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今夜はおまけミッションとして、ドリューバリモアやデニーロが訪れるビストロ「ジュニパー」でセレブ調査という計画があった。 その日はアカデミー賞の発表の日だった。 主要セレブはこの界隈をうろついているわけがない。見つかったら、多少照れくさいのかもしれない。そんな特別な夜ではあった。 日本の西麻布のような陸の孤島的な位置にあるこの店にも、創作的とはいえないが、キッズメニューが置いてあった。 肌寒さを我慢して、魚のリゾットやチキンのローストを食していると、短髪の小柄な男が現れ、すかさず空調のスイッチに手を伸ばした。 彼こそがこの店のオーナーなのだった。 「僕の名前はね、ダレル。D・A……」 ご丁寧にもスペルまで教えてくれるダレルの福々しい顔は、PITオーナーのルミューを彷彿とさせた。 ルミュー・シコラ・ダレル、このオーナー達に共通するのはサービス精神だ。 きっと『事業を成功させるオーナーの心得』とかなんとかいう本に、惜しみなくサービスせよ、と書いてあるに違いない。 残念ながら、ダニコは読まなかったようだ。 スポンジケーキをカラメルソースに浸してバナナを載せたデザートを食べてる間にも、ダレルはやってきて、これは昔の作品で最近はまたオリジナルのシュトゥルーデルっていうのを開発したんだ、と売り込みにくる。 「今度頼むわね」 コンスタンチーヌがさりげなくかわすと、数分後にはその自称オリジナルのすでにウィーン菓子として有名なリンゴのお菓子が現れた。 |
「こちらをオーダーなさいました?」 業界さん風のウェイトレスに、頼んでいない旨を伝えると、今度はダレルが飛んできた。 「ギフトだったのに」 リンゴのお菓子の再登場となった。 いい店だった。 デニーロがくるのだ、不味かろうはずがない。 ポートが最後に頼んだコーヒーは、この店の水準としては信じられないほどぬるかった。 <デニーロは猫舌なのかもしれない。> 他の理由はとりあえず考えたくはなかった。 コンスタンチーヌとの別れの時がやってきた。 NJが勝とうと負けようと、NYRがPOに出ようと出まいと、 NYの街を、クリスタルキングの歌を口ずさみながら歩きつづけるであろう都会の女、コンスタンチーヌ。 コンスタンチーヌは日本の駄菓子が詰まったスーパーの袋を抱えて、夜のマンハッタンに消えていった。 NYを発つ朝は綿埃のような雪が降りしきっていた。 悪魔の生態調査は終わった。 悪魔はすでにこの雪の街にはいないだろう。 陽光降り注ぐタンパへ飛び立っているはずだから。 完 |