「んー?どうしたの?お母さんここにいるわよ」
むせかえるような緑の匂い。これ以上ないぐらいに降り注ぐ日の光。
夏独特の風が木陰を通り過ぎる。
スケッチブックを膝に倒し、不意に目覚めた息子へ顔を近づけた。
「なぁに、ガウェイン」
むずかるでもなく伸ばされた手は、母親の頬や柔らかな輪郭をなぞっては離れ、を繰り返している。
笑ってまだ生えそろわない金髪を撫で、小さな手に唇で触れた。
と、親子がいる丘の、頂上の木の下に駆けて来る初老の男性が一人。
「笑子!!」
荒い息で近づいてくると木に手をついて息を整え、娘の横に腰を下ろす。
「お前は、全く…まだ先生もあまり動くなとおっしゃったんだ…
絵を描くなとは言わんがちっとは体を大切にせんと」
「あらぁ父さん。大丈夫、今日は調子もいいし…、
こんなに気持ちがいい天気なのに外にいないだなんておかしいと思わない?
ねぇガウェイン。
このお外用のベッドだっておじぃちゃんがわざわざ自分から作ってくれたのにねぇ」
「そりゃお前がガウェイン連れて何処へでも行ってしまうからだろうが…。なぁ」
全く、と繰り返してため息一つつき、娘と同じく孫に語りかける。
きゃきゃ、と赤子特有の笑顔と声で返事をされて思わず顔がほころんだ。
涼しい木陰に、笑顔が三つ。
緩やかに夏の午後は過ぎていく。
「…何だ、またここからの風景を描いとったのか。相変わらずだな」
ひょいと娘のスケッチブックを覗き込んで呟く。
「いいじゃないの、好きなんだから…あ、そうそう見てコレ」
白く細い指がさす絵の端には少年の後姿があった。
本当に小さく描かれていたけれど、太陽にむかってまっすぐに手を伸ばしている。
「ほお、これは…」
呟いた後に視線が赤子に移ったのを見て、母親は少女のように屈託のない笑顔を浮かべた。
「うん、ガウェインよ」
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今は遠い、夏の日のこと。
いくつかの季節は瞬く間に過ぎていって、
同じ木陰で今度は一人、少し髪が減り皺の増えた「おじぃちゃん」が座っている。
「じーちゃ!!」
「…………………おぉおぉ」
あの日の自分と同じ道を駆けて来る幼い少年。
飛びついてくるのをなんとか受け止めれば、目の前に大きな黄色い花が突き出された。
「わしにくれるのか?ありがとうな。向日葵か」
ところが孫は言葉の前半までは嬉しそうにしていたものの、
後半には不服なようで祖父をずるずると木陰から日のあたる所まで引っ張り出す。
「おい?どうしたんじゃ、これは向日葵だろうに」
んー、と首をかしげてから黄色い花を指差し、そして小さな手を天にかかげた。
「あれ!」
太陽に向かって。
はは、とうっすら涙を浮かべ笑う祖父に短い金髪をくしゃりと撫でられ、
彼は歳相応の屈託のない笑顔を浮かべた。
あの時と変わらない風が今日も吹く。