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いつの間にかこの街についた。
結局は孤独感を紛らわすために、この町に来たのだろうか?いくつもの音いくつもの色、
それらのものはすべてモノクロに、しかもそのときの僕には、錆びれてみえた。
僕はこの町に何を求めて来たのか自分にも解らない。
いつでも僕は動きつづけてきた。それが自分のすべてだとも思っていた。
ある一定の場所に居続けることは僕にはできず、居心地の良し悪しを問わず、
特定の場所にいることを避けていた。ジョン・レノンの「ラヴ」を聞いても、
共感は出来ても現実味に欠けているような気がした。
僕は、「ミスティ」という喫茶店に入った。店内には、エロル・ガーナーの写真が掛かっていた。
僕はビールを頼んで、マスターに言った。
「エロル・ガーナーか、懐かしい名前だね。」
「ええ」
「もしよかったら、ダニー・ハザウェイの「ミスティ」をかけてくれる?」
彼はニコッと笑って、ハイネケンの栓を抜いてくれた。そして僕は久しぶりに
「Eveything is Eveything」を聞いた。カウンターはあまり混んでいなく、1つ席をおいた
横に座った髪の長い女が声をかけてきた。
「これ、あなたがかけたの? ここはじめてでしょう?」と彼女はアブサンを飲みながら言った。
「そう。」と答えた。「ここにはよく来るの?」
「ええ。」といって彼女はわずかに残っていたアブサンを空けた。
僕はマスターに、彼女にもう一杯のぺルノーを頼んだ。
彼女は「ありがとう」言った。「私は真由美っていうの。」
「俺はね、克典っていうんだ。よろしく。」と言って、フォア・ローゼス・ブラックの
「この町は初めて?」
僕は頷いた。
「何処から?」
「いや、長い間旅をしてきたんだ。だからもうどこから来たのか憶えてないけれども、
僕はキャメルに火を点けてから、酒を口の中で濁した。
「気性ね。昔、そんな映画があったような気がするわ。」
「そうだっけ? 俺は昔の人間だから、よく解らない。」
彼女は首を傾げて、笑った。「映画の見過ぎか、本の読みすぎよ。クリストファーソンみたいね。」
「俺は、ビリー・ザ・キットじゃないよ。」
「もういいわ。昔のことなんて。」彼女はアブサンを口に含んで、僕はグラスを空けた。氷が2つ、
グラスにぶっかって、心地よい音を立てた。彼女は僕の方を向いて言った。
「ここはね、音楽とお酒ならなんでもあるよの。ねぇ、マスター。」とマスターの方を向いた。
彼は”ええ”とだけ言った。彼は無言で崇高であった。
「じゃあ、君のために何か1曲プレゼントしよう。」
「うれしいわ。」
「僕が今まで聴いた曲の中で一番好きな唄なんだ。」
「マスター、ハリー・ニルソンの”many rivers to cross”。」
「随分と懐かしい唄ね。私が小学に入ったばっかりの頃の唄だわ。74年だったかな。
ジョン・レノンがプロデュースしたのよね。あのアルバム、たしか、ええーと?」
と思い出そうとしていた。
「”PUSSY CATS ”」
「そう、それ。ジミー・クリフでも、リンダ・ロンシュタットでもないところがいいわね。」彼女は久しぶりに笑った。
まるで少女のように。
店の中に、スライド・ギターの音が聞こえ始めた。
「もう、あれから19年も経つのね。」
僕らは2人とも、煙草に火を点けた。
「ねぇ、マスター、彼にもう一杯。」と彼女は僕のグラスを指差して言った。
これでフェアね。しかし、あなたはこんな曲を知ってて、今いくつなの?」
「73年に生まれたんだと想う。その年の春ぐらいに。」
「もう、そう言う言い方は止めなさい。ホールデンじゃないんだから・・・」
「いや、奴はこんな話し方はしないし、僕は何時の間にか、こんなになっちなったんだ。」
少しの間、彼女はぺルノーを口に含んでいた。
「そうなの・・・20歳ね。わたしと5つも違うのね。若いのね。いいことよ。・・・」
僕が笑うと彼女も笑って、
「なにかおばさんくさいわね。」と言って、声を上げて笑った。そして曲が終わった。
「じゃあね、私もねぇ、一番と言う訳ではないけれど、すごく好きな曲をプレゼントするわ。ねぇ、マスター。
良い友達が出来た記念に、ロバータ・フラックとダニー・ハサウェイの”YOU'VE GOT A FRIEND”をかけてくれる。」
「僕の好きだよ、それ。キャロル・キングじゃないところがいいわね。」と言った。
「あなたっておもしろいのね。」と彼女は笑って言った。
「つまらない男さ。」
「そういうことじゃないのよ。」と彼女は笑い続けた。僕は彼女にもう一杯のぺルノーと自分の分のぺルノーを頼んだ。
「”ダージ河の恋人達”みたいだね。」
「ケッセルだっけ?」
「そう。」
「あなた、歳ごまかしてない?」
「そんなことないよ。今年成人式だったんだよ。」
「信じられないわ。何か証明出来る?」
「うん、好きな映画は”スケアクロウ”だし、好きなレコードはボブ・ディランの
”BLONDE OF BLONDE”だよ。」
「なに言ってるのよ。」彼女は怒った顔をした。
「嘘、嘘だよ。ほら。」僕は学生証を見せた。その学生証を見て彼女は言った。
「この街初めてじゃないでしょう?」
「まあね。でも、久しぶりに来たんだ。・・・・それにあんまりこの街好きじゃないんだ。」
「どうして?」
「どうしてだか、よく解らないけど。・・・・君は好き?」
よく解らないわ。でもずっとここにいるのよ。ここが好きでも嫌いでもないのに。ここにいるのが運命みたいに。
何故か離れられないの。」
マスターは、”YOU'VE GOT A FRIEND"が終わると、ジョン・コルトレーンの”INNAR
「もし、よかったらこの街を案内してくれるかな?君に、いや俺より年上だから、あなただよね。
あなたに案内してもらいたい。」
「いいわよ。でも、あなたはやめて。まだ若いのよ。」彼女は笑って続けた。
「真由美でいいのよ。」と彼女は言って席を立とうとした。
「じゃあ、解った。」でも、この曲を聴いてからにしたい。俺は、このエルヴィン・ジョーンズのドラムも、
ドルフィーのソプラノ・サックスも大好きなんだ。」
「私もよ。でもねぇ、行動は早い方がいいし、私、これ持ってるよ。」
「いや。聴きたい時に聴くのが一番いい。今、これ聴きたい。」
「わがままね。でも、あなたまともねぇ。」
僕らは1曲だけ聴いて、店を出た。僕が勘定を払ったが、店を出ると彼女は僕に、半分を金を渡した。
本当に気の効いている女性だと思った。僕の顔を立てつつも、フェアであることを意識していた。
それはお金のことじゃなく、精神的なことだ。
彼女は「ちょっと待ってて」と言って、赤のミニ・クーパーを出してきた。
僕は助手席に乗りこんだ。カーステレオでは、リッキー・リー・ジョーンズの”浪漫”が流れていた。
「あ、このLP、俺大好きなんだ。リッキーはなんでもいい。すべていいんだ。”パイレーツ”もいいし、
”マガジン”もいい。」心地よく酔った体に、このメロディーは最高に気持ちよかった。
「彼女関しては何も言うことはないよね。本当に。ところで何処に行こうか?
ここら辺りは、他にいい所はないし・・・。あなたはこの街はあまり面白いところじゃないのよ・・。
なんとなくそういう気がするの。」
「じゃあ、何処でもいいよ。やっぱりこの街が嫌いなんじゃない?」
そうじゃなくて、この街はなんでもあるの。ありすぎるのよ。物が・・・。だから・・・
それだけ退屈な街なのよ。・・・私の言ってる意味分かる?」
「なんとなく。だから、真由美の行きたいところに行けばいい。それと、そのあなたってのやめてくれないかい?」
と言って僕も彼女も笑った。僕は、彼女の名前がまだ口から出しにくかったのを憶えてる。
「じゃあ、克典君ね。」
「だから俺だってもう20歳過ぎたんだから、その君づけだけはやめてくれ。お願いだから・・・。
それに俺、その君ってやつ、似合うタイプの人間じゃないし・・・・」
「克典でいいよ。克典で。」
車の中には、カセットテープが10本程度置いてあった。
僕が憶えてるのは、ジム・クロウチ”BEST”とリッキー・リー・ジョーンズが3本と、
トム・ウェイツ”CLOSING TIME”、オーティス・レディング”PAIN IN MY HEART”、
エリック・カルメン”BEST”、レナルド・コーエン”BEST”などがあった。
その中で唯一の邦楽が佐野元春”ノー・ダメージ”だった。
僕は元春のカセットを見つけて言った。
「元春聴くんだ。洋楽しか聴かないように見えたよ。」
「それ、嫌い?」
「いや、小学・中学とよく聴いた。元春のレコードは全て、500回以上聴いてるよ。」
「私が学生だった頃は、みんな元春の聴いてたよね。今でも時々聴くの。
でもサザンや
好きだったけど、それ程聴かなかったわ。友達は良く聴いていたけど・・・。
何か元春って、違うものがあるよね。日本の中じゃ音楽性において別格なような・・・。」
次第に街から遠ざかっていったが、道はあいも変わらず混んでいた。
車は夜の高速の中を抜けていった。
「あなたみたいに会ったばかりなのに、リラックスできる人、初めてだわ。何処か共感
よく分からないけど。」
彼女はフロント・ガラスの向こうの前の車のテール・ランプを見つめていた。
「それは音楽とか映画とか本とか、そういったものの趣味が合うというだけじゃなくて・・・。」
彼女はまだ僕のことをあなたと呼んでいた。
僕は何も言わなかった。車の中は、リッキーの音楽と煙草の煙でいっぱいだった。
「今日は、目的地のないまま走りましょう。ずっと音楽聴きながら・・・走れるところ
「そういうのって、俺大好き。それに今俺もカセット持ってんだ。コステロとラスカルズとホリーズ。」
「そのホリーズには”He ain't heavy,he's my brother”入ってる?」
「もちろん」
「じゃあ、これ終わったら、それ聴こうよ。それにガソリンも入れていかなくちゃね。」
僕らはハッピーな気分になり、彼女は車を飛ばした。
「免許持ってる?」
「いや、持ってない。けど車は運転出来るよ。だって免許なんか誰が作ったんだか知らないけれど、
俺は俺のルールで動いてるんだから。」
「じゃあ、大丈夫ね。」
「当然!」
徐々にネオンが減っていって車の数も少なくなっていった。僕らは2時間以上も走って、結局海に着いた。
エリック・カルメンが静かにバラットを唄っていた。ピアノの音が波の音と調和して、
僕は新しいキャメルを開けて、彼女に一本と自分の分を出した。
彼女は静かに煙を吸い込んで、間隔をおいてそれを吹き出した。
「結局、思い出のある所に来ちゃうのよね。知らない間に・・・」
「気づいているかもしれないけど・・・」
「ここに来る運命だったんだよ。いつか。来ない訳にはいかなかった。そう言うことってよくあるよ。
俺なんか旅してるとそういうのよく解る。」
でも彼女はそれ以上のことについては口にしなかったし、僕も聞かなかった。
そんなことを聞いても仕方ないし、それ以上、そのことについて話すのはお互いに
彼女が傷つくことは態度であきらかだった。僕は彼女にキスすることは出来たが、何処かフェアじゃないような
気がしたし、あえてしなかったようにも思える。
それからホリーズの ”He ain't heavy,he's my brother”をカーステは唄った。
僕らは車を降りて、月の光の中を二人で歩いて行った。僕らは、お互いに今まで生きてきた過程が普通じゃないことに
気づいていた。その分、けん制し合わずに溶け込みやすい
大きな音を立てていたが、決して邪魔な 種類の音ではなかった。海に手をつけると死にそうに冷たくて、沖の方を眺め
ると黒い
「よくドラマとかだと、こういう時に海に飛び込むだよね。意味のなく、本当にくだらない。
海に飛び込んでなにになるってんだ。風邪ひくのがおちさ。」
「本当よね。でも、そういう熱いというか、熱っぽいというか、そういうのって大切だと
あなたたちの世代は、高度成長期の真っ只中で育ち、物質文明と、安定したように思える社会と何不自由ない環境と
将来の安定、女の子はもうお嫁さんになりたいだなんて誰も言わなくなったし、男の子はサラリーマンになりたがった。
本当の意味も解らないまま育ってきた。それがしらけ世代みたいに言われて、無駄な死に方をする人が増えた。」
「そう、その通り。俺自身そうじゃないって思い続けてきた。そう、信じなきゃいられなくなったけど、
やっぱり逃れられない。それがこの社会のシステムであり、社会自体が
そういうふうに作られてきた。間違えなく、僕もその社会の世代の
「私自身もそう。だからあの街から抜け出せない。一人で走ってゆく勇気が無い。
ただ昔を思い出して飲むしかない。」
長い沈黙があって、僕は波の音すらも聞こえなかった。僕らは完全にこの黒い世界に
僕は煙草に火を点けて言った。
「ずっとこのまま、この月光の下で夜が明けなかったらどれだけ幸せなんだろう?」
彼女は下を向いていた顔を上げて言った。
「昔ここで、同じことを言った男がいたのよ・・・。私があなたぐらいの時。」
「その数ヶ月後、彼はこの海に飛び込んで死体で見つかったわ。彼はあなたみたいに
彼は私に一通の手紙とジョン・レノンのレコードだけを
その前の年にジョン・レノンは死んでいたのに・・・。」
僕はもうなにも言うことが出来なかったが、その話を止める訳にもいかなかった。
話したいときにしか話せない人間が世の中には沢山いることを知っていたからだ。
「あれから随分長い間、抜け殻みたいな人間になってしまって、なにもすることが出来なかった。
その手紙を何度も何度も読み返したわ。なんて書いてあったか今でも憶えているわ。その中一番印象に残っているのは、
”海の水はまた海に戻るかもしれないけど、時の流れは決して同じところを通らない。
君に会えて本当に良かった”だって、馬鹿みたい・・・。」
彼女は僕の目を見た。
「そのジョンのアルバム の初めの曲は”standing over”だったのに。」
彼女は煙草を吹かした。長い髪が邪魔していたが、彼女の目が潤んでいるのはよく解った。
「もう止めましょう、こんな話。私も変な人間よね。さっき合ったばっかりの人に
僕は何も言わなかった。
「ただ、あなたを見た瞬間に何かプッカリと昔のことが浮かんできたの。そうしたら、
ずーっと来ていなかったここに着いたの。意識した訳じゃなくて、体がそう動かしたの。」
・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・・・・
「来る運命だったのよ。きっと。」
僕は彼女の体を強く抱くしめた。
「もう、車に戻ろう。手がこんなに冷たいじゃないか。」
といって僕は彼女を助手席に乗せ、車を走らせた。僕は途中で車を止め、煙草と
彼女に1本渡した。それから、オーティス・レディングを
24時間営業のファミリー・レストランに入った。僕らはコーヒーを注文し、彼女は新しいセイラム・ライトを開けた。
彼女の瞳は寂しげで、唇は乾ききって、白い頬は涙が流れたところだけ化粧が落ちていた。
「人間は忘れたいことを、忘れようと努力出来る動物だけど、忘れることが一番出来ない動物だと思う。
何年もそうやって引きずられたものが、過去の記憶として残るんだよ。
僕らはそうやって生きて行くんだ。そうやって生きていくんだ。」
僕は上手く彼女に伝えられず、本当に言わなくてはならない言葉を探し当てることが出来ずに、
心の中に葛藤が起こっていた。僕は煙草に火を点け、窓の外を車が一台通り過ぎるのを見た。
彼女は運ばれてきたコーヒーを一口だけ飲んで、煙草を吸った。
「ねぇ、真由美。」
言葉が頭の中で渦を巻き、言葉同士が相殺しあった。
「僕は君に何も言ってあげられないかもしれないけど、ひとつだけ言えることがある。
それは、僕は君を愛してる。間違えなく。ハッキリと分かるんだ。それだけ・・・。」
彼女は下に向けていた顔を上げ、僕の目を見つめた。
「ありがとう」
彼女は言葉を選んで言った。
「私のために・・・なのに私は何も出来ない。あなたに何もしてらげられない。」
「僕はかまわない。たまにこんな気持ちになることがある。言っていいのか
それは自分が傷ついているより、人が傷ついてるのを見る方が
「ジョン・レノンは”love is waiting to be loved”と唄っている。僕は今、君に愛されたいと思う・・・。」
短い沈黙があった。
「君と、上手くやっていけるような気がする。変な言い方かもしれないけれど・・・。」
40分ぐらい僕らはそこにいた。僕はもう彼女に伝える言葉は何も探し出すことは出来なかった。
車に乗ってエンジンをかけると、彼女は僕にキスをしてきた。
「あなたみたいな気障なせりふを言う人は他にいないわね。」
「そうさ、僕は気障なんだ。」
彼女は、かなり元気を取り戻していた。
「ねぇ、キスして・・・。」
彼女は僕の瞳の奥を見つめていた。僕は唇を重ね、彼女の耳たぶをかじり、彼女の首に
そして僕は、彼女は抱いた。
僕らが彼女のアパートに着いたのは3時を廻っていた。僕は帰ると言ったが、帰るところなんてないくせにと言って、
僕は何も言い返せずにいた。僕はでも帰ると言ったけれど、
行くあてのない僕を、彼女の気持ちを僕に表現することで、ここに留めておこうとした。彼女は500枚ぐらいある
レコード棚からすぐに”ジョンの魂”を取り出し、ターンテーブルの上に置いた。ゆっくりと
オンにしたら”LOVE”が流れ出した。僕は煙草を取り出して、
僕は昨日と同じ時間に「MISTY」に行った。彼女の姿は見あたらなかった。他に
僕は今朝、また彼女とここで待ち合わせると約束した。
2時間以上が経ち、僕は灰皿をいっぱいにした。そして、ウイスキーを4杯とビールを
僕は最後の煙草に火を点けるときに、”LOVE”をかけてくれと頼んだ。
その曲が流れている間に、煙草はゆっくりと燃えていった。僕は彼女のことをいろいろ
彼女が昨日行った海に浮かんでいないことを望んだ。煙草の煙はひたすら
僕は何もしてあげられない人間だ。ここで待っている他は。ピアノの音が静かに流れ、曲は終わった。
僕は最後にゆっくりと煙を吸い込み、それを灰皿の中で静かにもみ消した。立ち上がって勘定を済ませ、
店を出ると小雨が
「あぁ、僕はいつも案山子のように立っているしかないのか・・・。」
と僕は心の中で呟いた。そして、僕は自分の足元をしっかり確認して、また歩き始めた。
突然、車が1台僕の横につけた。運転席の窓が開き、彼女がそこに座っていた。
「何処に行くの?」
「いや、別に決まってない。彷徨のうたげさ。」
「乗らない?」
僕は首を振った。
「雨が強くなるって、天気予報で言っていた。いいから乗りなさい。」
僕が助手席に乗ると彼女は言った。
「これからどうするの?」
「旅。旅の途中なんだ。まだ旅は終わっていない。僕には、目的のない目的地が待っているんだ。」
「行く所がなかったら、私の家に来ない。ずっと一緒に暮らそうよ。”LOVE”を聴いて
過ごすのよ。ねぇ、いいでしょう?」
「僕には子の旅の終焉が待っている。だから、どうしても行かなきゃならない。」
「私、今海まで行って、花束を投げてきたの。そして荷物をまとめて、アパートを売り払ったきたの。
実はあなたがそうやって言うのが解っていたから。」
僕らは笑顔を取り戻した。
「じゃあ、克典の旅が一人旅じゃなかったら、私を終焉に連れていってくれる。
私は今、あなたに愛されたいと思っている。ねぇ、これが愛でしょう?違う?」
「そうだよ。」
「だから、私も一緒に行っていい?」
「もちろん。」
僕らは車の中で”LOVE”を聴いた。彼女は僕にセイラムを1本くれた。
「あなたは”LOVE”を聴くときに、絶対に煙草なしではいられないのね。」
「だから、そのあなたはやめろよ。」
彼女は笑って、その後静かに目を閉じた。僕は彼女の口唇にキスをした。
ジョン・レノンはやさしく僕らに”愛(LOVE)”を唄いかけていた。
終