〈伴性血縁血統表〉で読む名牝たち(前編)

 私はこの講義で何か新しいことあるいは独創的なことを言うつもりはない。
しかし、ある新しい有利な地点から、親しみのあるよく知られた事物を
ひっくり返して言うことによって、古い事実がより深い意味を帯びてくる
のではないかと、私は大いに信じるものである。それは抽象画を逆さまに
持つようなものだ。それで絵の意味が突然明確になるとまでは言わないが、
隠されていた構成上の何らかの構造がおのずと表れてくるかもしれない。
James T. Bonner : The Evolution of Development, Cambridge Univ. Press, 1958


牝馬だけの血統表

 〈X染色体径路上クロス〉や〈ダブルコピー牝馬〉、〈フィメイルバイアス/フィリーサイアー〉などの概念や、その前提となる〈伴性遺伝〉について語る時、鞘次郎がいつも歯がゆく思うのは、「●代目にあるから云々」という言い方では正確さに欠けるということでした。

 一般に生物の遺伝において、X染色体は、父(XY)から娘(XX)へはほぼ100%、一方母(XX)から息子(XY)および娘(XX)へは約50%の確率で伝えられます。したがって、最も効率よく伝わるのは母の父の母の父の母の父の…と辿る〈BMSライン(父系、牝系に続く第三の概念!)です。逆に、牝馬を連続して経由すると、遺伝子が伝わる確率も低くなります。
 このことを言い換えると、ある牝馬にとって「父の母の父」と「母の父」は同等の影響力を持ちうる、ということになります。さらに敷延すれば、例えば「父の母の父の母の父の母の父の母の父の母」(^^;;; すなわち父のBMSライン上9代目(自身から数えて10代目)にあたる祖先も、「母の母の母の母の母」すなわち5代母にあたる祖先と、伴性遺伝的な意味においては同等の影響力を持ちうるわけです。

 そうすると、通常のいわゆる血統表では、伴性遺伝の影響力を正しく読むことは非常に難しくなってしまいます。そこで「じゃあX染色体径路上の牝馬だけで血統表を作り直してみよう」と考えるのは論理の(電波の?)ごく自然な流れでしょう。

ある牝馬の通常4代血統表
父の父
父父父
父父父父
父父父母
父父母
父父母父
父父母母
父の母
父母父
父母父父
父母父母
父母母
父母母父
父母母母
母の父
母父父
母父父父
母父父母
母父母
母父母父
母父母母
母の母
母母父
母母父父
母母父母
母母母
母母母父
母母母母
上表背景色の意味:
非伴性血縁
上の牡馬
伴性血縁
上の牡馬
非伴性血縁
上の牝馬
伴性血縁
上の牝馬
同左
…伴性遺伝効果を伝える
部分に注目してみると…
父の父
父父父
父父父父
父父父母
父父母
父父母父
父父母母
父の母
父母父
父母父父
父母父母
父母母
父母母父
父母母母
母の父
母父父
母父父父
母父父母
母父母
母父母父
母父母母
母の母
母母父
母母父父
母母父母
母母母
母母母父
母母母母
伴性血縁上での牡牝の差:
牡馬は母のX染色体を受け取る
(言ってみればほとんど
素通りしているようなもの)
牝馬は両親(実は父の母
から
X染色体を受け取る
3代伴性血縁血統表
…牡馬のいない方が
スッキリする! (・∀・)
父の母
父母父母
父母父母父母
父母父母母
父母母
父母母父母
父母母母
母父母
母父母父母
母父母母
母母
母母父母
母母母
径路の微妙な違い:
息子の娘を通じてX染色体を
伝える牝馬(="パス")
を通じてX染色体を
伝える牝馬(="ドリブル")

 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | そんなに難しいこと |
 | してるわけじゃない |
 |_________|
    ∧∧ ||
    ( ゚д゚)|| チョト面倒な
    / づΦ  だけだぞゴルァ
 と言っても、この考え方は別に鞘次郎のオリジナルではありません。2年ほど前、ニフティで【名牝鑑賞】など刺激的な研究を発表されていたhat師が、「牝馬限定血統表」と題して Mumtaz Begum の奇妙な血統表を掲示されていた(※ HPに再録)時は、鞘次郎も新鮮な驚きを覚えたものでした。
 …だけどあの時はすぐ「あらら、私も同じようなことを以前考えていました」なんてレスがついてたっけ。
 今回、某電話魔氏からいただいたご質問をきっかけに、以下のようなフォーマットを作ってみました。題して(5代)伴性血縁血統表〉。いちいち作るのは手間がかかりますが、名牝の発見と分析、分類には大きな力を発揮するハズです。

牝馬のための〈5代伴性血縁血統表〉
父の母 父の母の
父の母
父母父母の父母 父母父母父母の父母 父母父母父母父母の父母
(父のBMSライン上9代目)
父母父母父母父母の母
父母父母父母の母 父母父母父母母の父母
父母父母父母母の母
父母父母の母 父母父母母の父母 父母父母母父母の父母
父母父母母父母の母
父母父母母の母 父母父母母母の父母
父母父母母母の母
父の母の母 父母母の父母 父母母父母の父母 父母母父母父母の父母
父母母父母父母の母
父母母父母の母 父母母父母母の父母
父母母父母母の母
父母母の母 父母母母の父母 父母母母父母の父母
父母母母父母の母
父母母母の母 父母母母母の父母
父母母母母の母
(父の5代母)
母の父母 母父母の父母 母父母父母の父母 母父母父母父母の父母
(BMSライン上9代目)
母父母父母父母の母
母父母の母 母父母母の父母
母父母母の母
母父母の母 母父母母の父母 母父母母父母の父母
母父母母父母の母
母父母母の母 母父母母母の父母
母父母母母の母
母の母 母母の父母 母母父母の父母 母母父母父母の父母
母母父母父母の母
母母父母の母 母母父母母の父母
母母父母母の母
母母の母 母母母の父母 母母母父母の父母
母母母父母の母
母母母の母 母母母母の父母
母母母母の母(5代母)
SireLine 改メ HeartLine


驚異のダブルコピー牝馬たち

 さて〈伴性血縁血統表〉の仕組みをざっとご理解いただいた所で、早速これを用いて、競馬史に残る名牝たちを見て行きたいと思います。

*サドラーズギャル 1989 牝 鹿 ― *エルコンドルパサーらの母
Fairy Bridge
1975 鹿
Lalun
1952 鹿
Djezima
1933
Astrella Vellena
Saint Astra
Heldifann Armenia
Banshee
Be Faithful
1942 黒鹿
La Troienne Rondeau
Helene de Troie
Bloodroot Blossom Time
Knockaney Bridge
Special
1969 鹿
Trevisa
1951
Guiding Star Miss Matty
Ocean Light
Veneta Staylace
Dogaresa
Thong
1964 鹿
Shimmer Flambino
Broad Ripple
Rough Shod Flying Diadem
Dalmary
Glenveagh
1986 鹿
My Charmer
1969 鹿
Glamour
1953 鹿
Mumtaz Begum Malva
Mumtaz Mahal
Striking Brushup
Baby League
Fair Charmer
1959
Busher Brushup
Baby League
Myrtle Charm Winds Chant
Crepe Myrtle
Lisadell
1971 鹿
Trevisa
1951
Guiding Star Miss Matty
Ocean Light
Veneta Staylace
Dogaresa
Thong
1964 鹿
Shimmer Flambino
Broad Ripple
Rough Shod Flying Diadem
Dalmary
SireLine 改メ HeartLine

 これがあの*サドラーズギャル Sadlers Gal ……!? あはは、随分シンプルになっちゃいましたねぇ。息子のドギツい血統表の印象が強いだけに、ちょっぴり意外なくらい。(^^; 実際もう少し遡ると La Troienne やら Blossom Time やらのクロスも登場するのですが、大雑把に言ってクロスとしてはこの2組の全姉妹クロスがメインです。
 ただ、勘違いするとマズいのは、この血統表においても、決して「クロスしている部分がすべて」ではないこと。例えば一番上の Lalun の部分にはクロスが見当たりません。しかし実はここも、Djezima、La Troienne、Bloodroot とダブルコピー的な名牝で占められており、それらの影響を軽視することはできないのです。Mumtaz Begum、Crepe Myrtle の部分もまた然り。クロスが「パス」なら、これはさしずめ「ドリブル」てな所でしょうか。そういった意味でも、当馬の伴性遺伝的血統構成は優れたものだと言えます。
 ちなみに、こういう同一名牝系同士の配合というものは、ドイツの大牧場など、一部で盛んに行われていたりします。が、当馬の生産者の場合は折角試みておいて途中で諦めてしまったのでしょうか、彼女はアイルランドの片田舎に流れ着いていたそうです。それを競り名簿で見つけた渡邉隆氏が、競りに欠場した(まだ見ぬ!)彼女を求めて購入し、さらには何とそこに「プロも怖くてできない」多重近交になる Kingmambo を付けて*エルコンドルパサーが生まれたのですから、いやぁ面白いッ。何と言ってもオーナーブリーダーの存在意義を示す出来事ですよね。
 なお、当馬は昨年日本に輸入されています。渡邉オーナーとしては、輸入初年度は*サンデーサイレンス、2年目は*ジェイドロバリー、3年目は*フォーティナイナーを種付けしてそのままアメリカに戻す、という心積もりをされているようです(『優駿』1999年10月号のインタヴューによる)。優秀な後継牝馬が出ることを願って止みません。


Doff the Derby 1981 牝 鹿 ― *ジェネラス、Imagine らの母
Madam Jerry
1961
Canina
1941
Plucky Liege
1912 鹿
Maid of the Mint Mint Sauce
Warble
Concertina St. Angela
Comic Song
Coronium
1934
Polly Peachum Maid of the Mint
Lindoiya
Bird Call Merry Agnes
Bird i'th' Hand
Our Kretchen
1955
Admiral's Lady
1942 黒鹿
Brushup Pink Domino
Annette K.
Boola Brook Plucky Liege
Brookdale
Adjournment
1949
Instantaneous Tout Suite
Picture
Blank Day Trimestral
Futility
Margarethen
1962 黒鹿
Neocracy
1944 黒鹿
Nogara
1928 鹿
Hors Concours Amie
Simona
Catnip Maid of the Mint
Sibola
Harina
1933 鹿
Blanche Merry Gal
Black Cherry
Athasi Molly Morgan
Athgreany
Russ-Marie
1956 鹿
Mumtaz Begum
1932
Malva Goody Two-Shoes
Wild Arum
Mumtaz Mahal Vahren
Lady Josephine
Marguery
1938 鹿
Plucky Liege Maid of the Mint
Concertina
Marguerite Maid of Erin
Fairy Ray
SireLine 改メ HeartLine

 お次はドフザダービー Doff the Derby。不出走のまま繁殖入りし、次々と相手種牡馬を替えながら、産駒に ウェディングブーケ Wedding Bouquet (1987 牝 by Kings Lake ― パークS/愛G3、ナショナルS/愛G1-2着、フィーニクスS/愛G1-3着)*ジェネラス Generous (1988 牡 栗 by Caerleon ― デューハーストS/英G1、英ダービー/英G1、愛ダービー/愛G1、「キングジョージ」/英G1)*オースミタイクーン (1991 牡 鹿 by *ラストタイクーン ― マイラーズC/日G2、セントウルS/日G3、京王杯SC/日G2-2着)ストロベリーローン Strawberry Roan (1994 牝 鹿 by Sadler's Wells ― 愛1000ギニー/愛G1-2着)パデュアズプライド Padua's Pride (1988 牡 栗 by Caerleon ― 97年タタソールズセールで250万ギニー=約5億円という欧州セリ史上最高価格をつける。2000年末アメリカで勝ち上がり)イマジン Imagine (1998 牝 鹿 by Sadler's Wells ― 愛1000ギニー/愛G1、英オークス/英G1、パークS/愛G3) といった良馬を産んだ名繁殖牝馬です。1999年に惜しまれつつ亡くなりました。
 何と言っても兄妹/姉弟による英ダービー&英オークスの両制覇は、ピルグリミッジ Pilgrimage (1875 栗 by The Palmer ― 自身も英1000&2000ギニー両制覇の超名牝。後述 セレーネ Selene においてX染色体径路上クロス) の子どもたちを最後に、100年以上絶えてなかったこと。現代の生産頭数を考慮すれば、奇跡的な偉業とさえ言えます。

 ただ、当馬を通常の血統表で見ると、祖母ルスマリー Russ-Marie からタルヤー Tulyar (1949 牡 黒鹿 by Tehran ― 英ダービー、「キングジョージ」、エクリプスS、英セントレジャー 他。*セントクレスピンの半兄。※)マスターダービー Master Derby (1972 牡 栗 by *ダストコマンダー ― プリークネスS、ブルーグラスS) と2代続けて「現役時代は一流、種牡馬としては一枚落ち」な血が重ねられた構成で、一体何が上記の良績をもたらしたのか、今一つわかりにくいものがあります。
 しかし伴性血縁血統表では、その理由も明らかとなります。ダブルコピーの粋たる プラッキーリージュ Plucky Liege 〜 メイドオブザミント Maid of the Mint の流れを5本も取り込んだ構成は、なるほど現代の繁殖牝馬中でも図抜けた「明快さ」を誇るといって過言ではないのですから。
※ Tulyar は半兄*セントクレスピン同様、代表産駒が Ginetta、Castle Forbes とともに牝駒である上に、母父として非常に優秀でした。すなわち、ネオクラシー Neocracy (X染色体径路上に Simona=Simena:3x4 の全姉妹クロス) もまたダブルコピーである可能性がきわめて高いと言えるでしょう。Doff the Derby が Neocracy の恵みを受けつつ、含まれていた Maid of the Mint をクロスしている点にも注目してください。
 種牡馬としての*ジェネラスが、牝駒カテッラ Catella で現状唯一のG1勝ちをおさめ、また母父として早くもゴゥラン Golan を送り出している事実にも、やはり Doff the Derby とその中の Plucky Liege 〜 Maid of the Mint の存在が大きいと考えられます。

 なお、Doff the Derby の半妹で父が Hail to Reason に代わったトリリヨン Trillion からはトリプティク Triptych (1982 牝 鹿 by Riverman ― マルセルブサック賞/仏G1、愛2000ギニー/愛G1、チャンピオンS/英G1-連覇、コロネーションC/英G1-連覇 などG1を9勝)、同ヘイルマギー Hail Maggie からはサボナ Sabona (1982 牡 鹿 by Exclusive Native ― カリフォルニアンS/米G1) という一流馬が出ています。気になる方はそちらの伴性血縁血統表もお作りになってみて下さい。(^^)



Pacific Princess 1973 牝 鹿
       ― ビワハヤヒデ、ナリタブライアン、ファレノプシスらの祖母
Kerala
1958 鹿
Perfume
1921
Mumtaz Mahal
1921
Blanche Merry Gal
Black Cherry
Lady Josephine Sierra
Americus Girl
Lavendula
1930 黒鹿
Scapa Flow Canterbury Pilgrim
Anchora
Sweet Lavender Canterbury Pilgrim
Marchetta
Blade of Time
1938 黒鹿
Selene
1919 鹿
Canterbury Pilgrim Thrift
Pilgrimage
Serenissima Mother Siegel
Gondolette
Bar Nothing
1933 鹿
Blossom Time Angelic
Vaila
Beaming Beauty Pink Domino
Bellisario
Fiji
1960
Aurora
1936
Selene
1919 鹿
Canterbury Pilgrim Thrift
Pilgrimage
Serenissima Mother Siegel
Gondolette
Rose Red
1917 鹿
Canterbury Pilgrim Thrift
Pilgrimage
Marchetta Novitiate
Hettie Sorrel
Rififi
1954
All Moonshine
1941
Toboggan Tout Suite
Glacier
Selene Canterbury Pilgrim
Serenissima
Khanum
1944
Theresina Donnetta
Teresina
Fair Terms Scapa Flow
Phi-Phi
SireLine 改メ HeartLine

 デラウェアオークスなど23戦7勝のパシフィックプリンセス Pacific Princess も、近年日本の牧場(主に早田系)がその子孫を買い占めつつある、名繁殖牝馬です。上表をよくご覧いただければおわかりと思いますが、この配合の中にはダービー卿による強烈なダブルコピー牝馬が何頭も含まれています。
 なかでも目立つのは、ともに強い Canterbury Pilgrim のX染色体径路上クロスを持つ、ラヴェンデュラ Lavendula(1930 黒鹿 by Pharos ― Ambiorix の母、Singlspieler、My Babu、Turn-to らの祖母)オーロラ Aurora(1936 栗 by Hyperion ― 英1000ギニー2着。Borealis、Alycidon、Acropolis らの母)でしょう。つまりこの配合は、従姉妹同士に当たるそれらを、再びX染色体径路上で出会わせる(X染色体径路上の疑似クロス)という、何とも劇的な仕掛けになっているわけです。
 その上、同じくダブルコピーセレーネ Seleneを近い位置でトリプルクロスしているとなれば、思わず勝手に「近年最強のダブルコピー」なんて称号を捧げたくなっちゃいますね。
 およそ字面でこれに比肩しうるのは、英女王ゆかりの名牝ハイトオブファッション Height of Fashion くらいなものでしょう。他の類例…例えばアイリッシュスター Irish Star(1960 鹿 by Klairon ― Irish River の母)*スイートランデブー Sweet Rendezvous(1982 黒鹿 by Quiet Fling ― トーワウイナーの母)なども名配合ではありますが、両名牝にはさすがに及ぶべくもありません。
 Height of Fashion は、自身フィリーズマイルなど3戦不敗で英2歳女王となり、翌年もプリンセスオブウェールズSを制しました。そしてこの馬には、母(英1000ギニー、仏オークス、「キングジョージ」-2着) をも凌駕する驚異的な仕掛けが備わっていたのです。
Height of Fashion 1979 牝 鹿
          ― Alwasmi、Unfuwain、Nashwan、Nayaf らの母
Ship Yard
1963
Above Board
1947 鹿
Good Deal
1932
Angelina Isabel
Seraphine
Weeds Post Horn
Dandelion
Feola
1933 黒鹿
Prim Nun Perdita
Nunsuch
Aloe Mother-in-Law
Alope
Paving Stone
1946 鹿
Scapa Flow
1914
Canterbury Pilgrim Thrift
Pilgrimage
Anchora Lovelorn
Eryholme
Rosetta
1931 黒鹿
Karabe Campanule
Kizil Sou
Rose Red Canterbury Pilgrim
Marchetta
Highclere
1971 鹿
Jojo
1950
Queen of
the Meadows
1938
Scapa Flow Canterbury Pilgrim
Anchora
Queen of the Blues Lady Bawn
Blue Fairy
Fairy Jane
1939 鹿
Lady Juror Mother-in-Law
Lady Josephine
Light Tackle Salamandra
True Joy
Highlight
1958 鹿
Aurora
1936
Selene Canterbury Pilgrim
Serenissima
Rose Red Canterbury Pilgrim
Marchetta
Hypericum
1943 鹿
Selene Canterbury Pilgrim
Serenissima
Feola Prim Nun
Aloe
SireLine 改メ HeartLine

 なお、こうした強力なダブルコピー牝馬の力を利用して走った牡馬、すなわち*パシフィカスが産んだ2頭の年度代表馬や、英二冠および「キングジョージ」の(年度代表馬だと言うてやれんのが不憫…)ナシュワン Nashwan などは、先の*ジェネラス同様フィリーサイアーである可能性が高くなります(もちろん、スウェイン Swain のような「反」例だってありますけれど)。ですから、牡駒に出資する or 紙で指名する時は、くれぐれもお覚悟の上で。(^^;
 さらに一点、思考実験してみたいのは、上記2頭の類似なダブルコピー牝馬が、X染色体径路上で出会うパターン。ビワタケヒデ×Nashwan×Irish River みたいな累代で牝馬に出れば、生物学的なリスクを抑えつつ、大きな成果を得られるように思いますが、果たして。


メジロオーロラ 1978 牝 栗 ― メジロデュレン、メジロマックイーンらの母
Admonish
1958
Una
1930
Scotch Gift
1907 鹿
Siphonia St. Angela
Palmflower [F20-c]
Maund Ruth
Ianthe
Uganda
1921 黒鹿
Bitter Orange Gravity
Tragedy Queen
Hush Feronia [F8-d]
Silent Lady
Warning
1950
La Diva
1937 黒鹿
Blue Pill Sanctimony
Magnesie
La Traviata Toison d'Or
Tregaron
Vertencia
1945 鹿
Desra Pearmain
Desna
Advertencia Kizil Kourgan
Ad Gloriam
メジロアイリス
1964 黒鹿
Sonibai
1939 鹿
Sun Worship
1912 鹿
Sierra Viridis
Sanda
Doctrine Atalanta [F8-h]
Axiom
Udaipur
1929 黒鹿
Blanche Merry Gal
Black Cherry
Uganda Bitter Orange
Hush
アサマユリ
1959
神正
1938
Needle Rock Roquebrune
Needlepoint
*種正 Young
Man's Fancy
Scylla
Enthusiast's Last
トモエ
1951
*星友 Alzada Lady Sterling
Colna
アスエ Athasi
第六オーグメント
SireLine 改メ HeartLine

 ちょっと生年が前後しますが、日本の馬産も(膨大な試行の末、必然的に)ダブルコピー牝馬を輩出してきた証として、以下2頭を取り上げます。
 メジロオーロラの成功は、何よりもメジロ牧場の巧みな配合に負う所が大きい、とは配合通の異口同音に認める所。が、さらに一歩進んで、同じ*フィディオン/メジロティターンから、半姉メジロツシマ(1974 栗 by *バウンティアス ― 上記種牡馬との間にメジロトーマス&マーシャスを 生む。ダブルコピーっぽくはないが、常染色体的には一見の価値あり)以上の出力を得ることができた点には、オーロラ自身の資質の高さをうかがうことができるでしょう。

 ここでクロスしているウガンダ Uganda(1921 黒鹿 by Bridaine ― 仏オークス)は、アガ・カーン三世が大枚はたいて手に入れた名牝。その次女ウダイプール Udaipur(1929 牝 黒鹿 by Blandford ― 英オークス、コロネーションS 他8戦4勝)も、直孫*ヒンドスタンの他、*ソーダストリーム&*シザラの姉妹牝系から多くの活躍馬を出して、日本でもよく知られた存在です。
 ついでに言うと、Udaipur の全弟ウミドワール Umidwar(1931 牝 鹿 by Blandford ― チャンピオンS、ジョッキークラブS 他8戦4勝)は*モンタヴァルの祖父ですが、重要なフィリーサイアーでもあります。例えば Blushing Groom、Shirley Heights 中の位置に注目。
 でもって、もひとつ細かい話をすれば、Uganda の母父母は Sanctimony や Atalanta の父の母と同じ フェロニア Feronia(8号族d分枝の始祖で St. Serf の母、Ayrshire、Troon らの祖母。後述のドイツ牝系Rosy Legend でも強くクロスする存在。全姉 Violet は Melton、Mrs. Butterwick らの祖母)なので、表の外(伴性血縁6代目。表では小欄に表記)にあと3本、合計4本の Feronia が入って Uganda を支え、さらに強く表現していることになります。うーん、さりげなくよく出来てますね。
 この配合は*リマンドと*ヒンドスタンの間のニック(厳密には伴性遺伝的な相似性、言うなれば〈エックス・ニックス〉)に基づいていますから、応用するのは、実は比較的簡単です。テンモン(1978 牝 鹿 by *リマンド、祖母父*ヒンドスタン ― オークス、朝日杯3歳S、京成杯、桜花賞-2着)だって、きっと孫世代くらいまでには、良駒を出してくれるんじゃないでしょうか。※
※ 弥生賞3着のマイネルシアターが出ましたね。あと一息。


ホワイトナルビー 1974 牝 芦 ― オグリキャップ、オグリローマンらの母
Palsaka
1954
Una
1930
Scotch Gift
1907 鹿
Siphonia St. Angela
Palmflower [F20-c]
Maund Ruth
Ianthe
Uganda
1921 黒鹿
Bitter Orange Gravity
Tragedy Queen
Hush Feronia [F8-d]
Silent Lady
Masaka
1945 鹿
Nogara
1928 鹿
Hors Concours Amie
Simona
Catnip Maid of the Mint
Sibola
Majideh
1939
Mah Mahal Rosedrop
Mumtaz Mahal
Qurrat-al-Ain Hamoaze
Harpsichord
ネヴァーナルビー
1969 黒鹿
Bride Elect
1952 鹿
Myrobella
1930
Scotch Gift Siphonia
Maund
Dolabella Merry Gal
Gondolette
Netherton Maid
1944 鹿
Nogara Hors Concours
Carnip
Phase Resplendent
Lost Soul
センジュウ
1963 鹿
Montagnana
1937 鹿
Vitamine Quintessence
Viridiflora
Mauretania Scotch Gift
Lady Maureen
スターナルビー
1957 黒鹿
Rosy Legend Golden Legend
Rosy Cheeks
クインナルビー *星旗 Fairy Maiden
第一シュリリー
SireLine 改メ HeartLine

 数々の常識を打ち破り日本中を虜にしたオグリキャップ、その不屈の闘志、ラストランでの奇跡 ―― あるいは妹オグリローマンの桜花賞、鞍上さえ不思議がった最後の一伸び ―― これらミラクルな兄妹を語る時も、しばしば父種牡馬の資質より、配合の可能性というもの、さらには彼らの母ホワイトナルビーの優秀さが、注目を集めます。
 事実、彼女の産駒は父の異なる15頭全てが中央・地方で勝ち上がっており(合わせて中央14+公営119=133勝。ご教示感謝です>チャームさん&いたろうさん)、孫世代でもオグリダンディ(1994 芦 by *トロメオ ― 全日本三歳優駿)が出ています。そもそもこの一族は、一発大物に限定されるものではない活力ある牝系なのです。

 上記の伴性血縁血統表には、天皇賞馬クインナルビー以来4代、この一族について懸命に試み継がれてきた歴史的馬産の成果が、(ひょっとすると、地味にも見える通常の血統表以上に!)如実に表れています。
 何しろここにひしめき合っているのは、Una(快速牝馬。Hawaiiの母父母でもある)Uganda前項参照)以外も、スコブルつきの名繁殖ばかり。字面の充実ぶりではメジロオーロラをはるかに凌ぎます。父母母方は、まさか・マジで、ならぬ Masaka(英愛オークス)Majideh(愛1000ギニー、愛オークス。Gallant Man らの母)。母方には Bride Elect(クイーンメアリーS。Hethersett らの母、ダイタクリーヴァの項参照)Montagnana(*ガーサントの上には2頭のサンクルー大賞典勝ち馬)Rosy Legend次項および自身の項参照)*星旗(クモハタの上には月城=クレオパトラトマス!)と、いずれを眺めても、各時代を画す名牝が並んでいます。
 そして Tetratema、Nearco を通して成立したX染色体径路上クロスは、Scotch Gift が3本、Nogara が2本。ここでも前者は Tetratema 以外に Roi d'Ecosse や The Satrap などの快速を産んだ馬ですし、後者はイタリアの両ギニーを制し、テシオも自画自賛したほどの名馬でしたから、クロスの効果や推して知るべし。
 おまけにメジロオーロラの項で触れたように、Uganda のキーである Feronia も、Rosy Legend 内に2本、Lost Soul の父の母がまたも Sun Worship なので1本、Nogara から辿っていって Simona のBMSライン上にも1本ずつ、それぞれ遠い代ながら潜伏しており、これも不気味な部分です。

 オグリキャップは自身も(相加的に)名配合でしたが、それに加え、上に述べたような母方の豪華かつ的確な名牝の揃い踏みによって、類まれなスケールと安定感を伝えられていたのでしょう(クロスを敢行したホワイトナルビーの次世代で資質が頂点を極めたのも、また当然かな)。
 であれば、たとえオグリが後継牡駒に恵まれなくとも、彼の優れた血統はどこかできっと伝えられ、未来の馬産へ再び貢献するはずです。 奇跡は二度起こる、と私は信じます。知恵のカケラはその助けになる、とも。
※ 例えば先日引退した牝駒リップルによって…、と思ったら乗馬かいな、武田牧場さん。(ToT) せめてチャンスをぉ。


後編へつづく


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