「お金を渡している人がいるわ」
ファンと選手との黒い取引に気づいたのもコンスタンチーヌだった。
確かにしわくちゃな米ドル札を車の中に差し出している。
ポートもその現場を押さえた。
選手は米ドル札にサインをして付加価値をつけて返していた。
持ち物に名前を書いたら、書いたヒトのものではないのか?
諭吉を連れてこなかった自分を呪いながらポートは思った。

フェティソフは他の誰とも違う行動に出た。
サインを拒否しようとしたのだ。しかし、アメリカ人は押しが強い。ゾンビ軍団の「頼むぜ」攻撃に屈してサインをしている間に、スタッフが呼び止めにきた。
<何が起こったのだ?>
とうにゾンビがサインをもらい終えて、車から離れてしまっても、フェティソフは出発できずにいた。
ツンドラのように冷たい表情で素早く立ち去ろうとしていた、サングラスに革ジャン姿のフェティソフ。そのシルバーのメルセデスの車の内外で、しらけた空気がMBP添加牛乳のように漂っていた。
スタッフが再び現れた。
<こんなもの置いて行かれちゃあ困りますぜ、旦那>
その手にはマジックでフェティソフと書かれた匂いそうなズタ袋が握られていた。
練習着のようだ。悪魔も忘れ物くらいする。

「私は降りるわ」
コンスタンチーヌは一時間に一本のバスを逃すまいと、駐車場を後にした。
Y氏もとっくにアリーナを後にしていた。
気づけばキットの頬にはマッキーのラインが一筋。
スキモノ的気恥ずかしさも、みんなでやれば怖くない。
「あれは、誰?誰が出てきてるの?」
地元ファンが尋ねた。
「ランディさ。ランディ・マッケイ」
ポートも随分その場になじんできてしまっていた。
それにしても、ブロデューア以外は地味目の収穫だ。
元々、スターは彼だけと鮫皇子から聞いていたから、納得はできた。
ビーザーに会えただけでも儲けものだったのかもしれない。 最後のご馳走、ゴメスが出てきた。ゴメスは自分のポートレイトを目の当たりにして、しばし凍りついた。が、彼はゴメスだ。ここはいつものふにゃふにゃした笑顔を取り戻し、サインをした。

陽だまりのなか、フェンスに寄りかかったゾンビ親子の母が、諦め顔で娘に話しているのが聞こえてくた。
「あーにぃーず、ごーん。ぱてぃず、ごーん。しきーず、ごーん。」
Devilsの稼ぎ頭、第一ラインはすでに去ったというのだ…。

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