8月7日
8:00am。 アスレチックトレーニングルームで準備を行ない、体育館へと向かう。
コート上にはコーチ達、うちの部員達、そしてキャンプ参加者達が集合しているが、昨日倒れた部員は姿を見せていなかった。
彼女のことが気になる。
練習がすぐさま開始されるが、足首の捻挫など怪我人が多い。
しかし練習は出来そうなのでテーピングを巻いてやらせる。
彼女らはやる気満々なのでそこまで怪我の心配はせず、それよりもせっかく高いお金を払って練習するのだから、何か少しでも身に付けさせたかった。
私もわざわざ遠い日本から留学しているので彼女らの気持ちはよく分かる。
Hamer Hall の体育館には3面コートが用意されているのだが、今回のキャンプはあまりにも参加者が多いのために、別の場所にある一般学生用のフィットネスジムの小さな体育館も使用されていた。
Hamer Hall の方がメインなのだが、一定時間をおいてその別の体育館へも見回りは行なっていた。
あるコーチや部員は「そこまでしなくていいよ」と言っていたのだが、なにせ怪我人が多いため私はちょくちょく彼女たちの様子を見ていたかった。
それに怪我の状態をなるべく最小限に抑えておきたいのも目的だった。
Hamer Hall に見回りから帰ってくると、昨日ハムストリングをつった子が「今度は足首を捻挫した」と言ってきた。
典型的な Inversion sprain で、すぐさまRICE処置をしたものの痛みは減少せず、これ以上の事は私に出来ないので彼女を Health Center へと送った。
今まで足首の捻挫は嫌というほど見てきたが、彼女の怪我の評価で一つ困ったことがあった。
それは彼女は黒人で皮膚の色のためだろうか、内出血の跡が分かりずらかったことである。 腫れは見られたのだが、内出血は判断できなかった。
授業では学べない貴重な経験だった。
別の体育館へと行くと「アキレス腱が痛い」と言う子がいて、その子の怪我の評価を行なう。
始めの問診で彼女と話をしていると痛みの原因がすぐに分かった。
彼女は足の捻挫を予防するために Ankle brace(足首用の固定器)をはめて練習していたのだが、母親が適当に選んできてたためにサイズが合わず、固定器とアキレス腱の間で摩擦が起き、痛みを発生させていたのであった。
私は彼女にサイズのあった固定器をキャンプ終了後に買い直すように薦め、テーピングで足首の固定をした。
もちろん練習後のアイシングも説明する。
10:00am 過ぎ、昨日倒れた子がやってきた。
「で、どうだった?」と私が聞くと、「Closed Head Injury、Slight Concussion で頭蓋骨骨折はなし。 それに右手の人差し指の捻挫。」と話す。
そりあえず頭部の怪我がひどくなかったので安心した。
人差し指の怪我は昨日の評価中に知っていたのだが、彼女はレイナー病なのでアイシングが出来なかった。
彼女は後日また検査を受けるらしいが、なにがともあれ無事で良かった。
その他にも怪我人を見たが、大きな問題はなく午前中の練習が終了する。
練習後 Health Center へと向かい足首を捻挫した子についてある看護婦に質問してみる。
この看護婦はこの前の看護婦さんと違い、「Confidentiality(秘密主義)」の一言だけで何も話してくれなかった。
私は「Confidentiality はものすごく理解できるのだが、今私は彼女のトレーナーである。 だから彼女の状態について知る権利がある。」と説明しても、「Confidentiality」の一点張り。
この看護婦は実にケチだった。
昨日の看護婦さんやソフトボールキャンプの時は医師と直接話ができ、いろいろと学べたのに、、、
私は諦めてその場を去った。
午後の練習前に足首を捻挫して Health Center に行った子が戻ってきた。
(Confidentiality は職業に関する秘密主義で情報は公開できないのだが、本人が直接話してくれることには法に触れない。)
彼女は「捻挫」だと言い、骨折はしていないようだった。
ただ松葉杖を使っていた。
傍から見れば大袈裟にみえるかもしれないが、“PRICE”の“P”だからその処置には私は何も疑問は感じなかった。
ポイント)PRICE
一般的な急性の処置法には“RICE”が用いられるが、“PRICE”といって“RICE”に Protection の頭文字である“P”が加えられることもある。
ちなみに Protection は松葉杖や固定器・装具などある。
うちのヘッドコーチに「今回のキャンプは前回と違い怪我人が多い」と話しをする。
コーチ曰く、「保護者から“練習を厳しくしてくれ”と言われた」とのこと。
確かに練習内容のレベルが高い。
「んー、なっとく」
午後の練習はいつもどうりゲーム形式なので観客席から試合を眺めていた。
そこにある高校のコーチが私の所にやってきて「選手の一人が頭が痛いと言うので、頭痛薬をくれないか?」と頼んできた。
私は“Minor Patient”の説明をして、薬をあげることが出来なかった。
そのコーチは十分に理解してくれたようだったが、内心では多分「このケチやろう」と言っていたにちがいない。
「ん? この状況どっかで見たような、、、」
法律は必要だが、めんどくさい時もある。
この時ほどそう感じたことはなかった。
途中コーチ上に降りて、怪我人のパトロールをする。
みんなよく頑張っていた。
練習前は準備やテーピングで忙しく気付かなかったのだが、親指にテーピングを巻いてやる子がふと気になった。
そこで試合の合間にその子を呼んで怪我の評価を始める。
痛みの部位は“親指の付け根”なのでもちろん“Anatomical snuffbox”を中心に調べてみる。
多少痛みはあるらしいが、もう2年前から続いているとのこと。
それにレントゲンも撮ったことがあるが、結果はネガティブだったらしい。
とりあえず彼女のコーチにこのことを報告だけはしておく。
このコーチはとても感じがよい人で、何かあるたびに選手達を私の所に連れてきてはチェックさせた。
選手達は「やだぁコーチ、おおげさだよぉー」と言うのだが、このコーチの彼女らに対する気配りと私をトレーナーとして尊重してくれる態度がとても嬉しかった。
さらに選手達もこのコーチが大好きらしく、「お互いに良い関係を築いているなぁ」と感じた。
失礼にもそのコーチの年齢を尋ねてみたところ外見どうり若かった。しかしコーチとしての経験は豊富だったのには意外だった。
年齢や経験はどうあれ、本当に感じがいい人だったので、「こんなコーチと一緒に仕事がしたい」と私は思った。
試合は4人制から6人制へと変わり続いていた。
1人私の所に来る。この子の怪我は Groin で筋挫傷していた。
女の子相手でしかも部位が部位だけに視診や触診することが難しく、彼女を別室に行かせて彼女自身で内出血の跡があるかどうか確認させた。
お互い“性”が違うだけにややこしい問題は避けたかったし、いつもそう心掛けている。
内出血はないらしく、そこまでひどい怪我ではないと判断してアイシングをさせておいた。
9:30pm、 今日の練習終了。
昨日同様に忙しい一日だった。
今日の教訓:
「コーチの人柄は選手達だけでなく、アスレチックトレーナーにも影響する」