「撃ち尽くすまで」 マイユピストル Maille Pistol


画商の道楽、青の時代

 マイユピストル Maille Pistol の父ピストレブルー Pistolet Bleu は、欧州きっての大オーナー、ダニエル・ヴィルデンシュタイン Daniel Wildenstein 氏の自家生産馬でした。
 もともと美術商として著名な氏が、50代に差しかかってから競走馬を扱うようになったのは、独エルレンホフ牧場の主バッチアーニ女伯爵の影響だろう、と言われています。
 初期にスタイミーマナー牧場から購入したアレフランス Allez France (1970 牝 鹿 by Sea Bird ― 72年牝馬クリテリウム/仏G1=現マルセルブサック賞、73年仏1000ギニー/仏G1+仏オークス/仏G1+ヴェルメイユ賞/仏G1、凱旋門賞/仏G1-2着。74年ガネー賞/仏G1(翌年連覇)、イスパーン賞/仏G1、凱旋門賞/仏G1 など)がいきなり大活躍を遂げると、以後ヴィルデンシュタイン氏の存在は、欧州競馬界で重要な位置を占めるようになります。

 彼と息子のアレックは馬産に関して、牝系重視のドイツ馬産テシオの方法論に学んだ上で、活躍牝馬を米ケンタッキーの牧場へ預託し、種牡馬は全て売却する、という手法を基本に据えました。配合はひとつひとつ丁寧に考えられ、他場の種牡馬(<中には自らの放出した生産馬も)が用いられました。
 こうした試みは、莫大な資金と類まれな配合センスに支えられて、オールアロング All Along(1979 牝 鹿 by *ターゴワイス ― 82年ヴェルメイユ賞/仏G1、83年ターフクラシック招待S/米G1、ワシントンDC国際/米G1、凱旋門賞/仏G1、ロスマンズ国際/加G1 など。息子*アロングオールは日本へ輸入)サガス Sagace(1980 牡 鹿 by Lutier ― 84年凱旋門賞/仏G1。翌年も1着…だが降着で Rainbow Quest に譲る。他に85年イスパーン賞/仏G1、85年ガネー賞/仏G1、84+85年フォワ賞/仏G3 など)と、豊かな実を結びます。
 さらにその後も、*アルカング Arcangues(1988 牡 栗 by Sagace ― 91年ウジェーヌアダム賞/仏G2、92年プランスドランジュ賞/仏G3、93年イスパーン賞/仏G1、そしてBCクラシックで金星を挙げる)から、「90年代欧州最強馬」との誉れも高いペントルセレーブル Peintre Celebre(1994 牡 栗 by Nureyev ― 97年仏ダービー/仏G1、パリ大賞/仏G1、凱旋門賞/仏G1 など)に至るまで、青い勝負服を乗せたヴィルデンシュタイン氏の自家生産馬は、輝かしい成果を上げています。

 さて、そんなヴィルデンシュタイン氏が、馬主人生の中でごく一時期「(日本で言う)冠名」を持っていたことはあまり知られていないようです。
 自分の勝負服にかこつけた、この「ブルー」な冠名は、常に後ろに付けられました。それは、フランス語で Bleu (女性形 Bleue )という単語が、名詞の後ろに置く類の形容詞だからであり、かつまた〈牝系の頭文字保存則〉を守るのに好都合だからでもあったのでしょう。

〜 ヴィルデンシュタインの1987-88年生産馬 : 「青の時代」 〜
馬名とその「意味」勝ち鞍、繁殖成績など
「青き鷹」エペルヴィエブルー
Epervier Bleu
(1987 牡 鹿 by Saint Cyrien ― 90年グレフュール賞/仏G2、リュパン賞/仏G1、
仏ダービー/仏G1-2着、ニエユ賞/仏G2、凱旋門賞/仏G1-2着、
91年サンクルー大賞/仏G1。種牡馬としてはフィユドレール賞の Yvecride 程度)
「青き雌狼」ルーヴブルー
Louve Bleue
(1987 牝 by Irish River ― 90年サンタラリー賞/仏G1-2着。Legend of France の半妹)
「青き代行者」アジャンブルー
Agent Bleu
(1987 牡 by Vacarme ― 90年ドラール賞/仏G2)
「青き勝利」ヴィクトワールブルー
Victoire Bleue
(1987 牝 by Legend of France ― 91年カドラン賞/仏G1、グラディアテュール賞/仏G3。
ユベールドショードネイ賞などの勝ち馬 Vertical Speed の母)
「青き絵画」ペンテュールブルー
Peinture Bleue
(1987 牝 栗 by Alydar ― 90年ロングアイランドH/米G2。Peintre Celebre の母)
「青き芸術」アールブルー Art Bleu(1987 牡 by Legend of France ― 91年ラクープ/仏G3。Pistolet Bleu 専属の逃げ馬)
「青きナイル川」ニルブルー Nil Bleu(1987 牡 by Valiyar ― 90年ベルトゥー賞/仏G3)
「紺碧のアフリカ」アフリクブルーアズュール
Afrique Bleu Azur
(1987 牝 黒鹿 by Sagace ― *アルカングの全姉。英1000ギニー馬 Cape Verdi の母)
「青き世界」モンドブルー
Monde Bleu
(1988 牡 by *ラストタイクーン ― 92年パレスハウス賞/英G3、
グロシェーヌ賞/仏G2、93年モートリー賞/仏G3)
「青き拳銃」ピストレブルー
Pistolet Bleu
(1988 牡 by Top Ville ― 90年コンデ賞/仏G3、クリテリウムドサンクルー/仏G1、
91年ノアイユ賞/仏G2、オカール賞/仏G2、凱旋門賞/仏G1-3着、
92年ガネー賞/仏G1-2着、サンクルー大賞/仏G1、エヴリー大賞/仏G2)

 実に1990-91年のフランス重賞戦線は「真っ青」だったんですねぇ。してみると、「青き拳銃」よりは「青色塗料スプレー」なんて訳の方が意味が通るのかも。(^^;

 ただしこの「青」冠名シリーズ、87年産世代にはほぼ徹底されていたものの、翌88年産世代では一部のみに留まり、先の*アルカングのような例が出てきます。そして、早くも89年産世代からは、なぜだかすっかり使われなくなってしまいます。
 果たしてヴィルデンシュタインがどんなつもりで「青」を乱用したのか ―― ひょっとするとパブロ・ピカソを気取って、「青の時代」は過渡期だとでも言いたかったのか? (^o^; ―― それはわかりません。10年以上が経過した今、私たちは、画商ゆかりの馬の血統表に、青い絵の具の跡を認めることができるだけです。


青い拳銃はジャムり気味

 これら画商の「青」冠名シリーズ中、最後の傑作となった Pistolet Bleu は、父がデュプレ未亡人の遺作 トップヴィル Top Ville
 母パンパベラ Pampa Bella はペネロープ賞/仏G3の勝ち馬で、G1サンタラリー賞や仏オークスでも、名牝ノーザントリック Northern Trick (1981 牝 by Northern Dancer ― サンタラリー賞/仏G1-2着、仏オークス/仏G1、ノネット賞/仏G3、ヴェルメイユ賞/仏G1、凱旋門賞/仏G1-2着。Limnos & Shiva の祖母) らの3着した活躍馬でした。
 強烈な近交を施された祖母でわかるように、これはもともとマルセル・ブサックの手になる牝系で、天皇賞馬ベルワイド同様、ザリバ Zariba へと遡るもの。4代母*ファーウィンは輸入され、その持ち込み産駒がタイクラナ (1962 牡 栃栗 by Above Suspicion ― 日経新春杯、京都記念-2着、小倉記念-2着、阪神大賞典-3着、大阪杯-3着、京都大賞典-3着)、ということになります。

Pistolet Bleu 1988 牡 鹿 / FNo. 9-e / Dante 系 ― Dante 直系の主軸?
Top Ville
1976 鹿
High Top
1969 黒鹿
Derring-Do
1961 鹿
Darius
1951 鹿
Dante Nearco
Yasna Dastur
Sipsey Bridge
1954 黒鹿
Abernant Owen Tudor
Claudette Chanteur
Camenae
1961 鹿
ヴィミー FR
Vimy
1952 鹿
Wild Risk Rialto
Mimi Black Devil
Madrilene
1951
Court Martial Fair Trial
Marmite Mr. Jinks
Sega Ville
1968
Charlottesville
1957 鹿
Prince Chevalier
1943 鹿
Prince Rose Rose Prince
Chevalerie Abbot's Speed
Noorani
1950
Nearco Pharos
Empire Glory Singapore
La Sega
1959 黒鹿
Tantieme
1947 鹿
Deux pour Cent Deiri
Terka Indus
La Danse
1951 鹿
Menetrier Fair Copy
Makada Rustom Pasha
Pampa Bella
1981
Armos
1967
Mossborough
1947
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
All Moonshine
1941
Bobsleigh Gainsborough
Selene Chaucer
Ardelle
1958 鹿
Supreme Court
1948 黒鹿
Precipitation Hurry On
Forecourt Fair Trial
Per Ardua
1941 黒鹿
Hyperion Gainsborough
Selene
Ad Astra Asterus
Kendie
1963 鹿
Klairon
1952 鹿
Clarion
1944 鹿
Djebel Tourbillon
Columba Colorado
Kalmia
1931 鹿
Kantar Alcantara
Sweet Lavender Swynford
Amagalla
1956
Arbar
1944 鹿
Djebel Tourbillon
Astronomie Asterus
ファーウイン FR
Pharwin
1951
Pharis Pharos
Windorah Tourbillon
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 同馬は、この時期画商のメインステーブルだったエリー・ルルーシュ厩舎から2歳でデビュー。新馬コンデ賞クリテリウムドサンクルーと3連勝します。しかも1800mのG3、2000mのG1と2歳戦には珍しい中距離戦を連勝したことで、勝ち馬には翌年の活躍が期待されました。
 3歳となり、その期待に応える形で緒戦のノアイユ賞、そしてオカール賞といずれもスーボティカ Subotica (1988 牡 鹿 by Pampabird ― この年パリ大賞/仏G1、ニエユ賞/仏G3。翌92年ガネー賞/仏G1、凱旋門賞/仏G1) を破り、土付かずの連勝を5へと伸ばします。
 6連勝で仏ダービーを手にした父
トップヴィル Top Ville の記憶も重ねられ、Pistolet Bleu は仏ダービー前から1番人気確実と言われていました。
 ところが、レース前日に左後飛節の故障が判明し、急遽出走は取り消されます。

 無念を胸に秋から復帰すると、凱旋門賞トライアルのニエユ賞は、相手にしなかったはずの Subotica にクビ差及ばず2着(3着も同馬主の*アルカング)。
 それでも凱旋門賞本番は、*ジェネラス Generous (1988 牡 栗 by Caerleon ― この年すでに英ダービー/英G1、愛ダービー/愛G1、「キングジョージ」/英G1。*オースミタイクーン、Imagine らの半兄)スアーヴダンサー Suave Dancer (1988 牡 鹿 by Green Dancer ― グレフュール賞/仏G2、リュパン賞/仏G1-2着、そしてPistolet Bleu が留守の仏ダービー/仏G1に勝ち、愛ダービーは*ジェネラスの2着。秋は愛チャンピオンS/愛G1から) に次ぐ3番人気で臨みました。
 同じく画商の「青」冠名シリーズ、アジャンブルー Agent Bleu をペースメーカーに、Pistolet Bleu は好位から、フォルスストレート半ばを過ぎると先頭へ踊り出ます。本命*ジェネラスの動きは鈍く、これはひょっとするか…と思えたのも束の間、Suave Dancer や、さらには牝馬*マジックナイト Magic Night (1988 牝 鹿 by Le Nain Jaune ― 前年オマール賞/仏G3、この年仏オークス/G1-2着、マルレ賞/仏G2、ヴェルメイユ賞/仏G1。翌年も重賞2勝) に交わされて、3着に終わりました。4着に同じ Top Ville 産駒トゥーロン Toulon、5着は母父 High Top のインザグルーヴ In the Groove、*ジェネラスは8着。

 これではシーズンが終われないとでも言うように、画商は Pistolet Bleu を大西洋の向こう側、BCターフに挑ませます。がしかしここでも伸び切れず、1番人気を裏切る形でミスアレッジド Miss Alleged (1987 牝 by Alleged ― 前年ロワイヨモン賞/仏G3、マルレ賞/仏G2。ヴェルメイユ賞/仏G1は Salsabil の2着。この年はハリウッドターフCS/米G1に勝つも凱旋門賞は惨敗) の5着に敗れました。

 4歳となっても Pistolet Bleu はなかなか完調に戻らず、アルクール賞フォーチュンズホィール Fortune's Wheel の2着、ガネー賞は Suave Dancer や Fortune's Wheel に先んじながら Subotica には及ばず、また2着。
 ようやく我慢の調教が実って、エヴリ大賞で1年ぶりの勝利を飾ると、続く上半期の総決算サンクルー大賞で Magic Night、Subotica らをチギって1年半ぶりのG1制覇を果たしました。
 これでやっとかつての評価を取り戻したように見えた Pistolet Bleu でしたが、ツキの無さは相変わらず。凱旋門賞を目指し調教中に、再び故障を発生してしまいます。結局、凱旋門賞を諦め(勝ったのは Subotica。出られていれば… ;_;)、引退することになりました。
 Pistolet Bleu が属する88年生まれ世代はヴィンテージクロップだった、というのは偏屈爺師が「凱旋門賞、キングジョージ、ガネー賞、コロネーションC、バーデン大賞に各2勝、エクリプスSを3勝もしている」等の事実をもって指摘されている通りでしょう。特に中長距離にはタレンティドがひしめき、星を潰し合っていました。
 それらが、種牡馬入り後ロミタス Lomitas らを除いて案外振るわないのは、実に寂しいことです。最強馬の一頭*オペラハウス Opera House にももっと頑張ってもらわないとね。

二の弾を装填せよ

 Pistolet Bleu の種牡馬入りに当たっては、40株で総額1600万フランと、12戦7勝の実績に比してリーズナブルな価格が設定されました。実際、当初の供用先エトラム牧場は仏ローカル生産者の窓口的役割を兼ねており、相手牝馬の質はお世辞にも一流とは言えませんでした。
 初年度産駒の筆頭は、準重賞クレールフォンテーヌ大賞を勝ったバリングス Barings
 続いて2世代目の産駒、カタリノ Katarino (1995 セン out of Katevana ― 母父は Cadoudal、つまり Dante=Sayajirao:6x5) がイギリス障害界でG2とG1ふたつを含む5連勝を記録、ギーオス Geos (1995 セン out of Kaprika ― 同じく母父 Cadoudal) もG3からG1クリスマスハードルまでを制したことで、Pistolet Bleu は平地に適性の無い障害種牡馬 National Hunt Stallion だと認識され、2001年から愛クールモアスタッドへと移されました。鞘次郎など、そのニュースに溜息をつき、いよいよこの父系が途絶える可能性を覚悟したものです。

 そんな矢先の2001年春、突然フランス重賞戦線で Pistolet Bleu 産駒が走り出しました。
 3世代目のボネルージュ Bonnet Rougeエドヴィル賞/仏G3を、4世代目のマイユピストル Maille Pistolグレフュール賞/仏G2、オカール賞/仏G2を連勝、バルドウィナ Baldwinaベネロープ賞/仏G3を勝ちました。1ヶ月で産駒が重賞を4勝したことで、一時的にせよ Pistolet Bleu は仏リーディングサイアーとなったのです。

 中でも Maille Pistol の活躍はセンセーショナルなものでした。
 もともと1歳時のドーヴィル10月一般セールで165,000フラン=約300万円と「まずまず(これでも当日平均取引価格の2倍)」の値で購入した時、トロッターの調教師マイケル・ラッセル Michel Roussel 氏は、この馬をいずれ障害レースに使うつもりでした。しかし、いったん地方の名伯楽ジャン=クロード・ルージェ Jean-Claude Rouget 調教師に預けられると、この馬に桁違いのパワーがあることが示され、平地中央デビューの運びとなります。

Maille Pistol 1998 牡 栗 / F.No. 7-d / Dante 系
Pistolet Bleu
1988 鹿
Top Ville
1976 鹿
High Top
1969 黒鹿
Derring-Do
1961 鹿
Darius Dante
Sipsey Bridge Abernant
Camenae
1961 鹿
*ヴィミー FR
Vimy
Wild Risk
Madrilene Court Martial
Sega Ville
1968
Charlottesville
1957 鹿
Prince Chevalier Prince Rose
Noorani Nearco
La Sega
1959 黒鹿
Tantieme Deux pour Cent
La Danse Menetrier
Pampa Bella
1981
Armos
1967
Mossborough
1947
Nearco Pharos
All Moonshine Bobsleigh
Ardelle
1958 鹿
Supreme Court Precipitation
Per Ardua Hyperion
Kendie
1963 鹿
Klairon
1952 鹿
Clarion Djebel
Kalmia Kantar
Amagalla
1956
Arbar Djebel
*ファーウイン FR
Pharwin
Pharis
Bric Mamaille
1991
Bricassar
1985
Irish River
1976
Riverman
1969 鹿
Never Bend Nasrullah
River Lady Prince John
Irish Star
1960 鹿
Klairon Clarion
Botany Bay East Side
*リリズム USA
Lyrism
1979 鹿
Lyphard
1969 鹿
Northern Dancer Nearctic
Goofed Court Martial
Pass a Glance
1971 鹿
Buckpasser Tom Fool
Come Hither Look Turn-to
Ti Mamaille
1986 鹿
Dom Racine
1975 黒鹿
Kalamoun
1970
*ゼダーン GB
Zeddaan
Grey Sovereign
Khairunissa Prince Bio
La Ferte Milon
1968
Timmy Lad Tim Tam
Salamine Antares
Marie de
Solesmes
1976 鹿
Sassafras
1967 鹿
Sheshoon Precipitation
Noorani
Ruta *ラティフィ
ケイション GB
Ratification
Taillefontaine
1967
*スノッブ FR
Snob
Mourne
Tin Top Fine Top
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547 / 9代クロス血統表はこちら

 この配合の見所は、Armos、Lyphard、Sassafras といった互いに相似な「主流血脈の60年代フランス風解釈」を組み合わせ、さらに Klairon クロスで「もう一回り昔のフランス血脈群」までスパイシーに効かせたあたりでしょう。
 非 Nasrullah かつ非 Northern Dancer な種牡馬 Pistolet Bleu の本領は、やはりこうした配合でこそ活かされます(母方は Nasrullah 同血:5x6*6*7、ND 有り)。もっとも、凝れば凝るほど素軽さを失ってゆくのが悩ましいところではありますが。
 Maille Pistol はデビュー前からその動きで注目を集めていました。2歳10月、サンクルーでの緒戦ファレル賞こそ良血ファシネイティングミクス Fascinating Mix (1998 牡 鹿 by Linamix ― 全兄はサンクルー大賞/仏G1の Fragrant Mix) に半馬身及びませんでしたが、翌月のヴァンヴ賞では重馬場を喜ぶようにベルフォルテン Belfortain (1998 牡 栗 by Riche Mare ― その後ハンデ戦で活躍、武豊騎手に勝利を進呈) へ1馬身半差の完勝。
 3歳になると準重賞モーリスドカイヨー賞を5馬身差圧勝、G2グレフュール賞でも先手を取ってサガシティ Sagacity (1998 牡 黒鹿 by Highest Honor ― クリテリウムドサンクルー/仏G1。半兄は凱旋門賞馬 Sagamix)チチカステナンゴ Chichicastenango (1998 牡 芦 by Smadoun ― トーマスブライアン賞/仏G3。後にリュパン賞/仏G1、仏ダービー/仏G1-2着、パリ大賞/仏G1) らを寄せ付けず、6馬身差の大楽勝。
 圧巻はG2オカール賞で、単勝1.4倍の人気を背に、スタートから果敢に飛ばして Sagacity 以下に8馬身の大差をつけています。

 父や祖父にも似て、4連勝で仏ダービーに挑んだ Maille Pistol を、地元ファンは2.5倍の1番人気に支持しました。しかしこれまで重馬場で連勝を伸ばしてきた同馬にとって、当日初めて走るパンパンの良馬場はまったく合いそうにありませんでした。
 鞘次郎は、前日の天気予報を見た時点ですでにふて腐れモードに。折角「藍は青より出でて青より青し」なぁんて言っちゃろうと思ってたのにぃ。(-o-)
 それでも彼は潔い逃げを打ち、結果8着(Sagacity は9着 ^^;)とはいえ、勝ったアナバアブルー Anabaa Blue (1998 牡 鹿 by Anabaa ― それまでノアイユ賞/仏G2、リュパン賞/仏G1-2着。英ダービー馬 Galileo の従兄弟。同じドーヴィルセールでも、8月の最も華やかなセールに上場され、当日平均を「下回る」650,000フラン=約1200万円での購買馬)、2着の Chichicastenango からの差は4馬身余りだったのですから、この敗戦で見限るのは早いでしょう。
 今後は、祖父が諦め、父が果たし切れなかった「完全復活」の日を、Maille Pistol は目指します。
…え? 障害入り? …そいつぁ困るなぁ。だって血が残せなくなる。(^^;

付録:仏地味牝系の工夫

 最後にちょっと脱線。
 
Anatevka 〜 Allegretta 〜 Galileo & Anabaa Blue などに比べると、Maille Pistol の牝系は地味でほとんど話題に上らないものの、それなりに興味深い点が見受けられます。


 牝系図:Taillefontaine 〜 Bric Mamaille / FNo. 7-d

Taillefontaine ( 牝 1967 by *スノッブ FR ) ― 2勝  Don Altemarus ( 牡 19?? by ??? ) ― 6勝、レギネー/白LR、インドリクドテュルゴー賞/白LR  Marie de Solesmes ( 牝 1976 鹿 by Sassafras ) ― 1勝   Marie d'Anjou ( 牝 1982 by Free Round ) ― 4勝、カルヴァドス賞/仏G3-4着   |Maketa ( 牝 1990 by Persifleur )   Coeur de Lion ( 牡 1984 by *クリスタルパレス FR ) ― 6勝、エクスビュリ賞/仏G3、   |                    ボーリンググリーンH/米G1、ディキシーH/米G2   Satin Doll ( 牝 1985 by Kenmare ) ― 1勝   |Call Me Pal ( セン 1991 芦 by Semipalatinsk ) ― 2勝、パゴパゴS/豪G2-3着   Ti Mamaille ( 牝 1986 鹿 by Dom Racine ) ― 不出走   |Bric Mamaille ( 牝 1991 栗 by Bricassar ) ― 1勝   ||Maille Pistol ( 牡 1998 栗 by Pistolet Bleu ) ― 現役4勝、グレフュール賞/仏G2、オカール賞/仏G2   |Sea Mamaille ( 牝 1992 by Sea Full ) ― 11勝、欧州生産者基金賞/仏LR   |Tanarya ( 牝 199? by Nerio ) ― 4勝   |Wekiwa Springs ( 牡 1997 芦 Kendor ) ― 現役1勝   Marie de Sologne ( 牝 1987 by Lashkari ) ― 不出走    Minervitta ( 牝 1992 鹿 by Warrshan ) ― 5勝、ペネロープ賞/仏G3-4着、ヴァントゥー賞/仏G3-4着    Two to Tango ( 牝 1993 by Anshan )
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 Maille Pistol の母ブリママイユ Bric Mamaille は、現役時代、3歳から5歳まで走って1勝(入着8回)。なるほど、確かに平凡な成績です。
 その父ブリカッサール Bricassar も馴染みの薄い種牡馬。ダフニ賞/仏G3、ラフォルス賞/仏G3-3着など6戦2勝と二流止まりの成績ですが、半姉「ダブルコピー」ワキリリック Whakilyric (1984 牝 鹿 by Miswaki ― カルヴァドス賞/仏G3。Johann Quatz & Hernando の母) の繁殖成績は見事ですし、母*リリズムは日本へ輸入されていますね。
 しかし、Bric Mamaille の1歳下の半妹シーママイユ Sea Mamaille は、マルセイユの欧州生産者基金賞(準重賞、ただし賞金は重賞クラスという特殊なレース)など11勝を挙げ、872,500フランを稼ぎました。
 彼女は、転戦して米G1を勝った叔父クードリヨン Coeur de Lion と同じく Sicambre = Senones の全弟妹クロスを持ち、その配置や他の血脈とのコンビネーションに関しては叔父を凌ぐほどの配合になっています。

Sea Mamaille 1992 牝 / F.No. 7-d / Native Dancer 系 ― 知られざる傑作
Sea Full
1981
Arctic Tern
1973
Sea Bird
1962
Dan Cupid
1956
Native Dancer Polynesian
Vixenette Sickle
Sicalade
1956 鹿
Sicambre Prince Bio
Marmelade Maurepas
Bubbling Beauty
1961
Hasty Road
1951 鹿
Roman Sir Gallahad
Traffic Court Discovery
Almahmoud
1947
Mahmoud Blenheim
Arbitrator Peace Chance
Good Start
1972
Le Haar
1954
Vieux Manoir
1947 鹿
Brantome Blandford
Vieille Maison Finglas
Mince Pie
1949 鹿
Teleferique Bacteriophage
Cannelle Biribi
Goyava
1966
Shantung
1956 鹿
Sicambre Prince Bio
Barley Corn Hyperion
Papaya
1961
Tropique Fontenay
Greensward Mossborough
Ti Mamaille
1986 鹿
Dom Racine
1975 黒鹿
Kalamoun
1970
*ゼダーン GB
Zeddaan
1965
Grey Sovereign Nasrullah
Vareta Vilmorin
Khairunissa
1960
Prince Bio Prince Rose
Palariva Palestine
Rivaz
La Ferte Milon
1968
Timmy Lad
1961
Tim Tam Tom Fool
Providence Easton
Salamine
1959
Antares Norseman
Saleignes Prince Bio
Marie de
Solesmes
1976 鹿
Sassafras
1967 鹿
Sheshoon
1956
Precipitation Hurry On
Noorani Nearco
Ruta
1960 黒鹿
*ラティフィケイション
Ratification
Court Martial
Dame d'Atour Cranach
Barley Corn
Taillefontaine
1967
*スノッブ FR
Snob
1959 鹿
Mourne Vieux Manoir
Senones Prince Bio
Tin Top
1958
Fine Top Fine Art
Desert Moon Blue Peter
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547

 これは、過日掲示板で記した
Blandford + La Farina + Tetratema なる〈ニックスインブリード〉の好例とも言えるでしょう。おまけに、名牝 Barley Corn のX染色体径路上クロスもまたヨシ。このようにセンスある配合が、一見地味な牝系をブリードアップし、Maille Pistol やそれに続く活躍馬を輩出して行くわけですね。
 どうやらフランス馬産には、まだそれだけの知的資産が蓄えられているようです。


2001/06/10 ― ( Revised on 06/16, 07/2 )
Serviceable sources ― A.Tさん:Pistolet Bleu @ 「種牡馬辞典」 @ データサイト Bubble Company,
L'Agence Francaise de ventes de Deauville,
Bricassar @ FRBC Stallion Register, and
偏屈爺さん:「1988 生まれの世代(ヨーロッパ中長距離路線・最期の栄光)」※ 閉鎖 (;_;)


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