いつもそこに驚きがあった。
グラスワンダー

平成11年 第44回 有馬記念 (手前より2頭目)
〜外より押し迫るスペシャルウィークをハナ差(なんと4cm)抑えて優勝〜


☆ 絶対的な信頼度、敵無しの2歳時。

 デビューは秋競馬スタート間もない9月。筋肉隆々とした栗毛の重厚な馬体は、他馬を圧倒する迫力。いざスタートするとアオって1馬身ほど出遅れたものの、二の足の速さで難なくリカバー。いつでも抜け出せる2番手を進み、残り1ハロンで粘るビルトジェーンを馬なりでかわし先頭に立つと、あっという間に差を広げてのゴール。終わってみれば、3馬身差の圧勝。”まだ遊びながら走っている”と鞍上・的場均のコメントに甚だ大物感をより漂わせた。
 2戦目となる、アイビーSでもスタートでアオってしまう。だが、全く動じることなく7番手を追走。直線坂下で軽く気合いをつけただけであっさりと先頭に躍り出ると、最後は手綱を抑える余裕も見せ圧勝。勝ち時計1分21秒9はレコードにコンマ2秒と迫る優秀なものだが、それよりも他のどの馬よりも1秒以上速かった、上がり時計の34秒0。これには圧巻させられた。
 重賞勝ち馬が2頭同居する中で、単勝1.1倍の圧倒的な1番人気を背負わされる事となった、3戦目の京成杯2歳S(当時:京成杯3歳S)は、偽りではなかった。課題のスタートも今日は難無くこなし、スムーズに2番手を先行。直線を向くと抑えきれない高性能エンジンが火を吹く。他馬を置き去り、その差6馬身。初重賞挑戦でも敵はどこにもいなかった。ただいたとするならば、その日の3Rの新馬戦で最後方一気のゴボウ抜きを見せた上、7馬身差の圧勝を飾ったエルコンドルパサーなのかもしれない。
 2歳王者を決定する1戦・朝日杯FS(当時:朝日杯3歳S)では、すでにこの怪物は全国区。1.3倍の支持を集めた。もはやここは、勝つかどうかではなく、どんな勝ち方をするかが焦点といっても過言ではなかった。スタート後は中団のやや後ろをゆったり追走。3コーナー過ぎで鞍上からゴーサインが出ると、難なく先団に取りつき、直線で豪快に抜け出した。荒れ気味の馬場状態でリンドシェーバーのレコードを破る1分33秒6の快勝劇。
 もはや、翌年のNHKマイルCは当確が確信になった瞬間でもあった。


☆ エリートに課せられた挫折、そして意地。

 3歳になり、初戦選定に気を取られている矢先の3月、骨折が判明し成長期の増してくる、3歳春の休養を余儀なくされた。同期では、セイウンスカイが皐月賞・スペシャルウィークが武豊にダービー初制覇をプレゼントし、NHKマイルCはエルコンドルパサーの圧勝劇で春の舞台は幕を閉じた。
 夏場まで完全休養に努め、秋には復帰メドがたった"天才少年"は、毎日王冠を復帰初戦として選択した。9頭立てと小頭数なものの、古馬になってから充実の一途を辿っている”平成の快速馬・サイレンススズカ”と、同じ3歳ながらNHKマイルCを快勝し、無傷の”エルコンドルパサー”の出走で一際3強ムードで盛り上がりをみせた。この日の東京競馬場はGTレースとも思える13万人を越す大観衆が押し寄せた。
 ゲートが開くと、いつものようにスズカが快調に飛ばし、1000m通過が57秒7。殺人的ラップともいえる超Hペースは、彼にとってはマイペース。直線に向いて、"天才少年"が追い迫るものの、その影は遠のくばかり。。。初めて挫折という言葉の意味を知った日であった。
 休養明け2走目は、前走から一気に700mの距離延長にもなるアルゼンチン共和国杯が選ばれた。1度の敗戦くらいでは消せぬ未知の魅力と相手関係から1番人気に支持された。道中3番手の位置どりから直線を向くと満を持して抜け出しにかかる。的場の手は動かず、一瞬楽勝かと思わせてがそこから失速。。。距離か、状態か、早熟だったのか。様々な憶測が飛び交ったが、いずれにせよ2歳時の輝きが失ってしまった。
 ジャパンカップを回避して挑んだ背水のグランプリ・有馬記念。中間の調教でまずまずの動きを見せるも、半信半疑といった感は否めなかった。しかし、GT馬8頭が顔を揃えるなか連敗中の"天才少年"は、オグリキャップ・トウカイテイオーが復活劇を見せたときと同様の4番人気に支持された。レースは1番人気のセイウンスカイが作り出す淀みない流れ。道中では女傑エアグルーヴの直後でレースを進めてきた。3コーナー辺りで的場のゴーサインが出ると、"天才少年"は言われるがまま好位に進出。前を射程圏内にとらえて直線を向くと、残り200m付近で先頭に立つと後は独壇場!ただ1頭差を詰めてきたメジロブライトの追撃も余裕を持って封じ、復活劇を完成させた。まさに"天才少年"の意地が垣間見られた瞬間でもあった。単勝:1450円、この払戻金には前2走の償い金が含まれているようにも見えた。


☆ 最強のライバルがいるからこそ・・・円熟期迎える。

 劇的な勝利でグランプリホースの栄冠を手に入れた後、中山記念を目標に調整されていたが、右前脚に筋肉痛を発症。さらに産経大阪杯の出走直後に馬房で目の下に裂傷を負ってしまい出走取り消し。年明け初戦は139日ぶりの京王杯SCだった。前走ダービー卿CTを鮮やかに逃げ切ったケイワンバイキングが今回も先頭に立つが、前半3F34秒9というスローな流れに行きたがるグラスワンダー。なんとか中団で折り合いをつけるが前残りの流れで4コーナーで大外にもちだすロスがあっては並みの馬では届かないものだが、上がり33秒3という脅威的な末脚を繰りだしエアジハードを差し切ってしまうのだから、全く次元が違うとしかいいようがないレースぶりであった。
 その後順当にコマを進め、単勝1.3倍のダントツの1番人気で安田記念に出走するも、エアジハードのリベンジに遭いハナ差2着に屈する。
 この春最大目標に掲げていた、古馬・中距離路線の最高峰レース”宝塚記念”がやって来た。前走のなんとも後味の悪いレースを一掃すべく、陣営も究極の仕上げで挑んできた。だが、その前に立ちはだかるのは前年のダービーに続き、春の天皇賞を制したスペシャルウィーク。もう1頭の強敵と目されていたクラシック2冠馬セイウンスカイは宝塚記念には全く関心を示さず、早々と秋に向けて休養に入ってしまった。こうなると2頭のマッチレース、接戦は必至。この2頭は初対決とあって、いったいどっちが強いのか?という興味がいやがうえにも盛り上がっていった。天才・武豊に初のダービーの栄冠をもたらした、スペシャルが1番人気の1.5倍。前走ハナ差負けとはいえ負けているグラスは2番人気の2.8倍。しかし、かつてのライスシャワーでメジロマックイーン(天皇賞・春)、ミホノブルボン(菊花賞)を葬り去った”マーク屋”的場はスペシャル1頭に照準を合わせ、直線に向かうと並ぶ間もなくスペシャルを置き去りにして3馬身ものリードをとってゴール。戦前には全く予想できなかった圧倒的な勝利であった。海外ではエルコンドルパサーの活躍が伝えられてきていたが、国内はグラスワンダーが現役最強を印象付けた。
 秋初戦・毎日王冠を際どいながらも勝ったことで、予定通りにジャパンカップへ・・・と思ったが、左わき腹筋肉痛で回避。有馬記念に目標を変更することになってしまった。1900年代の最後を飾るGTで再びスペシャルウィークと対戦することとなった。宝塚記念では完勝しているが、その後スペシャルは天皇賞・秋、ジャパンカップとGTを連勝し、この有馬記念で引退を表明。最後の花道を飾るため、打倒・グラスワンダーに闘志を燃やしていた。単勝グラス2.8倍、スペシャル3.0倍。ファンそれぞれが強いと思う方に1票を投じていることがオッズに明確に反映されていた。レース展開は、宝塚の時とは逆に、スペシャルがグラスをぴったりマークする形となった。先に抜け出したグラスを1完歩ごと追いつめるスペシャル。2頭並んでゴール。武豊が誤ってウイニングランを行ったように、勢いでは完全にスペシャルが優位であったかに見えた。だが、長い写真判定の末、着順掲示板の1番上に点灯したのはグラスの馬番7であった。その差わずか4センチ。まさに神がかり的な勝ち方で、有馬記念2連覇を成し遂げた。


☆ 夢散る。。。突如訪れたターフとの別れ。

 前年の年度代表馬の座を激しく争ったエルコンドルパサー、スペシャルウィークが引退し、3強の残された1頭として迎えた5歳の春。史上初のグランプリ4連覇、そして秋には凱旋門賞のプランがある以上、勝ち続けることだけが宿命づけられていた。
 今季始動戦は有馬と同じ舞台で、さらに手薄なメンバー構成だった日経賞。なのに、勝負どころで全く反応が悪く、直線を向いても伸びてこない。。。常勝を義務付けられていた1年のスタートは不遇の結末となってしまった。
 続く2戦目、前年脅威的な脚で他馬を完封した有志は今年の京王杯SCでは見ることはできなかった。。。キャリア最低の9着。汚名を晴らすべく、安田記念には向かわず、宝塚記念1本に照準を合わせ調整を進めることとなった。
 グランプリになれば必ず復活する!信じつづけるファンの思いが、今年充実の一途を辿っている"後輩・テイエムオペラオー"との人気を二分させた。デビュー以来のパートナーに替わって蛯名正義が手綱を任された。道中はテイエムオペラオーをマークするかのように後方を進み、3コーナー過ぎで標的を追いかけるように、大外をまくって進出してきた。だが、直線の入り口で早くも脚色がおかしくなった。世代交代を宣言するかのようにテイエムオペラオーから遅れることコンマ9秒、力なく6番目にゴールへ辿り着いた。ゴール後、向こう場面でジョッキーが下馬。しきりに左前脚を気にする姿。。。診断の結果、左第3中手骨骨折と判明。幸い命に別状はなかったものの、かなりの重症でその場で引退、種牡馬入りの決断がなされた。
 ついに実現しなかった海外雄飛の夢は二世たちに託されることとなった。


☆ 生涯成績

      15戦9勝 2着1回 着外5回  GT4勝(有馬記念2回、宝塚記念、朝日杯3歳S)

開催日 場所 レース名 距離 騎手 人気 着順 タイム 着差 1着馬名
9. 9.13 中山 新馬 1800 的場 1 @ 1.52.4 3
10.12 東京 アイビーS 1400 的場 1 @ 1.21.9 5
11. 8 東京 京王杯3歳S 1400 的場 1 @ 1.21.9 6
12. 7 中山 朝日杯3歳S 1600 的場 1 @ 1.33.6 2 1/2
10.10.11 東京 毎日王冠 1800 的場 2 5 1.46.4 9 サイレンススズカ
11. 7 東京 アルゼンチン共和国杯 2500 的場 1 6 2.33.5 3 1/4 ユーセイトップラン
12.27 中山 有馬記念 2500 的場 4 @ 2.32.1 1/2
11. 4. 4 阪神 産経大阪杯 2000 取 消
5.15 東京 京王杯SC 1400 的場 1 @ 1.20.5 3/4
6.13 東京 安田記念 1600 的場 1 2 1.33.3 ハナ エアジハード
7.11 阪神 宝塚記念 2200 的場 2 @ 2.12.1 3
10.10 東京 毎日王冠 1800 的場 1 @ 1.45.8 ハナ
12.26 中山 有馬記念 2500 的場 1 @ 2.37.2 ハナ
12. 3.26 中山 日経杯 2500 的場 1 6 2.36.3 6 レオリュウホウ
5.14 東京 京王杯SC 1400 的場 1 9 1.21.6 3 1/2 スティンガー
6.25 阪神 宝塚記念 2200 蛯名 2 6 2.14.7 6 テイエムオペラオー