総括
発見とインパクト

 今大会が、今後のサッカーの流れにもたらしたものは何であるか。それを考えた時に、全く何も浮かんでこない。何も真新しい発見も無かったし、影響力のあるチームも無かった。何も無い大会だったのではないか。
 最新の戦術は、もはや欧州のクラブでの凌ぎあいの中で形成されていくものだという時流が確立されているのが確認できたことが、逆の意味での収穫になってしまうのだろうか。
 今までの大会では、何かしらの発見があり、世界サッカーの時流に影響を与たものである。古くは58年大会のブラジルの4-2-4という戦術。これにより中盤において、攻守の繋ぎ目という役割がその後の戦術の発展の基盤となった。クライフのオランダが見せたトータル・フットボールで、あらゆる選手がどのポジションにおいてもそれなりの適正を持ち、組織的に全体で守り、全体で攻めるという流れが確立された。スペイン大会くらいになると、中盤の重要性とゲームメーカーの配置が常識となり、メキシコ大会ではそれが確立されて、能力の高い選手を中心にしたチーム作りが時流となった。イタリア大会ではサイド・バックの攻撃参加がディフェンスの常識を変え、サイド・ハーフ、もしくはウイング・ハーフと呼ばれるようになり、3バックのシステムを根付かせた。また、個人中心のチーム作りの限界も見え始めた。アメリカ大会では、プレッシング・サッカーが主流になり、より組織的な流れが形成されてきて、どんなに個人技のレベルの高い選手がふんだんにいる南米のチームであろうとも、組織化の流れを無視する事が出来なくなってきた大会だった。フランス大会では、選手個々の専門性を備えた上で、更にそこにユーティリティー性が求められる時流が確立された大会であった。
 ではそういう意味で、今大会はどんな発見があったのだろうか。何も無い大会だったのではないか。強いて挙げると、個人技への回帰か。局面を打開するのに、高い個人技は有効であり、その局面局面では結局、個人の能力を高めなくてはいけない、という事だろう。しかしそれも、今までの大会におけるインパクトから言えば、弱いと言わざるを得ない。
 何故、このような事になってしまったのか。それは影響を与え得るサッカー先進国の数々が早期敗退してしまった事が原因だろう。
 今大会でのインパクトは、悲しいことに、強豪国の早期敗退に尽きる。それは逆に言えば、サッカー発展途上国の国々との力量の差が縮まってきた、全体のレベルアップの証明であるという見方もあるが、原因は他にあるとも考えられる。欧州リーグの商業化だ。
 肥大し続ける欧州リーグの商業化は、そのしわ寄せの全てを選手が負う事になり、超過密日程に身を置き、心身を疲弊させ続けた。蓄積された疲労も原因で、怪我も多くなり、新世紀のサッカーにおける羅針盤的役割を持つワールドカップという晴舞台に、最高のコンディションで臨む事が不可能になってきている。満身創痍で大会に臨み、時間もないまま試合をこなし、早期敗退という結果に終わる。ワールドカップという最高の大会が、サッカーの商業化のうねりに飲み込まれて、権威もへったくれもない展開を作り上げてしまったのだ。
 前大会では、それでも何とか強豪国が残った。今大会は、その頃からの蓄積されつづけてきた影響がもろに出て、かくも無残な展開に終わった。単純に前回と比べてみると、イタリアvsフランス、オランダvsアルゼンチン、アルゼンチンvsイングランド、ブラジルvsオランダ等々、強豪国同士のカードは枚挙にいとまが無い。それもスリリングな決勝トーナメントにおいて、である。それに対して今大会はどうか。またもや実現したアルゼンチンvsイングランド。他に挙げられるとしたら、ブラジルvsイングランド。あとは決勝のブラジルvsドイツ。他には思い当たらない。それに、アルゼンチンvsイングランドはグループ・リーグでの試合だし、ドイツは今大会に限ってはBランクのチーム。ブラジルは攻撃力の高さで、かろうじてAランクとして評価してもいいものの、それでもギリギリだった。そう考えると、本当の意味での好カードは皆無に近い。大会のインパクトが薄くなるのも、必然だろう。
 これからのサッカーの新しい流れを生み出すような発見が無く、強豪国の早期敗退により薄れたエンターテイメント性も手伝い、今大会は本当にインパクトの弱い大会に終わった。大会を評価する要素は色々あるが、その点において考えると今大会は盛り上がりに欠けた大会になったと言わざるを得ないだろう。