当直日誌


01/05/08 捕獲
何を捕まえたかというと男性です。34歳の。といっても嬉しい話ではなくて患者さんなのです。昨晩当直をしていて来院されたのですが、毎回救急外来ばかり来る方で、偶然にもその8割が私が当直の時。で、その人は熱があるのですが、ただの風邪なんかじゃなくてなんか難病のようなのです。夜間は特殊検査が出来ないから必ず日中来るようにと何回もしつこく行っているにもかかわらず悪化してから夜中に来る。その繰り返しでちっとも診断が進まないので、今回はほぼ無理矢理入院させました。カルテを見ているとこういう患者さんは受診態度が悪いという事で来てもないがしろにされているのです。半年以上もも前に初診しているのに、必要な治療がまったくされていない。いくら医師が病気を疑って検査計画をたてても患者さんが来てくれない事には医療は出来ないですからね。<これじゃつらいでしょう?>と聞けばすごく辛いというのです。なんで、それなのに来ないのでしょう。不思議です。きちんと来てくれていれば入院しなくて良かったかもしれなくて、結局は時間もお金もかからずに済んだと思うのに...
01/05/07 事故
スキー場の急なコブ斜面のリフトに乗っていると、斜面上部に人だかりが見えた。板を斜面に立ててパトロールが集まって来ていて怪我人のようである。なんとなく眺めていると見覚えのある規則的な動きが目に飛び込んできた。<あれ?心マしてる>ほんとかな?と思いつつよーく見るとやっぱりそう見える。隣りの人は頭部近くにかがんでいて人工呼吸をしているようだ。どうしたのだろう?リフトを降りて急いで行ってみた。やはり心肺蘇生をしていた。聞くと単独で頭部から転倒したらしい。頚椎を触れてみる。がっちりした体型の方で触れにくいがなんとなくずれているような気がした。いずれにしても心肺停止状態で瞳孔を見ると完全に散大している。チアノーゼが著明である。人工呼吸をしているが、頚椎損傷の疑いが強い為に気道確保が上手く出来ておらず、充分な換気は出来ていない。パトロール隊員の方と交代して下顎挙上を行ない換気が可能になったが心拍、呼吸は再開しなかった。スキー場の山頂近い場所で、器具も薬品も何もない。単純な蘇生で心拍、呼吸が再開しない以上、手だてがない。上級者ががんばって滑り降りるようなコブ斜面で蘇生をしながら患者さん を搬送する事はまず不可能であった。救急車は山のふもとまででも30分かかるという。結局約1時間以上蘇生を行なったが反応は認められずに、蘇生を中止して到着した救急車へと申し送った。このスキー場では年に3,4例このような死亡事故があるという。帰りに別件で寄ったスキー場から一番近い総合病院では毎年相当数の死亡者が出ていると聞いた。普段内科医として、病気の患者さんばかりを扱っているので、この一件で人の命の脆さをあらためて痛感した。とともに、最近ずっと自分のなかに潜んでいたドクターパトロールになりたいという気持ちがとても大きくなってきた。来シーズン出来れば公認パトロールの資格をとり、ボランティアでも良いからドクターパトロールになりたいと思う。ただ、不安な点があるとすればこんな小さな私にパトロールが勤まるのか?という点。でも、がんばってみよう。
01/04/03 酔っ払い
花見の季節。とんでもない酔っ払いがいました。20代の男性会社員。夕方から飲み始めて約1時間でウイスキー1本以上を飲酒。意識はなく泥酔状態。夜になって搬送されてきましたが、どんな痛み刺激にも反応しない昏睡状態で意識レベルはJCSV-300というもっとも深昏睡。嘔吐を繰り返して、呼吸も不安定という事で気管内挿管がされました。胸部のレントゲンをとると大量の誤嚥をしており右肺が真っ白。誤嚥性肺炎を起こしており、気管支鏡を行なったところ上気道には大量の吐物が認められて吸引を行ない、抗生剤とステロイドを投与。後はアルコールが抜けるのを待つしかなく輸液をして集中治療室で管理。翌朝になってようやく意識が回復してきた。まさに命がけの花見になったにもかかわらず、本人は覚えていないのであんまり反省している様子も無い。毎年この時期には花見の急性アルコール中毒が良くおいでになる。そしてもう少しすると新入生歓迎コンパ。
大抵の患者さんにはめったに怒らない私でも酔っ払いには極めて冷酷。二度と繰り返さない様にという戒めの意味で点滴は出来るだけ太い針で、つらい処置も躊躇無くやり、意識が戻ってきたらしつこく怒る。自分でもひどく冷酷だと思うけど、これだけしてもこういう人は繰り返すのです。こんな事で命を落とすことになっては家族だって泣くに泣けないですよね。
01/03/13 溺湯
前の事ですが、お風呂で溺れていた40代の女性が搬送されて来た事がありました。その方の自宅と言うのが温泉旅館であって自宅のお風呂というのが温泉なのですが、朝風呂に浸かりに行って戻ってくるのが遅いので家族が見に行ったところ気を失っていたというのですが、この時既に心肺停止していました。救急隊が蘇生をしながら到着。気管内挿管をし、DCをかけたところ心拍が再開。到着時の瞳孔は5ミリで完全に散大しておらず、年齢的にも若い事もあり、回復が期待されました。人工呼吸器に接続し、薬物治療を行うと共に、全身冷却を行いました。来院時の体温は43度。蛋白が変性するギリギリの温度でした。肺に水も多くは入っておらず、一部回復傾向にも見られたが、やがて瞳孔が散大。脳波を測定したところ完全に平坦でした。ほぼ脳死に近い状態でその後懸命の治療でも意識が戻る事無く、やがて多臓器不全となり亡くなられました。明らかな脳梗塞も心筋梗塞もなく溺れるにいたった原因はわかりませんでした。疲れて眠ってしまうだけでこの年齢の人が溺れるだろうか?との疑問もありましたが明らかに不審な点も無く病死としました。家族の嘆き悲 しみ方が普通以上のものだった点がやや引っかかりはしましたが。。。
いずれにしてもこの患者さんは心肺停止から発見、蘇生までの時間が極めて短かったと考えられましたが、お湯であった事が命取りでした。時に、川や海で子供などが遭難して、かなり時間が経って発見されて生還したという事例がありますが、人間は寒さに強く、熱には本当に弱いです。40度以上の熱は放置しないで冷却、解熱剤の使用が必要です。万が一、お風呂や炎天下など高温環境で気を失っている人を見かけたらとにかく冷やしてあげて下さい。
01/02/27 病名??
だいぶ前の事ですが、外来をやっていた時の事。「○○さーん。5番診察室にお入りくださーい。」と看護婦さんに案内されて60代の和服の女性が入ってきました。たまにだけ来院する患者さんであったので
「今日はどうされましたか?」と問うと、
「いえね、どうもしないんだけれどもね、今日は泌尿器科に来たものだから久し振りに寄ってみたのよ。」
「泌尿器はなにでおかかりなんですか?」
「あたくしね、前立腺肥大なの。」
「え????」
と、慌ててカルテの表紙を見ると<○○ △之介 65歳 男性>としっかりと記載してある。
で、何しに来たんだ?などと思いながら彼女(彼?)がこれまでの前立腺にまつわるあれこれを話している間、ほぼうわの空でカルテをパラパラとめくっていると裏表紙の病名の欄に<女装癖>とだけ記載してある。
<え?これって病名じゃないでしょう。>と必死で笑いをこらえている時に、どこからか<ピピッ、ジューイチジです。ピピッ、ジューイチジです。>と音がしはじめた。
彼女(彼)はごそごそとバッグを探りはじめて、おもむろに直径15pぐらいの物体を取り出して、私に向って差し出してみせて、
「これね。じゃべる時計!!」とのたもうた。
一気にこらえていた笑いが爆発して、声を上げて笑ってしまった。というより声にならなかった。
「あっ、しゃべる時計?しゃべる時計ねー。すてきですねー。」
と笑いながら繰り返していると、彼女(彼)も笑っている。そのあともひとしきり世間話をして彼女は帰っていった。ぜったいからかいに来たに違いない!
しかし、おかしかったー。ちなみに職業欄は<女将>でした。
01/01/22 急変
先日の手術中に状態が急変した患者さんがありました。患者さんは80代後半の女性の方で大腿骨々折の整復術でした。高齢であり、軽度の心臓疾患もありハイリスクであった為に下半身麻酔で鎮静はせずに手術を行っていました。腰椎麻酔をし、順調に手術が経過していました。患者さんの痛みはなく血圧なども安定しており「何ともないです。」と会話を交わしていました。大腿骨骨折の整復術にはしばしばにセメントと呼ばれる接着剤のようなものを使用します。まれにこれを使用する事でアレルギー反応によるショックが起きたり、血圧低下を来す事があるとの報告があります。この手術時もセメントを使用時に注意を払っていたのですが、セメントを注入した数秒後に会話中の患者さんが突然意識を失いました。呼吸も失調性となりモニターを見ると数秒前まで80前後あった脈拍数が40に落ちています。心電図の波形は房室結節より上位性のもの。エマージェンシーコールとともに昇圧剤、抗不整脈薬を投与するが反応なく数秒で心拍数は30まで低下。脈は触れずに手術を中断し、心臓マッサージ、気管内挿管、人工呼吸を開始。心電図は上室性であるがST上昇を認めました。間もなく 心停止。種々の薬剤投与、心臓マッサージにより2度ほど自心拍が再開したがすぐに圧が出なくなり、心臓マッサージを継続。アナフィラキシーショック、心筋梗塞、肺梗塞などを疑いステロイド投与、ヘパリン投与、肺動脈造影、心臓超音波等を行ったが原因は不明でした。結局突然心臓が停止した原因ははっきりとはせず、自心拍の再開は得られずに蘇生を継続しながら手術室より集中治療室へと移動しました。その後その患者さんは回復する事なく亡くなられてしまいました。ご家族の同意の元、病理解剖をさせて頂いたのですが、肉眼的には原因不明。今後、時間をかけて顕微鏡学的な原因の追求を行うのですが、きっかけとしてセメント注入が作用している事はきわめて高いと思われます。人体に異物を入れる危険性と高齢者の回復力の乏しさを痛感したものでした。このケースでは骨折という放置していても生命には危険が及ばない疾患であっただけに手術で命を落としてしまうという事は本来あってはならない事であり、悔やまれてなりませんが、手術、麻酔には必ずこのような不測の事態が起こりうると言う事を再認識するとともに、このような急変時によりすばやく的確な対応が出来るような訓 練を積みたいと思いました。
腰椎麻酔:下半身麻酔の一つ
抗不整脈薬:心臓の不整脈に対する薬剤。
気管内挿管:口から肺の入り口まで呼吸の為のチューブを入れる事。
ST上昇:心筋梗塞など心筋の虚血のサイン。
自心拍:自分の心臓がみずから動いて搏動する事。
圧が出ない:心電図上は心臓が動いていたり、僅かに収縮したりはしているが、血液を送り出すには不充分で脈は触れない状態。
アナフィラキシーショック:アレルギーによるショック状態
ヘパリン:血液が固まりにくくする薬剤。
肺動脈造影:肺の血管が血の方まりや異物により閉塞していないかどうかを調べる検査。
00/12/18 ヒューマンエラー
先日の手術の麻酔中の出来事でした。私自身のことですがいわゆる医療ミス(ニアミス)をおかしてしまいました。どのようなミスであったかと言うと、単純に薬品のアンプルを間違えたのです。これまでも瀕回に使用している良く知ったアンプルでした。他に良く手術中に使用するアンプルで非常に良く似ているので気を付けろと、まず最初に教えられるアンプルがあります。過去にも間違えて投与された事例が数多くある物なので自分自身も注意し、また研修医にも注意するように私自身も指導していた物でした。しかもその薬品は一時に大量を使用するのでより注意が必要な物でした。自分でも良く承知しているつもりで、毎回使用時にはアンプルを確認しすぐに注射器に名前を書き、投与時にももう一度確認をしていました。この日は学生が見学に来ていて、熱心な学生で常に側にいて質疑応答をしながら仕事をしていた為にうっかりこの確認作業を惰ったのでした。自分も医師5年目、麻酔をかけて初めて2年が経ち、使い慣れた薬でもあり油断もしていました。幸い患者さんは一時的な血圧と心拍の上昇のみで合併症もなく、また麻酔中だった為に苦痛も無く今後も 問題となる副作用は無いと思われます。麻酔中で各種のモニターが装着されていたので投与数秒後に気が付きすぐに拮抗する薬剤を投与した事から大事には至りませんでした。おりしもこの日手術開始直前に外科の先生と医療ミスの話しを、
「どんなに気を配っていても人間がやる事である以上絶対ゼロにはならないんだよ。いかに起きない様に配慮して発生率を下げるかだよ。」
などと言っていた矢先の出来事で、非常にショックでした。これまで小さなミスはいくつかありますが、一歩間違えば重大事故に繋がるようなミスは初めてでした。小さなミスはおそらくした事が無い医者はいないと思いますが、例えば糖尿病患者さんの採血なのに糖を測り忘れるとか、名前の似通った薬を間違って処方するなど、あげればキリきりがない程ミスは起こりうるし、実際にも耳や目にしています。(検査や処方がコンピューター化されてからこういうケアレスミス(おおくがクリックミス)は増えているような気がしますが。)多くの場合は問題となる合併症もなく、患者さんに謝罪してやり直すと言う事で修正されています。最近、世間で取りざたされているような医療ミスの多くは、手術、救急、緊急時、重症患者さんにおいて生じており、時間の経過とともにめまぐるしく状態の変る状況です。非常に良く似ているアンプルであるにもかかわらず、手術室によって引き出し内の配置もまちまちで、隣りに並んであることも多く、時には仕切りを越えて数本混じっていたりする事もあるなど、いくつか改善の余地はあります。しかし正直なところ自分がそんなに重大なミスを侵す事はないとた かをくくっていました。基本的に防止するのはただ一つ、使用する人の緊張感だと言う事をあらためて思い知りました。今回してはならないミスをしてしまった訳ですが、患者さんに被害がなかったのが本当に何よりです。気が付くのが遅れていたら。と思うと身も凍る思いがしますが、これを教訓に医療ミスを起こさない様に、また起きない環境作りに力を入れて行きたいと思います。もしご覧になった医療従事者の方でこんなミスがあった。という事があればメールでも結構ですので教えて頂けると幸いです。どんなミスが起こりうるかと言う知識も予防、そして発見、事後処置に役に立つ事だと思いますので。
00/12/12 点滴希望で救急車!?
当直で救急室で患者さんをみている時に側にいた看護婦さんが診察以来の電話を受けていた。とあるアジア系の外国人からの電話で、
「30代のお客さんが熱があるので点滴をして欲しいと言っている。診てもらえるか?」
との事。看護婦が、
「ここは救急医療をやっているので患者さんの希望で治療はしません。診察はしますが医師が必要とした場合のみ必要な治療をしますので、どうしても点滴という事なら夜間診療をやっているところへ行って下さい。」と説明している。すると、
「では、直接行ってしまえば点滴をしてもらえるか?」
と言う。看護婦もやや怒りぎみでそういう事ではないと言い、夜間診療を勧めて電話が終った。その後、その患者は何と救急車でやってきた。しかし診察したところはただの風邪。熱が38度あるのみ。もちろん点滴の必要など無い。患者とその付添人は強く点滴の要求をしたが、もちろん必要ないのでしない。不必要である事を延々説明をして納得してもらった。それにしても救急車の費用はどうなるのだろう?出張で来日していたので保険証は持っていないので自費になる。保険外の診療については医療機関ごとに自由に値段を決めても良いという取り決めがある為にうちの病院では200%の請求をしており、診察して薬を出すだけで2万から3万かかるのである。日本人も海外で病気になると高額がかかるので保険などに入っていきますが、救急車など呼んだら何十万もかかるのでしょう。しかし日本ではこのような患者さんの救急車代は請求がいかないんだろうなぁ。と不思議に思う。本当に重症な人には気の毒だなぁと思うのですけど、このように何か別の意図をもって救急車を要請する人にはホントになんとも言えない不快感を抱いてしまいます。
00/12/05 安楽死。一歩間違うと拷問?
先日我が家の愛犬が脳の奇形による危篤症状で、薬殺による安楽死をしました。その数日後にはオランダでの安楽死の法案が可決されるという出来事がありました。安楽死と一言に言っても様々な方法があると思います。ずっと以前に安楽死に筋弛緩薬が使われた事件がありました。筋弛緩薬というのは筋肉がまったく働かなくなる薬で、手足はもちろん、呼吸をする筋肉や瞼を開ける筋肉も動かなくなります。投与して早ものでは数秒遅くても1分くらいでピクリとも動かなくなります。呼吸も止まる訳ですからそのままにしておいたらピクリともしないまま心臓が停止して苦しむ様子もなくいかにも安楽そうに見えます。しかし、この薬はあくまでも筋肉のみに作用するので意識は清明なままです。実は私の同期が数年前に呼吸器疾患で自分の大学に入院中に痙攣が起きてこの筋弛緩剤が投与されました。通常は鎮静剤とともに投与するので意識も無くなる訳ですが、この時は緊急であったのもあり、筋弛緩剤のみが投与されました。彼は意識ははっきりとしたまま、動けなくなり呼吸も出来なくなりました。どんなに焦っても声も出なく、もちろん呼吸も出来ない訳です。周りの音だけが 聞こえて
<誰か助けてくれー!俺はこのまま死ぬのか?>
と思いながら非常に苦しい思いをしたと語っています。もちろんこの後先輩医師によって人工呼吸が施されて、無事生還を果したのですが、端からみたところの安楽死も時には地獄の苦しみと恐怖と紙一重あるという証明でもある訳です。我が愛犬の安楽死に何が投与されたのかはわかりませんが、例えば一瞬で心臓を止めるKCLというカリウム性剤も投与時に激痛を伴うといいます。末期で意識の無い患者さんに対して行うのであればこのような事もあまり無いと思いますが、安楽死を希望する場合多くは、終わりの無い痛みや苦しみから逃れたいという意識のある患者さんである事が多いはずです。見ている人に安楽そうに見えて周囲が満足できても当の本人がつらければ何の意味も無い事です。医師であれば、患者さんの苦しみがある程度推測できますが、今回愛犬の安楽死をで決定して見守ってきたのは医学知識の無い母でした。母は安らかな愛犬の死を看取って満足しておりましたが、実際はどうだったのかととても気になりました。例えば安楽死の法案が今後他の国でも可決される場合があるとして、数人の医師のアドバイスのもとに医学の専門家ではない政治家達が決定する事には若干の抵抗を覚 えます。オランダの法案はあまりにも安楽死を寛大に受け入れすぎている気がするのは私だけでしょうか。これまでの診療の中で、無理矢理生きる事を患者さんに強要してただ苦しみだけを与えている。うまく人生を閉じてあげた方が良いのではないかと感じる事は何回かありました。しかし、これを実行するには厳しいルールが必要です。多くの専門家の手で最良の方法を見出せるといいと思います。
00/10/23 治療難航
私たちが医療を行っていて一番困るのは、いろいろと思い込んでしまっている患者さんです。自分にはカビ(真菌)が感染しているので抗真菌剤を飲まないと調子が悪いといって副作用が強い抗真菌剤の処方を執拗に請求してくる患者さんがいたりします。どんなに説明しても、納得せずに<ああ言えばこう言う>でらちが開かずに外来で良く1時間くらい医師と口論をしています。しかし、外来では他の患者さんも待っているのでいつまでもやってる訳に行かず、その場を帰す為に泣く泣く薬を出してしまう。ということも。。。
例えば自分の口腔内にひどく化膿しているところがあり、その菌が全身に回って悪さをしているのでとにかく抗生物質が欲しいという患者さんもいました。ところが、その化膿している病巣を見せて欲しいというと、それは事情があって出来ない。というのです。ものすごく腫れているというのに、右か左かと問うと、
「まあ、どちらかです。」
などと言うのですね。検査も拒否し、歯科受診を薦めると全身を治してからでなければとても治療は出来ないと言います。こういう患者さんも場合は自分が使いたいのではなくとにかく薬を入手したいという場合もあるので、診察が出来なかったり必要性が認められなかった場合には薬は出しません。一番困るケースとしては、自分でそう思い込んでいる場合です。その場合精神科的な疾患である時がしばしばあり、本来は精神科を受診すべきなのですが、そんな事を言ったら、こういう患者さんは強烈に自分がその疾患に罹っていると信じているので、大抵の場合火がついたように激怒します。何とか薬を処方しないのが精一杯で、こういう方は病院を転々とします。思うところの薬をすんなり出してくれる病院で落ち着いてしまって、必要の無い身体に害のある薬を永遠に飲みつづけてしまう事がしばしばです。何とかこういう患者さんに、専門的な精神科治療を受けて頂きたいを常々思ってはいるのですが、なかなか思うように説得が出来ないのです。なんとか、うまく説得する話術を身につけたいものです。
00/10/16 極悪病院終了!
8月3日に書かせて頂いた極悪病院ですが、うちの大学からの出向は9月いっぱいで手をひきました。上からの指示で出向していたので当然上実態を知っているのだと思っていたら知らなかったのでした。事情を説明して辞める事になりました。仕事としては楽なところだったのですが、常に悪い事をしているという罪悪感から開放されてほっとしました。でも、まだあそこではあの医療が続いているんだなあ。と考えるとそれはそれでつらいのですが。。。
00/09/04 休日の病院
研修医が終り、各科の医師として当直をするようになり、2年目に入りました。先日の週末に当直をしている時に重症患者さんが運び込まれました。その患者さんは難病を基礎疾患として持つ60代の女性でしたが、突然原因の分からない呼吸不全、腎不全、心不全を起こしていました。外来ですぐに気管内挿管を行い、人工呼吸を開始しました。いくつか必要な検査を行った後に集中治療室へと搬入します。とりあえずの生命の危機は回避でき、対症的な治療を開始しますが、今回の急変の原因は解らず、まだまだ予断を許さない状況です。週末は検査も緊急項目しか出来ないので詳しい事は週明けにならないと解りません。病態よっては血漿交換をおこなったり、人工透析を行う必要がありますが、その場合、各科の医師と連携を取りながら行う必要があります。気がついてみると、日曜日の当直は比較的若手の医師が行う事が多い為、自分と同期か後輩が多く、先輩といっても1学年上くらいの医師が多いという状況です。自分が研修医の時にはそのくらいの医師がいる事をとても頼りに感じていたのですが、いざ自分がその代になってみるとある程度の処置や治療はおおむね出来る様に はなっているのですが、非常に複雑な重症患者さんを扱うとなると迷いや不安があります。うちの病院は幸い各科の医師間の交流も多く、相談し合い、また上級医師と電話で連絡を取る事で、事無きを得ましたが、現在の医療システムの中では平日と休日の対応能力の差が非常に大きい事を痛感しました。医師だけではなく、検査システムの問題もあり、看護婦も少なく手が回らない状態です。日曜に限らず年末年始などもそうです。特に検査が出来ない事のデメリットは非常に大きいです。検査が出来ないので手探りで治療をするという感じがあります。特に年末年始の場合は1週間近く検査が出来ないものも数多くありますので、休日や年末年始に発病した患者さんは非常にアンラッキーという事になります。医師が365日24時間体勢で働いても検査会社が休日、盆正月は稼動しないという事では充分な医療は出来ません。デパートも年中無休で営業している今の時代に、外来はともかくとして病院の入院患者さんの検査や治療に休日があるのはおかしいと思いませんか?検査会社の社員や医師は個人は交代で休みを取るとしても、検査や治療は365日可能なように出来るといいのですが。
専門用語解説
*気管内挿管:口から肺の入り口まで呼吸の為のチューブを挿入する事。
*急変:病状が急に悪化する事。
*血漿交換:血液を取り出して機械にかけ血液の中の血球以外の成分をきれいにしたり、他人の血漿と入れ替える事。
*人工透析:腎臓が機能しなくなった時、やはり血液を取り出して機械にかけ、老廃物や水分を取り除き必要なイオンなどを補正する。
00/08/03 極悪病院!!
当直ではないのですが、外勤といって昼間もアルバイトで個人病院などに行くことがあるのですが、この時々行くところに本当にひどいところがあります。
必要の無い検査をたくさんやる。必要の無い薬を延々と飲ませる。こんなのは朝飯前!
カルテを初めに見たときには驚きました。
毎日点滴をすると調子よくなるからって通ってくるお年よりたちの薬はまるで重症患者。こんなの毎日してたら副作用でおかしくなる!と、思って看護婦さんに聞いたら、「あ、これは全部入ってないです。実際はブドウ糖しか入っていません。」まず、ほっとしてから、えっ??
お金は公費負担の患者さんや、老人医療の患者さんだから、患者さんの払う金額は増えないとか...でも結局はみんなの税金から払われてるんですよね。水増し請求なんてもんじゃないです。ほかにも、入院の必要の無い人をいつまでも長々入院させていたり、一番驚いたのは、患者さんの承諾済みだって事で、通院するのが面倒くさいという患者さんの薬を出す代わりに、看護婦さんがダミーの患者になって、採血をしたり検査に出してコストを取っているんです。もう、目が点!でした。
でも、無駄なことはいっぱいしてるのに必要な検査や治療はやっていないんです。
更に看護婦ではない、おそらく?医療事務のおばさんが、調剤をしたり、手が足りないときは採血や注射までしています。(これが、ずっとやってるからなぜかうまい...でも、そういう問題じゃない)。
たまに行くだけの私なんかが、そういう腐敗した病院の体制なんて正せるわけはなくって、抵抗としては、治療や検査は必要ないからあまり来院しなくていいと、説明すること。正しい治療を行うこと。後は、出来るだけそういう病院に行かないようにすること?
本当は摘発するようにするべきなのでしょうけど、つい、また日常の仕事に追われてしまうのです。でも、最近、回を重ねるごとに悪質な体制に目がつぶれなくなってきました。
こういう医療機関はごく少数ですが存在するのは事実です。
悲しいことですが、医療者を疑い、吟味する目を育ててください。

00/06/10 掻いてちゃ駄目なの??
この間当直で救急室にいた時の事。
救急隊からの電話を受けた応答医が皮膚科へまわしていた。
「76歳男性なんですが、背中が痒いという事で今から救急車できますのでお願いします。」
思わず、隣りでカルテを書きながら吹き出してしまった。
しかし、そんなの大学病院で診なくてもいいと思うんだけど、休日やってる皮膚科って無いんですよね。それに、どんな事でも救急車は一度要請を受けるとどこかの医療機関に送り届けないと行けないんです。たとえ、患者さんが「もう治りましたのでいいです。」と言っても...
00/04/16 珍客来院 Part 2
救急隊からの連絡のお電話。
「あのぉ、診察以来なんですけどぉ、20代の女性で、よくねずみが出る家に住んでるんだそうなんですぅっ!」
<は?>
「で、ねずみがしばしば出没する食器棚の2段目にある、ねずみが踏んだかもしれない箸で昼に食事をしたそうなんですがっ!」
<はぁ??>
「それで、食事をしてから2時関したら急に気持ちが悪くなってお腹も痛いんだそうなんです〜!でも、今日は生理の1日目で生理痛もあるらしいんですっ!」
<はぁ。。。。>
「精神的なものだと思われるんですが、診察おねがいできますかっ!?」
<はっ、はい〜。(-_-;)>
電話の相手の声が怒りに震えているのが手に取るように伝わってくる。
救急隊は要請を受けたらどんなくだらない事でも断れない。
どこかの病院へ運び込むまで終れない。患者がたとえ、もう治りました。いいです。って言っても連れていかねばならないのだ。
救急車からストレッチャーで運び込まれた、真っ青なアイシャドーをしたコギャルは、もう治った。とのたまう。
怒る気も失せてしまった。嫌味も言わずに吐き気止めと生理痛の薬を出してあげる私ってなんてお人好しなんだろう。。。
あ〜あぁ、世も末ですねぇ。
00/01/24 アルコール中毒は病気?
アルコール中毒には、急性アルコール中毒と慢性アルコール中毒があります。
慢性アルコール中毒は、いわゆるアル中で、中年男性に多いアルコール依存症をさします。アルコールを常習して、仕事や日常生活に支障をきたし、止める事で禁断症状が出たり、アルコール自体で身体障害や精神障害を生じている物です。これは自分一人の力では止める事も難しく、臓器障害も生じている事が多い為、病気と言えるでしょう。性格のだらしなさから始まる事も多いですが、精神的ストレスなどがきっかけで依存症になる人もいます。ある意味、精神科疾患と言えるでしょう。
対して、急性アルコール中毒とは?新歓コンパ、忘年会などなどで、飲みすぎてへべれけになって運ばれてくる人々。。。
返事も出来ず、失禁状態の泥酔の人、はたまた病院内を歩き回るただの酔っ払い。
事情があって飲み過ぎる人もいるのでしょうが、殆どは単純に飲みすぎ。。。
どんな場合も、救急隊は要請があれば断る事は出来ず、どこかの病院へ連れていかねばならず、どこかの病院が受け入れる事になり、そして、搬送を含めた医療費が保険で支払われるのです。故意の場合健康保険の支払いはされない。という決まりがありますが、線をひく事は難しく、実際は支払いがされているのが現状です。
皆さんの保険料や税金がこんな事に使われているのをどう思いますか?
99/09/06 医療とは?
医者になって4年になり、内科医として、また、麻酔科医としてそれなりにいろんな場面に遭遇してきました。誰もがあきらめていた20代の女性を死の底から救い出せた事もあれば、あらゆる手を尽くしたがその甲斐も無くなくなった方もいます。手術で完治できた患者さんもあれば、手術により余命の短縮をやむなくされた患者さんもいました。
わかりきった事ですが、医者には治せるものと治せないものがあります。大学病院という性格上、治せない確率が99パーセントであっても残りの1パーセントの為に全力を尽くす事が多いのです。しかし、それが結果的に患者さんや御家族の方に多大な肉体的、精神的な負担をかけている事も多いものです。特に高齢の患者さんの場合がそうです。辛いだけの余命を僅かに延長させて<無理矢理生かしている>という気がしてならない時があります。命を延ばす事だけではなく、時には上手く人生を閉じてあげる事も医者の仕事ではないかと感じる事はしばしばあります。もちろん、安楽死、尊厳死といって命を縮めるような処置はするべきでは無いと思いますが、ただいたずらに延命だけを考えた治療は罪悪ですらあると思う時があります。まず、治療を行ううえで治せるのか治せないのかなどという判断が正確に行えないと重大な問題につながるのですが、どうも<やりすぎだなぁ。>と感じる事が多いこのごろなのです。やりすぎている場合、いつも感じるのは医者のエゴなのです。
患者さんの側からも、今の治療が今後どういう経過をたどるのか、治る見込みはどうなのか、他の方法はあるのかなど、どんどん医者に疑問を投げかけて、情報を収集し最も自分達の臨む医療を選択していって欲しいと思います。
99/04/07 化学熱傷。
いま、麻酔科医として毎日手術に立ち会っていますが、形成外科の手術を担当したことがありました。病名は化学熱傷、顔面、前胸部、前腕部瘢痕。
このかたは何と、硫酸を顔に浴びてしまったのでした。
顔はもう原型をとどめておらず、皮膚はケロイド状になっていて、紫褐色に変色し、まぶたは皮膚のひきつれでめくれ返って閉じる事が出来なくなっています。鼻は溶けてなくなり皮膚の真ん中に2つ小さな穴が空いているだけ。。。首から胸、腕にも硫酸がかかって皮膚は同じくケロイド状になっていました。治療は何回もの手術が必要で、まずおでこの少し残っている正常部の皮膚を伸ばすために皮膚の下にバッグをいれて、少しずつ生理食塩水をいれます。皮膚が伸びてきた所でその皮膚を切り取って回転させて鼻を作るのです。移した皮膚を何回もかけて鼻の形に修正をしていきます。ほかのケロイド状になった皮膚はお腹や腰から皮膚を移します。
それでも、とても元の顔には戻す事は出来ないでしょう。今はかなり原型はとどめていませんが、最終的には何とか顔らしき感じになるでしょう。
最近話題の骨髄幹細胞から皮膚が形成されればかなり修復も期待できるのではないかと思いますが。まだ臨床で使用される段階までは来ていません。早く臨床応用されるといいですね。
全身熱傷。
ある救命救急センターで当直をしていた晩の事。50%熱傷の患者が来るという一報が入りました。待ち受けていると、真っ黒な焦げ臭い固まりが運び込まれました。所々に服の燃えかすが付いていました。髪の毛はすべて焼けて跡形も無く顔は真っ黒にすすが付いて、皮膚は一枚すっかりむけていて腫れていて男女の区別も付かないほど。。。残っていた衣服をはいで男性と解りました。身体中の皮膚はベロッとむけていて、まるで昆虫の脱皮のよう。手の皮膚は手袋のようにその形のまま取れました。やけどの深い所からはじわじわ出血して血だらけである。こんな状態なのに意識はしっかりある。。。痛みと、熱の放散で全身ががたがた震えていました。全身から体液が失われるため急いで輸液をしなければなりません。駆血のためにゴムで縛ると残った皮膚もまた剥がれてしまう。目撃者の話しでは浜で、灯油をかぶって焼身自殺を図ったようでした。。。焼け爛れた皮膚には砂が付着していてこれを消毒液に浸したガーゼで拭き取る。あたりは患者から放散する熱で蒸し暑くなり、人体の焼けた匂いが充満し、自分がやってる処置があまりに痛そうで、おおかたの事にもう慣れ きって来ていた私でもも、すこし分が悪くなりました。。。結局その患者さんは80%熱傷でした。
50%熱傷:体表の50%のやけど
99/01/16 皆さんにも出来る救命治療。
先日、突然自宅で心停止、呼吸停止をした女性が運ばれてきました。数分前までは元気だったとの事でした。家族が呼吸していない事に気付いてすぐ近くの医者へ連絡しました。開業医が駆けつけ、およそ十分ほどで心臓マッサージ、人工呼吸が開始されました。まったく動いていなかった心臓が拍動を再開し、気管内挿管され、人工呼吸を続けながら搬送されてきました。直ちにICUに収容し、人工呼吸器を装着し、昇圧剤などの各種薬物を投与し、血圧なども一時は安定しました。翌日になっても意識は回復せず、再度、頭部CTを施行した所、脳幹部、大脳基底核に広範な梗塞を認めました。これは、低酸素による脳の壊死と考えられました。脳波をとったら平坦で脳死状態でした。改善の期待が殆ど望めなずに、来院から5時間後に亡くなりました。心肺停止した直後に家族が発見していて、医者の到着まで付き添っていました。この間に家族が少しでも心臓マッサージと人工呼吸をしていれば、意識も戻り、元気に退院できた可能性があるのです。循環が停止して、脳が不可逆的なダメージを受けるのは3分といわれています。たとえ1分でも後遺症が残る可能性が高いです。初期の 人工呼吸と、心臓マッサージには特別な器具や技術は要りません。より良い方法はもちろんありますが、おおむね胸の真ん中をTVなんかでやってるように見よう見まねで押せば良いのです。TVの場合生きた人間で、演技してるので本気で押してませんが、もっと思い切り胸がへこむくらい押すのです。時々肋骨を折ってしまいますが、強すぎるくらいでもいいのです。そして、人工呼吸は口か鼻から空気を送り込むのです。医者はマスクでやりますが、家族なら口と口(いわゆるマウス ツー マウスってやつです)で空気を吹き込むのです。鼻をつまんでやると良いでしょう。または、口をふさいで鼻から吹き込んでも良いでしょう。この時ポイントはあごを挙げさせる事です。抵抗があれば、ハンカチを当ててやれば良いのです。この誰にでも出来る初期手当てが命を救えるのです。覚えておいて下さい。誰かを救えるかもしれません。
気管内挿管:口から肺の入り口までチューブを入れて気道を確保する事。
ICU:集中治療室。
昇圧剤:血圧を維持する薬。
脳幹部:生命を維持する上で最も大切な呼吸中枢などがある部位。
大脳基底核:
梗塞:血流が途絶える事によりそれよりも末梢の組織が壊死する事。
99/12/18 鼻が取れちゃった。。。
この時期には忘年会シーズンで会社で温泉旅行に行く人たちが多いです。ホテルのカラオケで、陽気に歌っていてつまずいた40歳代の男性がいました。酔っていて手も出ず顔面から机に激突。鼻血が止まらないといって慌ててやって来ました。見ると鼻血どころか鼻が根元からもげちゃって、僅か数ミリの皮でつながってぶら下がってるだけです。とりあえず皮膚科の医師が縫い付けていましたが、それだけのつながりでは果たしてきちんと付くことか。。。皆さんも飲みすぎには注意して下さいね。
98/12/05 これぞ、集中治療!!
集中治療室は、ICU,CCU合わせて約20床のベッドがあります。主にここに出入りする医者は、脳外科医、胸部外科医、循環器医、麻酔科医です。疾患で言うと、くも膜下出血、脳挫傷、心筋梗塞、心不全、それに脳、肺、心臓の手術後の患者などです。これで、お解り頂けるように、脳、肺、心臓はいずれも数分でも機能が低下、及び停止を来すと瞬時に生命の危機にさらされる臓器なのです。したがって、ここに入院してくる患者さんの多くは放っておけば、数分から数日で命が無くなってしまう状態なのです。患者さんがやってくるという情報は瞬く間に流れ、医者も看護婦もスタンバイします。患者さんが入室すると、入り込む隙も無いほどの医者と看護婦に囲まれ、一瞬にしてみぐるみ剥がれて、四方八方から、点滴やカテーテル、場合によっては人工呼吸器につなぐための気管内チューブが挿入され、様々なモニターが取り付けられます。大声で、医者の指示が飛び、看護婦は走り回って補助をします。最初の数十分で患者の予後が変わる事も多く、重症患者の場合は、他科の医者も協力して初期治療に当たります。まぁ、ここまではよくTVでも紹介されていますよね。面白いのはこのあと。ひと通りの初期 治療が終り、今すぐ生命の危機が無いと解るや否や、潮がひくように医者が去っていきます。その早い事早い事。。。
処置がすべて終ってから、医者が担当医独りになるまで僅か10分ほど。こんな時、不思議に(チーム医療だなぁ)なんて思うんです。
ICU:Intensive Care Unit(集中治療室)
CCU:Coronary Care Unit(冠動脈疾患中中治療室)
98/12/01 エアバッグは本当に安全なのか?
今勤務している病院には、かなりの交通事故の患者さんが運び込まれます。
車対車の事故で、両方の乗員が同時に運ばれる事もしばしば。。。そんな時の印象ですが、エアバッグの付いてる車に乗っている人の方が余分な怪我をしている気がします。例えば、顔の擦過傷。エアバッグが付いてると、ほぼ必発といっても過言でないような気がします。他にはとっさに手を出してしまって生じる手の多発骨折など。エアバッグって爆発ですから相当の衝撃なんですね。骨なんか簡単に砕けちゃってます。最も事故の多くは生きるか死ぬかというよりも骨折してるかしてないかという程度のものなんですが。。。実際、命に関わるような大事故の場合にはエアバッグの効果が発揮されるのかもしれませんけどね。
98/11/22 救急室
救急外来です。救急車から患者さんはここに搬入されて、必要な処置を受けます。一目で見渡せるように必要な時以外は仕切られていません。すぐにいろんな処置が出来るようにひととおりの物が用意してあります。
ICU(集中治療室)は、重症患者さんや大きな手術後の患者さんが収容されます。いつ容体が急変してもおかしくない患者さんばかりなので、やはり一目で見渡せるように仕切りはありません。人工呼吸器や、様々なモニターが装着されています。
98/10/25 救急隊の駆け引きとは。。。
救急隊はしばしば、嘘をついたり重要な情報を隠したりするのです。それは何故か??根底には一刻も早く患者を医療機関に搬送し、必要な処置を施したいという熱い情熱が流れているのでしょう。しかしその背景には救急病院での受け入れの態勢に問題がある事も事実なのです。深夜に寝てる所をたたき起こされるのだから、医者も看護婦も出来る事なら手のかかる重症は余り引き受けたくないという心理がちょっぴりあるのです。実際、重症患者で高度医療機関でないと行えない処置が必要だったり、一人の当直医には手におえなくて何人もの医師のいる救急救命センターに結局送らなければならない事も時にあります。その場合、一度搬送されてからまた転送するので時間的なロスが生じるのです。その為もあって重症と思われる時は、「もしかしたらここでも診れるかも。。。」と一瞬よぎっても、高度医療機関への搬送を電話で救急隊に依頼してしまうのです。そんな背景があるために、救急隊は患者の重症度を軽く偽るのです。先日も、民間病院で当直をしているときに「40歳代の男性。気分不快を訴えており、心電図波形が少し異常が有りそうです意識は清明です。」との事で受け入れを伝え た。そして数分後患者が到着した所、心電図は放置すれば数分で死に至る可能性の高い重症不整脈、VT。救急隊員も見てわかっていたはずです。血圧は測定できず、脈も触れない。しかし何故だか患者は意識がかろうじてあるのです。気分が悪いと訴えていますが、意識朦朧状態。静脈確保をしようとしても血圧が低すぎるために血管が取れない。血管が取れないと不整脈の治療薬も投与が出来ない。中心静脈を取る必要があったが、その病院では準備に時間がかかる上にスタッフが足りない。看護婦も重症に慣れておらず、対応が遅い。そして、殆ど何もしていない状態で救命救急センターへの転送となった。一刻を争う状態。救急車に同乗し、救急救命センターへ到着。4人の医師が待ち受けていた。救急室へ運び込またとたん、心停止。呼吸停止を来しました。5人の医師と、3人の看護婦とで心肺蘇生を行い、数分後に心拍再開したが、心停止の間の低酸素による脳傷害が残る可能性がありました。。その後の経過はわかりませんが、もし適切な状態把握が出来て直接救命センターへ搬送されていたら脳障害の危険は回避できたものでした。

VT:心室頻拍
静脈確保:投薬、補液のために静脈に点滴用の針を穿刺し、留置する事。
中心静脈:頚静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈などの太い血管にカテーテルを穿刺、留置する事。
98/09/21 困った急患BEST 3!
第1位−30歳代男性。主訴:便秘。来院時間:午前2時半。
この患者はある病院の内科医の間では有名な常習犯。2,3日便秘だといって深夜に下剤を希望して来院する。市販薬は全く飲まない。しかも平成8年から1回も支払いをしていない。昼に来るようにいうと昼は忙しくて来れないといい、支払いをするようにいうとお金がない。病人を見るのが医者の義務だろうといって威張り散らす。生活保護を受けていないのでホントはお金を少しは持ってるはずなのだ。なのにより費用の高い時間外にやってくる。昼だと人がいっぱいいて主張が通らないので、手薄な深夜に来るのです。深夜にこんな事でしばしば口論になるのですが、こっちも貴重な睡眠時間をらちのあかない口論に費やすのはもったいないので最終的には下剤を1回分出して返す事になるのです。こんな事のために辛い当直をしてるかと思うと情けなくなる。。。
第2位50歳代女性。主訴:身体がサラサラする。来院時間:午前零時。
何度聞いても理解できなかった訴えNo 1。最近全身がサラサラするという(皮膚ではないと)。しびれ、麻痺、脱力などはないらしい。しかし精神的に異常がある感じでもない。ごく普通の人なのに、全く理解できない表現を続けた。。。疾患的に思い当たる事もなく、精神安定剤を処方して帰宅させましたが、その後は来院しませんでした。。
第3位20歳女性。主訴:急性アルコール中毒。来院時間:午前3時。
ただの酔っ払い。夕方から飲みつづけて深夜に入って吐き始め、そのうち意識レベルが悪くないったとって同僚が救急車を要請。意識はしっかりしていて、ほっとくと寝てしまうだけ。仕方なくしばらく寝かせておいたら興奮気味になり、泣き喚き、男性の名前を呼びつづけた。ちなみにずっと付き添って面倒を見ていた同僚の男性の名前とはちがっていました。。。。
父親が呼び出され、詫びながら連れて帰りました。こういう人結構多いんですよね。
98/08/01 Lucky or Unlucky?
先月のお昼過ぎの事。急患が来たとの事で、手の空いてる医者は集中治療室へ集まるように要請がありました。行ってみると40歳前後の女性が救急隊に蘇生を受けながら搬送されてきた。モニターを見ると心電図の波形はAfであった。到着時はVfで、救急車内と外来でDCショックをかけて心拍が再開したとか。
発見時の状況が特殊であり、自転車に乗っていたが、消防署の前で突然パッタリと倒れたと言うことでした。すぐに救急要請され、消防隊員が到着したときにはVfであったと言う。すぐに医師の指示のもとに救急救命士の手によってDCショックがかけられ、Afへと回復しすぐさま病院へと搬送された。心停止に至ってから稀に見る短時間で蘇生が開始され、回復の期待が大きかった。身元も不明だったが、持ち物からの調査で身元も判明しました。
回復の期待が大きく懸命な治療が行われた。気管内挿管も行い人工呼吸器管理としたが、入院後も心停止、蘇生を繰り返し約15時間後に死亡されました。あまりの突然の出来事に家族は呆然としていました。
せっかくすぐに蘇生が開始されたのに、救命にいたらず非常に無念でした。

専門用語解説
*Af:心房細動。不整脈の1種であり、不規則な脈だが脈拍数が落ち着いていれば緊急性 はない。
*Vf:心室細動。最も重症の不整脈。心臓が痙攣している状態で、脈拍は触れず、血圧も維持できない。放置すればすぐに死に至る。心停止の状態。
*DCショック:電気ショック。心停止の時に心臓の興奮を再開させる最終手段。
98/07/05 社会問題!!
問題では。。。?
うちの病院に、とある東南アジアの女性が入院していました。
日本人と結婚しているとのことで、名字は日本姓でした。年齢よりは若く見えました。そんな彼女は原因不明の急性腎不全で、病状はどんどんと進行していきました。けれども一度も夫は見舞いにきませんでした。
少し年上の同郷の女性は良く見舞いに来ていました。彼女の病状説明はその友人に行われました。そして、彼女が亡くなる可能性が高いと説明した所、その驚きはただ事ではありませんでした。
その数日後、彼女は亡くなりました。そして死亡診断書を友人に渡した所、「困ります。○○ ××は、私の名前なんです。私が死んだ事になってしまう。」と、ついに告白しました。
実は、一人の日本人と婚姻関係にある女性の保険証を多くの女性が使いまわしていたようなのです。しかも、その婚姻関係すらも結婚ブローカーによるもので、相手の男性は顔も見た事のない日本人で住所も分からないのです。亡くなった女性は母国で離婚して、子供を残して日本へ来ていたのですが、パスポートもありませんでした。このような保険証の使いまわしでも、保険証には顔写真もないので病院ではわかりません。そして、税金から医療費が払われるのです。結局ウソと判明した今回のケースでは500万の医療費が請求できずに、病院の負担となりました。その病院は市立病院でしたから損害は市民の損害です。そして、無縁仏となった彼女は市の税金で埋葬される事となりました。
何らかの対策の必要性を実感した一件でした。
98/05/24 珍客来院
先日の患者さんには困り果てました。
救急隊からの電話。
「住所不定の、意識障害者ですが搬送してよろしいでしょうか?」
断る事は出来ないので受け入れOKを伝える。

待ち受けていると救急車が到着した。ストレッチャーに60代位の男性が横たわっている。看護婦さんと3人がかりで頬をピシピシと叩く。
「目を開けて。名前言えますか?」するとうっすら目を開けたかと思うと
「うへへっ」と笑いと共にぷ〜んとアルコールの匂い。。。
「お酒飲んでるの?どれだけ飲んだの?」
「おらか〜?」「そう、あなたよっ」
「ちょっとだけさ〜。3杯くれえだ。」
聞けば朝から酒屋の前に座っていたのが昼過ぎには横たわっており、
起こしても起きないため酒屋の主人が困って救急車を呼んだという。
診察の結果は異常なし。
「いつもはどこにいるの?荷物はどこにおいてきたの?」
すると救急隊員の方が「先生、ちょっと。。。」
と、廊下側のドアを開けた。そこにはその人物の家財道具一式が詰め込まれたリアカーが1台ぽつーん。。。
<あちゃ〜。一緒に積んできちゃったんだ。。。>
最終的には、
「いい?この荷物持って、そのドアを出て、真っ直ぐ行けば○○町だからね。」と言ってお帰り頂いた。

98/04/26 薬の乱用!?
午後5時ごろ、咳止めを飲んだらききすぎて様子がおかしい。という患者が来院。患者さんは10代の女の子。聞けば、風邪を引いて咳が止まらなかったので、母親が喘息の兄の薬を朝2錠、昼に1錠飲ませたという。飲んだ薬は気管支拡張剤。咳止めではない。しかも元来、気管支拡張薬という薬は、薬が効き始める濃度から、副作用が出る濃度までが非常に狭い薬で、飲みすぎると様々な副作用が出ます。彼女が飲んだ薬は、成人で常用量が2錠のもの。常用量は60キロ位の男性が基本なので、2錠でも多いくらいです。これを計3錠飲んでしまっている。さらに悪いことに一日一回で長ーく効くタイプなので、なかなか効果が薄れない。しかも飲んでから5時間が経過しており、胃洗浄も無効。震え、吐き気、頭痛、冷や汗など様々な症状が出てしまっているが、自然に薬が切れるのを待つしかない。後は重篤な副作用がこれ以上出ないことを祈るのみ。母親は私に説教された挙げ句、さらにベテラン看護婦にこっぴどく起こられて、しゅんとしていた。皆さんも、市販薬以外の薬を流用することは危険なのでやめましょう。信じられないことですが、眠らない一歳児に自分の睡眠薬を飲 ませて、死なすところだったなんて話しもあるんです。
98/04/18 全身褥創
当直先の病院へついて、担当医から申し送りを受ける。《全身褥創の人がいるんです。》聞いてびっくり。褥創とはいわゆる床ずれの事。寝たきりの患者さんで生じるもので、ずっと同じ個所に体重がかかる事で、骨に圧迫され、組織の循環が悪くなり壊死、潰瘍形成を起こす。起こりやすい場所としては、骨盤、背骨、肩甲骨、踵などがある。それが全身性に起こっているとは尋常なことではない。これらの場所はもちろん、背中全体、足全体にも起きていて、肋骨や大腿骨まで露出しているのである。ひっくり返すと背中側の骨が全部見えてるような感じです。ホントによく生きているとびっくりしました。これを防ぐのに、看護者は一生懸命、<体交>といって寝返りをさせるのです。しかしこの患者さんは殆ど物も食べれず、動けないまま、かなり長期間自宅で家族にほっておかれたのです。1歩間違えば殺人罪だと家族はかなりくぎをさされたらしいです。家族は大切にしないといけませんね。。
98/03/26 ある日曜日の当直
私は、同期の研修医と交代して、比較的大変といわれている病院の当直へいきました。到着すると看護婦さんが、《おはようございます。今日は救急当番日なのでよろしくお願いします。》といってきた。そんなの聞いてない。と思いながら当直室へついてまもなく、救急外来を受診すべく患者さんが次々とやってきた。多くは感冒、いわゆる風邪である。診察し、投薬し、順調にこなしていく。一段落して、医局で休んでいると、電話が鳴る。《かかりつけの患者さんが、具合悪くて救急車でいらしてるので大至急お願いします。》 急いで駆けつけると救急隊員がすでに心臓マッサージと人工呼吸を行っている。《えっ?具合悪いってDOA!!それならそうと言ってよ。》不満に思いながら、指示を出す。静脈路確保、心電図モニター装着、DCスタンバイ、気管内挿管の用意。患者さんは70代の女性。朝までは意識があったという。かかりつけといっても、2日前に不整脈で受診しているのみである。情報は少ない。
救急隊が到着したとき、すでに呼吸停止、心停止の状態だったという。発見までにどれくらい経過しているか分からない。来院時、すでに瞳孔が散大している。対光反射も無い。回復は非常に厳しい。しかし、残された可能性に賭けてみる。モニターでは相変わらず、波形は出てこない。完全な心停止である。強心剤を注射し、DCをかける。波形は出ない。CPRを続け、再度DC。駄目だ。救急隊に心臓マッサージを任せ、気管内挿管の支度にかかる。これは技術が必要。大学病院では上級医師が行う為、余り実践のチャンスはない。これまで、私は3回の機会に恵まれており、今回4回目。医師は私だけだ。やるしかない。いったん心臓マッサージ、人工呼吸を停止し、喉頭鏡で、喉頭を展開する。緊張の一瞬。入った!集中治療室へ移動し、人工呼吸器へつなぐ。心マ、DCを繰り返すが反応なし。強心剤を注射し、CPRを続行するが反応なし。継続する事約2時間。外来医の副院長も到着したが、心拍は再開せず死亡確認となった。医療の限界を痛感した一日であった。

専門用語解説
*DOA:Dead On Arrival,到着時死亡
*DC:Dirrect Counter Shock,直流電流を用いる電気ショック
*気管内挿管:口から肺の入り口まで呼吸の為のチューブを挿入する事
*CPR:Cardio Pulmonary Resuscitation,心肺蘇生法
98/03/20 研修医の生活
私ももうすぐ医者になって2年が経とうとしている。6年間大学に通い、国家試験を受けて、ようやく医者になる。それから通常2年間、研修医として働くのである。大学病院の研修医は、学ばせてもらっているという立場上、非常に待遇が悪い。世間のイメージに反して、驚くほどの薄給である。給料と名づけるのもはばかられ、奨学金と称して月3万が支給される。これも、昨年から値上がって4万になった。そんな薄給の上、一日12時間前後働かされる。朝は早ければ8時から、夜は早くて6時、遅いときは途方もなく、帰れない事もある。平均すると8時くらいでしょうか。。。
そして、週末などの休日も、安定しない患者さんがいれば出勤だし、盆暮れもかまわず、仕事がある。有給休暇などなく、夏休み、冬休み合わせて10日も休めれば万万歳である。それに加え、受け持ち患者さんが急変でもすれば、夜中だろうと早朝だろうと、呼び出される。時に、看護婦さんや当直医の間違いで、急変でもないのに深夜に呼び出されて、発狂しそうになる事もある。そんな大学病院の仕事のほかに、生活の為にアルバイトをする。平日夕方から翌朝まで、あるいは休日の朝から24時間、民間の病院の当直である。大半の病院はそれなりに眠れるのだが、時々眠れない事もある。救急患者ならいたしかたないが、深夜に 《昨日足に缶ジュースを落として、今日になってふんばると少しいたむ》なんて人がやってきたりすると、《じゃあ、踏ん張らなければいいじゃない》と、思わずムッとしてしまう。
と、まあ医者の忙しさを主張しておいて。。。
でも、悪い事ばかりじゃあない。こうやって努力をして、少しずつ自分に力がついてくるのは嬉しいし、患者さんが苦しみから開放されるのを見るのはいいものである。何日間も、眠らずに治療をして、誰もが回復は無理とあきらめるほどの重症患者さんが、奇跡的に回復したときなどはまたとない充実感が得られる。これが、私に医者を続けさせる理由でしょうか。。。