新変異型Creutzfeldt-Jakob病 ( new variant of CJD ; nvCJD ) は、1994年から英国で発生している
新型のCJDである。古典的なCJDとnvCJDの最大の違いは、nvCJDでは
@患者の多くが10〜20歳台の若年者
である。
A脳波でCJD特有の周期性同期性放電 ( periodic synchronous discharge : PSD ) を認めない。
B病理で周囲に花弁状に配列した空胞形成を伴う特異なkuru斑( florid plaque と呼ばれる )を脳に認める
ことである。英国では1985年からウシにプリオン病(ウシ海綿状脳症、以下狂牛病と略)が大発生しており
、nvCJDは狂牛病がヒトへ感染して起こしたプリオン病との説が支持をえている。したがって、1000人
を超す爆発的なnvCJD患者の発生が懸念されたが、実際の患者数は30例を超えていない。nvCJD発生の
ピークは過ぎたとの見解もあり、今後の発生は少数に止まると予測されている。
nvCJDは狂牛病がヒトに経口感染して起きたプリオン病と考えられており、その根拠をいくつか列挙 できる。第一は、ともに英国で発生した新型のプリオン病であり、かつ狂牛病がnvCJDより9年先行して 発生していることである。経口感染であれば潜伏期間としてこの程度の時間的間隔が必要である。 第二は、病理所見が極似していることである。とくに両疾患の脳で見られる florid plaque は従来の プリオン病では認められない両疾患に特徴的な所見である。第三は、両疾患で検出される病原体 の異常プリオン蛋白のウェスタンブロット所見が同一のパターンを示すことである。 異常プリオン蛋白はウェスタンブロットで高分子量糖鎖型、低分子量糖鎖型および非糖鎖型の3本の バンドとして検出される。通常の特発性CJDでは低分子量糖鎖型が最大の比率を占めるのにたいし、 狂牛病とnvCJDでは高分子量糖鎖型が最大の比率をしめる。この3つの根拠だけでも、nvCJD と狂牛病が強い病因的関連性を有している疾患であることが明白といえる。
nvCJDを起こした狂牛病は元々はヒツジの scrapie がウシに経口感染して起きた疾患である。英国では 古くから成長促進のために仔牛にヒツジなどの肉、内臓、骨から加工製造された動物製飼料 ( ボーンミート ) を与えていたが、1981年からコスト削減のために有機溶媒処理と加熱処理の2過程を削除した 簡単な製造方法に変更された。この製造方法の変更が飼料の scrapie 汚染を招き、狂牛病はさらに nvCJDを引き起こした。実験的には scrapie は多くの異種動物に感染する。欧州では18世紀から ヒツジに scrapie が延々と発生し続けているが、狂牛病発生以前には自然界で scrapie がヒトや異種家畜 に感染してプリオン病を起こしたことはなく、scrapie はヒトには感染しないと信じられてきた。 nvCJDの発生はこの概念を根本から覆し、ヒツジの scrapie はヒトに直接感染することはないがウシに は感染し、ウシを介在させるとヒトにも感染するようになることを明瞭に示した。
ヒツジとヒトのようにある動物間ではプリオン病が直接感染し得ない現象を種の壁 ( species barrier ) と言い、これはプリオン病の特殊な発病機序を反映した現象である。すなわち、感染した異常プリオン 蛋白が自己増殖してプリオン病を起こすのではなく、異常プリオン蛋白が感染動物が生成している正常 プリオン蛋白と結合して、その立体構造を異常型に次々に変換させる場合にだけプリオン病がおきる。 換言すれば、異常プリオン蛋白が感染しても、正常プリオン蛋白の立体構造を異常型に変換できなければ 、感染動物はプリオン病を発病しない。これが種の壁であり、この現象は動物間のプリオン蛋白の 一次構造 ( アミノ酸配列 ) の相同性で起きると考えられている。 すなわち、動物間でプリオン蛋白の一次構造が一致しているほど、異常プリオン蛋白は正常プリオン蛋白 を容易に異常型に変換するために感染が成立しやすくなる。ヒツジとヒト間ではプリオン蛋白の 一次構造の相同性は低いために scrapie がヒトに感染してもCJDを発症させることはない。しかし、 ヒツジとウシおよびウシとヒト間ではプリオン蛋白に一次構造が類似しているために感染すると 発病し、ヒツジの scrapie はウシを介すれば間接的にヒトにCJDをおこすようになる。
nvCJDの臨床症状は、患者のほとんどが30歳台の若年者であることに加えて、
(1) 不安、抑うつ、自発性低下などの精神症状と行動異常で発症。
(2) 発症後数週ないし数ヶ月以内に進行性の小脳失調が出現。
(3) 健忘、記銘力障害などの知的障害やミオクローヌス、舞踏病の不随意運動は後期に出現。
(4) 脳波で周期性同期性放電を認めない。
の4項目が指摘されている。経口や経皮などの末梢経由での感染では、臨床的に小脳失調が前景に立つ
ことが特徴であるが、nvCJDもその例である。
病理学的には、CJDと同様の海綿状変性が大脳基底核に認められるが、最大の特徴は florid plaque
の存在である。
WHOが提唱しているnvCJDの診断基準は、
(1) 他の疾患が否定できる。
(2) 医原性CJDが否定できる。
(3) 舞踏病やミオクローヌスは末期になって出現。
(4) 罹病期間が6ヶ月以上である。
(5) プリオン蛋白遺伝子に異常がない。
の5項目である。上記の臨床症状に加えてこの5項目を満たせば、nvCJDと診断してよい。
鑑別疾患には、遺伝性および医原性プリオン病、AIDSや亜急性硬化性全脳炎などのウイルス性脳炎
、リピド‐シスなどの先天性代謝障害があげられ、これらの疾患を除外することが大切である。
プリオン病の治療法はなく、発症すれば必ず死に至る疾患である。CJDと比べるとnvCJDは進行 が緩徐と報告されているが、それでも発症半年後には痴呆が出現して無動性無言症の状態に至り 、多くは約1年の経過で死亡している。