
【歴史】
八門拳の歴史は想像以上に古い。
明代の歴史書「明史」第一百二十八巻の中にある
「列伝」第十六には劉伯温が八門拳を創始したと記載されている。
その後、清朝の嘉慶年間に河北の燕山出身の常巴巴が蘭州に移り住み、八門拳を学んだ後、
西北一帯の武術を調査し八門拳を発展整理し伝えた。
現在では蘭州の王天与・劉金祖の二人が八門拳の名士である。
二人の弟子である葉建淵は、西北一帯に広まった八門拳を調査し、整理して伝えようとしている。

【拳理】
八門拳の「八門」とは、かの三国時代の名軍師である諸葛孔明の八卦陣が由来であり、
八卦陣図にある「生」「傷」「杜」「驚」「死」「景」「開」「休」の八門を
攻撃の方向に見立て、歩法や手法へと応用変化していくことを指している。
例えば、一度出した攻撃の手をそのまま変化させて他の方向への攻撃へと切り替えたり、
歩を進めるだけでなく、体を回転させ、別の方向への攻撃を転じていく。
【特徴】
八門拳の特色は、第一に技の豊富さが挙げられる。
元々、西北一帯の武術をまとめた物であるため、徒手の技術も様々な風格を持つ技が多く伝えられている。
兵器も剣・棍・刀・槍といった基本武器以外にも大刀・鞭・鉤などを伝えている。
中でも鞭杆を伝えている点は見逃せない。
鞭杆は西方地方独特の兵器なのであり、非常に優秀な武器技法である。
特色の二つ目としては、技の速さという点が挙げられる。
スピーディーな技は避けることが難しく、套路を見るとまるで通背拳か翻子拳の様だ。
特色の三として、技の変化がある。
次から次ぎへと技を変化させて繰り出していき敵を追いつめる。
手法や身法を複雑に変化させ技を連続させていく。
また、腿法と手法の組み合わせにより、豊富な変化技を生み出していく。
特色の四つ目は、独自の技である扣交手と言う技にある。
ただこの技に関しては、文章で説明するには難しく、実際に見てもらうほうが理解しやすいだろう。
特色の五つ目は、八門拳は中国の服の特徴である長い袖を利用した技使いにあり、
長袖拳の一種である点だ。
そして日本ではほとんど知られてないと言うのが、やはり最大の魅力であろう。

【分布】
中国西北地方一帯、
甘粛省を中心に陜西省・青海省・寧夏・ウルムチなど。
【技術・技法】
八門拳には多くの技が伝えられていて、全ての套路を合わせると百種を越すという。
そのうち、徒手は三つに大きく分類でき、その上で兵器法がある。
徒手は単拳楼、捶拳楼、封手拳楼の三つがある。
単拳楼は動作が大きく変化に富んだ技が多い。
主要な套路は十字単拳・梅花単拳・八虎単拳・金剛単拳などがある。
捶拳楼は一打必倒の力強い攻撃を特徴とし、炮拳・九連環捶・登州捶・七星捶・八門金捶などがある。
封手楼は、上の二つの楼を組み合わせたもので、一気呵成に敵を攻め、巧妙な技が多い。
封手八快を中心として掌母・破母・八歩転・十連子・小母・八門抖底等多くの套路がある。
他に秘伝である十排手、内功を合わせて学ぶ八門掌という套路も伝わっている。
兵器は八式剣・八門刀・八門金槍・八虎棍といった四大兵器の他に、
棍より長い条子の技として梅花条子・琵琶条子・水仙条子等があり、
八門双刀・大刀・双鉤といった兵器もある。
そして、西北地方の兵器である鞭杆も伝えていて金山鞭杆・白虎鞭杆・八門鞭杆等がある。
【解説】
恐らく、現在の日本では八門拳の名を知る人は少ないと思う。
・・・が、中国では意外と有名な門派なのだ。
八門拳に関する本も二冊出版されているうえ、武林には八門拳に関する紹介記事が何年にもわたって連載されていた。
日本で発売されている中国武術専門雑誌「武術(うーしゅう)」(福昌堂刊)1986年11月号にて、
「知られざる中国拳法」という特集をしており、日本で馴染みの薄い門派を特集で紹介している。
そのカラーグラビアの6ページ中にウルムチ地区の珍しい武術として分手八快・八歩転・排子手・撕拳
甘粛省の武術として登州捶・八門母子と言った名が出ている。
これらはいずれも八門拳に伝わっている技法(套路)なのだ。

中国で有名でも日本で無名という例は多く、中国でこそ通背拳が最も名門武術であるのに対し、
日本では八極拳の方が人気がある。
八門拳も中国ではかなり有名な門派なのにも関わらず、日本ではその名すら知らない人が多い。
しかし、今まで西北一帯から出ることはなく、中国の全国大会でもあまり出ることはなかった。
勿論、外国人である日本人が学ぶことは本来あり得ない。
私は1992年に葉建淵老師と知り合い、八門拳を学ぶことが出来たが、
後に、西安の田春陽老師(悪友)に、私が八門拳を学んでいることが知れたとき、
「何故、日本人のお前が八門拳を知っている?」と詰問されてしまった経緯がある。
1999年5月に甘粛代表の武術家に会ったときも、同様の詰問をされた上、葉老師のことを話し、
学んだ技を見せた途端に、現地にて色々と世話をして頂き、面倒見が良くなるといったことがあった。
その人たちに言わせると、私は武術においては西北人と同様だということらしい。
それほどまでに貴重な八門拳だが、とにかく内容が多く、学ぶのが大変である。
現在は中華国術会(日本八門拳協会)会長の布施和弘氏と協力し、手分けして学んでいる。
とにかく必要なものを学ぼうとして、独特の手法を多用する掌母・破母、重要套路である封手八快、
絶招を学ぶ十連子・九連環捶・八門金捶、
兵器として八式剣・梅花条子・水仙条子・金山鞭杆・白虎鞭杆・八門鞭杆などを学ぶことができた。
その他には、八門秘伝の八門掌・十排手、また珍しい八歩転も学ぶことができ、
絶招式である八大招と言う技法も学ぶことができたのは、幸運であるといえるだろう。
この八大招は、八極拳で伝えてられている八大招式と内容はまったく異なり、
八門拳で最も効果の高い手法を学ぶものである。前と後の二段に分かれ、合計十六の技がある。
個人的に八門拳は通背拳に近い武術のように思える。
リラックスした状態から、素早い攻撃を繰り出すところは全く同種の武術と言ってよい。
しかし、通背拳の数ある派生の中でも、特に白猿通背や老祁派通背と技術が近いようだ。
現実に、八門拳では「八門通背拳」「通背捶」という套路も伝わっている。
また袖を長くして、技を用いるところは孫賓拳と似ている。
余談になるが、台湾に伝わっている孫賓門の方が、八門拳を見てその共通性から興味を覚え、
八門拳の派とコンタクトを取ろうとしたことがあり、仲介役を担ったこともあった。
こういった交流から孫賓拳も学ぶことができ、学んだ感想としては、
スピード重視の攻撃や手技と足技の併用という点は、まったく同じであるものの、
八門拳の方が、技の構成や用法など、より複雑に積み重ねられていると感じた。
*通背拳と孫賓拳には「ある関係」があるのだがそれはいずれまた紹介する。
葉建淵老師は、八門拳の他、天王与伝の内家三拳や馬頴達伝の通備拳も伝えており、
通備拳に関しては別な人物に任せてしまっている。
・・・が、それでも手が足りず、八門拳を学ぶのに苦労している。
今は手助けしてくれる人が一人でも多く現れることを願っている。
時間の余裕がつき次第、私達が学習した貴重な八門拳を公開していこうと思う。
(終)