ブラジル − ドイツ
2 − 0

 一ヶ月に渡って繰り広げられて来た熱戦の数々を締めくくる決勝。それにふさわしい好ゲームになった。
 ワールドカップの決勝は、互いに慎重になり、得てして好ゲームにはならないというのが通例だが、それをいい意味で裏切る試合になり、色々あった今大会もかろうじて良い後味を残して終わる事が出来たように思う。
 確かに名前を見れば、決勝にふさわしい対決だと感じるし、しかもワールドカップ最大の不思議と言われていた、両チームの直接対決が未だかつて実現していなかった事実を考えると、初対決が決勝という舞台で実現した事も、興味を持たせる要素の一つとなったと思う。
 がしかし正直な事を言うと、今大会に限って言わせてもらうと物足りない組み合わせだという事は否めない。腐っても鯛の両チームではあるが、今現在のチーム力やタレントを考えると、最良のカードでは無い。ここに至るまでの経緯を考えると、準決勝に残ったチームから2チームが残るのならば、ベストの組み合わせであった事は確かだが、全体的に見ると必ずしも覇権を争う最後の2チームとして最適かどうかは、残念ながら否定せざるを得ない。かろうじて体裁を保てた、というのが本音だ。
 従って私自身、今まで見たワールドカップの決勝の中で、一番冷めた気持ちでテレビのスイッチを入れた組み合わせになった。自国開催で、しかも私が生を受けた横浜の地で行われる決勝戦にも関わらず、である。
 しかしそんな気持ちを、いい意味で裏切ってくれた。試合が流れていく内に、グイグイと引き込まれていった。その大きな理由の一つとして、ドイツの頑張りがあげられるだろう。
 ドイツは思いのほか、よくやっていた。正直、決勝になってバラックが出場停止というのは痛い。イタリア大会でアルゼンチンのカニーヒアが決勝に出場停止になった時と同じような失望感があったが、それでもあの時はマラドーナがいた。今回ドイツにはマラドーナはいない。形になる気がしなかった。
 それでもドイツはブラジルを相手に、むしろ主導権を握って試合運びをしていた。その理由として、ノイビルの活躍が挙げられる。
 この日のノイビルの出来は、恐らく今大会最高だったと思う。そのノイビルが組み立ての基軸となり、シュナイダーを絡めて再三ブラジル・ゴールへと迫る。ノイビルはサイドでシュナイダーをうまく使っていて、シュナイダーもそれに呼応して決定機を作り上げる。試合はドイツペースで進む。
 完全にドイツペースの流れの中で、しかしブラジルも時折、際どいシーンを作り上げ、試合を引き締めていた。これも好ゲームになった要因だろう。前半終了間際には、ロナウドがゴールの目の前で決定機を迎え、強烈な左ボレーを放つが、カーンが信じられない反応でこれを防ぐ。今やドイツを象徴する存在となったカーンのスーパーセーブで前半を終えた。
 試合は後半に入っても、立ち上がりからドイツペース。ブラジルはサイドに気をとられ、中央のプレスが甘くなり、ドイツはそこを上手く活用して再三シュートを放つ。その流れの中でブラジルも隙を見て、ジウベウト・シルバが決定的なヘディングシュートを放つが、これもまたカーンが神懸かりのセーブで防ぐ。前半からの流れをそのまま保って、試合は流れていった。
 その流れを微妙に変えたのが、イエレミースの負傷だった。カフーとスライディングで交錯し、瞬時に交代を要求した程の衝撃を受けたが、タッチラインの外で治療を受けると、幸いにもイエレミースはそのままピッチに復帰する事が出来た。がしかし、この瞬間に試合がとまり、ドイツ側はフッとしたエアポケットのような隙を作ってしまう。そこに付け入ったロナウドが上手くボールを奪い、見事なステップでリバウドに渡す。リバウドはそこから強烈なシュートを放った。これをカーンがキャッチに行ったが、リバウドの無回転による微妙に変化する弾道のシュートと、雨の影響とで、キャッチしきれずに前に弾いてしまう。そこをロナウドが驚異的なスピードで詰めて、ついにブラジルがゴールを奪った。
 その後ドイツは、今まで以上にブラジル・ゴールへと迫るが、マルコスの好セーブもあり、どうしてもゴールを割れない。試合は終始その様なペースで進み、前掛かりなドイツの裏を突いて、またしてもブラジルがゴールを奪う。リバウドのスルーという好判断からロナウドが綺麗にコースを突いたミドルを突き刺す。これは文句のつけようが無い、鮮やかな展開のゴールだった。これで試合は決まった。
 振り返るとやはり先制点が勝負を完全に分けたと考えられるが、あれをカーンのミスと言ってしまうには、あまりにも忍びない。考え様によっては、カーンだからこそ、あれはミスだった、とも言えるが、しかしそうではないと思う。どんなに素晴らしいキーパーであっても、防ぎきれないシュートはあるし、あの場合はそのシュートを放ったリバウドと、そして驚異的な詰めを見せたロナウドを褒めるべきだろう。どうしようもない、防ぎようの無いブラジルの攻撃を賞賛するべきである。
 そしてあのプレーによって、今大会のカーンの評価が下がる事も全く無いだろう。実際、この試合においても、カーンは驚異的なセーブを再三見せている。確実に超決定機を2回は防いでいるのだ。カーンでなかったら、試合は大味なものになっていた事は確実だし、これまでの貢献を考えれば、カーンを責める事は不可能だ。一番納得がいっていないのが本人であろうから、その心中を察すると気の毒でしょうがない。間違いなく今大会のベスト・ゴールキーパーであるカーンには、必要以上に責任を感じることなく、胸をはって欲しい。今までの自分の仕事に誇りを持って、決勝まで導いてきた自負を持ってほしい。
 決勝が好ゲームになったのは、ドイツが、変に策略をたてるよりチームの力をありのままぶつけて表現しようというスタンスが大きな要因だろう。それに清々しさを感じるし、また、それを迎え受けた上で粉砕したブラジルの攻撃も、勝者に値するものだったと思う。
 優勝はブラジル。三大会連続で決勝進出を果たしているが、今回は前二回よりも戦力的に期待されていなかった。それでもしっかりと優勝を果たした王国に、無条件で賛辞を送ろうと思う。
 優勝おめでとう、ブラジル!