8月5日
バスケットボールのキャンプは昨日で終了し、今日からまた新しく始まるバレーボールのキャンプは午後からだったので、私は午前中の間久しぶりにのんびりすることが出来た。
2:00pm、Hamer Hall の体育館に集合。
今度のバレーボールキャンプ参加者も前回同様に高校生の女の子ばかりだった。 ただ違う点は、参加人数が64名で私が今まで担当したキャンプの中で最高記録を更新したことだった。
ヘッドコーチの簡単な挨拶からすぐさま練習が開始される。
準備運動中にキャンプのアシスタントをするうちのバレーボール部員の一人が肩の痛みを訴えてきた。
「どうした?」と私が聞くと、彼女は「Rotator cuff tendinitis(回旋筋腱板の炎症)」だから、痛み止めの薬ちょうだい。」と言ってきた。
彼女は既に医師に診てもらっていたらしく、私がその評価をするまでもなかった。 ただ肩の関節可動域とそれに関連する筋肉を少々チェックさせてもらった。
さて痛み止めの薬だが、私はあげなかった。
なぜなら、これは“私のやり方”だから。
私は基本的にどの選手にも薬を与えないようにしている。 たとえ年齢が18才以上でも。
薬により痛みを減少させることは出来るが、だからといって痛みの元自体が完全に消えてしまうわけでもない。
それに“一時的なごまかし方法”で選手達が無理をし、薬の効果が切れた時に痛みが悪化していることが多いから。
さらに我々は“薬局屋さん”ではない。 “アスレチックトレーナー”である。
選手達に怪我に対する知識やリバビリ、コンディショニングなどを指導することも我々の仕事の一部である。
そのようなことを彼女に伝えた。
嬉しいことに、彼女は私の考えに理解を示してくれた。
1時間後に別の部員がやって来た。
彼女は入学以来からだのあちこちに問題がある選手で、前回のキャンプ期間中にも私にマッサージやストレッチを頼んでいた。
今回は普段トリートメントしてくれるうちの大学院生がいなかったため、私にやってくれと言って来た。
私は練習を見ていたかったのだが、「どうせ何もやることないんでしょう。」と偉そうに言ってくる。
確かに私は観客席から暇そうに練習を眺めていたのだが、“怪我”に関しては十分に気を配っているつもりだった。 だから彼女に言い方は私をムッとさせた。
しかし私は落ち着いた態度で「この練習が終わってからやるよ」と話すと、彼女は「私は今何もしていないから、今すぐやって」と聞かない。
オイオイ、うちの選手だからといってもこれは“キャンプ参加者の練習”であり、その参加者達を私は優先させなければならない。 そして、それが私の仕事なのに彼女は全くお構いなしだった。
しつこく頼んでくるので、私は仕方なく彼女をアスレチックトレーニングルームへと連れていった。
「どういったトリートメントをしているの?」と私が尋ねると、「電気療法」と答えるだけ。
電気療法にもいろいろあるが、彼女に聞いても分かっていない。
「からだに貼るパットはいくつ?」と聞くと「4つ」と言ったので、私は IFC(Interferential currents)が浮かんだ。
ポイント)Electric therapy の種類とその目的
Micrucurrent: 痛みの減少、炎症の抑制、細胞の治癒
High volt/DC: 痛みの減少、炎症の抑制、腫れの抑制
Low volt/DC: 細胞の治癒、筋肉への刺激
Low volt/AC (Biphasic): 痙攣の抑制、筋萎縮の抑制
IFC: 痛みの減少、炎症の抑制、腫れの抑制
Russian Stimukation: 痙攣の抑制、筋萎縮の抑制、関節可動域の向上
IFC といっても Sweep や Target などとさらに方法が分かれる。
しかし、彼女に分かるはずがない。
本当はやりたくなかったのだが、「こんな刺激だった?」と試しながらやってみる。
トリートメント中に何も知らない私は“何を、どうしたのか”怪我のメカニズムと症状を改めて聞いてみる。
「この前に遊びでやっていたソフトボールのピッチング中に傷めた。」と言い、普段トリートメントしているうちの大学院生が“肩の腱の腫れと炎症”と評価したらしい。
その大学院生は ATC で今度の GA でもあるので、私は彼の怪我の評価とそのトリートメント方法に従った。
彼女のトリートメント内容は、
“IFC sweep、15 minutes w/ heat”
急性の怪我に“Heat(ホットパック)”とは “RICE”と矛盾した処置法かもしれないが、彼女は Raynad’s disease をもっておりアイシングが全く出来ない。
ポイント)アイシングの禁忌
1. アイシングに対して過敏な人
2. Cryoglobulinemia(クリオグロブリン血症)
3. Raynad’s disease/phenomenon(レイナー現象)
4. Paroxysmal cold hemoglobinuria(発作性寒冷ヘモグロビン尿症)
ポイント)Raynad’s phenomenon/disease
レイナー現象・病とは身体が冷却されることにより、指に血管痙攣が起こりその細胞が壊死してしまうこと。
電気療法後、多分言われていたのだろうか、ゴム製のチューブを用いて肩の運動を行った。
彼女のトリートメント開始から約一時間後に再び体育館に戻る。
とりあえず全員が何の問題もなく練習をやっていたので、私はホッとした。
安心したのもつかの間、今さっきトリートメントを終えたばかりの彼女が「きんじ、ストレッチお願い」と言ってきた。
「こいつ、一体何様だ」
私はそう言いたくなった、、、
4:30pm過ぎ、キャンプ参加者の一人が私のところにやって来た。
「ねー見て、これ何?」と言って肩を回すと、肩関節がボコボコと変な動きを見せる。
「おー」と私はその動きに多少驚いたが、興味津々でじっくりと観察してみる。
ボコボコと動いている部位は GH joint(Glenohumeral joint、関節か上腕骨関節)の上方で、私はまず“Shoulder subluxation(肩関節亜脱臼)”と仮定した。 なぜなら、この前うちの大学院を卒業したある学生もちょうど彼女のような肩の動きを見せていたから。
早速、肩の評価に入る。
「いつ頃からそうなった?」と尋ねると、「2ー3ヶ月前から」と答える。
「痛みは?」と聞くと「ない」と言い、変な動き以外には何の問題も見当たらない。 触診でも痛みは感じられないし、その他のテストでもおかしな点はなかった。
「これ何なの?」と彼女が聞いてきたので、私は「肩の関節が動かすたんびにズレて、亜脱臼しているんだよ。 今は痛みがないかもしれないけど、後で関節面が摩擦で炎症を起こすかもしれないから練習後は必ずアイシングをするように。 それからキャンプ終了後は医師に診てもらうように。」と話した。
前回と同じように夕食・休憩を一時間ほど挟んで再び練習開始。
すぐさまキャンプ参加者の一人が私のところに向かって歩いて来る。
その歩行動作を見てみると、びっこを引いていたので私は「ランニング中に足首を捻挫したのではないか?」と予想して彼女が来るのを待っていた。
「どうした?」と私が聞くと、「太股の裏側をつったから、どうにかしてよ」と言ってきた。
私はハムストリングのストレッチをすぐさましたのだが、何の変化もなかった。 彼女は痛みでもがいている。
「んー、どうしようか」と思ってアイスバッグを渡すと、彼女は落ち着いた。
普通はストレッチで落ち着くはずなのだが、、、
他のコートの練習を見ていたので見ていたので気付かなかったのだが、キャンプ参加者の一人が隅っこで頭にアイシングをしていた。
彼女に近づいて「どうしたの?」と聞いてみると、「床にぶつけた」と答える。 その他にもいろいろと話してみるが会話になっていたのであまり心配はしなかった。 ただ“Concussion”の有無をチェックするために評価を行った。
特におかしな点は見られなかったが、目の動きのチェックでは「後頭部あたりが痛い」とのこと。
彼女は床に後頭部をぶつけていたらしく、私は「後頭部には目の動きに関連する神経があり、その神経を痛めているから目を動かせば痛みを感じるんだよ」と説明し、アイシングを続けさせた。
その後、再び同じ子が頭にアイシングをしていた。
「どうした?」と尋ねると、「また頭を打った」と言う。
彼女は何がどうなったかしっかり覚えていたし、症状も打撲による頭痛だけだったので、私はアイシング以外何もしなかった。
“Concussion”は全く考えられなかった。
ちなみに彼女はこれ以外にもう一回頭をぶつけていたことのこと。
「お前、ヘルメットつけて練習しろよ」
私は心の中でそう思った。
練習後は次々とキャンプ参加者達がアイスバッグをもらいにやって来た。
このような自主的な行動を高校のうちからやってくれることはトレーナーとして非常に嬉しいことなのだが、同時に「これほどからだに問題がある子がいるのか」と気付かさせてくれた。
今回のキャンプは忙しくなりそうだ。
今日の教訓:
「キャンプ初日の怪我の発生数は、トレーナーの仕事の忙しさを暗示させる」