ルーティン生徒会<過去ログ>



12月14日

 生徒会室……というのは、案外簡単なつくりになっている。長机が3つに椅子が5つ、そして会長机が1つ。

 扉を入って奥、窓から青空が伸びてるみたいな特等席に会長机。なんでか知らないけど、これだけ先生の机みたいなちょっと豪華なやつで(って言っても、灰色のくすぶったブリキロボットみたいやつだけどぉ)、あとは普通の茶色い木の模様がついた長机が『コ』の字型に配置されてる。

「あー、そうだそうだ、まもちゃんさー」
「丘条はただいま散髪中であります」
「この間の5月決済の書類なんだけどねぇ」

 聞いちゃいない。

 だらぁっと砕けたスライムみたいになって、机にへばりついてる副会長。擬人化したツタみたい。

 あたし(こと丘条まもり・まもちゃん)は、手にしてたはさみをぽいとして、目の前にある旦那の髪、きっかくぶちょーな須崎先輩の髪をぐしゃぐしゃぐしゃっとかき混ぜた。

「5月の書類ならちゃんと仕上げてますよー。ミスはないですぜおやっさま」
「丘条よ。散発を途中で止められては困るのだが」
「ミスねぇ」
「でも副会長に邪魔されたんで、丘条はやる気を失っちゃったのです」
「しかし、右半分だけ切られてもだな、友よ。俺はピエロではないのだ」
「まぁー、別にミスはないんだけどね、ミスは。むしろその逆かなぁ」

 白いおっきな布にくるまれててるてる坊主な須崎先輩がにらんでくるけど、あたしはふん、って鼻をならしただけだった。

 起きてるんだか眠ってんだかよくわかんない目をこっちに向けて、副会長がばさばさっと書類をうちわみたいに振った。

「逆? 逆ってなんです、副カイチョー」
「逆って言えば逆だよ、まもちゃん。ただの計算違いだったら僕も、あー、まもちゃんもたまにはお間抜けさんになるんだなぁって、生暖かく見守ってあげるんだけどさー」
「……あ、そ」
「これはいけないよねぇ」

 いけませんよぉ、とふるふるって首を振る。

 私はなんとなーく不機嫌になって、じっと副会長をみた。

 副会長は頭ゆるゆるでいっつも寝てるみたいな人だけど、たまーにどっかで冷徹な人……って、じつは姫足先輩から聞いたことある。目は笑ってるけど、その細い目、その奥に黒ーい光があるような気がして、なんかぞくっとする。

 副会長が書類をうちわにするのを止めて、すくって体を起こして、そんで私にウインクするみたいに片目だけであたしを見てきた。

「改ざんされてるよね」
「まっさかー、やですよー、そんなこと言ったって嵌められませんぜ旦那」
「こういう嘘はつかないんだよね、僕」

 またひらひらーって書類を振って、こいこいって手招きされた。

 須崎先輩を見たけど、我関せずって感じでてるてる坊主になってる。

 向こうの机も観たけど、パソコンに向かって高速特打ちやってる姫足先輩は、もとから会話に加わるつもりなんてないみたいだった。

 なんかターミネーターみたいな指使いしてる。

「なんですかー、ふっくカイチョ」
「耳打ち耳打ちこいこいこい」

 歌うみたいにして言われた。





 ……血の気が引くって、そうそう体験できるもんじゃないとおもう。

「これはお仕置き室行きかなー」
「……うそ」
「でもまぁ、上手く改ざんされてるよね、ほんと。その腕はすごいと思うよ、素直に僕は」

 これでも悪巧みに関してはちょっとは自信がある。

 それがなんかいきなり全部、消しゴム掛けの更地になっちゃった気分だった。

「会計に着任して早々、いきなりお仕置き室かぁ」
「な、なんなんですか、そのお仕置き室って」

 むっちゃくちゃ楽しそうに副会長が言うから。

 なんか、心臓のあたりがぞくってする感じの、嫌な女っぽい怖さがしみこんできて。

「丘条、なんかめっちゃ怖いんですけど」
「鷹津よ」

 須崎先輩がてるてる坊主になったまま、結構まじめな声色で言った。

「なんだーい?」
「いきなりお仕置き室は酷だろう。まだコレは中学生だぞ。一生の傷になりかねん」
「うーん、余計びびると思うよその台詞」
「や、やめてくださいよー、きっかくぶちょうもそんな」

 笑って言おうとしたけど、なんか須崎先輩の眉がしかめってた。

 窓の外は大晴れ。

 太陽の光で逆光になる鷹津副会長が、人生の選択でもさせるような気軽っぽい口調で言った。

「男用と女性用。どっちがいい?」

 どっちも地獄って言われてる気がした。


2月24日



「どっちってにこやかに言われても、まもりは困るんですけど」

 かなりっていうか、正直なところ背筋がさんむくなるくらいのびびり具合であたしはそう言った。

 だって、旦那はなんか真面目な顔して言うし、さっきまでターミネーターなブラインタッチしてた姫足先輩までちょっと手を止めてこっちみてるし。

 鷹津先輩の目は笑ってるけど、態度が冗談になってなかった。

「うーん、でもその選択はあんまりお勧めしないかなー僕は。僕に決めさせたら、どっちになるか、わかるよね?」
「鷹津よ」
「自分で決めたほうがいいなー」

 旦那のことは完全に無視して、鷹津副会長があたしを覗き込むみたいしてくる。

 あたしは今、副会長の机の真正面に立ってるから、鷹津先輩は腕組みした腕に胸をのっけるような感じであたしを見てた。

「どっちもやなんですけど」
「でも罰は必要だよね? これだけのことして」
「誓って自分のために誤魔化したお金は使ってません」
「親友のために万引きしたら免罪かな?」
「…………」

 なんにも言えない。

「鷹津よ。丘条は初犯だ。猶予の余地はあると思うのだが」
「守るねー。君も」

 初めて、鷹津先輩が旦那の方に目をやった。

「やっぱり経験者としては、かわいい後輩がお仕置き室に入れるのは黙ってられないかい? 気持ちはわかるけど、僕としてはねー」

 一拍おいて、あたしを見てきた。

「君がどんな顔をするのかちょっと見てみたいかなー。どうせ生徒会にいたら一回くらいは行くところだしね。それはそうと、ヒメタリは弁護しないのかな」

 と、これまでずっと傍観してた姫足先輩(書記)に視線だけ移して(っていうか、瞳だけ左にぎょろって動いてちょっと怖かった)、キーボードの上に手を乗っけたまま耳だけこっちを向いてたみたいにしてた彼女を見た。

 教室にある普通の木机、眼をつむってるのは姫足先輩の癖だった。

 長くウェーブのかかった栗色の髪、落ち着いてるっていうか、冷めてる人だけど、陸上やってるときは獣みたいな人。

 女のあたしから見たって綺麗な人だった。

 その姫足先輩が、しょうがないですね、って感じで口を開いた。

「興味ないです。お仕置き室でもなんでも」

 まあ期待なんかしてなかったけど。

 くっくっく、って変な笑い方して、副会長が頬杖になった。

「ヒメタリらしくていいよね、まもちゃん。あーゆーのも僕の好みでさー。弱いよね。でも、君みたいに日常仮面だらけっ娘ってのもいいけど」
「なんですかそれ」
「本心はどこですかっ娘でもいいよ」

 あたしが何も言えないでいると、鷹津先輩は目だけ笑って、でも冗談じゃない、普通の口調で言った。

「演技もいいんだけどねぇ。たまには本音も出さないとしんどいよ。君みたいに頭が良かったら余計なんだろうけど、日常、その場その場で仮面作ってやりすごしてたら、いつか大きな穴にはまるよ」

 優しくはない、でもほったらかしでもない、そんな感じの言葉。どきん、って胸がなってしまったのは不覚だったけど、でもあたしは表情には何も出さなかった。

 まあいいけどね、って言って、鷹津先輩はまた前のいやらしい笑顔になった。

「で? 僕が決めていいなら、君には女性用のお仕置きに行ってもらうけど? 反対の人ー」
「まったく話のきかんやつだな、鷹津よ。ヒメタリならば、まあ何も言わん。彼女も覚悟は決めるだろう。しかし、こいつは仕置き室の存在もしらん奴だぞ。酷だ」
「別に告知しろっていう規則はなかったはずだけどねぇ。僕の知る限り」
「俺も知らんが。俺が実力行使で止める前に考え直してはくれんか」
「脅かすね、君も」
「丘条」

 と、旦那と副会長が言い合ってるのをなんとなく他人事みたいに眺めてたら、急に名前を呼ばれた。

 ちょっとぼーっとしてたのかもしれない、姫足先輩がなに放心してやがるんですかって感じであたしをにらんでた。

「あ、はい。まもりです」

 何を言ってるんですかって感じでますます姫足先輩が眉を寄せた。

「丘条は誰かと付き合ったことありますか」
「え、いや、まもりはまだ恋人いない歴イコール中学生ですけど」
「経験もない?」
「……なんの経験なのか、わからなくもないですけどなんの経験を指してるんでしょう」
「ヤったことあるかって聞いてるんです」

 先輩みたいな綺麗な人からそんな感じの言葉をさらって言われて、むしろまもりの方が赤くなった。

 なんとなく頬が熱くなるって、何言ってるのかなこの人。

「な、ないです」
「鷹津くん」

 先輩が指をキーボートから下ろして、あたしたちの会話をおかしそうに眺めてた副会長を見やった。

 なんか睨みつけてる。

「……ん?」
「男用にしてあげたら? まだそっちの方がショックは少ないと思うけど」
「でもねー。このくらいの時期にあの世界を知ったら、これから先の人生岐路にどんな影響がでるのかなーとか楽しそうなんだけどね」
「いい加減、他人の人生で遊ぶのやめなさいよ」
「いいんだよ。他人なんだから」

 くっくっくっておかしそうに笑う。

 ……この人は最低な人って前に姫足先輩から聞いたことがある。確かにそうだと思う。

 でも。

 なんで憎めないんだろう。

「丘条。自分で決めた方がいいです。男用の方がまだましだから。それでも女性用に入れるって言うなら、わたしもトーゴ側につきます」

 はぁ、ってすっごいつまらなそうにため息をつきながらそう言ったけど、立ち上がった姫足先輩はなんだかあたしの仇でも見つめるみたいに鷹津先輩をにらんでた。

 当の先輩は、にこにこにこって楽しそうに見返してる。

 その間に挟まって、あたしなんかむしろこの場にいない人みたくなってた。

「味方がいるってことはさ、すごい幸せなことなんだって僕は思うよ」

 あたしは鷹津先輩を見た。

「誰も本当には理解してないけどね」

 そう言って笑った。

「なぜこんなことでこんなシリアスな感じになってるのかはわからんが、鷹津よ。いいではないか。正直なところ、俺は男用も反対ではあるが。考え直せ」
「……つまんないなー」

 でも、笑ってひらひらって手を振った。自分の頭の上くらいで。



「ちょっと、まもり聞きたいことあるんですけどいいですか?」
「ラオウを倒すまで待ってください」

 姫足先輩の横まで行ってそうたずねたら、あっさり振られたんで、今度は旦那の横にそそそそそってあたしは寄っていった。

「俺でよければ聞くぞ。丘条よ」
「旦那はお仕置き室に行ったことあるんですか」
「聞くな。思い出したくもない」
「できれば思い出してもらって、そのあたり聞きたいんですけど」
「相変わらず遠慮をしらんやつだな」
「ねーねー、姫足先輩はどうなんです?」
「遠慮を知らない人ですね、本当に」

 柳眉を寄せてあたしを睨んできたけど、でもキーボードからは手を下ろしてた。マウスをちょちょっと動かしてたから、一時停止してるんだと思う。

「鷹津くんも含めて全員いってます」
「全員。素朴な疑問なんですけど、お仕置きする人っていうのは」
「その時々によって違う。ちなみに姫足さんの場合は」
「殺しますよ、トーゴ」
「……だそうだ」
「ふーん」







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