8月8日


8:00am、いつもどうりにアスレチックトレーニングルームで必要なものを準備して体育館へと向かう。
練習前はテーピングで忙しいのだが、今日がキャンプ最終日なので心はウキウキしていた。

練習中にうちの部員の一人が肩のストレッチを頼んで来たので、ストレッチをしながら肩の周辺の筋肉とその働きを指導する。 なぜなら、彼女は運動選手でありながらも授業ではアスレチックトレーニングを専攻している子なので、勉強の意味も含めて行なった。
しかし、本当は“どんな選手にも指導は必要がある”のだが、、、

一定間隔で Hamer Hall の体育館と別の小体育館を往復して、怪我のパトロールをする。
途中途中で Health Center 送りにさせた子たちと会うが、彼女らの処置法は“薬”と“私のテーピング”が主だった。
彼女らの怪我はそれほど大したものではなかったのだが、以前うちのアスレチックトレーナーに相談した時に「アイシング以外に必要と思う処置は、全員 Health Center に連れて行くように」と言われていたのでそうした。

“倒れた部員”に怪我で練習出来ないキャンプ参加者の子に別メニューで指導するように頼むが、二人で無駄話をしているだけで何もやらない。
彼女は自分のトリートメントなどには人一倍注文をつけるくせに、自分一人では何も出来ない、何もしない困った子である。
それ以上に私が彼女に対して思ったことは、“スタッフとしての自覚を持って欲しい”だった。
普段は選手として指導される立場だが、ここでは逆に指導する側となる。 だから、いくら医師の許可が出るまでは練習に参加できなくても、出来る範囲での“プロフェッショナルな態度”は見せて欲しかった。

昼からの練習前にうちのヘッドコーチと話をする。
「コンディショニングが出来ていないのかよく分からないのですが、慢性的な痛みを持っている子が多い」と言うと、「この子達は夏休みに入ってからずっと練習ばかりしているし、それに他の大学が主催するキャンプにも立て続けに参加しているだよ」と教えてくれた。

“うーん、それで怪我人が多いのか”とただ納得する。

このキャンプは彼女らのシーズン直前の最後の調整を含めた合同練習で、たとえ練習試合であっても負けたくはないから痛みを我慢してでもやっているのだろう。
私自身もそんな経験があるので、彼女らの気持ちが決して分からないわけでもない。

ゲーム中に足首を捻挫した子がやって来た。
痛みや腫れが明らかで、今回ばかりは彼女を休ませたかった。
「コーチは?」と彼女のコーチがどこに居るのか尋ねてみると、「えーっと、どこに行ったんだろうか?」と答えになっていない答えが返ってきた。
そこで彼女の姉もあり、チームのアシスタントコーチに「彼女は休ませた方がいい」と説明すると、「でもねぇ、あの子、私の言うこと聞かないから」とこの人も分けの分からないことを言う。

“おいおい、あんたは姉だけれども“アシスタントコーチ”じゃないか”
私は呆れてしまった。

しかし、怪我の状態は正直あまりよくなかったので「練習を中止した方がいいよ」と捻挫した子に伝えると、「チームは人数ぎりぎりで、もし私が抜けると代わりになる選手が誰もいない」と理由をつけて、練習に参加させるように訴える。
“コーチはいない”
“補欠いない”
“いないいない”ばかりで私はどう判断してよいのか悩んだが、仕方なしにテーピングで応急処置をしてやらさせることにした。
ゲーム中に彼女をちょくちょくチェックするが、涙目で「だいじょうぶ」としか言わなかった。

彼女の怪我から30分後、今度は同じチーム内の子が Quadriceps Muscle Group(大腿四頭筋)の痛みを言ってきた。
私は彼女の怪我の評価をすぐに行ない、その結果から“Contusion”と考え、Rest と Ice をさせようとしたが、ここでも「代わりの選手がいないから」という言い訳を聞かされる。
私は“練習中の中途半端なアイシングは好まないし、むしろ意味がない”と思っているので「今アイシングをするのなら、練習は即中止」と説明すると、彼女は「いいよ、だいじょうぶだよ」と言って、チームに戻る。

“何でこんな肝心な時にコーチがいないんだよぉ”
私はその場の状況が辛かった。

他にも痛みや怪我をしている子がいるのだが、今のところは何の問題もなかったので、この捻挫した子と打撲した子を中心に気を配る。
だが、“倒れた部員”の「ねぇ、きんじ、何やってんの、ストレッチしてよ」「ねぇ、マッサージはいつやってくれるの?」という声がうっとおしく、私をイライラさせた。

ゲームはリーグ戦なので、試合のないチームは集まってミーティングを行なっていた。
私は試合が始まると何も言わないが、この時ばかりはミーティングの邪魔をしてでも怪我をしている子たちの様子を聞いて回る。 こうでもしなければ彼女らと話せないから。
試合に集中しているせいか「だいじょうぶぅ」という返事が多かったので、とりあえずは安心した。

一方で“捻挫した子”と“打撲した子”の様子が変わってきた。
動きに痛みのしぐさがよく見られる。
しかし、この時になってようやく彼女のチームのヘッドコーチが姿を表したので、私は彼女らの怪我を説明して「休ませた方がいい」と忠告すると、そのコーチは「私の知り合いで、ここの卒業生から聞いたんだけど、お前は良いトレーナーなんだってなぁ」と話をはぐらかされた、、、

夕食休憩を挟み、再びゲームが開始される。
“倒れた部員”も再び私にあれこれ注文を言い始める、、、
しかし、私はそれを無視して“捻挫した子”と“打撲した子”を注意して見る。

彼女らの試合中、私はコートから少し離れた場所から見物している彼女らのコーチと話をする。
このコーチは彼女らの高校で15年間、それ以外の高校でも長年コーチをしていたベテランらしく、私には優しい言葉で話しはしてくれるものも、「困難は強さを鍛える」と言って遠回しに“根性論”を語っていた。
このコーチを説得するより、私の方が納得させられていた、、、
それにしても怪我をしている彼女らの動きが痛々しい。

途中、“捻挫した子”の母親が練習を見学しに来た。
私はすぐさま彼女の怪我の状態を説明する。 だが、ここでも「あの子、やりだしたら止まらないから、、、」と言うだけで何の対応もなし。
一体この家族はどうなっているのだろうか?

今度は“打撲した子”の様子がおかしくなってきた。
確信は出来ないが“Contusion”から“Strain”を起こしているようだった。 痛みの度合いも視覚的に現れ始め、チームがポイントを重ねても彼女だけは苦笑あるいは痛みで顔を歪めていた。 さらにびっこまで引き始じめるではないか。
私は彼女の姿がいたたまれなくなり、コートの傍へと立ち寄る。
そしてマッチポイントが近づくと、アイスバックの用意をする。
アイスバックの準備をしていると、横で“倒れた部員”が「ねぇねぇ、本当に何やってんの? そんなことどうでもいいから今すぐにマッサージしてよ」と横着に言ってきた。

“ブチィ!!!”

私はもう彼女の態度に我慢が出来なくてこう言った。
「もう、お前とっとと帰れ。 お前のような奴には腹が立って仕方がないんだよ。そんな態度だからお前は他のトレーナー達からも嫌われているんだよ」と。
「ごめん、ごめん。 きんじ、冗談だよ。 何そんなに怒ってんの?」と彼女は謝ってくるが、顔がにやけているのでますます腹が立った。

“もうこんなあんぽんたんなアスリートの相手なんかしてられない”
私は彼女をほっといてキャンプの後片付けを始める。
本来ならばこの後に特別練習が予定されていたのだが、あまりにも怪我人が多さにそれは中止された。
私は帰る準備をしているキャンプ参加者と話し、特に怪我をしている子たちにはアイシングと医師の診断を説明した。

片付けが終わりアスレチックトレーニングルームへ戻ろうとすると、“肩の亜脱臼ぎみだった子”が両親とコーチを私のところに連れて来た。
私は彼らに彼女の肩の説明をし、将来のことを考えて医師に絶対に診てもらうことを薦めた。
彼らはこの事に対して何も知らなかったらしく、「へぇー」と驚いた様子で説明を聞いていた。
多分彼女はキャンプ期間中だったので心配を掛けまいと黙っていたようだが、このように後からではあるがきちんと両親やコーチに話すその子の素直さが私は嬉しかった。

最後の最後までいろいろとあったが、何とかキャンプ終了。

今日の教訓:
「選手は技術だけでなく、人間性も育てる必要がある。」

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