ィ 食いかけの茶菓子

は筆を休めた。茶でも飲んで一服といったところなのだろうか。わずかに微笑みながら嬉しさをばらまいていた。どうやら今度の主人公は、刺青の入ったボクサーのようだ。

 原稿は半分と少しほど出来上がっていた。主人公は元暴力団構成員で、いかにも負けん気の強そうな若者である。若者は周囲の期待通り、順調に勝ち進み新人王を獲得する。『最強ボクサー現る』と心躍らせ始めるのに、そう時間はかからなかった。そして11戦11勝という輝かしい戦績をひっさげ、ついに日本タイトルに挑戦するのだ。ここで早くも日本チャンピオンかと思いきや、そうは問屋がおろさない。主人公は判定ながら完敗を喫することになる。ヒーローになりきれなかった若者のその後が気になるところだが、彼の手は筆ではなく茶菓子を握っていた。

 出版社の関係者らしき人が原稿を取りに来た。しかし彼は怒って追い返してしまった。それから、ようやく彼は筆を取り机に向かった。茶菓子は食べかけのままである。

 

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