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日本 − ベルギー
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2 − 2
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お互いに様子見で始まった序盤は、両チームとも持ち味を出せず、ナイフをちらつかせながら、お互い相手のナイフに臆しているという状態だった。その後も日本は、全くと言っていいほど、前半は持ち味を出せなかった。原因はいくつかある。 まず、ワイドに広がる事を指示されていたのか、選手がフィールドに広く分散されていて、細かいパスを繋ぐ為の距離が離れすぎていた事。ボールを持った選手に対して距離がありすぎて、その距離を詰める事もしないし、顔を出してやる事も出来なくて、パスコースがかなり少なくなってしまった。 そこからの悪循環で、パスコースが無いためロングボールを放り込むしか手がなく、そんなものをフィードした所でベルギーにとってははね帰すのは容易。パスコースに詰まって、ロングボールをフィードしては、マイボールをプレゼントしてしまうという展開。浮き玉を放り込むのは、一番通用しない手だし、相手にとってはこれ以上なく有り難い出方。グラウンダーで繋いで崩さなくてはいけないのに、それが全く出来ていなかった。 また、右サイドから突破して切り崩すという意図で市川を起用したのだろうが、あまり縦への突破が機能していなかった。これも選手間の距離を詰めて、ワンツーで突破するとか、中央から左寄りで細かく繋ぎつつサイドチェンジで突破するとか、やるべき工夫が出来ていなかった。やはり何より距離が遠いというのが全ての原因に繋がっていたのではないか。 そして劣勢だったと感じてしまう原因が、左サイドの守備。ここからセンタリングを上げさせてしまった回数が、かなりあるはず。小野はせっかく対応する為に戻ってきているのだから、間合いをもっと詰めてセンタリングを阻止しなくてはいけないのに、スペースを埋める仕事だけで終わってしまっていた。ここからのセンタリングには、冷や冷やさせられっぱなしだった。同じ問題が右サイドでも見られた。高さに不安がある以上、ここは修正しなくてはならない。 支配率、あるいはボールの保持率という数字があるが、私はこの数字は全くアテにならないと考える人間なのだが、この試合はその理由を顕著に表していると思う。ボールの支配率は、日本は上回っていたのだが、はっきり言って今日の試合は、「持たされていた」というやつ。相手のパスの繋ぎに対してプレスをかけ、高い位置でボールを奪い、そこから逆襲するという日本の戦術を、見事に殺す策だった。ディフェンスラインで、パスコースを見つけられないまま、右へ左へボールをまわす時間が永くて、試合を優勢に進めていたと言えるだろうか。 しかし後半になると、試合の雰囲気にも慣れてきて、少しづつ日本が形を作れるようになってきた。選手の距離間も少しづつ修正されてきて、ただ放り込むだけの不毛な攻撃から変化が出てきた。 しかし、先制された。最悪の展開だった。先制のシーンは、ヘッドで繋がれるという最も警戒するべき場面だったのだが、楢崎がウィルモッツのオーバーヘッドを予期できなくて、ウィルモッツがリターンをしてくると読んだ方向に一瞬気を取られている瞬間に、まさかのオーバーヘッドでのシュートが飛んできて、虚をつかれて反応が遅れた。その一瞬、楢崎は左手を少し左に動かしている。ディフェンダーに左を警戒しろと指示しようとした行為だと思う。それをかすかにやった瞬間に、ウィルモッツがオーバーヘッドをやってきたため、弾けない距離ではなかったが、反応が一瞬遅れたため、ゴールを許してしまった結果になった。 私はその後、絶望感に打ちひしがれていたのだが、小野の見事なスペースへのフィードを鈴木が決めた時は、自分の喉から出た音とは思えない程の声が部屋に響いた。はっきり言って、鈴木の出来はひどかったし、ここ数試合でもスキルの低さと代表としてのFWの適性の無さを露呈していたわけだが、この一発でとりあえず全て許す事にした。しかし、やっぱり次からはもう、使わないで欲しい。 これで落ち着きを取り戻した日本は、自分達のサッカーを少しづつ表現し始める。ベルギーがそれを感じ、混乱を見せ始める。そんな中、個人的にキープレイヤーだと思っていた稲本が、後ろから飛び出し、落ち着いて左で決めた。スタジアムの雰囲気も手伝って、ベルギーを混乱に追いやり、日本が一番いい時間帯を迎えた。 そこで悔やまれるのが、森岡の負傷。一番いい流れの時に、それを断絶させるタイムロス。しかもセンターバックが、あの時間帯に途中交代するという事は、日本にとってはこの上ない不安材料。ただでさえ交代で入るには不安な時間帯と流れなのに、ポジションがよりによってセンターバック。不運としか言い様がなかった。 その不運の中で、ベルギーに同点に追いつかれる。これがまた、弱点中の弱点を突かれた、二列目からの飛び出し。わかっているのに、やられてしまう、リスクを負った戦術の悲しさ。それに楢崎のポジショニングの躊躇が加わって、失点は必然となった。 ただ、楢崎は、今日は及第点以上の出来だったことを言っておかなければ可哀想だ。ファインセーブもあったし、並みのキーパーなら、4点は取られていただろう。実際、私も、応援しながら何度「サンキュー!」と楢崎に言ったか覚えていないくらいだ。防げるかもしれなかった失点だったが、防げない失点でもあったという事だし、他に何度も素晴らしいセーブをしているので、楢崎を責めるわけにはいかないだろう。 そして試合終了。勝点1を取った結果については、最悪ではないが、決して楽観は出来ないという感じ。今後の勝点勘定をすると、次戦のロシアは絶対に負けられない。負けたら、ほぼ終わり。引き分けでも状況は厳しい事に変わり無い。ロシア相手に、この状況はかなり厳しいと見る。リードしたからには、やはり勝っておきたかったというのが普通の心理だろう。 がしかし、逆に言うと、先制されたときに負けを覚悟していた立場として、負けなくて良かった、とも言えるのでは。結果が何より大事な状況で、最悪の展開にならなかった事をポジティブに捉えた方がいい。確かに厳しくなったが、一時はもっと厳しいどころか絶望になる所まで行ったのだから。とにかく次を負けない事だ。 そして最後に、トルシエについて。はっきり言って、驚いた。有り得ない事が起こったという印象だ。この試合、確かにトルシエは勝ちにきていた。戦術の持つリスクを恐れず、攻撃的な姿勢を指示していた。あのチキンぶりからは想像も出来ないくらい、攻撃を意識した選手起用をしていた。交代選手に関しても、実にメッセージ性のある、中にいる選手に何をすべきか、意図を伝えるという意味で、わかりやすい選手交代をしていた。チームがどういう方向に向かうべきか、しっかりと指針を示していた。恐らく居直ったと思うのだが、ここに来て自分の戦術を信じる姿勢を選手に示したのは大きいし、評価できる。指揮官がうろたえていたら、選手も困惑する。それを一番心配していたのだが、杞憂に終わった。今日のトルシエは素晴らしかった。就任後、最高点をつけられる出来だった。大事なことは、4年間やってきたことを、思い切り体現することであり、今日の指揮には、その意図が存分に表現されていた。今後も期待したい。 あとはレフェリー。彼はワールドカップというものを何も理解していない。主役はレフェリーじゃない。ホームの声援の中で裁いても、それに流されないという姿勢を無理に示した所で、そんな不自然なものは評価されない。ナルシストはレフェリーに向かない。飲み会で、聞き役になるような人材が、ふさわしい。 |