TOYOTA (inter-continental) CUP 99
 
Manchester United(England) (1-0) Palmeiras (Brazil)   
1999/11/30 National Stadium (Tokyo)

 

  

Scorer   Roy Keane(35min.)


 United Stats
 

GK Bosnich

DF GNeville , Stam , Silvestre , Irwin

MF  Beckham , Butt , Keane , Scholes(Sheringham) , Giggs
FW  Solskjaer(Yorke)

 <Match Report>

 
 三カ月ぶりのレッドデヴィルズ

 千駄ヶ谷駅の改札を抜けると、そこには日本代表の試合を軽く超える数のダフ屋達がうごめいていた。そして、露天の数もいつもより多い。さらに、鮮やかなグリーンのユニフォームを着込んだパルメイラスサポーター達。むうう、パルメイラス侮りがたし。

 
 国立のゲートをくぐって中へと入ると、イギリス人やブラジル人と思われる連中がかなりいる。そんな中、オールド・トラッフォードからやってきたな、と思わせる、ビール片手に気勢をあげているおやじ達を発見。さっそく話しかけてみる。「マンチェスターから来たの?」「そうだよ」「1月にブラジルには行くの?(FIFAクラブ世界選手権のため)」「行くよ!」。出た。このパワー。このおやじ達もまたレッド・デヴィルズだ。奥さんや家族はどう思っているんだろうと、こっちが心配になってしまうほどだ。さらに、夏にオールド・トラフォードで2試合を観戦したと言うと、強烈に酒臭い、歯も磨いてないような口が俺の顔にーっ!!!ブチュ。オヤジにキスされた私は、なぜか急にタバコが吸いたくなったのだった。
 
 スタンドに足を踏み入れると、パルメイラスサポーターの多さに少々驚いた。試合開始1時間以上前に、すでにテンションは十分に上がっている。隣のオヤジとしばしトーク。このオヤジなかなかやるな。先週、会社を休んでデッレ・アルピでユヴェントス対ミラン戦と、ハイバリーでアーセナル対ミドルスブラ戦を観戦してきただと!?うーむ、どーりでケツの下にはユヴェントスの座布団敷いてると思ったよ。
 
 選手のアップが開始された。と言っても、ユナイテッドはいつもの通り、ボスニッチが一人寂しくランニングしだしただけだったが。五分あまりして、残りの選手達が小走りで入場してきた。ポール・スコールズがランニングしながら、頭上で拍手で歓声に答える姿を見た瞬間に、三カ月ぶりのレッド・デヴィルズを実感した私だった。
 
 裏の裏。名将対名将

 スタメン発表のあと、驚きの全くないユナイテッドファンはいなかったのではないか。登録上とは言え、FWはライアン・ギッグスとオレ・ソルシャイア。ギッグスのFWなど、5年間くらいなかったのではないか。もしくはギッグスではなくてスコールズか?と、となりのオヤジとまたトーク。

 
 初冬の寒風が吹く中キックオフ。なんと蓋を開けてみると、ソルシャイアのワントップ。ユナイテッドのワントップなどお目にかかったことがない。ナイトの称号を得た、名将アレックス・ファーガソンはパルメイラス(というか全ての観客といってもいい?)の裏をかいた形となった。層の厚くなった中盤からのボールを、ソルシャイアを起点としてサイドに展開しようという試みだったのかもしれない。FCバルセロナのように。しかし、それは誤算だった。1995年のトヨタカップ。当時ヨーロッパで向かうところ敵なし、アウェイでもお構いなしの攻撃サッカーでならした、オランダのアヤックスを120分無得点に抑えたグレミオの監督だったルイス・フェリペは、今回も再び、相手の持ち味を封じる策を施してきた。両サイドバックをユナイテッド自慢の両サイド(ギッグス、ベッカム)にマンマークを付けるような手段をとってきた。さらに、予想に反して、センターにはソルシャイアがいるだけ。ブラジル代表の長身センターバック、ジュニオール・バイアーノとロッキ・ジュニオールの前に、ソルシャイアは見せ場を作れない。フォーメーションは4-5-1のようになった。さらに、やや高めにポジションをとっていたスコールズも徐々にポジションを下げていく。ロイ・キーンやニッキー・バットも、バックラインに重なり合うような場面が多くなる。パルメイラスの攻勢が続き、サイドバックがオーバーラップすると、ベッカム、ギッグスもだいぶ下がらざるを得ない。ユナイテッドは前半、その色を失っていた。バルセロナやモナコでの試合と似たような空回りか。パルメイラスの決定的場面が続く。いつ点をとられてもおかしくないような状況だった。ところが・・・。
 
 一撃に沈んだ「偉大なる緑」
 
 前半35分。ギッグスを封じていたスペースが一瞬だけ開いた。ユナイテッドサイドの、スローイン後のチェイシングによって生まれたわずかなスペースにいる選手に、デニス・アーウィンがグラウンダーのボールを入れる。さらにその選手にチェイシングが来る。それによってギッグスにこの試合初めて大きなスペースが与えられた。「これはチャンスだ」と思った瞬間、受けた選手(誰か分からない)は自分の前の広大なスペースに向かってダッシュしているライアン・ギッグスに頭越しのパスを送る。美しいフォームでこの試合で初めてDFを切り裂いていくギッグス。ライン際まで持ち込まれたボールはゴール前へと送られる。GKマルコスの弾いたボールに詰めていたのは、頼れるキャプテン、ロイ・キーンだった。一瞬のスペースと、キーンが瞬時に下した攻め上がりの判断で生まれたゴール。それまで圧倒的に攻勢だったパルメイラスにとっては、悔やんでも悔やみきれない失点となった。GK出身の友人は、「キーパーのミスだ」と言っていた。しかし、私にとってはユナイテッドが勝てばそれだけでよかったのだ。
 
 ワールドチャンピオンになったユナイテッドと負うべきリスクを示したギッグス

 後半、ソルシャイアに不満を募らせたファーガソンは、ドワイト・ヨークを投入。ヨークのキープ力やポジショニングの妙により、前半よりも、ユナイテッドは前線へとボールをフィードできるようになった。パルメイラスは、横浜フリューゲルスでプレーしていたエヴァイールを入れて対抗する。さらに後半30分頃にはテディ・シェリンガムを投入。スコールズが抜けて、ユナイテッドの中盤が薄くなったことにより、両チームともゴール前での攻防が多くなる。少ない人数で、的確なポジショニングと正確なフィード、素早い走り込みでパルメイラスゴールへと迫るユナイテッド。中盤でのゆっくりとしたリズムから、一気にスピードアップして中央突破やサイド攻撃を仕掛けるパルメイラス。決定的チャンスは両チームともあったが、ゴールには至らない。特に、あれだけ非難の的となった、GKのボスニッチのファインセーブの連発に、ユナイテッドは救われたと言っても過言ではない。結局、試合は1-0で終了。トップパフォーマンスとは言い難いユナイテッドだったが、パルメイラスの決定力不足とボスニッチのファインセーブに救われたこともあり、「とりあえず1月まで」クラブ世界一の栄冠を手に入れた。MVPはボスニッチかキーンでもいいと思ったが、先制点の見事なお膳だけをはじめ、持ち前のスピードを活かしたドリブルやスペースへの走り込み、さらにディフェンスと、センセーショナル(ちょっと言い過ぎかな?)なプレーを披露したライアン・ギッグスが獲得した。

 前半、結局チャンスにはならなかったものの、ギッグスのクレバーな一面をかいま見たシーンがあった。(ユナイテッド側の)中盤左サイドで、パルメイラスの選手が、ドリブルでギッグスをかわしたのだが、ギッグスはあえてその選手の後を追わなかった。パルメイラスの選手がギッグスを抜いた際のボールタッチがやや大きくなったからだ。そこへアーウィンがサポートに入るのを確認したギッグスは、全速力で前線のスペースへと飛び出していった。そして、アーウィンがパルメイラスの選手からボールを奪い、ギッグスへのミドルレンジの縦パスが通ったのだった。ギッグスとアーウィンでその選手をサンドウィッチすれば、確実にボールを奪うことができただろうが、それではその後の攻撃に遅れが出る。逆に、もしアーウィンもパルメイラスの選手に抜かれていたとするならば、ユナイテッドは大ピンチを招いていた。ギッグスはリスクを負ってオフェンシブな選択を瞬時に行ったのだ。攻撃にはリスクがつきものだ、とよく言われる。フランスワールドカップにおいて、日本代表の攻撃を見ていて点が取れる気がしなかったのは、得点するために負うべきリスクから逃げていたからではないか。と、そんな考えが頭をよぎった(ある作家の受け売りのようだが)。ギッグスにとってはごく当たり前のワンプレーかもしれない。しかし日本人の私にとっては、きつい説教のようだった。

 
 ギッグスとベッカム。二人の明暗

 今回のトヨタカップに出場した選手の中で、間違いなく最も注目を集めた選手はユナイテッドのベッカムだった。しかし、そのベッカムはトヨタカップでは、期待されたほどの働きを見せることはなかった、と言われる。ユナイテッドの生命線とも言える両サイドのサイドハーフ、ベッカムと、そしてMVPを獲得したギッグス。何が二人を分けたのか。

 試合の内容以前に、日本人のファンがベッカムに対して抱いていたイメージと、実際のベッカムのプレースタイルとの違いというのも大きいだろうが、ここではそれはカットしたい。

 結論から先に言ってしまうと、ベッカムとギッグスの明暗を分けることになったのには、大きなふたつの要因がある(はたして断言していいのか?)。ひとつは、ユナイテッドのプレッシングが甘かったことによるもの。ヨーロッパ最強の声もあるコール&ヨークの2トップで、アレックス・ファーガソンがより積極的にしかけたならば、前線からの激しいプレッシングによって、より高い位置でボールを奪うことが可能になったはずだ。低い位置でボールを奪ったとしても、ベッカムとギッグスの両サイドは相手ゴールまでの距離が遠すぎたし、トップがソルシャイア一人では、なかなか前線への展開も望めない。そういう状況であれば、スピードのあるギッグスと「貴公子」ベッカムが、たとえそれぞれが同じ場所でボールを奪ったにしても、相手ゴールへの展開が開けるのはギッグスの方ではないか。そして、もうひとつの要因、それはパルメイラスの強力な左サイドバック、ジュニオールの存在だった。パルメイラスの両サイドバックが、ユナイテッドのサイド二人につく場面が多かったのは明らかだが、ジュニオールの攻撃参加は、ベッカムをユナイテッドのバックラインの方まで追いやるのに非常に効果的にだった。パルメイラスの右サイドバック、アルセもオーバーラップする場面があったのは確かだが、ジュニオールにくらべればずいぶん見劣りしたものだった。したがって、パルメイラス側の事情からも、ギッグスの方がチャンスが多い可能性が高かったというわけだ。また、本来ならダイレクトパスを小気味よくつないでいくスコールズが、サンパイオとポジションが重なる場面も多かったのも要因の一つだろう。さらにキーンがバックラインに戻ってディフェンスする場面が多かったことも。

 しかし、それでもベッカムのパフォーマンスが最悪だったとは思わない。むしろ、ベッカムのような選手でも自陣深くにひいてディフェンスし、そして全速力でオフェンスにまわらなくてはいけない、ということを日本人に示した意味は大きいと思う。

 
 岐路に立つトヨタカップ
 
 来年1月には、FIFAの主催によって、第一回クラブ世界選手権がブラジルで開催される。各大陸別のクラブチャンピオンと、開催国のチャンピオンチーム、さらにトヨタカップチャンピオンを加えたこの大会によって、これまで「クラブ世界一決定戦」を売り文句にしてきたトヨタカップは、その価値を大きく下げることになった。
 
 さらに、大会よりもずいぶん早く来日し調整してくる南米代表が、過密日程で、例年大会直前の来日が恒例となっているヨーロッパ代表チームに今年で5連敗したことになる。大会当初は個人技の南米にたいする組織の欧州、のような構図が存在していたのかもしれないが、選手を育ててヨーロッパへ売る、というのが現在の南米のクラブの一般的なイメージだ。さらにEU内の選手は外国人枠に含めないというボスマン採決の影響もある。では、トヨタカップはどこへ向かうのだろうか?日本のサッカーファンのかけがえのないイベントであるトヨタカップも、世界のサッカーシーンの変化と無縁ではないのだ。

 1999/12/23

 (これはトヨタカップ観戦直後に制作し、一部の友人にメールで送ったものを、加筆修正したものです。)

 

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