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 〜私の坂道散歩〜        飯野丘絵

 私が生まれ育った下町は、海抜ゼロメートル地帯で坂がない。母には坂の上の学校に通っていた思い出があり、坂のある暮らしは素晴らしいといつも言っていた。その影響もあって、私は最初の一人暮らしに坂の上に建つアパートを選んだ。

 そこら辺り一帯はジェットコースターのような坂がうねうねと続く地域だった。アップダウンの激しい坂道を歩いていると景色がダイナミックに変化する。昭和初期まで避暑地になるような森深い農村だったようだ。その頃から私は普段履きに運動靴を履くようになった。23区内で一番緑地面積が少ない区から引越して来た私は、森のような公園に歩いて行けるのが嬉しくてよく散歩した。でも自転車も使えないような急な坂道は辛すぎた。昔の人はこんな急勾配で農作業をしていたのだろうか。
それに夜は静かすぎて真っ暗で怖かった。実家に戻った折に近所のオバサマに言われた。「江戸っ子は賑やかな場所にしか住めないんだから」。その通りだった。

 次に移り住んだのは目黒川沿いだった。前回の坂の生活で足腰が鍛えられて体力がついたので、自転車で権之助坂を横切って代官山まで長い散歩に行っていた。西郷山公園からは街が見渡せ、沈む夕日はプチ感動だった。人間一度見晴しのよい場所に住んでしまうと、もう谷底のような所での生活は気分を憂鬱にさせる。試してみたが耐えられなくて引越した。今の部屋からの眺めは西郷山公園からの眺めに似ている。遠くに小さくでも富士山が見えると気持ちが洗われる。
 
 六本木の美容院を利用していたときは、鳥居坂と暗闇坂を通って広尾まで歩くのがお気に入りのコースだった。麻布十番商店街も大好き。暗闇坂は昔は木が鬱蒼と茂り本当に暗かったので暗闇坂という名前になったという。今よく歩いているのは芋洗坂。昔芋問屋があったからだとか。坂を見つけると歴史標識で云われを読み、つい歩いてみたくなる。ゼームス坂には洋館があって趣きがあったのに洋館は取り壊されてしまった。

 「坂」に「通り」よりも情緒を感じるのはなぜだろう。坂は昔の名残を留めているからだろうか。平坦な四角い地形で直線の道よりも立体的な地形でカーブのある道のほうが歩いていても気分転換になって楽しい。

 六本木ヒルズは新しい街なのに、坂道を作ったところが素晴らしい。六本木ヒルズのメインストリートであるけやき坂通りと環状3号線の交差点から、レジデンスと森タワーを見上げる。TSUTAYA TOKYO前のかわいい草花が植えてある円形の花壇と、その横にあるロン・アラッドのパブリックアートがお気に入り。木の蔦のような何本もの細いパイプが無限大の記号のような形になっていて、そこにカップルが座っていると木の枝に抱かれているように見えてほほえましい。最初は、座っていいの?と思われたアート作品も最近はベンチだと分り、皆が座って楽しそうに寛いでいるのを見るのも好き。けやき坂は今一番おしゃれな坂道だと思う。


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