PRIDEグランプリ2003に見える変化の兆し
2003年8月10日。
格闘技ファンが待ちに待ったこの日、PRIDEグランプリ2003の火ぶたが切って落とされた。
3年振りに行われるPRIDEグランプリも今回はミドル級グランプリ決定戦である。
出場選手の顔ぶれだけで、対戦カードが決定する以前からファンは身震いすることとなる。
現プライドミドル級王者ヴァンダレイ・シウバはもちろんのこと、シウバに雪辱を誓う桜庭和志、
孤高の天才 田村潔司、柔道金メダリスト吉田秀彦の他、グランプリに相応しい面々が計8名集められた。
彼らグランプリ出場選手のラインナップだけでも、ファンには垂涎の大会になったのだが、今回のPRIDEはこれだけに止まらなかった。
ヘビー級ワンマッチとして組まれた3試合でこれまた豪華なメンバーを揃えてきた。
PRIDEヘビー級王者のヒョードル、前王者ノゲイラ、そして総合格闘技無敗のミルコ・クロコップらが参戦するのだ。
PRIDEがいかにこの大会に重きを置いているか、新しいPRIDEへの展開に対する意気込みが、名を連ねた出場選手の名前からも伝わってくるというものだ。
ご存知PRIDEはK−1と並び、世に格闘技ブームを巻き起こすことになったほどの大会になっている。
初めは高田延彦がヒクソン・グレイシーと対戦するために用意した舞台であったが、次第に総合格闘技の国内最大のイベントへと成長していった。
その過程で有名になった選手も数多くいるし、数々の名勝負も生まれた。
しかし、この大会以前、特に昨年(2002年)の大会では、大会そのものが伸び悩みやスランプに陥っていた印象がある。
そもそも総合格闘技の魅力といえば、ヴァーリトゥード=なんでもアリから想像するに易いKOやギブアップの奪いあいに尽きる。
ポイント制による判定なんかは、格闘技の試合として成立させるため、ルールの範囲で勝敗を決するために設けられているに過ぎない。
観客の多くは純粋に「一目で分かる強さ」を求めているのだ。
ところがスランプに陥った大会では「一目でわかる強さ」はあまりお目にかかれなかった。
だからこそのスランプとも言えるのだが、まあ要するに観戦後にはスッキリ爽快といったような試合は少なくなっていた。
この現象はある意味ではPRIDEの成長の証とも取れる。
一本を取っての勝敗が少なくなった理由として「選手の技術レベルの向上」があるからだ。
攻撃の技術の向上もさることながら、防御技術の向上がこの現象を招いている。
防御を向上させるということは、相手に倒されない、つまりは「負けない試合」を導くことにつながる。
勝敗を強く意識することで皮肉にも明確な勝敗を決することが出来なくなっていったのだ。
試合の内容は悪くなかったりする場合も多い。
防御技術の向上でレベルの高い試合が見ることができる。
関節技や絞め技からの逃げ、グラウンドでのポジション争いなどはいくらレベルがアップしても、“一目でわかる強さ”ではなくなっている。
これでは通にしか楽しめない試合である上に、判定での決着では盛り上がろうにも盛り上がらない。
実際、展開の少ない膠着した試合ではブーイングも聞かれる。
もう一つ理由を挙げるとすれば「柔術への傾倒」だ。
これは上記の「技術レベルの向上」にも大きく関わっているのだが、ここは敢えてクローズアップしてみたい。
グレイシー一族やブラジリアントップチーム勢の台頭から分かるとおり、PRIDEにおける柔術は一つのテーマであった。
「いかにこの隙のない連中から勝利を奪うか」が打撃やレスリングを得意とする選手に課せられた目標であり、試合の注目点であった。
柔術攻略、柔術対策として特に打撃勢にグラウンド技術の習得が多く見られる。
そして柔術にはその攻撃の技術以上に、防御技術の高さに特徴が見られる。
相手の攻撃を防いで、攻撃から生まれた隙を突いてオフェンスに回るのがセオリーとなっている。
要はカウンターを取るのだが、攻撃側がそれを知り、さらに防御を磨いていくとどうなるか。
攻撃の手は自ずと減り、攻め合いより防ぎ合いの時間が上回ってくる。
これが上で言う通好みの試合になり、スッキリしない試合につながってくる。
ここまで読むと柔術を悪者扱いしているように思われるかもしれないが、それは違う。
実際にこのような傾向にあると見ているので誤解しないでいただきたい。
現に柔術は一時代を築いたのだから、その強さは証明済みだ。
さて、今回の大会でボクが感じた変化を一言で言うと「グラウンドから打撃へ」であろう。
今大会一本勝ちの試合が全7試合中5試合。しかもその全てが1Rでの決着。
さらにそのうち4試合が打撃によるKOであったのだ。
この数字からも容易に盛り上がりを想像できる。
これらの数字は「負けない試合」からの脱却も物語っているのではないか。
この結果は出場メンバーによる「たまたま」感も否めないが、
PRIDE主催者の「打撃」への変化の表れともいえるだろう。
これは選手にも広がっているかもしれない。いや広まって欲しい。
全てに打撃を望んでいるのではなく、時として決着には「一発」が必要なのだということを言いたいのである。
ボクらファンもその「一発」を楽しみにしている。
一発が出たときの興奮こそ格闘技の魅力であるし、この上ない喜びなのだ。
各試合の結果については触れなかったが、テレビ中継を見ているときの興奮はどの試合も最高だった。
ボクは総合格闘技の試合を見るとき、特定の選手に勝って欲しいというよりも、どのように勝敗が決められるのかというスタンスでいる。
どの選手もそれぞれの得意とする分野があり、やはりそれぞれに魅力がある。
自分でいろいろなキャラクターを使って格闘ゲームを楽しむ、といった感覚に近い。
ゲームで気持ちのいい勝ち方はやはり、必殺技できれいにキメる勝ち方以上のものはない。
そこにはキャラクターの一番の魅力が表現されている。
そして、ミルコに相応しい勝ち方、ヒョードルらしい勝ち方、シウバにはシウバの勝ち方というのは確かに存在している。
吉田の勝ち方、ノゲイラの勝ち方にしても同様である。
今回は各選手の「らしさ」がよく表に出ていて、今後にも期待できる結果になったはずだ。
ボクはまだまだ互いの「らしさ」のどちらが強いのかをもっと見たいと思った。
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