。 カーヌスティの悲劇

西暦2XXX年、ゴルフ好きの老人が話しかけてきた。「カーヌスティの悲劇を知っとるかね」。

 第128回全英オープン、カーヌスティは荒れに荒れた。常に行く先を変えるいたずらな風、草むら同然の深いラフ、そして蛇のようにコースを横切るバリーバーンと、そこはまるで漫画で見るような異次元のゴルフコースであった。優勝候補と目されたタイガー・ウッズなど、各選手が次第にこらえきれなくなる中、フランスのバンデベルデだけが唯一このコースをなだめていた、そう私には見えた。最終ホール、ダブルボギーでも優勝という状況からは、まさか自分が見る目のない人間であるなどと反省することになろうとは思いもよらなかった。

 「最後くらいは自分の好きなクラブで打つ」とキャディーのアドバイスに反してドライバーを握った。ボールは右のラフへ。そこからはまさに絵に描くような失速劇。「刻むべきだった」と悔やんだ第2打は2番アイアンでグリーンを狙う。球は観客席に当たり、小川の縁石で跳ね、ヒザまで隠れる深いラフへ。第3打ではヘッドが抜けず、 球は無情にもバリーバーンに落ちた。もう冷静さはない。はだしになって小川に入り、無謀なウォーターショットに挑みかけた。すると3/4は浮いていた球が沈んでいく。自分がどうかしていることに気づき、球を拾い上げ、仕切り直してトリプルボギーにし、プレーオフに残るのが精いっぱいだった。

 「人生でもっと悪いことはたくさんある。世界中にもっと不幸な人がいる。これはただのスポーツだ」バンデベルデはサバサバと話した。そして「200年後にはだれも覚えていないよ」とおどけてみせた。しかし実際は「カーヌスティの悲劇」として、おそらく永遠に語りつがれるだろう。

 

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