●第121回 天皇賞(春)」(G1)
発走 30日15時40分 京都競馬場 距離 芝 3200メートル
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| 枠 番 |
馬 番 |
馬 名 | 重量 | 騎 手 |
ヨシタカ
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エイスケ
|
ヒカル
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|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | テナシャスバイオ | 58 | 武 幸 | |||
| 2 | 2 | ラスカルスズカ | 58 | 武 豊 |
◎
|
× |
|
| 3 | 3 | ステイゴールド | 58 | 熊 沢 |
△ |
||
| 4 | 4 | トキオアクセル | 58 | 松永幹 |
|
||
| 5 | 5 | テイエムオペラオー | 58 | 和 田 |
○
|
○ |
|
| 6 | ジョーヤマト | 58 | 須 貝 | ||||
| 6 | 7 | トシザブイ | 58 | 河 内 | |||
| 8 | ホッカイルソー | 58 | 四 位 |
▲
|
|||
| 7 | 9 | レオリュウホウ | 58 | 菊沢隆 | |||
| 10 | タマモイナズマ | 58 | 小 原 | ||||
| 8 | 11 | ナリタトップロード | 58 | 渡 辺 |
◎ |
◎
|
|
| 12 | ノボエイコーオー | 58 | 小 野 |
2000年天皇賞(春)予想。
エースケ老人の孫娘は、いつになく熱心な様子で、
ジャポニカ学習帳(こんなものがまだあったのだ)に何やら書き込んでいた。
2060年の春4月末のことである。
何をしているんじゃ?という祖父の問いに、彼女はにっこりと笑って答えた。
「学校の宿題なの。あのね、何でもいいから好きな物語の続きを自分で考えていらっしゃいって、
先生が言ったの」
「ほほー、それは大変な宿題だのう。調子はいいのか?」
「うん。もうノート20枚も書いちゃった!」
孫娘の得意げな顔に、エースケ老人はかつての自分の面影を見たような気がした。
今でこそ落ちぶれているが、エースケ老人は小学生の頃、
作文コンクールハンターとして地元ではちょっと有名な子供だったのだ。
その血は脈々と、孫娘に受け継がれている。
「競馬が人生の比喩なのではない。人生が競馬の比喩なのだ」
そんな昔の詩人の言葉が、
エースケ老人の脳裏に浮んでは消えた。目頭が熱くなった。
「うんうん、で、何の続きを書いているんじゃ」
それと悟られないように、平静な声で彼は尋ねた。
「シンデレラの続きなの。」
「えと、それはたしか、赤い靴を履いてた、お菓子の家の女の子の話じゃったかな。
毒林檎にあたって死んだところを、異人さんの外科手術で生き返ったんじゃったっけ」
全然違う、という視線を孫娘はした。
その視線の冷たさに、老人は明らかに動揺した。
「それはともかくじゃ」
という台詞が出たのがその証拠である。
「一体どんなお話を書いたのかのう?」
「えとね、王子様と結婚したシンデレラなんだけど、
やっぱり所詮貧民と王子様だから生活も価値観も違うのね。それで夫婦仲も冷め切っちゃって、しまいには離婚訴訟を起こすんだけど、
その慰謝料をいくらにしようか考えてるの。こういうのって、難しいのよねえ。
あたし、まだ離婚のケーケンないもの」
「そ、そうか。難しいの、それは。まだケーケンないものな」
言いつつ、エースケ老人はたじろいだ。
いくら離婚が結婚よりもメジャーになっているご時世とはいえ、
我が孫娘ながら末恐ろしき想像力である。
黙りこんだ祖父を尻目に、孫娘はまたジャポニカ学習帳に何やら熱心に書き始めていた。
エースケ老人は、ため息をつきたい気持ちでそこを離れた。
しかし、よくよく考えてみれば、
シンデレラと王子の結婚がその後幸福なものであったかどうか、
それは確かにわからないのだ。
むしろ、育ちや価値観の違いを考えれば、いずれ破綻が訪れるほうが自然なのかもしれない。
「そう考えると、物語の続きを考えるという宿題も、ちと考えものじゃの」
自分の書斎に帰ってからエースケ老人はひとりごちた。
続きのないほうがいい物語もあるのだ。
特にそれが、ハッピーエンドで一旦は幕を閉じたような場合には。
そこまで思ったとき、一つのハッピーエンドの物語が、エースケ老人の脳裏に甦ってきた。
たしか、あれは1999年の牡馬クラシック戦線のことだ。
その年の中心馬ナリタトップロードに乗っていたのは、
経験の浅い若手・渡辺薫彦騎手だった。
「公正競馬確保のため」というJRAの号令一下、
全馬に武豊騎手のクローンが乗るようになったのはまだはるか後のことだったが、
それでもクラシック有力馬ともなれば、
リーディング級のジョッキーが乗ることがもう当然になっていた時代である。
プレッシャーにそう強いわけでもなく、騎乗技術が際立って優れているわけでもない彼の騎乗を、
不安視する声は内外に多かったはずだ、とエースケ老人は記憶している。
しかし、ナリタトップロードの管理者でもあり、渡辺の師匠でもある沖調教師は、
頑としてトップロードに渡辺を乗せ続けた。
競馬ファンの多くも、それを意気に感じて渡辺を後押しした。
だがここ一番での結果がついてこない。
ナリタトップロード、皐月賞1番人気3着。
ダービー1番人気2着。
特に、ダービーで一旦は先頭に立ちながら、
アドマイヤべガ騎乗・武豊の追い込み劇に逆転されて春の無冠が決まったとき、
テレビ画面は、レース後に悔し泣きする渡辺騎手の映像を捉えていた。
「薫彦は完璧に乗った。ミスはない。仕方ない」
と、沖は、涙を流す愛弟子の騎乗ぶりを称えてやるしか、他になかったのだ。
そして秋。最後の一冠、菊花賞。
渡辺は終始積極的なレースぶりでライバルのテイエムオペラオー、アドマイヤべガの末脚を封じ込み、
見事に「最も強い馬」の座につく。
1999年クラシックの物語の、これが結末だった。
テレビのインタビューで、彼は今度は涙を見せなかった。
「あのダービーの時から、ずっとこの日のことばかりを考えてきた。
これからはトップロードとともに王道を歩みます」
そう力強く宣言した渡辺の笑顔に、同年輩だった若きエースケ老人も、心から拍手を送ったものだ。
エースケ老人だけではない。
誰もが、この幸福な結末に満足を感じていた。
しかしその後、王者と呼ぶには、あまりに苦しい日々が続いた。
渡辺の技量がやはり足りないのか、それともトップロードの成長が乏しかったのか、
それから以後の3戦、トップロードは他馬の後塵を拝し続けていた。
特に2000年の阪神大章典では、
去年のクラシックを戦ったライバル・テイエムオペラオーに完敗しただけでなく、
武豊騎乗の新興勢力・ラスカルスズカにまで先着を許してしまったのだ。
この結果は決定的と評価された。
「テイエムとナリタの勝負付けは済んだ」
とする声が競馬マスコミの主流を占めつつあった。
この前、押し入れから取り出したばかりの、
『沢田英輔のときめき夢競馬〜ミレニアム編』を読みながら、
そういえばそんな物語もあの頃にあったな、と
エースケ老人はなつかしく思い出していた。
あの物語も菊花賞で終わっていればハッピーエンドだったのだが、
それからが渡辺騎手にとっては苦難の始まりだったのだ。
本当に、続きがないほうがいい物語もあるのだ。
テイエムオペラオーに勝つにはどうしたらいいか。
渡辺騎手は、日々悩んだに違いない。
そして、阪神大章典の次の対決の場は・・・。
「ああ、あったあった、春の天皇賞じゃったな」
ノートのページをめくると、
そこにはスポーツ新聞から切り抜いた天皇賞の馬柱があった。
テイエムオペラオー。
ラスカルスズカ。
そしてナリタトップロード。
この3頭の争い、と見られていた天皇賞である。
実際、新聞の印もこの3頭に集中していたし、
馬連ならこの3頭を買っておけばよい、
と若きエースケ老人も確信していたはずだ。
(もちろん例の如くステイゴールド2着を狙う手もあったのだが。)
しかし、人気3頭の馬連では面白くない。
やはり勝負は単勝だった。
勝つのは誰か。
新聞にはテイエムオペラオーの欄に、本命の◎印がずらっと並んでいた。
続いてナリタとラスカルが印を分け合っていた。
しかし、この新聞に、
エースケ老人はなんの印も書き込んでいなかった。
「あれ、おかしいのう?」
この年の春天って、わしは予想しなかったんじゃろうか、
おかしい。そんなことはないはずだが。
そこで、もう一度よく馬柱を見てみると、
果たしてそうではなかったのだ。
老眼鏡越しに映ったナリタトップロードという馬名の横。
そこにただ一言、
「ハッピーエンドは終わらない」
という言葉が小さく、本当に小さく、祈るように記されていた。
<エースケ老人若かりし日の願望>
◎ナリタトップロード(単)
*****************
Eisuke Sawada
mail:ask@ma3.justnet.ne.jp
【B&B】:http://www3.justnet.ne.jp/~ask/
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≪以下、ヒカル的予想≫
さてさて最も長い距離のGTです(於:日本)
伝統ある天皇賞(春)ということで着物を着ているようなカンジで予想してみましょう
距離に比例して長く書き連ねるわけではございませんが
なんだか今回は一頭一頭考えてみたい気分です
12頭立てだからこんなこと言ってみたりしています
ほほほほほ
あなたの母父のShirley Heightsと私が同い年なことだけが気になります
ラスカル...
ラスカルってやっぱりアレなんですか?
あのラスカルなんですか?
ほかにラスカルは知らないです
かわいいから好きですよ
でもね、でもねえええぇっ
ラスカルって...
兄弟はよく走ってます
栗毛のおにいちゃまは偉大でした
はじめは大嫌いでしたそれが大好きになりました
それから少しして逝ってしまわれました
あんなに強い馬はまだ知りません
あなたはお兄ちゃまに似ていますか?
きっと今回も相手なりに走ってくれる事でしょう
あなたはそういう御方です
最近は「ワイド」もあります
故・神様はおっしゃいました
「栗毛のノーザンテースト産駒は走らないんですよね」
あなた栗毛ですよね
私は故・神様を信じます
派手さはないが実にスマート
血統的にも距離の問題なし
文句無の実績
私どうしても名前が気に入らないんですが
知ったこっちゃないですよね
鼻でせせら笑ってください
ルドルフ様にはせめてもう一頭GTホースを出して欲しいと思ってるのは
私だけではないはずです
零細血脈をつい応援してしまうのはたんに稀少価値を重んじているんでしょうか
まあ所詮弱肉強食ですが...
考えてもわからないものはわからない
知らないものは知らないのです
ニジンスキーのお孫さんらしい事しか知りません
母父は早熟ダート血統という気がします
長期休養ウラシマ太郎状態
でも昨秋のオールカマーの勝利はお見事でした
もう勝てずに引退しちゃうんじゃないのかと想ってました
これまた零細血脈
マンノウォーの血統は私一番応援してます
最近同父の高松宮杯馬がでたところです
せいぜい中距離までのイメージは拭えません
でも日経賞勝ってるんですねえ...
芦毛というだけで応援したくなってしまうのはただのミーハーなのでしょうか
でも私オグリンを生で知ってません
タマモクロスも知りません
でも芦毛好きです
無彩色好きといえるのかも知れません
これまた稀少価値だとしたらなんていやらしぃんでしょう
あの豪快な走りっぷりには惚れます
非常に力強いです
強い男は好きですか?私は好きです
そしてなかなかグッドルッキング
オトコマエです
雪辱なるかといったところでしょう
皐月賞はテイオー産駒が気がつけば三着でなかなかおいしいところを掻っ攫っていきました
今週もやってくれるのでしょうか
2匹目のドジョウはいるのでしょうか
いないと想います
◎ナリタトップロード(菊花賞馬だし)
○テイエムオペラオー(やっぱり堅実に強いし)
▲ホッカイルソー(何年か前この着順だったよね)
△ステイゴールド(こんなこともあるかも)
×ラスカルスズカ(かわいい名前なので)
◎由紀夫式馬券
≪2000年4月30日≫ヨシタカ 柴田由紀夫は根元まで深く吸い込んだマルボロを靴裏にこすり付けて消す。
いつもの癖だ。 もうすぐ5月だというのに寒い。
北海道では昨晩雪が降ったという。
釧路から東京に出てきて今年で12年になる。
31歳。 世間でいうところのいっぱしの大人、 一人前というやつか。
次の煙草に火を点けるまでの間、由紀夫は可笑しそうに笑った。
周囲にその様子を不審がる者はなく、おしなべて正面だけを見詰めているようだ。
充満する煙、ただれたジャパニーズポップソング たるんだ目付きのスーツにくるまれたおとこ
蔑んだような目でテキパキと景品と交換する中年女 安い電子音、金属質の蓄積音。
由紀夫はパチプロと呼ばれている人種のひとりだ。 自分では職無しだと思っている。
パチプロに職を名乗る資格など無いのだといいたいのではなく どうしてもそれが自分の職業だと思えないのだった。
由紀夫はパチンコで月に30万以上を稼ぐようになってから今日まで 一度も充実した気分を味わったことがない。
ここ一週間の出玉の傾向 釘の調整のローテーション 一日にどれだけ出したら出し過ぎだと睨まれて どこまでだったら容認されるのか
由紀夫はすべて理解している。
毎月ほぼ決まった額を数店から稼ぎ出し そこそこのマンションに暮らしている。
車は必要無いので乗らない。 週に一度か二度訪れる女もいる。
打ち出す玉の数と次に当たりの出るまでの間合いを計算しながら 決めた時間内で折り合いを付ける。
最優先されるのは『とっとと切り上げること』
何が楽しいというのだろう 5人に1人大負けしていく隣人をちらりと見ながら由紀夫は思う。
きっと何も考えてないんだろう。
ただ、成り行き任せにパチンコしに来る人間は 変動する確率の駆け引きの中で 少しずつ少しずつ負けていく。
本人も負けることには薄々気付きながら だが、
カンとか予測では今までロクなことがなかったため 本能ともいえる危険信号に耳を貸さずに突っ込んでしまう。
とくに くたびれたスーツ姿のサラリーマンほど予想外の大勝ちに期待を掛ける。
そういう期待ほど脆いものはない。 やはりな、というため息そのものみたいな顔をして台を立ち上がる男たち。
意外に思うかもしれないが、由紀夫はそういう男たちに心底同情する。
思い通りにならない、予測のつかない世界で打ちのめされた経験があるからだ。
あらゆる世界に流れがあり その流れにうまく乗れたものだけが成功する。
サーフィンでそこそこのランキングまで昇った友人の 『波には乗るんじゃない、捜しに行くんだ』
という言葉の意味は 顧客の信用を丸潰しにして部署を変わってしばらく経ってからなんとなく理解した。
なんとなく理解したというのは そのことばを発した友人はハワイのオアフで波に飲まれたまま消息を絶ってしまったからだ。
何を言わんとしてのことばだったのか今ではもう確かめようがない。
あいつはきっと波を見落としたんだろうな。
「俺は自分で起こした波に飲み込まれたよ」
そこそこ不自由なく暮らせればいいと思ってる。
本当にそうか?
頭の中でいろんな声が交差して 誰が何を言っているのかわからなくなった。
すべては想像している当人の代弁者であることはわかっている。
答えもきっと分かっているのだ たぶん、 おそらくは。
… 由紀夫は時計を見た。
午後1時20分 ここまでで3万8千円といったところか。
日曜日だが、午前中の稼ぎとしてはこんなものかもしれない。
午後からは別の店にするつもりなので精算する。
◆ 昼は割と行く喫茶店でカレーにした。 マスターが以前勤めていたレストランに 由紀夫はちょくちょく行っていたが
そのことはここの常連になった後に知ったことだ。
マスターに教わったのは カレーの仕上げにインスタントコーヒーを入れるとコクが出るということ。
スポーツ新聞を手にとって見る。 今日は競馬の大きなレースである。
天皇賞があるというのは知っていた というのも、由紀夫は仕事を辞めてパチンコを始める前は競馬にしばらく明け暮れていた。
結局500万負けた。
競馬には答えを導き出すまでのフィルターが多すぎる。
天気、調子、騎手、移動、得意な場所 馬場の荒れ、右回り、左回り、気性、枠順 挙げればきりがないのは
扱っている商品であるサラブレッドが 歴史に裏打ちされた生身の動物であるということだろう。
パチンコに血は通わない。 きりがないからのめり込んでいくのだろうか。
由紀夫は調べれば調べるほどギャンブルからかけ離れた馬券を買う機会が多くなっていく自分を発見して愕然とした。
『こうなればいい』 そういう見方でいわば、理想を現実にしたいが為の買い方をするようになった。
気が付けば500万だ。
だが、由紀夫は後悔していない。
馬券は買わなくなったが、今ではスポーツとして単純に観るにとどめているだけだ。
そうすると気が軽くなった。思うに、由紀夫は勝てないまでも善戦する馬が好きだった。
勝つまでの過程 その一戦一戦を静かに応援する。
以前はそこに一回一回馬券が絡んでいたため なんとも居心地の悪い 善戦を誉めたいような、それでいて素直に喜べない自分がいた。
それで、馬券を買うのをやめて2年になる。
今年の天皇賞は昨年までクラシック戦線を戦ってきた3頭が 新3強として相見えることになった。
それでも本命はテイエムオペラオーと見る向きが多い。
何しろ前哨戦を2連勝して 他の2強を圧倒しているからだ。
昨年暮れのグランプリである有馬記念では 現役最強と呼ばれたグラスワンダー、スペシャルウイークと差のない3着 に入っている。
由紀夫はオペラオーガ4歳クラシック緒戦の皐月賞を勝った時から この馬は強いと思っている。
対して、同時期から接戦を演じてきているナリタトップロードは、
なかなか勝ちきれないはがゆさと主戦騎手である渡辺騎手の愛すべきキャラクターで人気となっている。
皐月賞2着の後のダービーでは勝ったテイエムオペラオーを押し退けて一番人気となり、
レースでもその人気に応えるかと思われたまさにその時皐月賞で一番人気、
6着に敗れたアドマイヤベガが武騎手を背にしての一気の差し切りに敗れた。
渡辺は泣いた。 そしてその涙は4歳最後のクラシック 『強い馬が勝つ』と言われる菊花賞で報われることになった。
表彰台で渡辺はもう泣かなかった。
『これからはこの馬の時代です』と言ってのけた。
『運の強い馬が勝つ』と言われるダービーを制したアドマイヤベガは 不運にも調子を崩して戦線離脱したままだ。
『早い馬が勝つ』と言われる皐月賞を勝ったテイエムオペラオーにはトップロードは今年に入って負けっぱなしだ。
記者の取材に対しても、渡辺は『早目仕掛けで勝負を挑む』 と言っている。
もうそうするしかないと。ナリタトップロードの走る姿を想像する。
乗り手と馬は似るのだろうか。トップロードはダイナミックな大跳びで掻き込むようにして走る。
若さがほとばしっているような印象を受ける。
比べて同じく若手とはいえオペラオーの和田騎手は いつもいたって冷静で、あるがままといった達観した風情を醸し出している。
記者への受け答えもそつがなく飄々としている。 『馬を信じている』『あとは乗るだけ』と言うことばには自信が垣間見える。
オペラオーのここぞという時にしか力を入れない無駄のない動きに共通して見える。
騎手と馬は似るんだろうか。 それとも、騎手が馬に似るんだろうか。
「どちらかと言えば、後者かな?」 マスターにそう言われて微笑んだ。
4コーナーで早めに飛び出したトップロードを前に見ながら和田のテイエムオペラオーは慌てない。
残り200メートルあれば追いつける。
そして思い描いた通り直線半ばで追いつき追い比べしながら残り100メートルを切る頃
首差だけ前に出て勝利を確信した和田の斜め後ろから 武の芸術的なフォームで加速の付いたラスカルスズカが追い付いてくる。
クラシック最後の菊花賞にぎりぎり間に合った遅れた大器。
菊花賞では3着に敗れるが、それからは過酷なレースを選んで出走し ジャパンカップでも5着に入った。
今年に入ってからの成長も著しくGTを一つも獲っていない身でありながら 3強と数えられることに不自然な感じはしない。
和田はラスカルの仕掛けが解っていたのかいないのか 表情からは焦りは窺えない。
渡辺は鬼気迫る表情で懸命にトップロードを押し続ける。
3200メートルという距離も結局は数秒単位 又は1秒以内の時間差で勝敗が決まる。
『もう少しだよ』
ゴールまで50メートル。
誰が言ったのか解らないが そんな声が聞こえた気がした。
「久々に買ってみようかな」由紀夫は午前中の38000円を使ってもいい気がしていた。
ラスカルスズカの武は6月にはアメリカ、ケンタッキーに旅立つ。
世界一の騎手が集う場所だ。失うものを考えたらやってられない選択を武はいとも簡単に決めてしまう。
31歳。
自分と歳の同じ、競馬界では天才と呼ばれる男。
武に自分の何が投影できるはずもない事はわかっているが だからといって何によって自分自身が変われるかはわからない。
運命とかそういうものの変わり目は いつどこで現れるかわからないのだ。
≪由紀夫の馬券≫
◎ラスカルスズカ(単:10000円)
○エイエムオペラオー
(ラスカルスズカとの馬連:28000円)
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