第4回:「DNAドーピング」



2000年 6月、ヒトの設計図である遺伝子の配置とそれらの役割が解読された。
この国家的大プロジェクトは“ヒトゲノム計画”と呼ばれ、人間の構造を丸裸にした。
医学・生物学の範囲だけにとどまらず、今後は“人体に関する全ての分野”でその知識が活用されていくのだろう、、、

2000年 9月、四年に一度開催される夏季オリンピックがシドニーで始まった。
参加国200、競技種目数296の“世界スポーツ競技祭”が連日世界中の人々の興味を引いている。
当然の事ながら、オリンピックでは各国代表選手たちの競技結果やメダル数が話題の中心となる。
しかし、それと同時にドーピングに関するニュースもこのオリンピックを通じて通常以上に耳にする機会が多いはず、、、

ドーピングの最初の定義は「薬物を用いて、人体の運動能力を高める行為」とされていた。
だが現在では「言葉での定義付けではなく、禁止薬物リストを列挙すると同時に検査段階での不正行為」と変更されている。

何故か?
それはドーピングの方法が年々巧妙になり、薬物の種類も豊富になったからである。
例えば昔の主流だった“麻薬系薬物”が、最近では EPO(エリスロポエチン)と代表されるように人体内に初めから存在するホルモンを人工的に作り出し、検査の目を誤魔化そうという“ホルモン系薬物”のドーピングに変わってきている。

話が繰り返しとなるが、ヒトゲノム計画により遺伝子の仕組みが理解され始めた。 そして今回ならではのオリンピックという旬な話題に関連したドーピング問題。
この“ヒトゲノム計画”と“ドーピング”から、私は“DNA ドーピング”という全く新しい不正行為のやり方をひらめいてしまった、、、

「“後”から手を加えるのではなく、“先天的”に手を加えていれば、、、」

持久力を高めるために、血中の赤血球数を増加させる作用のある EPO をわざわざ体外から働きかけるやり方ではなく、ホルモンをはじめ筋肉のタイプや循環器系・呼吸器系の組織を形成する遺伝子の部分を最初から操作していれば、ドーピング検査などの心配も要らず、フィジカルパフォーマンスを向上させることも理論上では可能なはず。
“初めからある”ものに文句はつけられない。

しかし、ドーピングには副作用という害が付きものである。
実際にドーピングを使用した選手達には、身体的そして精神的な健康問題が後を絶たない。
ましてや、もし“DNA ドーピング”が行われた場合、その副作用は現存する薬物以上に計り知れないことが起るかもしれない。 そしてその遺伝子が子孫たちへと自然に受け継がれていくのだろう。
さらに現代医学には数々の遺伝子的病気が存在し、それらの病気の遺伝子と DNA ドーピング化された遺伝子が何らかの偶然で交わってしまった場合、ヒトは一体どうなってしまうのだろうか?
考えただけでも恐ろしい。

“DNA ドーピング”
人類最後で最悪のドーピング、、、


追書:
今回のコラムはあえて第4回というタイミングを狙って載せた。
なぜなら“4”は“よん”だけでなく“し”とも読め、そして“し”という読み方は“死”という漢字に表現できるから。
どんな薬物/方法であれ、ドーピングには“死”という可能性のある副作用があることを忘れないように。

(注:“DNA ドーピング”は架空の言葉であり、現社会では存在しません。)


(Tuesday,September 26,2000)