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神奈川・横浜国際総合競技場 2002年4月17日 「コスタリカ戦を通じて、あらゆるチームのバランスを試したい。そして、さらに選手に自信を与えたい。すでにチームの準備はできている」 日本代表監督、フィリップ・トゥルシエが語った試合前日のコメントを聞くまでもなく、多くのファンが期待していたのは、北中米の小国を相手にしたゴールラッシュであり、胸のすくような快勝劇だったに違いない。しかし、実際にピッチで戦う日本代表チームから見えたのは、わずか1点さえも奪うことのままならない、苛立ちにも似た焦燥感と、いまだ理解不可能な部分の残るトゥルシエ采配に対する歯痒さだった。 ウッジで行われたポーランド戦は、日本にとって内容と結果の伴う会心のゲームだったと言える。だからこそ、この日のコスタリカ戦は、再び顔を覗かせた問題点や、最後まで消えることのなかった選手間の微妙な“ずれ”が、より鮮明に映し出されていた。ポーランド戦に先発出場した4名の欧州組、とりわけ中田英寿(パルマ)と小野伸二(フェイエノールト)の不在は、攻撃陣の落ち着きやゴールに至るまでのダイナミズム、相手をパニックに陥れるようなアイデアを明らかに欠くこととなった。 ツートップには柳沢敦と鈴木隆行、トップ下と言うには随分と下がり目の、ボランチに近い位置に小笠原満男を配した布陣は、3人が所属する鹿島でのコンビネーションを存分に活かす狙いがあった。前半9分には立て続けに小笠原がシュートを放つなど、ほぼ思惑通りの攻撃を演じていたが、指揮官の目にはそれらも極端に控えめな姿勢に映ったようだった。前半26分に小笠原が、その3分後には柳沢が、テストと言うには非情とも思える早い時間帯での途中交代を命じられたのである。 「選手の質がどうということでは全くない。その責任は、選んだ私にある」 トゥルシエ監督はそう言って彼らを庇ったが、むしろ90分間通してコンパクトさを保ち、日本の攻撃陣に最後の最後で決定的な仕事をさせなかったコスタリカの守備を誉めるべきかもしれない。早々にベンチに戻された2人は確かに気の毒だった。しかし、鈴木にしても途中出場した西澤明訓(C大阪)にしても、ゴール前に上がったセンタリングに飛び込む際には、必ずと言っていいほど激しく体を寄せられ、得意な形でフィニッシュに持っていくことができなかった点で、小笠原や柳沢とは大差がなかったような気もする。 ただ、テストと位置づけていたわりに釈然としない疑問も依然として残る。中村俊輔(横浜FM)や久保竜彦(広島)に与えた時間は限りなく短かったし、トゥルシエ就任以降、ほとんど採用されていなかった「4バック」を試したのも、後半のロスタイムを含め10分足らずしか残っていない時間帯でのことだった。 それにしても…。どこか不恰好だが、決してサボることのない生真面目なディフェンス同様、コスタリカは攻撃面でも抜け目なさを存分に発揮した。前半43分、ロランド・フォンセカが鋭い飛び込みで日本ゴールを襲った場面や、後半にペナルティエリア内で中田浩二(鹿島)のファールを誘ったプレーなど、得点には至らなかったが、日本が誇るフラットスリーを完全に切り崩すだけの計算しつくされた意図が感じられた。 そして、ついに後半32分、途中出場のウィンストン・パークスが左サイドからドリブルで持ち込み、宮本恒靖(G大阪)をかわして同点ゴールを突き刺す。鮮やかな個人技の前に、6万を超える大観衆が静まり返ったその瞬間、私はひとり安堵していた。不謹慎を承知で言うと、コスタリカの逆転ゴールを願ってさえもいたのである。 もし仮に、明神智和(柏)のミスキックによるラッキーゴールが決勝点となり、1−0のまま日本チームが勝利を収めていたとしよう。チームとしてほとんど機能しなかった事実は忘却の彼方に追いやられ、「トゥルシエ日本、無失点で3連勝」といった無邪気な論調で、根拠のない楽観論に拍車が掛けられていたことだろう。それだけは耐え難かった。 コスタリカは、北中米・カリブ海地区でメキシコ、アメリカを押さえ、堂々トップで3大会振り2回目のワールドカップ出場権を勝ち取った。しかし、本大会で組み込まれたグループCでは、ブラジル、トルコに次ぐ、第3グループの域を脱しえないというのが目下の下馬評である。ただ、彼らとて、そんな下らない評価を甘んじて受け入れるほどナイーブではないだろう。自分たちより格上とされる相手にも果敢にチャレンジすべく、約40日後の本番へ向けた準備にも余念がないはずだ。 「チュニジアからは確実に勝ち点3を」。ベルギーとロシアへの神経質とも思える警戒心に比べ、チュニジアに対する何ともお気楽なムードが、いま日本国内に蔓延している。ビッグネームがいるわけでもない。本大会で旋風を巻き起こす可能性はほとんどない。そんなダークホース的な存在でしかないコスタリカが、「サッカーに絶対はない。だからこそ、周到な用意を」という、しごく当たり前の概念をこの日、私たちに教示してくれた。自信を持つことの重要性は多く語られている。だが、それと同様に彼らが見せた「謙虚さ」もまた、大舞台における真剣勝負での不可欠な要素になるのではないだろうか。 「われわれはぜひ、ワールドカップで日本と対戦できるようにしたいと考えている」。 今日のカードが本大会の決勝トーナメント1回戦で再び実現する可能性は十分にある。極めて現実的な目標に向かい、コスタリカ代表監督、アレクサンダー・ギマラエスが残していった言葉を心の片隅に刻み込もう。3試合ぶりに失点を喫し、勝利を挙げることのできなかった、少しばかり苦い収穫とともに。 |
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2002年4月24日 【T】
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