、 ライナスの毛布 

陽が朝になると東から昇ってくる、そんな当たり前の事のように表彰台の上の荻原健司を見ていた時期があった。彼のものとなったキングオブスキーの称号は、遷り行く時間さえも逆らえないものと思っていた。しかしながら、太陽が次第に西に傾くのが自然の摂理であるならば、この荻原健司の姿もまた当然の事として受け入れなければならないのだろうか。私はそんな葛藤にさいなまれていた。

 しかしながら彼は今年に入りついに復調の兆しを見せ始める。周囲のボルテージは一気に上がった。ところが表彰台に上る彼の表情に、達成感や満足感といったものは感じられなかったのだ。上を見つめ続ける彼の終着点は、どうやらK点をはるかに越えたところにあるようだ。

 そしてキングオブスキーは来シーズンもまた、あの頃と同じように頂点を目指し走り続ける。たとえ引退が囁かれようとも、彼は決してノルディック複合という競技を手放さない。そう、まるでライナスの毛布のように。

 

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