「下賜か流刑か」 ランドー Landau


天駆ける戦車

 今や欧州最大のレースのひとつに数えられる、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイアモンドS(通称「キングジョージ」、ただしスプリントG3キングジョージSと混同しないでね (^^;; )。このタイトルには、名君と親しまれた先代の英国王ジョージ6世と、その后である現クイーンマザーとが、並んで名を刻んでいます。
 兄エドワード8世が戴冠も果たさぬままスキャンダルで退位したため、唐突に英国王となったジョージ6世は、国政をもっぱらチャーチル卿やダービー卿に任せ、自らは決して揺るがぬ大英帝国の象徴として、堅実な治世を送ったと言われます。
 そんなジョージ6世が、戦時中の慰めを見出したのは、国立牧場に生まれ、王自らの服色で走った2頭の名馬――サンチャリオット Sun Chariotビッグゲイム Big Game でした。

 同い年のこの2頭は、鬼才ホール・ウォーカー大佐より寄贈された比類なき名牝系のうち、かたやブランドフォード Blandford の半妹 ナンズヴェイル Nun's Veil、かたやサンソヴィーノ Sansovino の半姉ドラベラ Dolabella を祖母とする、いずれ劣らぬ超良血馬。しかも、父が(お互いの近親かその直仔である)「世紀の名馬」ハイペリオン Hyperion に「不敗の三冠馬」バーラム Bahram と最高クラスの名馬である点、ついでに母父が快速で鳴らした馬という点でも、非常に似通った所がありました。

Sun Chariot 1939 牝 鹿 / FNo. 3-o
   ― 英牝馬二冠、英セントレジャー 他 9戦8勝
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo Bay Ronald
Rosedrop St. Frusquin
Selene
1919 鹿
Chaucer St. Simon
Canterbury Pilgrim
Serenissima Minoru
Gondolette
Clarence
1934 鹿
Diligence
1919
Hurry On Marcovil
Ecurie Radium
Nun's Veil
1930 黒鹿
Friar Marcus Cicero
Blanche White Eagle
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Big Game 1939 牡 鹿 / FNo. 6-e
   ― 英2000ギニー、チャンピオンS 他 9戦8勝
優れたフィリーサイアー → ※ Bride Elect も参照
Bahram
1932 鹿
Blandford
1919 黒鹿
Swynford John o'Gaunt
Canterbury Pilgrim
Blanche White Eagle
Friar's
Daughter
1921 黒鹿
Friar Marcus Cicero
Garron Lass Roseland
Myrobella
1930
Tetratema
1917
The Tetrarch Roi Herode
Scotch Gift Symington
Dolabella
1911 鹿
White Eagle Gallinule
Gondolette Loved One
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 果たしてこの2頭は、ともにたった一度の敗北を喫しただけで(Sun Chariot は3歳初戦のサザーンSで機嫌を損ね3着、Big Game は距離不安の英ダービーで4着)、他の大レースを勝ちまくり、戦争に沈む王の心を、大いに励まします。
 わけても、代行レースながら変則牝馬三冠を達成した Sun Chariot は、名騎手ゴードン・リチャード卿をして「たぶん私が乗った最強の馬だろう」と言わしめたほどの名牝でした。写真で見る限り、すらりとした実に気品ある馬体の持ち主だったようですね。

 彼女たちは、華々しい競走生活を終えると、生まれ故郷アイルランドの独立に伴って、サンドリンガムの新国立牧場で繁殖入りします。
 種牡馬 Big Game はこの地で、クイーンポット Queenpot(1945 牝 栗 ― 英1000ギニー。Northjet の祖母)はじめ数々の名牝を輩出し、1948年には英リーディングサイアーランキングで Nearco に迫る2位とするなど、現役時代以上の名声を獲得しました。

 では、一方の Sun Chariot はどうだったでしょう。彼女は比較的(繁殖より競走向きの)完成された血統だったため、期待通りの成果を挙げたとは言えません。が、それでもほとんど毎年、計18頭の競走馬を産み、その中から8頭が勝ち上がりました。うち4頭はステークスを制しています。牝系図をご覧下さい。


 牝系図:Clarence 〜 Sun Chariot / FNo. 3-o

 Clarence ( 1934 牝 鹿 by Diligence ) ― 不出走   Sister Clara ( 1938 牝 鹿 by Scarlet Tiger ) ― 未勝利   |Delia ( 1945 牝 by Dastur )   ||Dahlia ( 1951 牝 by Panorama ) → ……… → リックサンブル ― 2nd. オークス   |Clarinda ( 1949 牝 鹿 by Straight Deal )   ||*ワイルドライフ Wildlife ( 1957 牝 黒鹿 by Big Game )   ||        → … … → ビゼンニシキ ― スプリングS-G2、NHK杯-G2、共同通信杯4歳S-G3   |Mary Clare ( 1951 牝 by Migoli )   ||*クリアーミード Clearmead ( 1956 牝 黒鹿 by Honeyway )   |Clarinette ( 1952 牝 by Chanteur )   ||*リットルヘイスティ Little Hasty ( 1959 牝 黒鹿 by Rustam )   |Aunt Clara ( 1953 牝 黒鹿 by Arctic Prince )   | Santa Claus ( 1961 牡 鹿 by Chamossaire ) ― 英ダービー、愛ダービー、愛2000ギニー、   | |                 2nd.「キングジョージ」/英、凱旋門賞/仏   | Clarity ( 1962 牝 by *パナスリッパー )   | *クリスマスストーリー Christmas Story ( 1963 牝 黒鹿 by Elopement )   | Corner the Market (1965 牡 by To Market )   | Miss Match ( 1966 牝 by Match )   | Skyhawk ( 1968 牡 by *シーホーク )   Sun Chariot ( 1939 牝 鹿 by Hyperion ) ― 英1000ギニー、英オークス、英セントレジャー、   ||               ミドルパークS/英、クイーンメアリーS/英   |Blue Train ( 1944 牡 栗 by Blue Peter ) ― ニューマーケットS/英   |Gigantic ( 1946 牡 by Big Game ) ― インペリアルプロデュースS/英   |*ゲイムカート Game Cart ( 1949 牝 黒鹿 by Big Game )   ||*デッキテニス Deck Tennis ( 1954 牝 鹿 by Blue Peter )   ||*コマティック Comatik ( 1956 牝 黒鹿 by Arctic Prince )   |||ナスノヒデ ( 1964 牝 鹿 by Kythnos ) → … → マックスファイアー ― 札幌3歳S   |||ナスノコマ ( 1966 牝 鹿 by *セダン ) → … … → マルシゲアトラス ― 2nd. オークス-G1   ||Shelter ( 1963 牡 by Never Say Die )   |Landau ( 1951 牡 黒鹿 by Dante ) ― サセックスS/英、ルース記念S/英   |Perambulator ( 1952 牡 by My Babu )   |Persian Wheel ( 1955 牝 by Tulyar )   ||Sun Cycle ( 1961 牝 by Crepello )   |||Miss Wittington ( 1966 牝 by Red God )   ||||My Lover (1979 牡 by Pitskelly ) ― コーンウォリスS/英   |||*サフュージョン Suffusion (1968 牝 栗 by Palestine )   ||*ムーンチャリオット Moon Chariot (1962 牝 鹿 by Crepello )   |Pindari ( 1956 牡 鹿 by Pinza ) ― キングエドワードVII世S/英、グレイトヴォルティジュールS/英、   ||             クレイヴァンS/英、ソラリオS/英、3rd. 英セントレジャー   |*ジャヴリン Javelin ( 1957 牡 黒鹿 by Tulyar ) ― 4戦1勝   |Icarus ( 1959 牡 by Tenerani )   Golden Coach ( 1943 牝 by Hyperion ) ― 1勝   |Wagon-Lit ( 1948 牝 by Nepenthe )   ||Pillowfight ( 1953 牝 by Combat ) → Ragtime ― リッチモンドS/英、ジュライS/英   ||Wagon Star ( 1958 牝 by Three Star )   ||*ワゴネット Wagonette ( 1960 牝 黒鹿 by Three Star )   |Pumpkin ( 1953 牝 by Scratch )   ||*パントフォラ Pantofola (1969 牝 鹿 by Lauso )   |Sun Coach ( 1959 牝 by Nearula )   | Brave Sun ( 1968 牡 by Never Say Die )   Calash ( 1944 牝 栗 by Hyperion ) ― 1勝    The Chase ( 1951 牝 鹿 by Big Game )    |*アキーシード Acquiesced ( 1958 牝 栗 by Princely Gift )    |      → … → インターチャイム ― 2nd./3rd. 安田記念 & キョウエイレア ― 高松宮杯-G2    Carrozza ( 1954 牝 黒鹿 by Dante ) ― 英オークス、プリンセスエリザベスS/英    |Dance to Me ( 牝 by Native Dancer )    |*クレップドシン Crepe de Chine ( 1960 牝 栗 Crepello )    ||             → … → ネイティブナムラ ― 3rd. シンザン記念    |Battle-Waggon ( 1962 牡 by Never Say Die )    |Camilla Edge ( 1963 牝 by Alcide ) → Bonne Noel (by Santa Claus) ― イボアH/英    ||              → … → Noble Damsel ― ニューヨークH/米    |Tully River ( 1964 牝 by St. Paddy )    |Carromata ( 1965 牝 by St. Paddy ) → Matahawk ( 牡 1972 *シーホーク ) ― パリ大賞典/仏    |Call Report ( 1968 牡 by Raise a Native )    |Semenenko ( 1973 牡 by Vaguely Noble ) ― アルスターチャンピオンS/愛    |Carrozzella ( 1974 牝 by Vaguely Noble ) → Prince Rupert ― クリスタルマイル/英-G2    Snow Cat ( 1955 牡 by Arctic Prince ) ― クラシックトライアルS/英    Ballymena ( 1963 牡 by Ballymoss )
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 Sun Chariot が太陽神(Hyperion)の馬車ということで、この牝系は Wagon だとか Train だとか、乗り物、特に馬車にちなんだ名前が付けられるケースが目立ちます。ちなみにランドー Landau とは、「幌が前後に別々に開き、座席が前後に2つある4輪馬車のこと。ドイツの町の名に由来する (研究社『新英和・和英中辞典』より)」とか。…あー、じゃあランド Lando(1990 牡 鹿 by Acatenango ― 独ダービー、バーデン大賞典(連覇)、ジャパンC 他)と根っこは同じなのね。
 同様に、Sun Chariot の全妹2頭は、金色のコーチ Coach(=公式儀式用、または鉄道以前に用いられた、4輪大型馬車)に、カラッシュ Calash(=18世紀の幌付き軽2輪または4輪の馬車)といった具合。世代を下ればカボチャの馬車までおりますな。(^o^;
 …おっと、そう言えばトナカイの橇に乗るのは Santa Claus(英ダービーで
*インディアナを破る)でしたか。(^O^)
 上の表を見て、Sun Chariot の産駒の勝ち鞍に、首をひねられる方も多いでしょう。事実彼女の子どもたちには、素質はあれど伸び悩むものが多かったようです。その原因は、先に述べたような彼女のアウトブリード的完成度、および流行血統集結の良血ぶり(Blandford、Nearco、Fairway、Solario など、当時の大種牡馬のいずれを付けても、強い/多重な近交が発生する血統構成)に負う所が大きかったと考えられます。まさにこの時代以降、インブリードからアウトブリードへの変化が生じ始める中で、毎回産駒の代でリスクを負わざるを得ない彼女は、母として案外恵まれないポジションにあった、とさえ言えるほどです。

 初仔ブルートレイン Blue Train は、ニューマーケットSなど3戦不敗のまま、惜しまれつつ引退。お約束とも言うべき Big Game との仔ジャイガンティック Gigantic は、インペリアルプロデュースSを勝ちましたが、以降は順調さを欠きました(オークスでコスモドリームの2着したマルシゲアトラスは、Gigantic の全妹の末裔です)。この頃、Sun Chariot を殊のほか愛した、かのジョージ6世も逝去しています。
 どうも Sun Chariot の仔は一息だね、そんな言葉が交わされるようになってから、ようやく現れた一流馬が、ダービー馬ダンテ Dante との仔ランドー Landau でした。Landau は新女王エリザベス2世の服色で走り、マイルを中心に、同じ Dante 産駒のダライアス Darius に次ぐ良績を上げます。
 残念ながら、手元に Landau のキャリアを語る十分な資料はありませんが、ドンカスタープロデュースS、フルボーンSに加えて、ロイヤルアスコットのルース記念S、そしてグローリアスグッドウッドのサセックスSと、名門マイル戦の勝ち鞍が記録に残っています(通算6勝、英ダービーは Never Say Die の着外)。
 Sun Chariot は、Landau からまた5年ほど経って、4つの重賞を制したピンダリ Pindari、4戦1勝後日本に輸入される*ジャヴリン Javelin らを産んだ末、24歳の生涯を閉じ、亡き王の下へと旅立ちました。

 このように期待ほどの成績は上げ得なかったものの、彼女の牡駒は Landau 以外にも多くが種牡馬入りしています。

 Blue Train は、愛オークス馬ファイヴスポッツ Five Spots、同じ年ブラジルはリオデジャネイロでダービー・セントレジャーと牝馬三冠全てを攫ったプラティナ Platina という2頭の名牝を出し(<まるでシャトル種牡馬やね (^^;; )、またカシミール Kashmir(1963 牡 栗 by Tudor Melody ― 英2000ギニー 他)ラリベラ Lalibela(1965 牝 by Honeyway ― チェヴァリーパークS)の母父となりました。

 一方ニュージーランドへ輸出された Gigantic は、当地でダービー馬ロイヤルデューティ Royal Duty や、同セントレジャーのエムピリウス Empyreus、テリフィック Terrific、ノットアゲイン Not Again、ウェリントンギニー勝ち馬*マニックス Mannix らを出しました。お馴染みの所では、タケノダイヤ(1978 牝 青鹿 by *テスコボーイ ― 京成杯3歳S、エリザベス女王杯-2着 他。ヒシマジェスティの祖母)の母の父も Gigantic ですね。
 おそらく Gigantic の輸出と成功は、後ほど見るように、先にオーストラリアへ送られていた Landau の評判も手伝ったものでしょう。それにしても、兄弟のうち、オセアニアに輸出されたこの2頭だけが後継牡馬を残しえたのは面白い点です。

 逆に、晩年の産駒2頭の場合は、血の古さも手伝って〈フィメールバイアス〉がより極端に表れました。Pindari はバックリー Buckley(1983 牡 by Busted ― ドンカスターC 他)の、*ジャヴリンはカツラノハイセイコ(1976 牡 黒鹿 by ハイセイコー ― ダービー、天皇賞 他)ファインドラゴン(1976 牡 栗 by *バダクシャーン ― 京都新聞杯、阪神大賞典 他)らの、それぞれ母父として、偉大な母の血をアピールしています。あるいは、ゴーゴーゼット(1991 牡 鹿 by サッカーボーイ ― 日経新春杯、アルゼンチン共和国杯、中日新聞杯 他)の母系にも、*ジャヴリン 〜 Sun Chariot の名が見えますね。
 この辺り、ダブルコピー牝馬セレーネ Selene の面目躍如、といった感があり、また良血近交馬の「繁殖に入っての有効性」を窺い知れる点でもあります。大体 Big Game x Sun Chariot なんて、いかにも繁殖向きの相似交配ですもんねぇ。
 さて、牝系図を離れる前にもう一点、確認しておきたいことがあります。Sun Chrariot の全妹 Calash からは、1957年の英オークス馬カーロッツァ Carrozza が出ていますね。これは父が Dante、つまり Landau とは同血のイトコにあたる存在。
 ある牝系のうち、あまり繰り返されなかったにもかかわらず、特定の配合だけが大きな成果を上げている。――どうやら Sun Chariot の配合は、同期の相似血統 Big Game よりも、案外3歳下の名馬 Dante との方にマッチしたようです。そこで次に、この配合が何を意味するか、考えてみることにしましょう。


ハイペリオンとネアルコの青い出会い

 Landau の祖父2頭、すなわち Nearco と Hyperion の間には、Nearctic を例外に、近親憎悪とも形容すべき〈ネガティヴ・ニック negative nick〉がありました。が、Nearco から一代下った Dante や Sayajirao になると、母方の妙なる血統を材料に、一部 Hyperion との和解を成功させます。


  〜 Dante / Sayajirao × Hyperion 〜

Dante or Sayajirao x Hyperion の娘
ブリムストーン Brimstone(1947 牡 = オーストラリアで種牡馬として成功)
ランドー Landau(1951 牡 黒鹿 ― サセックスS/英 = 同じくオーストラリアで成功)
イースタングラマー Eastern Glamour(1951 牝 ― チェリーヒントンS/英)
アーデントナイト Ardent Knight(1953 牡 黒鹿 = インドで種牡馬として成功)
カーロッツァ Carrozza(1954 牝 黒鹿 ― 英オークス)
*マントン Damask(1954 牝 栗)→ … → カミノスミレ ― 目黒記念、天皇賞2着 他
ディレンマ Dilemma(1957 牝)→ Predicament ― プリンセスロイヤルS/英
        → … → Mister Wonderful ― アメリカンH/米G1、クリテリオンS/英G3
*パースイト Pursuit(1958 牝 黒鹿)→ ハードイット ― 神戸新聞杯、京都新聞杯


Dante or Sayajirao x Hyperion の孫娘
ダーレーン Darlene(1955 牝 ― ナッソーS/英)
        → Homeric ― ダービートライアルS/英、英セントレジャー2着
ペレニアル Perennial(1955 牝)→ Bolkonski ― 英2000ギニー 他
サチノヒメ(1957 牝 黒鹿)→ … → スーパークリーク ― 菊花賞、春・秋天皇賞 他
ハイヌーン High Noon(1959 牡 ― クレイヴンS/英)

 中でも、実績/配合の両面でひときわ輝きを放つのが、Landau および Carrozza の配合。まずは5代半血統表にてご覧下さい。

Landau 1951 牡 黒鹿(≒ Carrozza 1954 牝 黒鹿)/ FNo. 3-o / Dante 系
Dante
1942 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris
1913 黒鹿
Polymelus Cyllene
Bromus Sainfoin
Scapa Flow
1914
Chaucer St. Simon
Anchora Love Wisely
Nogara
1928 鹿
Havresac
1915 黒鹿
Rabelais St. Simon
Hors Concours Ajax
Catnip
1910 鹿
Spearmint Carbine
Sibola The Sailor Prince
Rosy
Legend
1931 黒鹿
Dark Legend
1914 黒鹿
Dark Ronald
1905 黒鹿
Bay Ronald Hampton
Black Duchess
Darkie Thurio
Golden
Legend
1907 鹿
Amphion Rosebery
St. Lucre St. Serf
Rosy Cheeks
1919 黒鹿
St. Just
1907
St. Frusquin St. Simon
Justitia Le Sancy
Purity
1903 鹿
Gallinule Isonomy
Sanctimony St. Serf
Sun Chariot
1939 鹿

(= Calash)
1944
Hyperion
1930
Gainsborough
1915 鹿
Bayardo
1906 鹿
Bay Ronald Hampton
Black Duchess
Galicia Galopin
Rosedrop
1907
St. Frusquin St. Simon
Rosaline Trenton
Selene
1919 鹿
Chaucer
1900 黒鹿
St. Simon Galopin
Canterbury
Pilgrim
Tristan
Serenissima
1913 鹿
Minoru Cyllene
Gondolette Loved One
Clarence
1934 鹿
Diligence
1919
Hurry On
1913
Marcovil Marco
Tout Suite Sainfoin
Ecurie
1914
Radium Bend Or
Cheshire Cat Tarporley
Nun's Veil
1930 黒鹿
Friar Marcus
1912 黒鹿
Cicero Cyllene
Prim Nun Persimmon
Blanche
1912 鹿
White Eagle Gallinule
Black Cherry Bendigo
Black Duchess
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547 / 9代クロス血統表はこちら

 この血統表で、近交系の構造を大体つかむことができるでしょう。Hyperion の母方が Nearco と、父方が Rosy Legend と、いずれも大雑把に相似な関係を形づくっています。現代なら多重近交と呼んでも良いくらいですが、これでも、Sun Chariot 産駒の中ではアウトブリード寄りなんですよ。(^^;

 ここでのポイントは、そうした父−母父の相似性に加えて、祖母 Clarence の血が意外なほどよく効いていること。Blanche は Gallinule や Black Duchess を通じて Rosy Legend の近交系をしっかりと支え、Hurry On の奥にある Sainfoin 〜 Springfield、Thurio 〜 Cremorne も Dante と呼応しています。そしてこの部分には、配合の中心である St. Simon も備えられているのです(7代目に2本)。

 Dante 系に関するニックス考において、鞘次郎は Dante と Solario や Owen Tudor とのニックを論証しようとしました。上表とそれらマッチングテストとを比べれば、この配合における祖母の価値、ひいては Dante x Hyperion 牝馬の中でも特にこの配合が図抜けた成功を収めた理由まで、さらによくおわかりいただけようかと思います。

王子、流刑地へ

 以上に見たように、父の仔としても母の仔としても屈指の実力と、それを裏付ける血統構成を有していた Landau。通常なら彼は、女王陛下からリース返却という形をとり、国立牧場で種牡馬入りするはずでした。
 ところが Landau は、4歳時早くもオーストラリアへ輸出されることになります。

 すでにかの地には、同じ Dante x Hyperion 牝馬という配合の種牡馬ブリムストーン Brimstone が入っており、この年、初年度の牝駒ブリムセス Brimses がVATCコーフィールド1000ギニーとAJCフライトSを勝ったことで、一躍注目を浴びました(同期のセン馬ベイストーン Baystone は、3年後にメルボルンCを制覇)。
 また、ちょうど快速スターキングダム Star Kingdom(現役時代はアバーナント Abernant のライヴァル。後に豪州で大父系を築く)が導入されて着々と成果を準備しつつあった頃でもあり、同じ Hyperion の血を引く快速馬 Landau に次なる触手が伸びたのも、あるいは当然の展開と言えるのでしょう。

 もっとも、この時期イギリス連邦を率いる英国は、大英帝国時代の求心力を失い、解体の危機に瀕していました。そのため、連邦傘下に残ったカナダ・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカ(のち61年に離脱、入れ替わりにアフリカの新興国が続々加盟する)の各国に対しては、格別の配慮が払われていたと言われます。
 そんな中で、因縁も含めて良血中の良血とも言うべき Landau を、連邦の有力構成国に輸出する――こうした動きには、当事者たちの思惑を越えて、何らかの政治的意図が見え隠れしているような気も、しないではありません。

 そうした文脈を背負って、Landau はかつての流刑地・豪州大陸に渡り、種牡馬生活を始めます。待遇も上々、毎年良質の繁殖牝馬を集めたことも手伝って、Landau は以下のような産駒を出しました。

  〜 ランドー Landau の産駒 (太字は重賞勝ち馬)

シェーズ Chaise   (1956 牝 母:Ladoga/BMS:Djebel ― VATCコーフィールド1000ギニー)
アノニム Anonyme (1956 牡 母:La Patrice/BMS:St. Magnus ― VATCトゥーラクH、VATCインヴィテーションS(連覇) 他)
リムジン Limousine (1957 牝 黒鹿 母:Roshanara/BMS:Dhoti ― VATCデビュッタントS)→ Star Glitter ― WATCローマC
カンポ  Campo(1957 牡 母:Savannah/BMS:Jock ― QTCブリスベンC)
インパルシヴ Impulsive(1957 牝 黒鹿 母:Spitfire/BMS:Hostile) → Reckless ― 77年カップ戦線で大活躍
クシパルワニ Kuch Parwani (1957 牝 鹿 母:Resignation/BMS:Zaimis) → … → Imposing ― 79年マイル戦線を席巻
ラインズマン Reinsman(1957 牡 母:Vicereine/BMS:Dhoti ― VRCアスコットヴェイルS、VRCセントレジャーS)
ニコポリス  Nicopolis(1959 牡 黒鹿 母:Ballater Belle/BMS:Piping Time
  ― WATCオーストレイリアンダービー、VATCトゥーラクH(連覇)、VATCインヴィテーションS 他)
サンタランド Santaland(1962 牡 母:San Finilo/BMS:Sansofine ― WATCローマC、WATCベルモントスプリント)
ザルーク   Zarook(1962 牡 母:Braving Love/BMS:Enfield ― QTCブリスベンH、QTCクイーンズランドC)
センドリオン Cendrillon(1963 牝 母:Pantoufle/BMS:Pan ― VATCフューチュリティS、VATCコーフィールド1000ギニー)
ペルメッソ  Permesso(1964 牡 母:Allow Me/BMS:Amber ― VATCデビュッタントS)
ティケッツ   Tickets(1967 牝 栗 母:Tranquil Liza/BMS:Makarpura) → … → All Our Mob ― 短距離G1を2勝
ファーエイス Phar Ace(1968 セン 母:Degree/BMS:High Peak ― SAJCアデレードC 他)

 オセアニアらしく、1000m未満のスプリント勝負から3200mのハンデ戦まで、また2歳重賞から古馬のカップレースまで、産駒の勝ち鞍は多岐に及んでいます。
 またこれらの配合を見る限り、Anonyme や Chaise のように Pharos をクロスした形と、Campo や Nicopolis のように Gainsborough をクロスした形、の2群に大きく分けられます。一種の選択によって血統構成がシンプルになっているわけですが、あるいはそのメカニズムを「早めに(かつ良好な周辺血脈を伴って)くっつくことができた Nearco と Hyperion が前面にある場合、片方をクロスするだけでかなりの程度機能しうる」のだと言い換えることも、できるかもしれません。

 Landau は、代表産駒 Nicopolis が後継種牡馬となり奮戦したものの、やがて前述の Star Kingdomベターボーイ Better Boy(1951 牡 鹿 by My Babu ― 豪リーディングサイアー4回)らとの主流争いに敗れ、野に下りました。今では一部の牝系に名を見るばかりとなっています。
 ちなみに、Carrozza の息子 Battle-Waggon も、後にニュージーランドへ輸出され、AJCダービーのバトルサイン Battle Sign などを出して成功しましたが、直系はほとんど残っていません。
 そんな過程を経ながら、近年改めて注目されるのは、シャトル種牡馬として良績を上げる*ラストタイクーン Last Tycoon らとの間に、Dante=Sayajirao の〈全きょうだいクロス〉をつくるパターンでしょうか。…例えば、ニュージーランドの女傑、タイクーンリル Tycoon Lil。

Tycoon Lil 1994 牝 鹿 ― 新1000ギニー勝ち、4日後の同2000ギニーも2着
他に豪G1ジョージメインSとヤルンバSを2着、コックスプレートを3着
*ラスト
タイクーン
Last Tycoon
1983 鹿
*トライ
マイベスト
Try My Best
1975 鹿
Northern
Dancer
1961 鹿
Nearctic
1954 黒鹿
Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Natalma
1957 鹿
Native Dancer Polynesian
Almahmoud Mahmoud
Sex Appeal
1970
Buckpasser
1963 鹿
Tom Fool Menow
Busanda War Admiral
Best in Show
1965
Traffic Judge Alibhai
Stolen Hour Mr. Busher
Mill Princess
1977 鹿
Mill Reef
1968 鹿
Never Bend
1960 鹿
Nasrullah Nearco
Lalun Djeddah
Milan Mill
1962 鹿
Princequillo Prince Rose
Virginia Water Count Fleet
Irish Lass
1962 鹿
Sayajirao
1944 黒鹿
Nearco Pharos
Nogara
Rosy Legend Dark Legend
Scollata
1952 鹿
Niccolo Dell'Arca Coronach
Nogara
Cutaway Fairway
Imposing
Bloom
1985
Imposing
1975
Todman
1954
Star Kingdom
1946
Stardust Hyperion
Impromptu Concerto
Oceana
1947 鹿
Colombo Manna
Orama Diophon
Hialeah
1963
Arctic Explorer
1954 黒鹿
Arctic Prince Prince Chevalier
Flirting Big Game
Kuch Parwani
1957 鹿
Landau Dante
Resignation Zaimis
Lorelei Lee
1978
Sea Anchor
1972
Alcide
1955 鹿
Alycidon Donatello
Chenille King Salmon
Anchor
1966
Major Portion Court Martial
Ripeck Ribot
Millie Mellay
1971
Mellay
1961
Never Say Die Nasrullah
Meld Alycidon
Millie Small
1963
My Pal Abadan
Vestment Lady Cassock
SireLine for Windows Ver1.50 - Build 547 / 9代クロス血統表はこちら

 この牝馬、繁殖生活から現役復帰との話がありましたが、結局どうなったんでしょうねぇ…。あ、そうそう、同期のラバラカ La Baraka (1994 牝 by Euclase ― ザギャラクシー/豪G1、RNアーウィンS/豪G3 他)も同型の〈全兄弟クロス〉を持ってましたね。こちらは父の母方に Landau 。

2000/09/07 ― ( Revised on 09/10,2001/02/22 )
On the authority of ―― 山野浩一:『伝説の名馬 PartIV』, 中央競馬PRセンター, 1997
and
Australian Stud Book 2000 - Australian Jockey Club and Victoria Racing Club


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