冠の差 1 フランスvs日本 0−5

 全て幻想だった。世界へと近づく歩みを、その音を感じながら確かな手ごたえとして蓄積していった自信。アジアを圧倒的な力で制し、既に到達していたと思っていた領域。若年層育成システムを強化し、そこから続々と輩出される洗練された若手選手達の 、現時点での通用し得ると思われていた能力、経験。チームとしての完成度…

 ある程度はやれると思っていた。ある程度はやられると思っていた。まさか徹底的に何も出来ず、徹底的にやられるとは。密かに抱いていた期待もズタズタに引き裂かれた。

 相手は世界・欧州現役チャンピオン。しかもアウェー。勝てる要素はほとんど無い。それでも密かに期待を抱いてしまうのは暴挙だったのか。今までの道程を共に歩み、成長を実感として感じてきた以上、ほんの少しでも期待感を持ってしまうのは仕方の無い事だったが…

 試合開始数時間前のニュースで、パリは大雨だという事を聞いた。無知な私は、それを聞いて残念がったものである。コンディションが悪ければ、番狂わせは起きやすい。したがってもし、事が起きた場合も、それが理由にされてしまい、正当な評価を受ける事は難しいのでは、と。普通、悪コンディションは格下のアドバンテージとして作用するものである。ところがそれが、実力差をくっきりと浮かびあげるリトマス試験紙になろうとは。

 くっきりと浮かび上がったのはフィジカルの差である。フランスは水溜りのようなピッチにおいても力強さを失わず、展開力をダウンさせることなく自らのスタイルを具現化した。翻って日本は、足をとられ、ピッチに翻弄され、体力を足元の水に溶かされていくかのように消耗していった。時間を追うごとにその差は点差へと直結していった。

 そして経験である。フランスの選手は皆、ヨーロッパのトップリーグで経験を積み、毎週トップレベルの試合をこなしている。スタジアムの雰囲気や悪コンディションの中でのハイレベルな試合を、日常として日々積み重ねている。日本で唯一光っていた中田の存在が、皮肉にもその事実を証明してしまっている。デビューとなったユベントス戦や、名波との日本人初対決となったベネツィア戦などが脳裏をよぎる。ああいう経験を全選手が積み重ね、日本にはそれが中田だけだった。いいかえると、中田は確かに日本で唯一素晴らしかったが、フランスは全員が中田レベルのプレーを披露した、という事である。

 持論では、自国リーグの発展・繁栄が代表強化に繋がり、安易な海外移籍はむしろ戦力ダウンになる、というのが強くあった。身体能力やプレースタイルを考えた時、いいモデルとしてあがってくるのがメキシコであり、メキシコも主力選手のほとんどは自国に留まり、自国のリーグのレベルをあげ、繁栄させ、そこで強化し結果を出している。だがその考えも、少し軌道修正しなくてはならなくなってきたように思う。今まで海外移籍に慎重だった中村俊輔も、考えが変わってきているのではないか。無論、通用しなくては逆効果になるが、チンチンにやられたとはいえ一部の選手は、それでも通用するだけのものはあると思うし、そこから更に成長していけばいい。そして経験を積んでいけば、中田クラスのプレーを披露できる選手が増えるのではないか。ただ、残念なのは、今回の一戦で、注目が集まりつつあった日本人選手に対して、欧州のクラブ・スカウトが失望を感じてしまったのが確実だという事。成長する場に到達する事が、更に困難になったのは間違いないのである。

 0-5という結果に、トルシエは何を思うのか。戦術的な事を言うと、相変わらず3バックの間に走りこまれると簡単にやられるし、高い位置でプレスをかけボールを奪い、早く攻撃するというプランも、アジアレベルでは機能したが世界レベルでは全く通用しない。中田を入れることによってバランスを崩す中盤のつじつまを合わせる為の3ボランチも、更にぎこちなさを助長している。両サイドのスペースをつかれた時にセンターがつり出され、バランスを失うディフェンスラインの課題も修正できず。加えてフィジカルの問題が出てきたとき、それらは「更に倍」の問題となっていく。

 課題は山積みである。幸いにも今年は高いレベルの国との試合が次々と組まれている。そのレベルで何ができるようになって、何がまだ出来ないのかを確認しながら強化していける。がしかし、それは幸いな事なのか。フランス戦で日本は、決定的に自信を失った。この経験がトラウマとなり、コンプレックスとなってしまっては、なんとも残酷なプランとなってしまう。今の段階では、そのネガティブな方へと流れつつある。2002年で悲惨な結果を生み出す、身の丈知らずな強化プランとなりつつある。なんとしてでも次のスペイン戦では、ほんの少しだけでも手ごたえを感じることが、何よりの収穫となるので、それをつかんで欲しい。最悪な流れを、早めに断ち切って欲しい。

 しかし、危機感で一杯だ。