「脂肪」はエネルギー源となるものです。しかし毎日の食事でのエネルギー源は、米であり、パンであり、ラーメン(うどん、そばも)、芋、ケーキなどです。“瑞穂(みずほ)の国”日本では、数千年前から「食べて腹を満たす」のにいちばん頼りになるのは米、麦、アワ、ヒエなどの穀類でした。二十世紀の半ば、「復興のつち音」が鳴り始めるころまで、ほぼそのパターンが続いたのです。
増えた動物性食品や油脂
米(精白米)にはたんぱく質や脂質も含まれています。幸いに米のたんぱく質の栄養価が割と優れていて、それがそのころの青少年の栄養状態をある程度支えていたのですが、何といっても米の主成分はでんぷんです。米を主食としたため、戦前から戦後の食糧暗黒時代まで、日本人の日常食の脂肪エネルギーは8%程度でした。塩味の濃いわずかなおかず(みそ汁、漬物中心)で、エネルギー量だけは十分にしても、良質のたんぱく質に乏しい食物を取り続けました。そのために、青少年の発育は十分でなく、老人には脳血管疾患や胃がんが多発して、平均寿命を低迷させていました。
戦後40年間、日本人の日常食の劇的な変化を、摂取食品の平均重量の面から見たのが表1です。摂取エネルギーはほとんど不変なのに、動物性食品や油脂が増加し、その分だけ米が減少しました。それに連れて脂肪エネルギーも増加して、人の食物として適切といわれる域に達しました。
そのような食内容の変化に伴って脳血管疾患や胃がんによる死亡率は減少しましたが、一方で心臓血管疾患や大腸がんなどによる死亡率が増加してきました。
その原因は単に摂取する脂肪の量が増えただけでなく、その質が変化したことに関係しているといわれます。脂肪源となる食品の変遷をみてみましょう(図参照)。肉類、卵類、乳類及び油脂類の増加が脂肪摂取量を押し上げたことが明らかです。そこに質の変化のかぎが隠されています。
ところで脂肪を構成する脂肪酸には数十種類があり、栄養価に大きな違いを生み出しています。
飽和脂肪酸は、脂肪酸の鎖を構成する炭素に水素が飽和して結合している脂肪酸です。一価不飽和脂肪酸(モノエン酸)は、炭素の鎖の中に一対だけ水素結合が不飽和の脂肪酸です。二価、三価、四価の多価不飽和脂肪酸もあります。飽和脂肪酸やモノエン酸は、食べ過ぎた糖質などから体内で作られますが、多価不飽和脂肪酸は糖質などからは作られず、しかも重要なからだの構成成分となっているので、食物として摂取しなければなりません。表2に各脂肪酸の代表例を示しました。
脂肪酸の栄養的特徴は、単にエネルギー源となるだけでなく、それ以外の脂肪酸の栄養的特徴を挙げてみましょう。
@ 飽和脂肪酸は、多く取り過ぎると血中コレステロール量を増加させます。ただしステアリン酸はオレイン酸に変わりやすいために、この作用が少ないとされます。
A オレイン酸などのモノエン酸は、血中コレステロール量に対して、どちらかというと低下作用があります。
B リノール酸は植物油に多く含まれ、血中コレステロールを低下させる作用があります。
B リノール酸はまたアラキドン酸となり、これを介して各種プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン(通称エイコサノイド)に転換して、血管透過性、血管収縮、胃収縮、胃液分泌、血小板凝集などの生理作用に幅広く関係します。
C ドコサヘキサエン酸(魚油に多く含まれる六価の不飽和脂肪酸)は、神経細胞や網膜の構成分として重要で、成長期の神経系の学習能力に、ある程度影響を与えます。
健康な成人の場合、リノール酸を十分に摂取していれば体内で必要なだけのアラキドン酸が作られ、エイコサノイドの生成源となります。またリノレン酸を摂取していれば、必要なだけのドコサヘキサエン酸も作られます。そこで高度不飽和脂肪酸の必要量の目安を表3に示します。乳、卵、肉類を適切量取りながら、大豆製品や魚類の摂取にも気を配るのがよいでしょう。
ホウレンソウは貧血に良い?悪い?
「ホウレンソウは貧血を助長する」−こんな話を聞いたら、オヤッ」と思う方が少なくないはずです。「たしか、ホ ウレンソウは貧血を予防するはずなのに…」こんな声が聞こえてくるようです。実際に、どんな場合に貧血を助長することになるのか、心配している皆さんのために探ってみました。
■現実的でない話
「ホウレンソウが貧血助長」という新聞記事が出たのは、半年ほど前。「ホウレンソウに含まれている有機酸の1種のシュウ酸が、腸内での鉄分の吸収を妨げるのが原因とみられる」という内容でした。血液量を減少させ貧血状態にしたラットに、食事によって@ホウレンソウA小松菜Bシュウ酸を加えた小松菜−の3群に分けそれぞれ食事から同量の鉄分を摂取できるように六週間与えた結果、ホウレンソウを与えたラットの血中の鉄分は平均100cc中約200マイクログラムで、小松菜を与えたラットの約430マイクログラムに比べ約半分しかなく、貧血症状が一層進んでいたというもの。しかし、結論を急いではいけません。「カルシウム摂取量が十分な場合には、ホウレンソウの害は問題ない」ということです。
ホウレンソウの害が問題にされた動物実験では、飼料中のカルシウム濃度が所要量の5分の1の0.1%と、極端に低く抑えられていました。「日本人が食べるホウレンソウの割合は、食事全体の1.1%、1日当たり14.3グラムです。その点から考えると、この動物実験の結果をそのまま人間の食生活に当てはめることはできない」ということです。厚生省の国民栄養調査によると、日本人のカルシウム摂取量は、平均540ミリグラムといったところ。毎年、所要量の600ミリグラムには届いていません。もし、乳製品や小魚、大豆製品などのカルシウム豊富な食品をほとんど食べないよほどの偏食や無茶なダイエットでもしていない限り、1日のカルシウム摂取量が120ミリグラムということは考えられないのではないでしょうか。貧血状態で、極端にカルシウム摂取量が少ない人が、大量のホウレンソウを食べた場合に、貧血が助長されることがあるということで、通常の食生活をしている人は別に心配することはありません。
■食事は、六つの基礎食品群をまんべんなく
「ホウレンソウが良いとか悪いとか、そういう考え方にこそ問題がある」と思います。栄養面で偏りが出て、結果的に体全体の健康を損なうことになるからです。
厚生省が提唱している「健康づくりのための食生活指針」の中に「多様な食品で栄養バランスを」という項目があります。これは、ある特定の食品ばかりを食べていると栄養バランスが崩れてしまうため、できるだけ多種類の食品を少しずつ食べることが大切だということです。
このとき目安となるのが「6つの基礎食品群」です。この6郡から最低1品ずつ、1日30品目とるように心がければ、自然に栄養バランスがとれるわけです。しかし、「そう言われても、容易ではない」という声も少なくありません。そういう方のために「第2群と3群以外は、意識しなくてもふだんの食生活でほとんど足りている。あとは、カルシウムと緑黄色野菜を意識的に食べれば、栄養バランスは簡単にとれるはずだ」とアドバイスしています。「ホウレンソウが良い」とか「悪い」とか言う前に、「栄養は食品から」と心得て、偏った食生活を見直し、多種多様な食品からバランスのとれた栄養を十分にとりたいものです。
第1群 魚、肉、卵、大豆製品
第2群 牛乳、乳製品、小魚、海藻
第3群 緑黄色野菜
第4群 その他の野菜、果物
第5群 穀類(米、パン、めん)、いも
第6群 油脂