見えるはずもない、途方の砂漠の地、アラバスタ。

一塵の風が船上を吹き抜け、読みかけのページを先へ送る。

「!?」

声が、聞こえた気がした。

いいや、実際聞こえたのだろう。
時には憎み、時には蔑みながらも、
愛し続けたあの男の声が。



「お前を許そう、ニコ・ロビン・・・」


ブルッと体が震える。


「・・・お前を愛していた証に・・・」


確かに、あの男はそう囁いた。
愛しているなどと1度たりとも口にしなかったあの男が。


ビジネスでのパートナーとして雇われ。
自分の夢を実現させるための駒として存在を認め。

そんな相手をいつか心の一番深い場所に置くようになったのはいつの頃からだろう?

命を賭けて追い求めたリオ・ポーネグリフ。
アラバスタで感じた絶望は、それが無かったせいだけではない。

いとも簡単に愛する男の野望を裏切った自分。

確信していた、その男との別れ。

深く、深く、流砂に引き込まれそうな感覚に襲われ、思わず目を閉じたその時、
彼女がかつて流砂から救った少年の叫ぶ声がロビンを引き上げた。


「いってェ〜!!!」
「どうした、ルフィ!?」
「目に、目に何か入った!いてぇよ〜!」
「何だ、驚かせないでよ。今の風で埃でも入ったんでしょう?」
やれやれとナミが首を振る。
「いてェったらいてェ!」
「埃じゃなくて砂じゃないかしら・・・」
そう言ってロビンはぱたんと本を閉じる。
「船医さん、洗浄してあげて。」
「お、おう!ルフィちょっと目開けてみろ!」
酒樽2つによじ登ってルフィの目を覗き込む小さな船医にふと笑みをもらしながら
ロビンは立ち上がる。
「砂って・・・こんな海の真ん中に砂風が吹くわけないじゃない。」
「フフフ・・・そうね。でもただ何となくそんな気がしたの。」
不思議そうに自分を見つめる航海士に頬笑みを向け、ロビンは船室へと向かった。


「ロビンちゃん!ランチなら今用意するよ!奴らの釣った食材すぐ料理するからね♪」
キッチンからこの船のコックが明るい笑みを覗かせる。
「ロビンちゃん・・・どうした?顔色悪いよ?」
「ありがとう。大丈夫よ。コーヒーを1杯いただける?」
「レディの為なら喜んで。」

看版から聞こえてくるクルーたちの声。
ナミの怒号に、コーヒーを注ぎながらサンジがつぶやく。
「あぁァ〜、また怒ってら・・・」
前髪で半分隠れたその頬笑みが余りに幸せそうでロビンは目を細める。
私が彼らの年だった頃、こんなに優しい微笑みを浮かべたことがあったかしら?
この子のように誰かを想えることが、私には出来るかしら?
そんなことを考えている自分にちょっと自嘲気味に笑いながら
「ん?どうした?」
「いいえ、何でも。ここは・・・幸せね。」
「ナニをいきなり言い出すんだか・・・。二人の美女に囲まれて俺は世界一幸せだけどね!」
コーヒーを飲み干す頃にはもう、さっきの砂嵐はロビンの心から消えていた。

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