あちゅちん作


「屁の季節」

 当に彼は行ってしまうのだろうか。クラウディオと過ごした日々が胸に甦る。ふと空を見上げた。風もなく、小さな雲がぽつんとひとつ浮かんでいる。
あれは私だ。拠り所を失ってただ漂っているのだ。彼は今、親友のイアンと、次いで、かつては私の憎き恋敵であり今は無二の親友であるマギーと抱擁を交わし、何か言葉を掛け合っている。次の列車が来たときに、彼はそれに乗ってロンドンへ旅立ってしまうのだ。もうあと2,3分もすれば、この駅のホームから、あの質素だが趣味の良いあのアパートから、そしてこの町からいなくなってしまうのだ。
あぁ!こんな事なら最初から彼に出会わなければ良かったのだ!3年前のあの花火の日に、私がニューキャッスル大橋の上でつまずいて転んだりしなければ、差し伸べられる手もなく、こんな胸を切り裂かれるような思いもせずにすんだのに!空気をつんざくような汽笛と轟音をひびかせながら汽車が駅のホームへと入ってきた。同時に彼がこちらへ歩いてくる。入ってくる汽車を指差しつつ顔をしかめ、軽く肩をすくめて見せる。あの汽車の煤煙による大気汚染を私は憂慮しています、というポーズではなさそうだ。彼は何も言わずに私を抱き寄せた。涙が止まらない。私もまるでしがみつくようにして彼の胴に手を回す。別れたくない。
でも結局、私は家を選び、彼は夢を選んだのだ。彼は私の顔を両手で包み込むようにして上を向かせ、しばらく眺めてから私に接吻をしようと唇を近づけた。
「ぷうぅぅぅ〜〜〜〜っ、ぷぽん、ぶびっ」 あっ、屁こいてもうた!


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