偉大な早熟馬たち 〜 【1】仏2歳三冠馬(前)


序:そもさん、早熟とは何ぞ

 近年日本でも、外国産馬の増加や育成・調教技術の進歩に伴って、明け3歳S(現2歳重賞&OP)の増設、距離体系の多様化など、2歳路線の整備拡張が進みました。
 が、海外ではもう少しその傾向は顕著です。そのため2歳で圧倒的な結果を残した馬、例えばセクレタリアト Secretariat*アラジ Araziフェイヴァリットトリック Favorite Trick などが、2歳にして年度代表馬に輝くことさえあります。あるいはこれを、充実したトレーニングや活発なセール取引が全体を早熟化している、と見ることもできるでしょう。

 翻って日本では、血統評論分野を始めとして「出来損ないだからせいぜい早熟」という論調が、現状まだまだ残存しているように感じます。 ―― まれにPOGゲーマーなどで早熟至上主義を掲げる方もおられますけれど。(^^;
 確かに、完成度の相対的優位だけを取り得に、他馬が成長しきっていない間だけ優勢なのでは誉められたものではありません。しかし一部には、本当に早くから一流の能力を発揮する馬もいるはずです。
 また、厩舎経営の観点からすれば、馬房の回転率を上げるために「仕上がりやすさ」が事実上大きなファクターとなっているわけですし、それに合わせた番組の中では、じっくり使いつつ仕上げることが以前にも増して難しくなっています。これらを全て「近頃の悪習」と嘆くばかりでは、少々後ろ向きな態度と言わざるを得ません。

 その辺りを考え直すために、このシリーズでは偉大な早熟馬たちをケースごとに取り上げてゆきたいと思います。


仏2歳三冠体系

 「仏2歳三冠」とは、ちょっと耳慣れない言葉かもしれません。これは歴史的にフランスの2歳戦のうち、ロベールパパン賞、モルニー賞、仏グランクリテリウム、の3レースを総称するものです。
 ロベールパパン賞 Prix Robert Papin は7月のメゾンラフィット1100m、モルニー賞 Prix Morny は8月のドーヴィル1200m、仏グランクリテリウム Grand Criterium は10月のロンシャン1600mを舞台にそれぞれ行われており、いずれも伝統のある大レース。
 ただし、近年は地位の低下したロベールパパン賞(84年よりG2降格)に代わって、9月のサラマンドル賞 Prix de la Salamandre (G1・ロンシャン1400m)を数える場合もあります。
 2001年の番組改訂では、グランクリテリウムが200m短縮されて1週前の凱旋門賞当日に移される一方で、サラマンドル賞が全面改訂、11月初めにクリテリウムアンテルナシオナル Criterium International (G1・サンクルー1600m) として行われることになりました。両レースの関係が逆転した、と言えなくもないですね。
 これまで「賞金的にはG2に近い格下だが、愛G1ナショナルSとの使い分けが効くから便利」ってな調子で好メンバーを集めてきたサラマンドル賞。改訂後はどのような位置を獲得してゆくのか、興味深いです。
 他にもフランスの2歳G1には、牝馬限定のマルセルブサック賞 Prix Marcel Boussac Criterium des Pouliches (ロンシャン1600m。以前は単に Criterium des Pouliches として施行)、秋も終わりの中距離戦クリテリウムドサンクルー Criterium de Saint-Cloud (サンクルー2000m。88年よりG1昇格)があります。
 また、1999年*アグネスワールド&武豊騎手が優勝したアベイユドロンシャン賞 Prix de l'Abbaye de Longchamp (ロンシャン1000m) や、かつて*ノーザンテーストが制したフォレ賞 Prix de la Foret (ロンシャン1400m) は、本来斤量差を設けて2歳馬の出走を認める、大陸らしい「全世代型」のレースだったりします。いずれも2歳馬の勝利は20年以上絶えてありませんが。


 というわけで、まずは旧式の三冠概念を用いることにすると、今までにこれを達成したのは、1933年のブラントーム Brantome、1935年のミストレスフォード Mistress Ford、1945年のニルガル Nirgal、1970年の*マイスワロー My Swallow、そして1976年のブラッシンググルーム Blushing Groom と1991年その産駒*アラジ Arazi、と合計で6頭を数えます。
 次に新三冠の場合を考えると、上記6頭のうち四冠馬でもある3頭に加え、1978年のアイリッシュリヴァー Irish River、1990年の*ヘクタープロテクター Hector Protector の2頭が挙げられます(…1964年のグレイドーン Grey Dawn は苦しいかな? ^^;)。
 これら8頭は、下表に見るように、2歳三冠の翌年以降も(程度の差はあれ)「売り切れ」ず活躍を続けました。その意味で彼らは単なる早熟性を凌駕する、より豊かな資質の持ち主だったと言えるでしょう。そうした彼らの資質が、血統構成の上にも表れ出ているのかどうか、ひねり過ぎない程度に ^^; 考え、読み解いてみたいと思います。

 では、例によって最近のものから、時代を遡りつつ見て行くことに致しましょう。

〜 仏2歳三冠馬(四冠馬、新三冠馬を含む) 8頭 〜
馬名生年2歳時成績
翌年以降の実績生涯成績
*アラジ Arazi1989Blushing Groom
8戦7勝
 2歳四冠に加えて北米のBCジュヴェナイルまで完全制覇、しかし翌年は大望実らずG2止まり14戦9勝
*ヘクタープロテクター Hector Protector1988Woodman
6戦6勝
 2歳新三冠から仏2000ギニーまで8連勝、英ダービー-4着と減速後もジャックルマロワ賞勝ち12戦9勝
アイリッシュリヴァー Irish River1976Riverman
6戦5勝
 ロベールパパン賞-4着ながら2歳新三冠。翌年も2000m以下では無敵、仏G1を4勝12戦10勝
ブラッシンググルーム Blushing Groom1974Red God
6戦5勝
 2歳四冠から仏2000ギニーまで7連勝、英ダービー-3着。種牡馬として大成功10戦7勝
*マイスワロー My Swallow1968Le Levanstell
7戦7勝
 初の四冠など2歳時不敗。英2000ギニーでは2頭の名馬と渡り合う。その後ジュライC-2着11戦8勝
ニルガル Nirgal1943Goya
5戦5勝
 3歳時は病欠も、古馬になって長く活躍。英遠征多数、凱旋門賞-2着29戦14勝
ミストレスフォード Mistress Ford1933Blandford
(不詳)
 唯一の2歳三冠牝馬。翌年は仏オークス、ヴェルメイユ賞を制す。母としても優秀(不詳)
ブラントーム Brantome1931Blandford
4戦4勝
 翌年は仏2000ギニー、リュパン賞、(ダービーは病欠、)ロイヤルオーク賞、凱旋門賞。
 さらに4歳のカドラン賞まで無敗のまま11連勝。戦乱に翻弄されながら種牡馬としても成功
14戦12勝



*アラジ Arazi 1989 牡 栗 / FNo. 7 / Blushing Groom 系
Blushing
Groom
1974
Red God
1954
Nasrullah
1940 鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Mumtaz Begum
1932 鹿
Blenheim Blandford
Mumtaz Mahal The Tetrarch
Spring Run
1948 鹿
Menow
1935 黒鹿
Pharamond Phalaris
Selene
Alcibiades Supremus
Boola Brook
1937 鹿
Bull Dog Teddy
Brookdale Peter Pan
Runaway Bride
1962 鹿
Wild Risk
1940 鹿
Rialto
1923
Rabelais St. Simon
La Grelee Helicon
Wild Violet
1935 鹿
Blandford Swynford
Wood Violet Ksar
Aimee
1957 鹿
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor Hyperion
Sansonnet Sansovino
Emali
1945 鹿
Umidwar Blandford
Eclair Ethnarch
*ダンスール
ファビュルー
Danseur
Fabuleux
1982 鹿
Northern Dancer
1961 鹿
Nearctic
1954 黒鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Lady Angela
1944
Hyperion Selene
Sister Sarah Abbots Trace
Natalma
1957 鹿
Native Dancer
1950
Polynesian Unbreakable
Geisha Discovery
Almahmoud
1947
Mahmoud Blenheim
Arbitrator Peace Chance
Fabuleux Jane
1974
Le Fabuleux
1961 鹿
Wild Risk
1940 鹿
Rialto Rabelais
Wild Violet Blandford
Anguar
1950 鹿
Verso Pinceau
La Rochelle Easton
Native Partner
1966 鹿
Raise a Native
1961
Native Dancer Polynesian
Raise You Case Ace
Dinner Partner
1959 鹿
Tom Fool Menow
Bluehaze Blue Larkspur
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 早熟名馬の代表一番手は、ポールソン氏の「ワンダーホース」こと*アラジ Arazi。当馬はデビュー戦こそ2着だったものの、準重賞ですぐに巻き返し、そのままG3ボワ賞からG2ロベールパパン賞、G1モルニー賞、サラマンドル賞、仏グランクリテリウムと6連勝で
父ブラッシンググルーム Blushing Groom 以来15年ぶりに仏2歳四冠を達成。さらには大西洋を渡りBCジュヴェナイルに出走すると、道中不敵な捲り戦法で4-3/4馬身差の圧勝を飾りました。この年、華麗な戦績をもってカルティエ全欧年度代表馬とエクリプス賞米最優秀2歳牡馬のダブル受賞を勝ち取っています。
 際限なく膨らむ期待を背に、翌年の陣営(権利の半分をモハメド殿下が購入)は、なんと米・英の両ダービー制覇を企てました。緒戦を勝利で8連勝としたものの、*ドクターデヴィアスとともに挑んだケンタッキーダービーではあえなく8着と敗れ、エプソムは見送り。
 以降はロイヤルアスコットのマイル戦セントジェームジズパレスSが5着、10fのプランスドランジュ賞で3着と苦戦が続いたため、凱旋門賞当日のマイルG2ロンポワン賞で半年ぶりの勝利を上げた時には、観客は大いに拍手喝采したと伝えられます。しかしBCマイルでは喉に舌が詰まったとかでまたも11着惨敗。これを最後に引退しました。

 *アラジの配合では、父の Blandford & The Tetrarch 的な構造を引き継ぐに際し、敢えてこれを Nasrullah ≒ Mahmoud 程度の弱い表現に留め、本線は別の Menow 〜 Pharamond (=Sickle) に求められています。
 *ジムフレンチや*ダンシングキイでお馴染みの名繁殖ディナーパートナー Dinner Partner は、Nijinsky の母 Flaming Page と互いに相似ですから、*アラジの配合は、母*ダンスールファビュルーを大雑把に「擬似 Nijinsky」と見立てての応用ニックだとも言えるのでしょう。

 種牡馬となっては、馬格の無いのが泣き所ながら、2世代目以降*ドラールアラビアン (1995 牡 鹿 out of Indict / by *ポリッシュネイビー ― 帝王賞/統一G1-ハナ差2着、大井記念/南関G2)ファーストマグニテュード First Magnitude (1996 牡 栗 out of Crystal Cup / by Nijinsky ― コンセイユドパリ賞/仏G2、エドゥヴィル賞/仏G2、ジャンドショードネイ賞/仏G2)アメリカ America (1997 牝 out of Green Rosy / by Green Dancer ― ヴァントゥー賞/仏G3、マルレ賞/仏G2)コンガリー Congaree (1998 牡 out of Mari's Sheba / by Mari's Book ― ウッドメモリアルS/米G1、ケンタッキーダービー/米G1-3着、プリークネスS/米G1-3着) と堅実に良駒を出しています。代表産駒に Northern Dancer クロス、特に Nijinsky を導入してのものが目立つのは当然ですね。
 ただ、*アラジ自身、相似配合と言うには少々荒っぽいところがあったので、自身の成長力や産駒の切れに物足りなさを招いた節はあります。
 2001年には日本でのファーストクロップがデビュー。*マルゼンスキー牝馬との交配、できれば荒っぽさを補うために仏血も生かしたパターン(例:ケイローマン-99)で、何頭かは活躍馬を出せるのではないでしょうか。



*ヘクタープロテクター Hector Protector 1988 牡 栗 / FNo. 22-b / Mr. Prospector 系
Woodman
1983
Mr. Prospector
1970 鹿
Raise a Native
1961
Native Dancer
1950
Polynesian Unbreakable
Geisha Discovery
Raise You
1946
Case Ace Teddy
Lady Glory American Flag
Gold Digger
1962 鹿
Nashua
1952 鹿
Nasrullah Nearco
Segula Johnstown
Sequence
1946 青鹿
Count Fleet Reigh Count
Miss Dogwood Bull Dog
*プレイメイト
Playmate
1975
Buckpasser
1963 鹿
Tom Fool
1949 鹿
Menow Pharamond
Gaga Bull Dog
Busanda
1947
War Admiral Man o'War
Businesslike Blue Larkspur
Intriguing
1964
Swaps
1952
Khaled Hyperion
Iron Reward Beau Pere
Glamour
1953 鹿
Nasrullah Nearco
Striking War Admiral
Korveya
1982
Riverman
1969 鹿
Never Bend
1960 鹿
Nasrullah
1940 鹿
Nearco Pharos
Mumtaz Begum Blenheim
Lalun
1952 鹿
Djeddah Djebel
Be Faithful Bimelech
River Lady
1963 鹿
Prince John
1953
Princequillo Prince Rose
Not Afraid Count Fleet
Nile Lily
1954 黒鹿
Roman Sir Gallahad
Azalea Sun Teddy
Konafa
1973 鹿
Damascus
1964 鹿
Sword Dancer
1956
Sunglow Sun Again
Highland Fling By Jimminy
Kerala
1958 鹿
My Babu Djebel
Blade of Time Sickle
Royal Statute
1969 鹿
Northern Dancer
1961 鹿
Nearctic Nearco
Natalma Native Dancer
Queen's Statute
1954 鹿
Le Lavandou Djebel
Statute Son-in-Law
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 *ヘクタープロテクター Hector Protector は、
*アラジ以上にフランス色の薄い血統です。
 当馬は早くにデビューし、(すでにG2となっていたロベールパパン賞には出走せず)G3カブール賞から新三冠までを6連勝で駆け抜けてシーズンを終えました。サラマンドル賞で2着のリシアス Lycius (1988 牡 栗 by Mr. Prospector ― 英2000ギニー/英G1-2着など、善戦多数。*アカビールの半弟) が、英G1ミドルパークSではレコード勝ちしているのですから、当馬が全欧最優秀2歳牡馬に選ばれたのも当然と言えるでしょう。これはカルティエ賞の創設以来3回目にしてフランス調教馬としては初めてのことでした。
 翌年は前哨戦フォンテヌブロー賞を経て、仏2000ギニーに進み、人気を背にチグハグな競馬をしながらも勝利。土付かずの8連勝として、次に英ダービーに挑みます。
 しかしここでは、直線一度は先頭に立ちはしたものの、名馬*ジェネラス Generous の驚異的な伸び脚に交わされ、大きく離れた4着。自身はそれまでマイル以下の経験しか無かったわけで、その上エプソムのタフなコースも考えると、4着でも好走と見るべきでしょうか。むしろ仏ダービーに出ていれば十分勝負になったのかもしれません。
 その後はマイル戦線に舞い戻り、ジャックルマロワ賞では Lycius を辛うじて鼻差退けますが、ムーランドロンシャン賞プリオロ Priolo Sendawar の父) 以下の6着、クイーンエリザベスII世Sは馬場も合わずセルカーク Selkirk らの6着と見せ場なく敗れ、前年の輝きを若干曇らせて引退しました。

 この早熟名馬は輸入され、翌92年から日本で種牡馬入りしました。ミスタープロスペクター Mr. Prospector 系はすでに世界的な注目を集めていましたし、父ウッドマン Woodman は同じ初年度産駒に米二冠馬ハンセル Hansel を出してもいたからです。
 なるほど確かに、Nasrullah を主軸とし、Bull Dog や Blue Larkspur の支援を受けるヘクターの構成は、Mr. Prospector 系の王道と言える配合です。
 しかし輸入後、*ヘクタープロテクターの血統はその牝系によって支えられていた部分が大きかったことが、次第に明らかとなってきます。


 牝系図:Royal Statute 〜 Konafa  / FNo. 22-b

Royal Statute ( 牝 1969 鹿 Northern Dancer )  Konafa ( 牝 1973 鹿 Damascus )  |Kataifa ( 牝 1980 Youth )  |Proskona ( 牝 1981 鹿 Mr. Prospector ) ― ウンブリア賞/伊G2、セーネワーズ賞/仏G3  ||*ノエシス Noesis ( 牝 1986 芦 *ペルセポリス )  |||イブキパーシヴ ( 牝 1993 芦 Caerleon ) ― クイーンC/G3、桜花賞/G1-2着、阪神3歳牝馬S/G1-3着  ||Calista ( 牝 1998 Caerleon )  |Korveya ( 牝 1982 栗 Riverman ) ― クロエ賞/仏G3  ||Yemanja ( 牝 1987 Alleged )  ||*ヘクタープロテクター Hector Protector ( 牡 1988 栗 Woodman ) ― 仏2歳三冠、  |||       仏2000ギニー/仏G1、ジャックルマロワ賞/仏G1、カブール賞/仏G3、フォンテヌブロー賞/仏G3  ||*シャンハイ Shanghai ( 牡 1989 鹿 Procida ) ― 仏2000ギニー/仏G1  ||Gioconda ( 牝 1990 Nijinsky )  |||Ciro ( 牡 1997 栗 Woodman ) ― セクレタリアートS/米G1、リュパン賞/仏G1、  |||             グランクリテリウム/仏G1(繰上)、愛ダービー/愛G1-3着  ||Bosra Sham ( 牝 1993 栗 Woodman ) ― 英1000ギニー/英G1、チャンピオンS/英G1、フィリーズマイル/英G1、  |||             フレッドダーリンS/英G3、プリンスオブウェールズS/英G2、  |||             ブリガディアジェラードS/英G3、クイーンエリザベスII世S/英G1-2着  |||Shami ( 牡 1999 栗 Rainbow Quest )  ||*グレートサクセス Great Success ( 牡 1994 栗 Nureyev )  |Carnet Solaire ( 牝 1983 Sharpen Up )  |Talon d'Aiguille ( 牝 1985 Big Spruce )  |Leo's Lucky Lady ( 牝 1987 Seattle Slew )  |Gondole ( 牝 1989 Riverman )  |Keos ( 牡 1994 鹿 Riverman ) ― リゾランジ賞/仏G3(連覇)、セーネワーズ賞/仏G3、フォレ賞/仏G1-2着  Wanda's Tear ( 牝 1974 Sir Ivor )  Baederwood ( 牡 1975 Tentam )  Royal Stance ( 牝 1977 Dr. Fager )  Akureyri ( 牡 1978 Buckpasser )  Awaasif ( 牝 1979 鹿 Snow Knight ) ― ヨークシャーオークス/英G1、ジョッキークラブ大賞典/伊G1  |Snow Bride ( 牝 1986 栗 Blushing Groom ) ― 英オークス/英G1(繰上)、ミュジドラS/英G3、プリンセスロイヤルS/英G3  | *ラムタラ Lammtarra ( 牡 1992 栗 Nijinsky ) ― 英ダービー/英G1、  |                 キングジョージVI世&クイーンエリザベスS/英G1、凱旋門賞/仏G1  Nias ( 牡 1980 Secretariat )  Royal Lorna ( 牝 1981 Val de l'Orne ) ― バグッタ賞/伊G3  Victoress ( 牝 1984 鹿 Conquistador Cielo )
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 日本で*ヘクタープロテクターが新種牡馬リーディングを獲得した頃、イギリスではその全妹ボスラシャム Bosra Sham が脚光を浴びつつありました。やがて彼女の活躍は兄をも凌ぎ、中距離G1で牡馬のトップクラスを負かすまでになったため、日本の兄にも買戻しやリースを求める熱心なオファーが届くようになります。
 実際、日本では良くてトライアルホース止まりの*ヘクタープロテクター産駒が、輸出されるとリムノス Limnos & シーヴァ Shiva (1994/95 牡/牝 栗 out of *ランジェリー ― 兄はジャンドショードネイ賞/仏G2、フォワ賞/仏G2。妹はタタソールズGC/英G1、アールオブセフトンS/英G3、ブリガディアジェラードS/英G3、チャンピオンS/英-2着。ただし配合も日本で走った産駒一般より数段凝っている点に注意) のように活躍するのですから、この種牡馬がシャトル供用されたり、リース先で慰留されたりするのも不思議はありません。
 この分では輸出仕様の産駒ばかりが目立つことにもなりかねない所ですが、日本の生産者には、Shiva らの配合に倣って「壁」を破れる産駒を出すこと、そして母系に入った*ヘクタープロテクターの血を、*ラムタラやビワハヤヒデ&タケヒデなどと組み合わせながら長期的に活用してゆく(例:クリスタルコーラル-99)ことを目指していただきたいものです。



Irish River 1976 牡 栗 / FNo. 1-w / Never Bend 系
Riverman
1969 鹿
Never Bend
1960 鹿
Nasrullah
1940 鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos Phalaris
Nogara Havresac
Mumtaz Begum
1932 鹿
Blenheim Blandford
Mumtaz Mahal The Tetrarch
Lalun
1952 鹿
Djeddah
1945
Djebel Tourbillon
Djezima Heldifann
Be Faithful
1942 黒鹿
Bimelech Black Toney
Bloodroot Blue Larkspur
River Lady
1963 鹿
Prince John
1953
Princequillo
1940 鹿
Prince Rose Rose Prince
Cosquilla Papyrus
Not Afraid
1948 青鹿
Count Fleet Reigh Count
Banish Fear Blue Larkspur
Nile Lily
1954 黒鹿
Roman
1937 鹿
Sir Gallahad Teddy
Plucky Liege
Buckup Buchan
Azalea
1944
Sun Teddy Teddy
Coquelicot Man o'War
Irish Star
1960 鹿
Klairon
1952 鹿
Clarion
1944 鹿
Djebel
1937 鹿
Tourbillon Durban
Loika Gay Crusader
Columba
1930 黒鹿
Colorado Phalaris
Gay Bird Gay Crusader
Kalmia
1931 鹿
Kantar
1925 鹿
Alcantara Perth
Karabe Chouberski
Sweet Lavender
1923
Swynford John o'Gaunt
Marchetta Marco
Botany Bay
1954 鹿
East Side
1939 青鹿
Orwell
1929 鹿
Gainsborough Bayardo
Golden Hair Golden Sun
Vlasta
1934 鹿
Blandford Swynford
Penthesilee La Farina
Black Brook
1945 鹿
Black Devil
1931 黒鹿
Sir Gallahad Teddy
Plucky Liege
La Palina Ambassador
Source Sucree
1940 黒鹿
Admiral Drake Craig an Eran
Plucky Liege
Lavendula Pharos
Sweet Lavender
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 同期に稀なほど強豪が揃った世代 (仏に Top Ville、Three Troikas、*デュネット、Le Marmot、Nadjar など。*モガミもこの世代。英には Troy、Kris、Niniski、Ela-Mana-Mou、Ardross) の仏2歳チャンピオンが、アイリッシュリヴァー Irish River
 同馬は、デビュー勝ち後のG1ロベールパパン賞ピタジア Pitasia (1976 牝 by Pitskelly ― 新馬で Top Ville を寄せ付けず。種牡馬 Fioravanti の母) に屈したものの、その後は仏グランクリテリウム、サラマンドル賞、モルニー賞を立て続けに制し、変形三冠を達成しました。
 翌年も勢いは止まらず、G3フォンテヌブロー賞をステップに仏2000ギニーを勝利。しかしリュパン賞
トップヴィル Top Ville (ここまで4連勝、後の仏ダービー馬) とぶつかると、Top Ville のレコード駆けに3着と最後の敗北を喫しました。その後はイスパーン賞、ジャックルマロワ賞、ムーランドロンシャン賞と中距離以下のG1で再び連勝を続け、そのまま3歳末で引退しています。

 当馬の血統構成は、Pharos≒Colorado:5x5*6、Sir Gallahad:5x5、Blandford:6x5、Djebel:4x5〜Gay Crusader:7*7x6*6 と、すでに実績のあるインブリードを選んで5代以降で並べた形。*ヘクタープロテクターとは違って、Riverman に対する母(X染色体径路上に Sweet Lavender:2x5 の効果的なクロスを持つ) はほとんど完全な欧州血統ですが、この場合5代以降において基盤を共有していたわけです。

 種牡馬入り後まもなく渡米した当馬は、*パラダイスクリーク Paradise Creek (1989 牡 黒鹿 out of North of Eden ― ハリウッドダービー/米G1、アーリントンミリオン/米G1、ワシントンDC国際/米G1 他)ハトゥーフ Hatoof (1989 牝 栗 out of Cadeaux d'Amie ― 英1000ギニー/英G1、オペラ賞/仏G2、チャンピオンS/英G1、ビヴァリーディーS/米G1 他。全弟 Irish Prize も米G1馬) などを出して成功しています。父譲りの硬質なスピードはもちろんのこと、Klairon や Princequillo を重点的に活用すれば12f以上を克服できるスタミナも演出できる、という点は重要でしょう。
 また、母のX染色体径路上クロスや、Lalun らを介した Sadler's Wells とのニックを考えると、母父としてさらに成功する可能性を秘めています。



Blushing Groom 1974 牡 栗 / FNo. 22-d / Blushing Groom 系
Red God
1954
Nasrullah
1940 鹿
Nearco
1935 黒鹿
Pharos
1920 黒鹿
Phalaris Polymelus
Scapa Flow Chaucer
Nogara
1928 鹿
Havresac Rabelais
Catnip Spearmint
Mumtaz Begum
1932 鹿
Blenheim
1927 黒鹿
Blandford Swynford
Malva Charles O'Malley
Mumtaz Mahal
1921
The Tetrarch Roi Herode
Lady Josephine Sundridge
Spring Run
1948 鹿
Menow
1935 黒鹿
Pharamond
1925 黒鹿
Phalaris Polymelus
Selene Chaucer
Alcibiades
1927
Supremus Ultimus
Regal Roman Roi Herode
Boola Brook
1937 鹿
Bull Dog
1927 黒鹿
Teddy Ajax
Plucky Liege Spearmint
Brookdale
1921 鹿
Peter Pan Commando
Sweepaway Wild Mint
Runaway Bride
1962 鹿
Wild Risk
1940 鹿
Rialto
1923
Rabelais
1900 鹿
St. Simon Galopin
Satirical Satiety
La Grelee
1918
Helicon Cyllene
Grignouse Kilglass
Wild Violet
1935 鹿
Blandford
1919 黒鹿
Swynford John o'Gaunt
Blanche White Eagle
Wood Violet
1928
Ksar Bruleur
Pervencheres Maboul
Aimee
1957 鹿
Tudor Minstrel
1944 黒鹿
Owen Tudor
1938 黒鹿
Hyperion Selene
Mary Tudor Pharos
Sansonnet
1933 鹿
Sansovino Swynford
Lady Juror Lady Josephine
Emali
1945 鹿
Umidwar
1931 鹿
Blandford Swynford
Uganda Bridaine
Eclair
1930 鹿
Ethnarch The Tetrarch
Black Ray Black Jester
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*アラジの父ブラッシンググルーム Blushing Groom も、やはり2歳四冠達成馬です。
 その父レッドゴッド Red God は、「Nasrullah の遅れて来た後継」とでも言うべき種牡馬で、2歳戦リッチモンドSに勝っていた自身同様、産駒も父方の Nasrullah × Spring Run (Tom Fool と3/4同血の北米血統)に頼った形の、ややスケールの小さな早熟馬が多いのが特徴でした。この点*イエローゴッド Yellow God (1967 栗 牡 ― ジムクラックS。伊達秀和氏によって輸入され、ファンタスト、ブロケード、カツトップエースらを出す)とよく似ています。
 ところが、それらの中にあって Blushing Groom はデビュー戦3着後、5連勝仏2歳四冠を制し、翌年も連勝を7まで伸ばして仏2000ギニーを勝ちました。英ダービーは The Minstrel の3着、ジャックルマロワ賞は牝馬 Flyng Water の2着と、決して「早熟売り切れ」の馬ではありません。そればかりか、彼は種牡馬としても600万ドルのシンジケートに相応しい成功を収めてゆきます。
 なお、同馬の2歳年上にあたる全兄*ベイラーン Bayraan は、弟の活躍直前、日本に輸入されましたが、わずか1世代を残して死亡しています。その中からネオキーストンテルノホープと2頭の重賞勝ち馬が出ているように、種牡馬としての資質は弟にも劣らないものであったかもしれません。ひょっとすると「日本のベイラーン系」さえ夢ではなかった、のかも…。
 この配合の秘密は、母系を軸として読み解いた方が良さそうです。
 名牝ブラックレイ Black Ray の後継エクレア Eclair (ファルマスS。Khaled の母)は、Umidwar / Tudor Minstrel / Wild Risk と上質な欧州血脈を用い、X染色体径路上クロスを含む相似配合を取りながら、ラナウェイブライド Runaway Bride の段階で Blandford(+ Chaucer)の元に一本化されます。例によってリアルト Rialto の部分が3世代ほど古いのですが、そこを好意にとれば、これはナカナカの好配合(コダマなどを思わせますね)。
 そこへ、待ちに待ったナスルーラ Nasrullah 系の導入となるわけです。実はこの時、Nasrullah や Menow を構成するパーツはすでに Runaway Bride の中に埋蔵されていたため、多重クロスながら実にスムーズに Blandford & The Tetrarch 中心のシステムが組み上がっています。
 こうした単純化と多様化の鮮やかな往復、これこそが、本項で取り上げる8頭中最も煩雑に見える配合の同馬が、一流馬になりえた大きな理由だと言えるでしょう。

 しかも種牡馬としての Blushing Groom は、Nasrullah を使うにしろ Menow を使うにしろ、あるいは Wild Risk や Tudor Minstrel に注目するにしても、どちらにせよその相似性ゆえに自身や母の方向性を逸れることは無いわけですから、その信頼性たるや相当なものがあります。
 事実、この血統は近い代においても遠くに後退しても、変わらぬ強い影響力を発揮しています。


  〜 ブラッシンググルーム Blushing Groom の産駒 〜

ラナウェイグルーム Runaway Groom (1979 芦 牡 ― 加準三冠、トラヴァーズS)
 → BCスプリントのチェロキーラン Cherokee Run、*マチカネホクシン
カディッシャ Kadissya (1979 鹿 牝)
 → 英・愛ダービー馬カヤージ Kahyasi、半妹カリアナ Kaliana
トゥーチック Too Chic (1979 牝 ― ゴーフォーワンドS)
 → チックシュライン Chic Shirine、ゴーフォーワンドS 他G1を5勝したクイーナ Queena
*クリスタルグリッターズ Crystal Glitters (1980 鹿 牡 ― イスパーン賞-連覇 他)
 → アーリントンミリオンのディアドクター Dear Doctor、マチカネフクキタル
レインボークエスト Rainbow Quest (1981 鹿 牡 ― 凱旋門賞(繰上)、英コロネーションC 他)
 → ソーマレツ Saumarez、クエストフォーフェイム Quest for Fame、サクラローレルなど多数
ヤマニンポリシー (1981 鹿 牝 ― 持ち込み)
 → 愛しの名マイラーヤマニンゼファー
*アルプミープリーズ Alp Me Please (1981 栗 牝)
 → 「カリスマ生産者」の送り出した年度代表馬マヤノトップガン
アルバハトリ Al Bahathri (1982 牝 ― 愛1000ギニー、コロネーションS 他)
*バイアモン Baillamont (1982 鹿 牡 ― イスパーン賞、ジャンプラ賞)
 → 息子 Aljabr もG1を勝った名牝シェラマドレ Sierra Madre
キャンディストライプス Candy Stripes (1982 栗 牡 ― リュパン賞2着。バブルガムフェローの半兄)
 → アルゼンチンの名牝ディファレント Different、2400m世界記録のシーボーグ Seaborg
*グルームダンサー Groom Dancer (1984 鹿 牡 ― リュパン賞 他)
 → ロードオブメン Lord of Men、リトルオードリー
*ワンスウェド Once Wed (1984 栗 牝)
 → テイエムオペラオー
*ブラッシングジョン Blushing John (1985 栗 牡 ― 仏2000ギニー、米ピムリコSH 他)
 → ブラッシングケイディ Blushing K. D.
ミストザウェディング Missed the Wedding (1985 牝)
 → ミストザストーム Missed the Storm、グリーンミーンズゴー Green Means Go
ラーイ Rahy (1985 栗 牡 ― ミドルパークS2着)
 → G1を11勝した名牝セレナズソング Serena's Song、*トキオパーフェクト
ナシュワン Nashwan (1986 栗 牡 ― 英二冠、「キングジョージ」他)
 → 「キングジョージ」連覇のスウェイン Swain、女傑ワンデスタ Wandesta
スノーブライド Snow Bride (1986 栗 牝 ― ミュージドラS 他)
 → 欧州近代三冠の*ラムタラ Lammtarra、半妹サイタラ Saytarra
プライマルフォース Primal Force (1987 鹿 牝)
 → BCクラシック他のオーサムアゲイン Awesome Again
ブラッシングアウェイ Blushing Away (1987 牝)
 → 欧州短距離戦線の常連ゴールダウェイ Gold Away、他2頭の重賞勝ち馬
*アラジ Arazi (1989 栗 牡 ― 仏2歳三冠、BCジュヴェナイル 他)
スカイビューティ Sky Beauty (1990 牝 ― NY牝馬三冠 他G1を9勝)
〜 1992年、死亡 〜
※ この年代順リストで面白いのは、タイミングです。同馬は1989年に英愛リーディングサイアーになりますが、それ以前に日本でも Blushing Groom の価値にいち早く気づいた生産者が、これを上手く活用してますね。
 最初期から狙いをつけて自前の繁殖牝馬を持って行った(!!)ヤマニン・錦岡牧場を筆頭に、87年輸入のテイエム・杵臼牧場、88年のマヤノ・川上悦夫氏といった具合。(^^) 90年のサクラ・谷川牧場ぐらいになると、驚くほどではありませんが。


後編につづく


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