 Orby 系は、リノヴァタ Rinovata(X染色体径路上に Rataplan クロスを乗せたダブルコピー牝馬)という貴重な存在に出会って、何頭もの快速馬を出しています。
 そして母系に*ダイオライトを引くニホンピロウイナーは、Rustom Pasha をクロスしたことで、これらの影を一層色濃く宿すことになりました。

Cos 1920 牝 黒鹿
― クイーンメアリーS、英1000ギニー2着 他8戦7勝。
  3/4同血の半姉 Eos はファルマスS勝馬
Flying Orb
1911
Orby Orme Rhoda B.
Stella [F22-a] Necromancer Hollyleaf
Renaissance
1902 黒鹿
St. Serf St. Simon Feronia [F8-d]
Rinovata Wenlock Traviata
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547
Diophon 1921 牡 栗
― 英2000ギニー、ジュライS。3/4同血の半姉 Diadem は
 英1000ギニー、ジュライC連覇、キングズスタンドS連覇他
Grand Parade
1916
Orby Orme Rhoda B.
Grand Geraldine Desmond Grand Marnier
Donnetta
1900 鹿
Donovan Galopin Mowerina (F7-2)
Rinovata Wenlock Traviata
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547

 このようにニホンピロウイナーの血統中には、Sundridge(〜 Sunstar)、Orby、(父内の)The Tetrarch と、今世紀前半に成立した3つの快速血統が凝縮して詰め込まれているわけです。
 ただしここでの3系統のスピードは、あくまで Hyperion & Sun-in-Law に依存するような形で成り立っていることを忘れてはいけません。ただスピード血脈を雑多に取り揃えるだけでは、一流馬は生産できないのです。

 実際ニホンピロウイナーがなぎ倒したライヴァルたちは、すでに浸透してきていた「お手軽なスピード源」、ナスルーラ Nasrullah を活かしたものがほとんどでした。
 それらに対してウイナーが一本筋の通った構造を持ち、加えて複合的なスピード源を後方にびっしりラインブリードした、いわば昔気質むかしかたぎ」、「職人肌」の配合からなっていたことは、きわめて示唆に富む事実です。


種牡馬としての特異性

 種牡馬としてのニホンピロウイナーは、上記の如き風変わりな血統ゆえに、内国産種牡馬の中でも独特のポジションを与えられています。サイアーランキングは1996年の6位が最高ですが、これは種付け頭数が60頭に制限されていることを思えば、立派な数字。論客の中には、今井雅宏氏のように「日本のエースといえばニホンピロウイナー…サンデーサイレンス、トニービン、ブライアンズタイムと同等かそれ以上(『M3種牡馬データ』,ゼスト,1997)」とまで言い切る向きもあるほどです。
 最後に、このことについて考えてみましょう。

 ウイナーの特異な点は第一に、現代(特に日本で)蔓延する Nasrullah の血を持たずに、それでいてかなりのスピードを備えていることでした。これを満たす種牡馬は決して多くありません。したがって、特に Nasrullah を用いると多重近交になり、折角の Hyperion が優位に立てず()全体の構成が鮮明さを欠く場合、例えば*テスコボーイを含む牝馬などに対し、ニホンピロウイナーの血は貴重です。
※ 純粋にクロス馬として比べると、重要な要素の集合である Nasrullah はいわば「総合ビタミン剤」、近交馬かつ名競走馬の Hyperion は「プロテイン」のようなものですから、後者の方が有効だと考えられます。にも関わらず、普通前者の方が血統表の近い代でクロスするので、配合上しばしば問題となるわけですね(*トニービン Tony Bin の逆説的な価値もここにあります)。
 もっとも、こうした昔気質の配合は、スピードには優れていても早熟であるわけではないので、ニホンピロウイナーの活躍産駒は、大抵「遅れてきた馬」として台頭してくることになります。極端な話、クラシックやPOGにはほとんど無縁な種牡馬と言ってもいいでしょう。

 もう一つの特徴、それはフラワーパークやダンディコマンドに見るような、*ノーザンテースト Northern Taste との相性の良さ(厳密に言うと「悪くなさ」くらい)に象徴されています。
 偉大なフィリーサイアーであった*ノーザンテーストは、引き続きBMSとして、また祖母父として隠然たる勢力を持ち続けるでしょうから、現代日本の種牡馬にとって、これとの相性は死活問題。その点、ウイナーは Hyperion を主導とし、Buchan や Mumtaz Mahal を持つ点で*ノーザンテーストと相通じる所があるわけで、両者のマッチングが以下のような実績を築いたのも不思議ありません。


  〜 準ニック: ニホンピロウイナー × *ノーザンテースト 〜

ニホンピロエイブル(1987 牡 鹿 out of シャダイベリー ― 京都4歳特別/G3)
バリアントウイナー(1990 牡 鹿 out of ポトマックチェリー ― クリスタルC/G3-2着、ダービー卿CT/G3-3着)
フラワーパーク(1992 牡 鹿 out of ノーザンフラワー ― スプリンターズS/G1、高松宮杯/G1 他)
ダンディコマンド(1993 牡 鹿 out of ダイナスワップス ― 北九州記念/G3、皐月賞/G1-5着)
※ エアガッツ(1994 牡 鹿 by メジロライアン/BMS ニホンピロウイナー ― ラジオたんぱ賞/G3)

 ただし、本質的に欧州血統であるニホンピロウイナーに対して、カナダ血統の*ノーザンテーストを配したこの組み合わせは、少々危ういバランスにあり、ベストな〈ニック〉と呼べるかと言えば疑問の余地もあります。
 IK血統研究所の久米氏は、完成度を求めるならBMSにはホリノウイナー(1987 牡 鹿 out of ハードエントリー ― 東京新聞杯-G3)ファンドリショウリ(1991 牡 鹿 out of シュウザンハード ― 中日新聞杯-G3連覇、愛知杯-G3)を出している*ハードツービート、ないし*アーティアス*トニービンなどの方が向いている、というようなことを記しています。
 鞘次郎としては、いずれ Nearco サイドに傾くことを考えて Owen Tudor をクロスしに行く手が一番魅力的に見えます。ファンドリショウリ、ヤマニンゼファーの両雄に、先週の小倉メイン関門橋Sを勝ったラティール(1995 牝 芦 by タマモクロス/BMS ニホンピロウイナー ― オークス-G14着)などがこの形でした。

 あるいは、いっそ Hyperion へのこだわりを捨て去り、Nearco を元手に、改めてスピード路線を目指す方向もありえるでしょう。その際もやはり、3つのスピード血脈をいかに活用するかが鍵になります。
 そういった意味では、Buchan & Orby & The Tetrarch を執拗に取り込んだニホンピロプリンス(1989 牡 黒鹿 out of ニホンピロクリア ― マイラーズC/G2、CBC賞/G2。全妹ニホンピロプレイズも函館3歳S/G3-2着。半弟にニホンピロジュピタトーワダーリン(1990 牝 芦 out of トーワヘレン ― 安田記念/G1-2着)、あるいは*ライジングフレームをクロスすることで Craig an Eran を Nearco 寄りに引き寄せたベルウイナー(1992 牡 鹿 out of サークルショウワ ― 関屋記念/G3-2着)あたりの配合が、個別の解答として参考になるかと思います。

 ともあれ、数々の良駒を送ったニホンピロウイナーも、今年で20歳。できればそのバトンは、最良の産駒ヤマニンゼファーにキッチリ受け継がれて欲しい所です。おまけに父系的には、あれほど活躍した Habitat の系統も、今やこのウイナーと再輸出された*ハビトニー Habitony が気を吐く程度であることを思えば、この系譜はすでに十分マイナー父系。近いうちに絶滅する可能性さえ否定できません。
 鞘次郎はニホンピロ友の会の方々とともに、かつての「明けの明星」が、このスピード競馬全盛の時代、「宵の明星」として再び輝くことを願うものです。

2000/02/27 ― ( Revised on 2000/03/01,03/04,03/15,07/29 )
主な参考文献:IK血統研究所 編:『I理論で読むスタリオン・ブック '97〜'98/'98〜'99』,光栄,1997/98
有芝まはるさん:「'Ere I Die Now..〜1921年英ダービーと、スピード馬の時代『競馬通信大全 Vol.31』,1999.10
A.Tさん:「種牡馬辞典」 〜 データサイト Bubble Company


 先日、ニホンピロ・オフィシャルウェブサイト が開設されました。ニホンピロスワン(1997 牝 鹿 by *パラダイスクリーク ― ローズS-G2。母はウイナーの半妹) はじめ、現役ニホンピロ勢にもどうかご声援のほど。

2001/09/19


目次へトップへ戻る