件のレストランにいく時間はなくなっていた。
ポートとキットはブルックリンブリッジを渡ったところでタクシーを降りた。
『ソフィの選択』の撮影に使われたその橋に、いつか来てみたいと思っていたポートは、 しばし悪魔を忘れて、スカイラインを楽しみながら、橋を歩いて渡った。 映画では夜の橋で、ライトアップとクレーンショットが美しかったが、快晴のマンハッタンを背にするブルックリンブリッジも絵葉書的な美しさではあった。
ここで観光づいた二人は、キットの希望でエンパイアステートビルにも昇ろうという算段になった。バス代地下鉄代くらいの小銭はあったが、時間がなかった。タクシー代のためにTCを現金化しなければならない。遠くに銀行が見えたがそこまで行くのを拒否するには十分歩いていたし、近くには食べたくもないピザ屋と…あってはならないスターバックスしか目に入らなかった。

「あんた食べ物持ってるだろ?車内をきれいにしてるんだ。食べないでくれる?」
運転手が言った。
ポートは食べていないので無視した。すると、「聞いてる?」と運転手はしつこくいいつづけた。
「食べないよ。持ってるだけ」
誰の為に買ったと思ってるんだ。ポートは誓いを破った自分に腹がたっていた。

エンパイアステートビルにはたどり着 いたが、そこはすでに長蛇の列だっ た。昇って降りてくるのに45分かかる といわれ、2人は断念した。

MSGに隣接するショップは、天井だけ は高いが、なにか、黴臭さを感じるひ なびたスポーツ用品店といった風情だ った。
今季コンスタンチーヌとポートが注目 するフェドテンコが所属していた、ファ ントムズのジャージが吊るされている 渋さに、ポートはしびれた。
コンスタンチーヌ…?彼女とあって数 ヶ月がたとうとしていた。会えるのだろ うか、この大都会で…。どこからともな く、クリスタルキングの甲高い歌声が 聞こえたような気がした。

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