うまくは言えないけれど、
それに彼女は、巧みに隠しているけれど。
実際気付いているのは私だけだと思うし、気付いてしまったこともルール違反かもしれない。
もし私がロビンに「私は貴女が悩んでいることを知っています」と告げたら、
絶対絶対、彼女は私を信頼しない。
彼女は自分の弱さを他人に知られることを何より嫌うと思うから。
知っても知らないフリをしていた方がいいのかもしれない。
…信頼って何だろう。
私は、ロビンを信じていない?
「少なくとも、俺はあの女を信用した訳じゃねえ。」
「…ゾロの方向音痴よりはずっと信頼できるじゃないの。」
「そ、それとこれとは話が違う!」
…と、言う割にゾロが一番ロビンと仲いいような気がするなぁ。
私が(私だけが?)感じてしまっている、ロビンとの間の壁っていうか、距離のようなものを、
ゾロはきっと感じてないと思うんだよね。
「お前さ…」
「ん?」
「ビビん時とじゃ、ずいぶんちげーんじゃねぇのか。」
「………。」
大きな錘を背負って、さっきから屈伸を続けているゾロが、
触れて欲しくない核心を、つく。
信用と、信頼、その違いかもしれない。
私はロビンを信じていない訳じゃない。
あの力に頼ってもいるし、あの知識に甘えてもいる。
でも、そうじゃない。
ビビの時とは違うの。
ビビは、たとえビビのしていることが間違っていても、彼女の思うとおりにしてあげたかった。
そのためだったら何でもできた。
でも、ロビンは違う。
私はロビンが何を探しているのか、何を思っているのか。
どんな風に生きてきたのか、そういうのを知らない。
どうしていいか、分からなくなる。
ロビンは私よりもずっと知識があって、きっと航海術だって知ってると思う。
だったら、私なんかいなくてもいいんじゃないかって。
なんて、エゴ。
ビビは自分よりも弱くて能力もない存在だと思ってた。
ロビンは自分よりも強くて知識もあって自分を脅かす存在だと…
私は、私の立場や存在に、こんなに執着しすぎてるんだ。
「…そういうお前の考え方が、アイツを一人にしてんじゃねぇのか。」
やっぱりゾロは、誰よりロビンを理解していると、思った。
口では信用していない、なんて言っても、
ロビンの出方を窺ってばかりいる私より、ずっと誠実だわ。
・
・
・
「…よぉ、いい身分じゃねぇか。」
「…剣豪さん?」
天高く月が水面を照らす中、甲板の漆黒にゾロは話しかけた。
「…お前はいいよな、酒盗んだところであのエロコック驚かねぇだろ。」
「盗んだとは人聞き悪いわね、いただいたのよ。」
「ほらな。」
クスリと、唇の端だけで笑うと、ゾロはロビンの少し離れたところに腰を落とす。
「昼間、ナミが来たぞ。」
「???」
来たから何だ、同じクルーなんだから当たり前のことではないかと、ロビンは軽く首をかしげた。
「お前の様子が、おかしいってよ。」
「・・・・・・・。」
ロビンの眉が、端正に動く。
それはひどく迷惑そうな、苦笑だった。
「…そんなことは」
「俺もナミと同じ意見だけどな。」
ロビンから奪ったブランデーを、勢い良く呷り、ゾロはロビンを睨んだ。
「…何を迷ってる。」
「・・・・・・。」
「言いたくねぇのは結構だ、けど、お前が言い渋るってことは、多少俺たちにも関係あることだろ。」
「…意外に察しがいいのね、剣豪さん。」
「…意外には、余計だ。」
ゾロの唇の端には、ブランデーが金の路を作る。
それを手の甲でなぞると、辺りには一瞬、深い大地の薫りがして、溶けた。
「…関係あることなら、言え。それがクルーとしての礼儀だろ。」
「・・・・・・。」
「できねぇなら出て行け。」
「・・・・・・。」
「お前がしなきゃなんねぇことは、その二つしかねぇ。」
「…そうね。」
ゾロは立ち上がると、「寝る」とだけ言い、甲板を後にした。
ロビンは、少し身体を崩した。
つきを仰ぐと、首の後ろに風が吹く。
その二つの選択肢は、彼女にも分からなかったことではない。
けれども、それは、クロコダイルとのことを話すことにイコール、
夢のために愛した男を裏切った自分を認めることに、イコール。
その時、クルーはまだ自分を受け入れるのだろうか。
そんな自信だけ、何故かちっとも浮かんでこなくて。
「結局、どっちを選んでも結果は同じじゃないの…」
海上の湿気たこの風に慣れすぎた今、この居心地の良さに癒されすぎた今、
今更乾いた風のことなんて、考えたくもなかったのに。
ちくりと痛む胸を抱えて、どこまで一人で歩けばいいのだろう。
どこまで行けば、孤独でなくなるのだろう。