ベルギー紀行

グランプラスにて、筆者  私とジェフの清水コーチとEURO2000観戦の為に、ベルギーへ行って来ました。我々が足を運んだ会場はシャルルロア、リエージュ、ブリュッセルの3会場で予選3試合とクオターファイナル一試合の計4試合でした。私にとってはブリュッセルは3回目の訪問となり、サッカーコーチという仕事がら海外に出かけることが多く色々な都市を訪れていますが、そのなかでも特別印象が強く、とても思い出に残っている都市です。その一番の理由の中にあるのはグランプラスという中世の壮大で華麗な建築が周りを囲んでいる広場があると言うことです。初めてこの広場の真ん中に立ったときにその美しさに圧倒されると同時に、とても心が安らぐのを覚えました。何でなのかと自問したところ、すぐにその広場の大きさがサッカー場と同じくらいのサイズであるということに気がつきました。グランプラスが世界一美しい劇場といったのはジャンコクトーですが、私にとっては世界で一番美しいサッカー場でもあるのです。
 試合観戦の合間にベルギーの白ビールを片手に、グランプラスの片隅にある屋外のチェアーに座りながらライトアップされた金色に輝くバロック建築の王の家、市庁舎、そしてブラバン公の館などを眺めているのは、とても優雅で贅沢な時間でした。
 ベルギーという国のとてもすばらしいところは、このほかにもビールの種類が800以上もあったり、レストランの数が国民一人あたりに対して世界一を誇り、美食の国でもあるという点です。しかもその値段はとても安く、そのうえ量もとても多く、美味しいムールが一人に対してバケツ一杯でてくるのにはおどろかされます。しかしそれを簡単に平らげてしまう自分たちの食欲にも驚かされました。
スパにて、筆者  今回の観戦旅行はゲームの観戦以外はすべて予定が決まっていないという点が特徴です。朝ホテルでとても豪華な食事を時間をかけてとりながら、予定を決めるというのがその日一日のスタートとなります。日本での生活のように時間に縛られることなく、その日の天候や気分で行く場所を選択するということはとても魅力的な決定でした。しかし自由な行動には落とし穴も待っていました。ある朝、とにかく人がいったことのないような場所に行ってみようということになりました。そこで選んだ場所が温泉があるスパというところでした。何回か列車を乗り換え、何度も駅員に行き方を確認して、ようやく車窓から見える家の数も少なくなり、川が流れ、山並みが見えるところにきた頃には、二人とも期待感から口も軽くなってきました。お腹もすいてきたので、食事の話になり、温泉といえば日本そばに決まっているが、スパにはないだろうからスパゲッティでも食べるかなどといってはしゃいでいました。ところが駅に着いてみると、駅の周りには我々以外ほとんど人がいないという状況でした。温泉があるということは知っていても、どの方向にあるのかも知らない我々はとにかくそれらしい道を選んで目的地を目指しました。やっと見つけたインフォメーションセンターで地図を手に入れ、温泉のある場所を訊ねたときでした。なんとその場所を教えてくれた親切でとてもきれいな女性の口からでてきた言葉は「いまはシーズンオフで入浴できない。」という魔女のささやきでした。
 負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、この失敗も帰るときにはとてもたのしい思いでに変わっていました。
 観光のほかには美術館巡りに多くの時間を費やしました。我々二人はお互いに考え方などに偏っている部分があるのですが、趣味の部分では共通のものが多く特に芸術に対する趣味がいっちしていました。アムステルダムでは国立美術館に行き、絵の中から光がでているかと思わせるレンブラントの「夜警」やフェルメールの精緻なタッチで描かれた作品などを堪能しました。その後で我々の共通の好きな作家であるゴッホの作品を集めたゴッホ美術館に行き大量な数の作品にふれることができました。
 ブリュッセルではホテルから歩いて15分位のところに王立美術館があり、フランドルの絵画を中心にブリューゲルの作品などを鑑賞しました。また王立近代美術館では目当てのベルギーを代表する作家であるマグリッドの作品がなかなか見つからず、閉館ぎりぎりになってやっと見つけることができ、走るようにしてその奇妙ともいえる作品をみてきました。しかし、美術館を走っている我々の姿の方が警備員にとっては奇妙で不思議に写ったのではないでしょうか。
 どうも観戦記を書こうとしていたのが旅行記となっているようです。そろそろEURO2000についての感想を書きましょう。前回のロンドン大会の際にチケットを色分けし、サポーター同士がスタジアムのなかで衝突するのをふせいでいましたが、今回はこの色分けしたそれぞれの色に応じて、降車する駅が違っていたことがまず運営の面で感心させられました。3ヵ所の違う駅からそれぞれ異なる道を通りスタジアムにいくために、スタジアムのなかだけでなく、その外での衝突もふせげるように工夫されていました。2002年のワールドカップの際にはとても参考になるシステムだと思いました。
オランダ対ノルウェイ

 今大会では明らかにヨーロッパで強豪といわれてきたイングランド、ドイツなどのサッカー王国が崩壊し始めているというのが特徴的でした。スピードを重視するあまりパススピードとプレイヤーが走るスピードだけに頼ってきたつけが回ってきているように感じられました。日本でも多くの指導者がこの頃口にするので、とても気になる言葉があります。 その一つが「パスのスピードをもっと上げろ!」であり、もう一つが「アプローチを早く!」という言葉です。協会からの指導指針に問題があるのでしょうが、パスで一番大切なのはスピードではありません。一番大切なのは、相手の逆を取ったパスが見方にわたることです。いつのまにか、本来スピードは手段であったものなのに、目的にすり替わってしまっています。アプローチも全くおなじでスピードが重要ではなく、タイミングが大切になるはずです。手段の目的化が進んでいるという間違った方向に日本のサッカーが向かっているのがとても心配です。ドイツもイングランドもレベルは違うのでしょうが、この落とし穴にはまっているようです。逆にパスとは何かを正しく追及し、スピードを落としても正確につなごうとして技術を優先にサッカーを進めてきたトルコ、ポルトガルなどの健闘が光りました。特にこの二つの国のサッカーの方向性は日本のサッカーにとって参考になると思われました。

 最後に、病気のために我々にチケットを譲ってくれ、とても貴重な体験をする機会を与えてくれた青木さんに感謝すると同時に早く回復されることを願っています。


千野 徹