UFEA Champions League 1998-99
Final
Manchester United (2-1) Bayern Munich
Basler (6mins.) , Sheringham (90mins.) , Solskjaer (90mins.)
「カンプ・ノウの奇跡」-ロスタイムの間に、起こり得ないはずの「こと」が起きた。
Camp Nou , Barcelona , Spain
26/05/1999
Manchester United
GK 1.Schmeichel
DF 2.G.Neville , 3.Johnsen , 6.Stam , 3.Irwin
MF 11.Giggs , 7.Beckham , 8.Butt ,15.Blomqvist (10.Sheringham 67mins.)
FW 16.Yorke , 9.Cole (20.Solskjaer 81mins.)
Bayern Munich
GK 1.Kahn
DF 25.Linke , 10.Matthaus (17.Fink 80mins.) , 4.Kuffor
MF 2.Babbel , 11.Effenberg , 16.Jeremies , 18.Tarnat
FW 14.Basler (20.Salihamidzic 89mins.) , 19.Jancker , 21.Zickler (7.Scholl 71min.)
1999/5/26 バルセロナ
そんな気は全くしないのだが、あれから早くも一年が経った。シュマイケルがスポルティング・リスボンへと移籍し、後釜としてアストン・ヴィラからボスニッチを獲得した。ブロンクヴィストとヨンセンとウェス・ブラウンはケガで今シーズンを棒に振った。
シーズン序盤は守備のほころびが目立ち、ボスニッチ、タイービ、ファン・デル・フーヴのGK達は決定的なミスを連発。DF陣、特にベルグはひどい有様で、そしてスタムでさえも完全ではなかった。アウェイとは言え、チェルシーに0-5、フィオレンティーナに0-2の敗戦は、昨シーズンでは考えられないことだった。
それでも圧倒的な攻撃力にはさらに磨きがかかり、加えてチームでの連携やコンビネーションの完成度は日を追うごとに高まっていった。そういうわけでプレミア・シップでは敵なしだったが、チャンピオンズ・リーグでは1/8ファイナルのレアル・マドリッド戦でまさかの敗戦を喫し、連覇の夢は砕かれたのだった。
「今シーズンのユナイテッドは史上最強のチームだろう」という、ファーガソン監督の発言には私も同意する。しかし、1999/5/26、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド-バイエルン・ミュンヘン。あのロス・タイムを、あのソルスキアの一撃を、私はサッカーファンである限り忘れることがないと思う。そして、それは少なくとも私が見てきた中では、間違いなく「ユナイテッド史上最高の瞬間」だったのだ。
キーンとスコールズを欠くユナイテッド、ベストメンバーのバイエルン
準決勝ではユヴェントスを劇的な逆転勝利で破ったものの、その代償は非常に高くついた。チームの柱となるポジションの二人が、デッレ・アルピで行われた第二戦で警告を受けてしまい、その結果サスペンションで決勝が出場停止となってしまったのだ。ロイ・キーンとポール・スコールズの欠場は、ユナイテッドにとってまさに寝耳に水だった。
そこでファーガソンは、本来は左ウィンガーのギッグスを右に。右のベッカムをセンターに入れ、ニッキー・バットと組ませた。ギッグスのいた左サイドには、スウェーデン代表のイェスパー・ブロンクヴィストを入れてバイエルン・ミュンヘンに挑んだ。
そのバイエルン・ミュンヘンは、ケガでブラジル代表のエウベルを欠いたものの、サスペションで決勝に出場できない選手は誰一人いないというほぼ万全の状態。彼らは、準決勝でディナモ・キエフを壮絶な試合の末に下しての決勝進出だった。
キーとなる注目選手は、未だ健在のリベロ、ローター・マテウス。準決勝でファンタスティックなゴールを決めたアーティスト肌の二人、「スーパーマリオ」ことマリオ・バスラーと、「中指で強制送還」のステファン・エッフェンベルグ。また、もう一人忘れてはならないのが、恐るべき根性を持ったカールシュテン・ヤンカーだ。
急造の中盤のユナイテッドとほぼベストメンバーのバイエルン。ユナイテッドは勝てば「三冠」達成。バイエルンはユナイテッドを破り、さらに数日後のドイツカップ決勝でも勝てば「三冠」達成となる。
いやが上にも緊張感が高まる。カントナがいたときでも成し遂げられなかったユナイテッドの決勝進出なのだ。私は自宅で、既に寝かかっているバルサ・サポの友人と共にキック・オフの時を待った。
重たすぎた「スーパーマリオ」のファイアーボール
オープニング・セレモニーでは、有名らしいオペラ歌手と、電光掲示板に映し出された故フレディ・マーキュリーが名曲「バルセロナ」をデュエットし雰囲気を盛り上げる。沸きに沸くスタンドの雰囲気も、今年のファイナル(レアル-ヴァレンシア)での和やかムードとは全く異なっていた。今年のファイナルはしびれるような緊張感に欠けていたと思う。あの緊張感が伴ってこそ、私も感情移入してゲームに臨めるというものだ。
キャプテン同士のコイントスの後、ユナイテッドのキック・オフでいよいよゲームが始まった。バイエルンは、右からリンケ、マテウス、クフォーの3バック。そして左右のウィング・バックはそれぞれバベルとタルナト。チームの中心のミドルの2枚は、イェレミースとエッフェンベルグ。ウィング的に右にバスラー、左にツィックラー。トップにはヤンカーが入った。
バイエルンは出だしからマテウスやエッフェンベルグを起点としてボールを効果的に繋げることが出来た。そして、喉から手が出るほどほしい先制点をあっさりと奪ってみせたのである。
中盤でのこぼれ球をイェレミースが前線へフィードしようとする。ユナイテッドの選手に当たって角度が変わったボールは、左サイドのツィックラーへ。これを彼は、ダイレクトでユナイテッドDFの裏にある広大なオープン・スペースへ放り込んだのだった。ユナイテッドDFより一歩早く抜け出したヤンカーに、G・ネヴィルがエリアのわずか外でバック・チャージ。そしてヤンカーはこけた。
イタリア人の名物レフリー、「ハゲ」のコッリーナがF.Kを与える.。キッカーはマリオ・バスラー。ゴールからやや左で距離は20mと少し。低い弾道で放たれたシュートは、ニア・サイドをケアしていた壁の外側を通り、ワン・バウンドしてファー・サイドのネットを揺らした。壁の一番外側に張っていたバベルがちょうど壁の選手達をブロックするかたちとなり、そのわずか外を巻いてゴールしたのだ。スーパー・マリオにかけて言うならば、「ファイアー・ボールがワン・バウンドしてハンマー・ブロス(シュマイケル)を倒した」というところか。この試合がユナイテッドでのラスト・ゲームのシュマイケルは全く動くことが出来なかった。
ビッグ・ゲームになればなるほど先制点を取ったチームが有利になると言われている。また過去のそういったゲームでは1-0というスコアも多い。ましてやバイエルンはドイツのチームだ。気分が悪い。バスラーは素晴らしい選手だが、何も決勝でまで点を取ってほしくなかった。
かみ合わないユナイテッドの歯車
ユナイテッドは、ほとんど効果的なボール回しやチャンス・メイクをすることができない。左サイドのブロンクヴィストはほとんどボールに触れず、右サイドのギッグスは左利きのためどうしてもインに食い込む動きしかできない。これではバイエルンDFとしてはインをケアしていればいいのだから、左サイドのギッグスに比べて全然怖くない。センターのベッカムは、2トップに当てるか裏に一発を狙うパスばかり。ヨーク&コールの2トップも、バイエルンのDFに完全にマークされていて自由にさせてもらえない。中盤でもたつくとイェレミースがすぐさまプレッシャーをかけてくる。セット・プレーくらいでしかビッグ・チャンスが産まれそうもない。中盤でDFとFWを見事に結合させるキーンとスコールズの不在はあまりにも痛かった。
ユナイテッドがバイエルンDFの裏にパスを通し「これはチャンスだ」というシーンになると、必ずオフサイド・フラッグを上げられた。前半30分を過ぎると、ユナイテッドの選手達は以前よりもポジション・チェンジを増やし、なんとかオープン・スペースを衝こうとするが決定的なシーンを築くまでには至らない。
バイエルンの方はユナイテッドにボールを「持たせて」おいて、ボールを奪うとサイド・プレーヤーへのロング・ボールや、エッフェンベルグ、イェレミース、マテウスの巧みな繋ぎでユナイテッド・ゴールに迫る。ツィックラーのヘディングとミドルの二本のシュート、フリーでドリブルの後のマテウスのロング・シュートなど、ユナイテッドがボール支配率では勝っていても実質的な主導権はバイエルンが保持しているように見える。
持ち前のサイド攻撃を全くと言っていいほど披露できないユナイテッド。ほぼプラン通りのバイエルン。そういうわけで前半を終了。ユナイテッド・サポとしての私は焦りを感じ始めていた。
バイエルンが前半以上の攻勢を見せるもユナイテッドにもチャンスが
後半開始早々、ハーフウェイ・ライン付近のこぼれ球をマテウスがダイレクトでヤンカーにスルーパス。抜け出したヤンカーがシュマイケルと一対一となるが、角度がなかったこともありかろうじてCKに逃れる。先制点をあげたバスラーも、ユナイテッドのカウンターのチャンスにしっかりと自陣に戻ってディフェンスをし、ユナイテッドに隙を見せない。クフォーらのバックスはコール&ヨークにスペースを与えず、中盤や前線の選手達もユナイテッドがボールを奪うと全力でカバーリングやプレッシングをかけに行く。そしてボールを奪えば、マテウス、イェレミース、バスラー、ツィックラーらが一気に攻め上がりチャンスを産み出す。
それでもユナイテッドは、右サイドのギッグスがこれまでにはなかった縦への突破を仕掛けだして、ようやく徐々に持ち前のサイド攻撃が見られるようになってきた。左足に比べるとだいぶ精度やスピードが劣るものの、右足のクロスからCKを奪ったりチャンスを創ったりして、わずかではあるが前半には感じることができなかった得点への可能性が産まれてきたのだ。
55分には右サイドでのコールのキープから、ユナイテッドとしてはこの試合初めてのビッグチャンスが産まれた。中盤でのボール回しが何本か続いた後、G・ネヴィルのロングボールがギッグスへ。これをダイレクトでやや左に前線から下がっていたコールへ流す。コールはワンタッチでコントロールし、じわじわと2〜3m進んだ後、後方のギッグスへリターンパス。ここがポイントだった。コールのじわじわボールキープが、ギッグスに付いていたタルナトの注意を少しだけ引きつけたのだ。そしてそこにはスペースが生じる。リターンパスを、左足で上げるには絶好の体勢で待っていたギッグスは、コールが作ってくれたスペースを活かして案の定センタリング。センタリングはニアに入ったヨークを飛び越えてファーサイドに。そこには、バベルを出し抜いて後ろから走り込んできたブロンクヴィストが!スライディングで合わせたボールはバーを超えていったが、初めてユナイテッドの攻撃が有機的に絡んだ瞬間だった。
それでも全体の流れとしては、相変わらずバイエルンのペースで試合は進んでいた。選手全体の運動量にはかなりの差があるように思えたし、ユナイテッドには効果的な攻撃をするだけのスペースがなかなか産まれない。しかし、前半とは異なりバイエルンのバックスには若干の隙が産まれてきてもいた。
ファーガソンはシェリンガム、ヒッツフェルトはショルを投入
65分が過ぎた。アレックス・ファーガソンは、ついに数日前のFAカップ・ファイナルのニューカッスル戦で殊勲のゴールを挙げたシェリンガムをブロンクヴィストに代えて投入。ユナイテッドは、これでようやくギッグスがいつもの左サイドへと戻る。一方のバイエルンも、豊富な運動量で効果的なアタッキングを仕掛けたツィックラーに代えてショルを投入。直後にはエッフェンベルグがそのショルとのパス交換からミドルシュートを放った。
バイエルンの猛攻
バイエルンは決定的なチャンスを次々に産み出していく。自陣深くでボールを奪うと縦へ流して、ハーフウェイ・ラインの左サイド付近のタルナト(?)にボールが渡る。トラップでの切り返しでマーカーを振り切ると、ユナイテッドのバックラインの裏へ猛然とダッシュするヤンカーへロングボール。ペナルティ・エリアの外でヤンカーはDFを引きつけながら左へダイレクトで落とす。ここへ走り込んできたのがエッフェンベルグ。アーウィンのプレッシングをかいくぐりながら、ダイレクトで左足のボレーシュート!かろうじてシュマイケルが弾いたものの、タルナト-ヤンカー-エッフェンベルグ、と渡った一連の流れは素晴らしいの一言に尽きる。ただしこれがユナイテッドの対戦相手でなかったらの話だが・・・。
ユナイテッドがボールをゆっくり廻し出すと、瞬く間にバイエルンの選手達は定位置に戻ってしまいパスの出しどころがない。そしてボールを奪われてカウンターを喰らう。自陣深くでインターセプトしたエッフェンベルグは、すでに右サイドをダッシュし始めていたバスラーへ流す。バスラーは自陣の右サイドからベッカムのタックルをかわしてユナイテッド・ゴール前まで迫力溢れるドリブルで駆け上がる!あたかもスターをGETし無敵状態となったスーパー・マリオのように。そして左に切り返したところで、後ろから走り込んできたショルがボールを受け取り、それまで右にいたバスラーとクロスするように右にスライドしてループ・シュート!少し前に出ていたシュマイケルの頭をボールは越えていく!!決定的な一点を加えられてしまうのか!?しかし、ボールは左のポストに跳ね返されてシュマイケルの腕の中に収まった。ふう、助かった。それでも時間はどんどん経過していく。
直後(80分)に殊勲のマテウスはフィンクに交代。ユナイテッドはコールに代えてソルスキア。代わったばかりのソルスキアは右からのクロスをニアでぴったりのヘディング。これは惜しくもカーンがきれいにセーヴした。
その後もバイエルンはビッグチャンスが続く。ユナイテッドのDFラインの前に生じたスペースを、見事にドリブルで衝いたショルがミドルシュート!さらにCKからの混戦でヤンカーがバーを叩くオーヴァーヘッド!
まさにK.O.寸前のユナイテッド。残り時間ももう残り5分に。ソルスキアのヒールからのシェリンガムのボレーもカーンがセーヴ。右からの絶好のクロスをヨークが空振り。左からのクロスをソルスキアがヘディングで合わせるも、これもまたカーンがセーヴ。ユナイテッドがようやく攻勢に出るも、もう得点できるほどの時間は残されていないように思われた。
ここでヒッツフェルトはバスラーを下げてサリハミジッチを投入。試合がこのまま終わっていれば普通の時間稼ぎの交代になったのだろう。しかし、これが後に、「なぜ交代させるならシュトルンツを入れなかったんだ!?」と非難の対象となるのである。
そしてついに副審から3分間と表示されたのロスタイムに入った。
カンプ・ノウの奇跡
ロスタイムに入った直後、ユナイテッドがCKを得ると、最後のチャンスにかけてシュマイケルまでがゴール前に上がってきた。そのCKからベッカムが早いボールをゴール前に送るも、それはシュマイケルを飛び越えてファーサイドにいたヨークまで流れた。ヨークはヘディングで折り返すもあっさりバイエルンDFがクリア。しかし、そのクリアは小さくペナルティ・エリアの正面に。そこにいたギッグスがフリーで右足のボレー。そして・・・。それをさらにゴール前のシェリンガムは右足で軌道修正となるボレー!いままで何本となく放ってきたシュートはことごとくカーンにセーヴされてきた。しかし、ゴールから5mほどの距離となればさすがのカーンも為す術はなかった。
同点。ガッツポーズを取った後、オフサイドではないかとラインズマンを確認してから改めてシェリンガムが喜びのランニング&ジャンプ!本当に信じられない。一年前のあの瞬間を今でも鮮明に覚えている。あまりの興奮で、すでにビールを飲んで寝ている友人をビンタで叩き起こしたのだ。
直後、再びユナイテッドがCKを得る。ユナイテッド・サポの割れんばかりの大歓声の中、ベッカムが先ほどと同じようなスピードのボールをややニアサイド手前に送る。そこでシェリンガムが頭にかすめたボールを、ゴール正面で待っていたソルスキアが右足で合わせる。カンプ・ノウの奇跡。ボールはゴール天井に突き刺さった!狂喜乱舞のユナイテッドの選手達とサポーター。地面に倒れ込むバイエルンの選手達。
このとき、私は「入った!」などとバカみたいに連呼しながら、再び寝始めた友人を一点目と同様にビンタで叩き起こしていた。一生忘れ得ない瞬間だろう。ジョホールバルでの岡野のゴールと並んで、私にとって最も印象深いゴールなったのだから。
奇跡的に三冠を達成したユナイテッド。これほど劇的な瞬間を再び目にすることは可能なのだろうか?少なくともこの一年間では、それはまだ見ることができないでいる。
2000/6/4